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Ⅶ・Sphere 《セブンスフィア》  作者: Low.saver
セブンスフィア
7/21

1章『スリーピングフォレスト』♯13〜14

ドワーフの村にたどり着いたロウたちは、村のはずれにあるダンジョンへと挑戦する。

そこには、思いがけないものが待ち受けていた。



      ♯12 ダンジョン



 ダンジョンとは、迷宮のことだ。

ある限定されたエリアに、他とは異質な空間が形成されることがある。それがダンジョンと呼ばれるもの。地下を深く潜っていく地下ダンジョンや、自然と形成されたフィールドダンジョンなど種類は様々だが、それぞれが小さなエリアの組み合わせで出来ており、一般的に一番奥までたどり着くと攻略、クリアとなる。

 ドワーフの村にあるダンジョンは、鉱山の採掘を目的とした地下ダンジョンだ。地上と合わせて全部で10階ほどになり、下に潜るほど希少な鉱石が手に入るという、鍛冶師にはたまらないタイプのようだ。


 私たちはそこで魔法武具の製作に必要な素材を集める予定だ。

 魔法武具とは、魔力を通しやすい素材に、目的とする魔術式を刻んで造る『魔道具』と呼ばれるアイテムだ。魔法と違い、身につけていれば自動的に発動する事も可能で、魔法を一切使えない私でも扱える。ただ、その効果は魔術を刻んた術者の力によるため、高度な魔術士でなければ効果も低くなる。


「と、いうわけじゃ。わかったかの?」

「・・・」〈コクコク!〉

「難しい」

「頭が爆発するーーーっ!!」

「よくわかりました、では具体的な話を。

 素材はダンジョンで手に入れて、

 武具製作はこの村で行うとして、

 魔術付与もここで行うのですか?」

「うむ、簡単な強化魔術なら出来るしの。

 魔術を刻むには、精錬した後の状態で行い、

 それを武具に仕立てるんじゃ。

 先に武具にして刻むことも出来るが、

 効果が弱くなるでのぅ」

「不思議ですね、なぜ完成した後では効果が

 薄くなるのか・・素材は変わらないのに」

「簡単じゃ、精霊が離れるからじゃよ。

 精霊は自然でないものを好まんからの」

「なるほど、では精霊を離れないようにする、

 そういう側面もあるのですね?」

「うむ、そうじゃ。

 精霊に術式を与えて固定し、それに魔力を

 与えることで発動させるのが付与魔術じゃ」


 ふむ、そういうことか。

 ならばナイマが使っている付与魔術も、精霊に頼っているのだろうか?しかし狭間の少女は違うように言っていたと思うが。それとは別物ということか?


「いや、それも付与魔術じゃな。

 魔力は身体に触れているものにしか流せん。

 反対に手で触れた武具には流せる、それを

 利用して、精霊を介さずとも武具に己の魔力を

 流して強化することもできるの」

「なら、別に魔術を刻む必要はないのでは?」

「術は術者の力に頼ると言ったじゃろう?

 剣士ならば使えるのは強化ぐらいじゃ。

 回復や重量軽減などは魔法が使えんと

 付与できんのじゃよ」

「なるほど、そういう違いですか」


 私とC2はフムフムと爺さんの話を聞いて勉強している。一緒にいるナイマとニコはゴロゴロしている。

この二人は覚える気ぜんぜん無いな・・どうせ後で必要になったら全部こっちに振ってくるんだろう。

 私にとってこの魔法武具の話は聞き逃せない。なんせ魔力強化が使えない私は、他の前衛に比べてワンランク確実に落ちる戦力にしかならないしな。

 そうして基礎的なことを教わった後で、我々はダンジョン攻略のためのパーティを編成した。このドワーフ村にあるダンジョンは、最大で6名しか同時に入れない。これはダンジョンルールと言われるもので、普通の迷路とは違う点。神々が各所に配置したダンジョンは、付近に住む生き物の成長や進化に関係していると言われ、試練の迷宮とも呼ばれるのはそのせいだ。

