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聖者の行進  作者: 北松文庫
7/7

二章、タイトル後記載.5

 勉強に関していえば、中学の範囲は、さほど難しいものではなかった。高校からが勝負だ。

 中学での生活はかなり有意義なものだった。中学での巡と接する機会は、驚くほど少なかった。だから、高校で再び一緒になったとき、彼女に指摘されて申し訳なく思った。恩人のことを忘れて勝手に楽しく暮らしていたのだと考えると、内臓がひっくり返ったような気分になった。だからこそ高校では、カチューシャの件で恩返しできて、本当によかったと思う。もちろんすべての 恩を返せたとは思ってはいない。僕はこれからも彼女に少しずつ恩を返していくつもりだ。

 まあ、何が言いたいのかというと、楽しく暮らしているということだ。

 「楽しいならそれでいいじゃない」

姉貴はにっこりと笑いながら言った。そういう顔を見たのは久しぶりだっので、何となく違和感を感じた。失礼か?

 「姉貴は今楽しい?」

 「んー。普通かな。峰岸くんは優しいし、大学の友達と遊ぶのも楽しい。バイトは面倒だし、勉強もめんどくさいけど、それなりには楽しい」

 よかった。

 「けど、やっぱり思うのは、人生は長すぎて、楽すぎること」

 「そう? 世間一般的な考えからすれば、生きるのは難しいし、人によっては全然時間が足りないよ」

 「長いのよ。だから余裕ができるし、堕落が生まれ、必要無い余韻が流れる」

  だからあの子も自殺を選んだのじゃないかしら。

 「あの子って?」

 決まってるじゃない。縞伊佐木ちゃんよ。   姉貴は死にたいの?

 「なんでよ、今楽しいのに。これからも生きていくつもりよ」

 普通に楽しいし。

 あんたもそうでしょ。楽しく生きて。苦しくなったらうちに来て。慰めてあげる。

 「あたし達家族じゃない」

 ご飯食べに行きましょ。

 姉貴に手を取られ、足を踏み出した。

 「姉貴はもっと楽しそうに笑いなよ」

 「峰岸くんはあたしのこういう、嘘っぽい笑いかたが好きらしいよ。飾っていなくて」

 「へー」

  変わった人だ。変わっていようと変わっていまいと、峰岸さんは姉の最高の彼氏なので、非常に感謝していた。

 いくつか目ぼしい店はあったが、そのなかでも姉のお気に入りのラーメン屋を選んだ。

 「体重増やしたくない時にかぎって、食べたくなるよね」

 「別の店にする?」

 「いや、峰岸くんはもう少し肉付きのいいほうが好きなんだって」

 「なんか姉貴の中でもう一人の峰岸さんをつくってないかい? 自分に都合のいいようにさ」

 「あんただって好きな子を頭の中に量産してるでしょ。都合よく自分を好きな子をさ」

 見てきたように語る姉だが、全くそんなことをしていない僕としては、勘違いも甚だしいといった感じだった。ラーメン屋の目の前で一体何の話をしているんだと、客観的に物申したいほどの会話を一通り繰り広げ、僕らは入店した。

 「らっしゃつせー」

 熱気の籠った厨房から、気持ちのいい挨拶がした。取り敢えずカウンター席に座る。店主であろう男が、メニューを取りに来た。

 「スープの種類は塩味噌醤油、麺の固さは普通やや硬め硬めバリ硬ハリガネです」

 早い。

 「斎臣。あんた塩ね。あたし味噌頼むから」

 「僕醤油がいいんだけど」

 「いや、あたし味噌食べたいんだけど」

 なら味噌食えよ。

 「でも塩も食べたいじゃない? でも二杯目も食べると太る」

 「もっと肉付きのいいほうが好かれるんじゃなかったのかよ」

 その場その場の考えで生きすぎだ。結局僕は塩を頼んで、姉貴は醤油を頼んだ。

 「・・・」

 「なに。醤油食べたかったんでしょ? 分けたあげる」

 「納得いかねぇ」

 しかし味には納得した。メニュー数から一品一品へのこだわりの強さが見られる。値段もリーズナブルで、高校生の財布事情にも優しい。

 食事しながらも、僕らの会話は近況報告が主だった。

 「あんた彼女いないの?」

 「いない。てか、いた」

 「フラれた?」

 「まあ、うん」

 「よかった」

 「はあ、いつから姉貴は僕の不幸を望んでいたの?」

 「そじゃなくて、あんたに好きな人ができたのって初めてじゃん? 嬉しいの」

 「フラれたけどな」

 「あんたが好きになる女の子ってどんな子かな? あんたと似てる? タイプとしては」

 「似てるんじゃない?」

 僕もああいう選択を取るかもしれない。そう考えると、似ていなくもないかと思った。

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