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聖者の行進  作者: 北松文庫
4/7

二章、タイトル後記載.2

 四時間目が終わり、昼休みになる。僕のもとに、三人の友人が集まった。

 「斎臣くん机いいかな」

 いつものように、彼女は僕のところに来てくれた。栗色のショートボブの髪に、カチューシャを乗せている。巡茅伽(めぐりちか)の昼休みと放課後のスタイルだ。

 「校則違反だぞ、巡」

 「知ってるよ、ごめんね」

 形式上注意するも、すぐにやめる。

 形式上謝りはするも、外しはしない。

 彼女がこうしてカチューシャを愛用している理由。そのカチューシャは、三年前に他界した彼女の祖母が、生前彼女にプレゼントしたものだった。

 前に、彼女が必死に、先生に没収されそうになっているカチューシャを返すよう懇願しているのを見かけたことがある。大切なものを没収されそうになっていた彼女は、謝りながらも「もう持ってきません」とは一言も発しなかった。最初は自業自得だと、知らんぷりをしていた。でも、なぜあれほどまで必死にあれにしがみついているのか気になった。気づけば僕も説得に入っていて、なんとか先生は返してくれた。それでも罰は受けることになり、彼女と学校の窓拭きをしていたときだ。彼女はなぜ助けてくれたのかと聞いてきた。それには答えず、そんなにもカチューシャを大切にしている理由は? と聞いた。彼女は祖母のこと、貰ったときのことを楽しそうに話してくれた。二年前の出来事。

 そういうことがあって、僕は彼女のカチューシャのことへは、あまり強く言えないのだ。

 別に僕の正義感に綻びがあるわけではないことを弁明しておきたい。

 「私もいいかな斎笹くん」

 お下げの髪型が可愛らしい副委員長の女の子が、椅子を持ってやってくる。彼女とこうして食事をするのは、巡いてこその関係によるものだった。

 「勿論だよ桃さん」

 長谷川桃(はせがわもも)巡茅伽(めぐりちか)朝来優斗(あさごまさと)。僕。いつものメンバーだ。

 「長谷川はどう思う? あの事件」

 「悲しいわね。自分の身の回りの事件ではないにしても」

 朝来の切り出した例の事件の話題に対して、長谷川は悲しいと言った。

 「でも彼女が死んだのって、自宅から離れていた場所なんでしょ? 確か斎臣くんの家の近く・・・」

 巡ははっとした。

 「斎臣は事故現場を見たのか? 帰った時間からして遭遇したりしなかったのかよ。生で現場見た?」

 「馬鹿言うなよ。昨日はあのあとすぐに家に帰ったし、現場を見に行く程の気力や興味も無かったよ。今朝は電車で来たからまだ一回も足を運んでない」

 「そか、でも気になんない?」

 「何が?」

 「わざわざあんなとこまで行って自殺する理由」

 そこを追及することに意味はないだろう。縞伊佐木(しまいさき)は静かな場所で死にたかったのだろうし、退屈だから死ぬ。あの場所で死んだことに意味付けするのは無意味だ。

 「死にたくはないが、俺だったらグラウンドで死にたいよ。折角ここまで部活してきたんだし」

 「部活してきてその発想が生まれるのは斬新奇抜だな」

 お前はプロか。サッカーが好きであろうことは理解していたが、そこまでなのか。

 「ゴールを決めて死にたいよ」

 「DF(ディフェンダー)なのにか」

 「相手を止めて死ぬとか、勝ったのか負けたのか分からんだろ」

 僕らの会話を聞いていた二人は、くすくす笑っていた。内容で笑っているというより、微笑ましさで笑っているようだった。巡はあまり朝来の意見には賛成していない。

 「部活に真剣に取り組んでいても、そこで死にたいとは思わないなあ。私溺れて死ぬのは嫌だ」

 「茅伽の水泳の大会って次いつ? 私絶対応援行く」

 長谷川は前のめりになって聞く。

 「今度の大会は大事だね。三年最後? 夏だから二ヶ月とか三ヶ月後かな。体重コントロール大丈夫?」

 「それまでに小さい大会がいくつかあるかな。・・・私太ってる? 太ってないよね、うん」

 女の子の痩せてる太ってるの基準がよくわからない。体重の話なんて男同士では全くしないし、女子に体重を聞くのはタブーとされているので、必然的にそういう会話はあまり耳にしない。

 「ねえ、私太ってないよね、斎臣くん」

 でも、ここでどう答えるべきなのかは、考えるまでもなかった。

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