 ルールはダンジョンによって違うらしいが、ここは6名が最大人数、あとは魔法が使えない。これは私にとっては普通だが、他の者にとってはなかなか痛いルールだ。鍛えた肉体だけがものをいう。


「と、いうわけでダンジョン攻略に向かう」

「魔法が使えないなら、私たちはお留守番ですね」

「・・ゆっくり本が読める・・」

「ああ、ミリィとディンエルは待機だな。

 参加するのは私、ナイマ、ニコ、C2の前衛、

 そしてクーサリオンと爺さんの6名だ」

「俺も行くのか?王よ」

「ああ、魔法以外での後衛だと弓しかいないし、

 狭い中で狙うことになるからね」

「どーせ俺よりクーの方が弓の腕上だしなぁ」

「今回の場合はね、指揮官より職人が優先だ」

「わかった、全力を尽くそう」


 魔法使いが役に立たない以上、遠距離攻撃出来るのは、ここには弓しかいない。

もし私たちが潜っている間に襲撃を受けたなら、集団戦の経験者を持った指揮官クラスが多い方が良いだろう。それならば残すのはスーリオンだ。


「ならばロウ、俺たちは何をすればいい?」

「イズ兄さんたちはドワーフたちと交流だね」

「交流?そんな必要があるのか?」

「別に何の問題もありませんけど・・」

「ドワーフの中にもエルフ村に居たような、

 頭でっかちがいるんじゃないかな?」

「フン、確かに愛想の悪いジジイが多そうだ」

「おめーに愛想悪いって言われるのもな・・」

「酒でもあれば良いんだろうけどね」

「一応、持ってきてはいるぞ?」

「おお、さすがイズ兄さん!じゃあ、それで」

「わかった、酒宴の準備をしておこう」

「飲みニケーション」

「えー!?私も飲みたーいっ!!」

「・・・」〈ジーッ〉

「戻ったら参加しよう、ほら、行くぞ!!」


 ブーブー言っているニコを引きずって、坑道の入り口へと向かう私たちだったが、正直言ってリアルダンジョンの経験など無いのに大丈夫だろうか?と、不安ではあった。なので前衛中心にして、少しでも体力のあるメンバーで挑みたかったのが本音だ。私はたいまつに火をつけて、暗い通路を照らしてみる。どんなモンスターがいるんだろうか?


「そうじゃな、多いのは土人形かの?」

「あれ?アンデッドとかゴースト系じゃないの?」

「ヒィーーーーッ!?むりむりむりーーっ!?」

「うるさいのう・・ここにそういうのはおらん。

 手強いのでもゴーレムとかじゃな」

「ほっ。よかったーっ!」

「ニコ、うるさい」

「土属性のダンジョンってことかな?」

「うむ、儂らドワーフの属性も土と火じゃが、

 鉱山や鍛冶は土の属性と関係が深いからの」

「確か土属性は防御型の特性だったよな・・」

「そうだな、弓の効果が薄そうだ」

「土人形は胸の中心に石がはまっておっての、

 それを砕けば崩れおるぞい」

「わかりやすい弱点だな・・」

「・・・」〈コクコク〉

「土は食べれない」

「まず食べられるかを基準にしないように」

「矢のやじりを交換しておこう」


 私たちは慎重にダンジョンへと足を踏み入れた。

削れた岩肌の四隅には、角材で補強がしてある。坑道の広さは大人が3人手を広げて並んだぐらいあり、高さも5mぐらいはありそうだ。あまり狭いと掘った土や岩が邪魔になるらしいが、ここは十分に広い。

 どんどんと奥に進んでいくと、少し大きな部屋に出て、下に降りる階段を見つけた。


「え?終わりなのか?」

「当たり前じゃ。まだ1階じゃぞ?」


 それもそうか。しかし宝箱とかも何も無いんだな。もうちょっとワクワクするかと思った。

地下1階に降りた私たちは、1階と同じくどんどんと進んで行く。おいおい、まだ何も見つからないじゃないか。このまま最下層とかないよな?

