別荘に向かうが、そこで私はある人物と出会う
彼が私を選ばなかった、その理由は大したことが無いようだった。
なんでも、私以外の別の女が積極的に私の婚約者である王子グドの元に押しかけていき、彼の心を掴んだらしい。
そして、寝取り女、コミヤの言いなりになり、たまたま私が体調が悪く舞踏会に出なかっただけで、気づけば、『王子が自分から誘いに来ないと行かないわよ』といったという話になっていた。
その間に何があったのか分からないが、それがさらにどういう過程を経たのか酷い話になり……おそらくこの寝取り女のコミヤが、嘘を王子や周りの貴族たちに風潮したのだろう、気づけば私は“悪役令嬢”と呼ばれていた。
婚約者である王子は、私をかばう事はなく、これをいい機会にと婚約破棄をすると言い出した。
この頃には、なんてひどい事をするのだろうという悲しみはとうに無くなっていた。
私を嘲笑うかのように見る王子の姿に、心の中にある感情が冷え切ってしまったのだろう。
元々王子よりも私の方が勉強も魔法の腕も、全てが優れていた。
それが性別を超えて、王子の中でコンプレックスとして燻ぶっていたらしい。
それもあり、婚約破棄された“悪役令嬢”というレッテルは彼にとっても、そして私から男を取った寝取り女コミヤにとっても心地の良いものであったらしい。
もちろん私も怒ったし、公爵家としても怒りを覚えたが、他の貴族たちの妬みも相まって、どうにもならなかった。
こうして私は傷心のまま、公爵領の別荘でしばらく療養することになった。
ただ、一つだけ心残りなのは、
「昔からの友達、男の人だけれど、シルフにはお別れを言っておきたかったわ」
別荘に向かう私は、馬車の中でそう呟いた。
シルフは不思議な人で、たまたまこっそり家を抜け出すと必ず会うのだ。
彼は意地悪な部分もあったが、親切で、あまり市井を知らない私にいろいろと教えてくれた。
性別を超えた“友達”だった、と思う。
やや、悪友な所もあった気がするが。
けれど、しばらく用があるから会えないと言われて、結局別荘に行くまで会えなかったのだ。
だから挨拶もせずに私は片田舎に向かう。
「これからどうしようかな」
何気なく呟いた言葉。
けれど何も決まっていない。
どうしよう。
しばらくゆっくりと休もう、そう思って、別荘近くまで馬車が来たところで、私の馬車に手を振る金髪碧眼の美形に気づいた。
「止めて!」
私は大きな声で馬車を止めるように指示を出したのだった。
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