二章、タイトル後記載.4
昼食をとるために、僕らは飲食店を目指した。
どう。学校は楽しい?
「まあ それなりには」
一人暮らしを始めて早五年が過ぎた。中学受験で県外の学校に進学した僕は、知り合いの住んでいるアパートに引っ越した。最初は受験さえ止めていた両親も、その頃には一人暮らしさえ認めていた。洗濯や掃除。料理等は中学受験と並行して学んだ。知り合いの人にも気をかけて貰えるよう頼んで、新生活は恙無く始められた。そうまでして地方を離れた学校に進学する理由。実はそんなに県外の学校に進学することを渇望していた訳じゃない。姉だ。僕より三歳年上の。最初は姉の一言で始まった。
「斎臣。あんたつまらなそうね」
何に対して言っているのか、最初はわからなかった。しだいに、自分でも理解し初める。友達と話しているときも、新しいゲームをしているときも、勉強しているときも料理をしているときも運動をしているときも。そんなに楽しんでいた訳じゃなかった。大人びていたわけでもないし、クールぶってもいなかった。
かといって。
つまらない訳でもなかった。
「合わないんじゃないの? ここ」
どこだろう。どの場所のことを指しているのだろう。でも、合わない、ってのはしっくりきた。
「僕、中学受験するよ」
その時以来、僕はいろんなものに手を出していった。趣味を探していった。すると自然に読書欲も湧いてきた。同時に勉強にもさらに力を入れて、姉にも教えを乞う。
どんどん成績は伸びて、学校で一番になる頃には、そこそこ有名人になっていた。
「いい子はいないの?」
姉は嬉しそうに聞いてくる。
「姉貴よりいい女の子に会ったら報告するよ」
今はどんどん学ぶ。いろんなことを学んで、今までの遅れを取り戻す。
そして中学受験の日。僕は人生最大の失敗をした。
「筆箱がない」
それに気づいたのは、新幹線に乗って二駅程進み、親に連絡しようと借りた携帯を取り出したとき。鞄の中にあるべき筆箱は、僕の机の上に置き去りだった。姉貴が持ってきてくれる事になり、なんとか自分の心を落ち着かせるために、今日のためにまとめてきた受験ノートを開いた。
受験ノートを確認し終わる頃には、向こうの駅に着いた。そこから徒歩五分の距離に学校はある。
「悪い斎臣。あんたが忘れた筆箱を、わたしが忘れたわ」
「あはは」
笑うしかなかった。
仕方なく誰か他の受験生に借りようと、辺りを見渡す。皆受験に集中していて、話し掛け辛い。
しかし一人、むしろ向こうから来てくれた子がいた。
「大丈夫? 私余分に持ってきているからいる?」
「あ、いります」
なんだこの子は。随分気前がいいな。
「ライバル助けていいの?」
「ライバル? なんで」
受験のシステムを理解していないのか。しかし、この時に会った少女が巡茅伽だとわかった今からすれば、たとえ受験のシステムを知らないにせよ、必ず彼女は助けてくれる。そう確信してる。
「じゃあ頑張れ二人とも。試験が終わったらジュース奢ったあげる」
姉貴の中では精一杯の応援だろう。結果としては二人とも合格したし、一人暮らしにもすぐに慣れた。