 そんな私の不安?をよそに、またあっさりと下へ降りる階段を見つける。

私はガッカリした表情で爺さんを見たが、逆に呆れた表情をされてしまった。しくしく。

 そして地下2階へ降り、しばらく歩いているとナイマが突然前に出て、我々を止めた。


「・・なにか、いる」

「おお、ついにモンスター遭遇か!?」

「・・!」

「準備はオッケー!かかってこーい!」


 そしてナイマが指差した小部屋を注意深く覗いてみると・・・モゾモゾと部屋を動き回る・・

小さな土偶がいました。


「なんでやねんっ!?」

「ちっちゃい」

「か、カワイイよっ!?アレ欲しいっ!!」

「・・・!!」〈コクコク〉

「あれが土人形じゃ。特に何もしてこんが、

 出てくると壊さんよう気を使うんじゃよ。

 可哀想じゃからのぅ」

「ただのマスコットじゃないかっ!!」

「平和だな、王よ」


 とりあえず奥に進むと、数匹の土偶がトコトコ歩いているのを見かける。別に近づいても攻撃してくるわけでもなく、通路の石をどけたりしている。そうして一度も戦闘することなく、階段を発見した。


「爺さん・・私のダンジョン像が崩れていくよ」

「・・儂が謝らねばならんのかの?この場合?」

「いや、何も無いならそれにこしたことはない」

「ひま」

「きゃーっ!C2さんあれ見て親子だよっ!?」

「・・・!」〈コクコク〉


 地下3階は土偶の数が増えていた。どうやらこの土偶を壊さずに発掘するのが難しいらしく、そういう意味で難易度が高いダンジョンらしい。壊しても問題ないそうなのだが、砕けた土偶に寄り添う、悲しげな土偶たちの姿を見てしまうと、精神的にくるそうだ。

 私たちは何の抵抗もなく階段を見つけ、地下4階に降りる。だが、そこは土偶の街だった・・。

店を構える土偶、服を売る土偶、子供と歩く土偶、交通整理をする土偶。まさに土偶パラダイス!

 通貨は鉱石らしく、鉄や銅の鉱石を渡して砂を買う土偶がいた。そしてその砂を食べ始める。

すると少しだけ土偶が大きくなり、またどこかに歩いて行った。なんじゃこりゃ?


「・・砂が食料なのか?」

「見たいじゃのう。ああやって大きくなると、

 今度は岩を砕いて砂を作ったりするんじゃ」

「それ、際限なく増えるんじゃないのか?」

「あやつらの寿命は5年ほどでな。

 死ぬと土に還るんじゃ」

「土偶の営みを見れるとは思わなかったな」

「割ってみたい」

「ダメーっ!!あの子たち生きてるんだよ!?

 頑張って生きてるんだよーっ!!」

「・・!!」〈コクコク!〉

「こうなってしまうと壊せんようになるんじゃ」

「・・確かにある意味では手強いよな」


 土偶を壊さないように階段を見つけて降りる私たちだったが、地下5階は雰囲気がガラッと変わる。

模様がついた黒い岩が増え、気温も低くなったようだ。先ほどまで大量にいた土偶は一匹もいない。


「さあ、ここからが本番じゃ。5階では鉄や銅、

 あとは少しじゃが黒鋼が採れるんじゃ」

「土偶さんがいなくなっちゃったよ?」

「奴らは4階までしか出てこんからの」

「とりあえず進んでみようか・・」


 少し緊張感を取り戻した私たちは、少しづつ坑道を進んで行く。途中の小部屋には少量の鉱石が積んであり、せっかくなので4次元カバンに回収しておく。そうやって奥まで進むと、またナイマが反応した。


「・・・くる」

「お前、本当に盗賊系の階位持ってないのか?」

「気配ぐらいはわかる」

「王よ、俺にも音でわかるが、向かってきている」

「今度こそモンスターだろうな・・」


 タンカーである私とC2が前に出て、敵の攻撃に備える。ナイマとニコはその両脇に控え、カウンターを狙う形だ。クーサリオンは爺さんを守る形で弓を構えている。まあ、爺さんもハンマー持ってるけど。

