ケーキ
こうして村長のカルから村おこしのお願いをされてしまったクロトは何かを考えているようだった。
さて、どうするつもりなのかしらと私は他人事のようにそれを見ていたのだけれど、そこで、
「この近隣の村に“ケーキ”を名物にしている村はありますか?」
「“ケーキ”ですか? 蒸しケーキのような物やホットケーキのようなものはありますがそういったものではなく?」
困ったような村長のカルの様子を見ながら私は、何か風向きが変わった気がした。
そう言えば全力で押すべきといった過大評価を頂いてしまったような、と私が変な予感を覚えているとそこで、
「では、この村の特産品を使ったケーキなどを作るのはいかがでしょうか」
「ケーキ……ケーキ、ですが今の話では、我々の知っているものとは違うように聞こえますね」
「ええ、ここにいる公爵令嬢リズ様はケーキを作るのがとてもうまいのです」
「! 昨日この村に療養に来ているという……後でお伺いしようと思っておりました、リズ様とお知り合いなのですか?」
「はい、先ほど偶然にも知り合いまして、今こちらに居ます」
クロトが手で私を紹介する。
そこで村長のカルが、
「このお美しい方がリズ様、噂にもれず、なるほど……ですが、どうして先ほどまで私は気づかなかったのか」
そう言って不思議そうに呟く。
でもそれを聞いて私は、先ほどから全然気づかれていなかったなと思うと、
「初対面の人といった警戒に値する人は気づかないように、リズの魅力が抑えられて感じるんだよ。まったく関係のない人であればそれは効果が無いようだけれどね。……祝福の一つにそういったものがあったよ」
シルフが私にそう耳元で囁いたのだった。
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