 そしてコツンコツンという音が近づき、姿を現したのは・・・

ぽーっとした表情の埴輪ハニワだった。


「なめとんのかコラァァァァッ!!」

「落ち着いてくれ王よ!気持ちはわかる!!」

「まぬけな顔」

「うーん、土偶の方が好きかなー?私は?」

「・・・」〈ガックリ〉


 なんでダンジョンに土偶やハニワと出会いに来なけりゃならんのだ・・私のワクワクを返して欲しい。

他のみんなもそれぞれ苦笑したりしている。そりゃそうだろう、さすがにハニワと戦うなど考えて


「油断しとる場合か!来るぞっ!!」

「ハーーーニワァァァァーー!!」


 後ろにいる爺さんの警告が響く。直後、体長60cmほどのハニワが突然ジャンプして突撃してきた。

そして私の顔面に強烈なパンチを叩き込む!!


「グハァッ!?」

「王っ!?」

「ロウがやられた」

「・・!?」

「えーーーっ!?なんで!?」

「こやつはマッドハニワじゃ!!

 油断しとるとボコボコにされるぞいっ!!」

「ハァァァニワーーーーーッ!!」

「回転したぁーーっ!?」


 私に一撃をくわえたハニワは軽やかに着地し、今度は壁を使った三角飛びからドリルキックを放つ!!

ターゲットは私の隣にいたC2だ、あまりに速い動きに盾を構えるのが一瞬遅れる!


「・・・!!」

「危ないC2さんっ!?」

《 グワッシャーーン!! 》

「ば、バカなっ!?」


 驚くクーサリオンの声、ハニワが放ったドリルキックはC2の頭に直撃!!・・せずに、

ナイマの高速ハイキックが先にハニワの胴体に炸裂し、胸の石を割られたハニワは粉々に砕け散った。


「まあ、しょせん陶器じゃからのう」

「そこはただのハニワなのかよっ!!」

「あ、ロウが復活した」


 なんだよマッドハニワって!?動きが格闘ゲーム並みだったぞっ!?くねくねしてたぞっ!?


「ここからはマッドハニワが増えてきよる、

 奴らはすばしっこいでの、気をつけるんじゃ!」

「5分前に言えよ爺さん!!」

「油断したロウが悪い」

「そうじゃそうじゃ!!修行が足りんのじゃ!」

「このクソジジイぃぃ!!」

「大人げないな、王よ・・」

「・・・」〈コクリ〉

「あ、下への階段あったよーっ!」


 ハニワのせいで顔が痛い私は、念のために戦闘態勢のまま地下6階へ進む。そこは小さな部屋がたくさんあるフロアで、私たちが坑道を進むと部屋からゾロゾロとさっきのマッドハニワが現れる。

 そして一斉に飛びかかってきた!!


「「ハニーワーーーーッ!!」」

「「ハーーーニワァァーーー!!」」

「オラオラオラオラオラオラオラーーーッ!!」

《 ガシャシャーン!グワシャガシャーン!! 》

「ロウが荒ぶってる」

「・・・」

「元気じゃのう」

「負けてられんな、射る!!」

「私もやるぅーーーーっ!!」

「「ハニーーワァーーーーッ!!」」


 数が多くても所詮はハニワ、他は硬いが弱点の石はもろいので簡単に砕けていく。クーサリオンの弓も確実に胴体中央にある石を射抜き、一匹づつかなりのペースでハニワを砕いているが、これはやじりを打撃用の分銅型へ付け替えた効果なんだろう、準備の賜物だ。

 私は先ほどの鬱憤うっぷんを晴らすべく暴れまわり、隣でニコが同じく暴れまくる。かなりの数のハニワがいたものの、すでに私たちの足元は砕けたハニワの破片だらけになっていた。ざまぁ。

 ナイマや爺さんは、私たちが暴れている間にちゃっかり各小部屋から鉱石を集めていた。


「ハァ・・ハァ・・」

「楽しかったねー!ロウさん!」

「意外と弓でもいけるものだな・・」

「おうおう、派手にやりおってからに」

「・・・!」〈ブンブン〉

「なんだC2、お前も暴れたいのか?」

「・・!」〈コクコク!!〉

「じゃあ、次は前に出てくれ。私は下がる」

「私も前にでるーーっ!!」

「はいはい」


 地下7階に降りた私たちへ、さらに大量のハニワと、ひときわ大きなハニワが一斉に襲いかかった。

が、C2のスキル『シールドバニッシュ』で一気に数を減らしたハニワたちは、次々と砕け散っていく。

 ナイマも参戦してバーサーカー祭りになっているが、私と爺さんは小部屋をまわって鉱石集めだ。

黒い鉄鉱石や緑色の鉱石も混じってきている。


「その緑のが翡翠鋼ジェイドメタルじゃよ」

「これがそうなのか・・魔道具にも使うのか?」

「もちろんじゃ。ミスリルと合わせると武具に

 最適な素材になるんじゃぞ?」

「そうか、なら鉄とかは捨ててでも持って帰ろう」


 だんだん手に入る鉱石が増えてきた。壁に埋まっているものは爺さんがハンマーやツルハシで掘ってくれるので、私は拾ってカバンに入れるだけなんだが、容量的に選別しないといっぱいになりそうだ。

 ハニワを全滅させたC2たちは、いい笑顔でハイタッチとかしている。バーサーカーどもめ。

 めぼしい鉱石もなくなったところで、少し休憩を取ることにした。連続戦闘で気分はハイだが、次の8階、そして最下層の9階を合わせてあと2階分残っている。そろそろ手強いのが出てきてもおかしくない。ここでしっかりと準備すべきだろう。


「装備に損傷は無いか?特に防具の状態と、

 回復ポーションはチェックしておけよ?」

「ハニワにアイテムなんて使わないよ!」

「何も問題は無いな」

「遊んでただけ」

「次は一筋縄ではいかんぞい?

 ゴーレムは防御力が高いでのう!」

「やはりゴーレムが出てくるのか?」

「運が良ければ巨大なハニワじゃが、

 悪ければゴーレムじゃな。採れる鉱石も

 そのゴーレムで変わるしのう」


ゴーレムとは動く石像のことだ。痛覚が無く動けなくなりまで襲ってくるらしいので、いかに正確な攻撃を弱点に当てるかがポイントらしい。

 しかしゴーレムの種類で採れる鉱石が変わるというのは、やはりファンタジーらしい設定だな。攻撃力も高いみたいだし倒すのに時間がかかりそうだ。出来ればそこそこのやつでお願いしたいが、鉄のゴーレムとかだと強化が使えないので攻撃が通用するのかどうかわからない。


「魔法が使えないから、ちょっと不安だね」

「ああ、ニコ。私もその点が不安だ。

 長期戦になるかもしれない」

「C2さんの出番だね!」

「・・・」〈バンバン!〉

「任せろ、か?」

「クーサリオンもわかってきたみたいだな」

「まあ、ディンエルで慣れていますから」


 かなり気分も落ち着いてきたようなので、もう一度装備を点検してから私たちは階段を降りた。そこは今までより広い坑道になっており、高さも10mぐらいある。横幅は5mぐらいと高さに対して狭いが。

 この時点で大きい敵が出てきそうな感じがする。通路の上の方にはたいまつがズラッと並んでおり、私は手持ちのたいまつの火を消した。やはり両手が使える方が良いからな。


「ふむ、おかしいのう・・これは9階の通路じゃ。

 なぜ8階が消えてしまったのじゃろう?」

「爺さんが今まで来た時は違うかったのか?」

「本来の8階は7階より少し広いぐらいじゃ」

「王よ、これは何かおかしいと思う」

「ああ、嫌な予感しかしないな」


 私たちは今までになく慎重に通路を進んでいく。

 爺さんの話では、やはりここは9階と同じ構造のようだ。本来の8階なら構造も違い、強力なストーンゴーレムなどが出現するらしい。そして9階にはボスとなる大型ゴーレムが出現する。

 だが、ここでは特にモンスターも現れないまま小部屋を見つけては鉱石を回収していく。その中にはミスリルの鉱石も混じっており、この階だけでもかなりの量が回収出来た。なのでこれ以上進む必要もないのだが。私たちは異常なこの状態に、警戒しながら集まって相談しはじめた。撤退か、それとも・・・


「行こうよ!せっかくここまで来たんだしっ!!」

「・・・」〈コクリ〉

「俺は反対だが、皆の意見に従うつもりだ」

「まだお腹がすいてない」

「儂は今まで何百回と潜ってきたが、

 こんな状況は初めてじゃ。出来れば最後まで

 降りて確かめたいと思うがのう」

「・・私は一度退却した方が良いと思う。

 未知の領域に踏み込むなら、それなりの準備を

 整えてから挑みたい」

「ふむ、わからんでもないがの」


 一応、最下層まで進む方が多かったが、最終的には私の意見に爺さんも賛成してくれたので、一度村に戻ってから準備を整え、再度挑戦することになった。私たちは来た道を戻り始め、上への階段に・・・


「な、無い!?階段が無いぞっ!?」

「嘘っ!?もしかして迷っちゃった!?」

「お前と一緒にするな!ちゃんとマッピングも

 通路に印しも付けてたんだ!」

「むーっ!今日は迷ってないもんっ!!」

「今日は?」

「どうしても下に行かせたいわけじゃな・・」

「ダンジョンではこんなことが起きるのか?」

「実際に起きておる、ここでは初めてじゃがのう」

「進むしかない」

「そうだね、降りるしかないよねっ!!」

「・・・」〈ガンガン!〉

「ああ、わかったよC2。腹をくくろう」


 戻ることが出来ない、そんな事が本当に起こるとは思わなかった。そしてその事実が最下層で待ち受ける困難を予想させる。静かな通路に私たちの足音が響き、たどり着いた一番奥の部屋に、下へ降りる階段があった。その両脇には2体の天使像があり、奥には石板が飾られ、何か書かれている。


「これは・・何が書いてあるんだ?」

「どれどれ?ふむふむ・・なるほどっ!!」

「読めるのかニコ!?」

「ぜんぜんわかんなーいっ!てへぺろっ」

《 パコーーンッ!! 》


「イーターイーーッ!!」

「まぎらわしいことすなっ!!」

「おバカがいる」

「・・・・・」

「ふむ、古代語のようじゃが・・」

「何か見たことがあるな・・」

「クーサリオン、どういうことだ!?」

「これは・・おそらく伝承のうただと思う。

 王よ、ミリィが話してませんでしたか?」

「あ、この森が生まれた時のやつか?」

「そうです。エルフに伝わる眠りの森の詩です」

「おお!それなら儂らドワーフも知っとるわい!」

「それがなんでここに?」

「いや、俺も詳しく知っているわけでは・・」

「とりあえず、降りるしかないんじゃない?」

「・・・」〈コクコク〉

「そうだな、降りるか・・」


 あの詩と、このダンジョンにいったいどんな関係があるのだろうか?その答えを得ないまま、私たちは階段を降りる。最下層へ向かう階段は今までのものより長く、永遠に続くかのように思われた。

 ようやく終点が見えてきて、私たちは最後の一段を降りる。そこには、一面に広がる黒曜石の床に、とてつもなく広い空間、立ち並ぶ床と同じ黒曜石の柱、そう、そこは神殿のようなフロアとなっていた。

 柱には煌煌こうこうとたいまつが灯り、薄暗い空間をゆらゆらと照らしている。

そして、フロアの中心には、一体の巨大な機械のようなものが鎮座ちんざしていた。

 私たちはその荘厳な空気に飲まれ、身じろぎひとつ出来ずにいたが、やがて爺さんの震える声が響いた。


「な、なんじゃこの部屋は・・まさか・・っ!?」

「ヒゲじい、知ってる?」

「・・試練の間と呼ばれる場所かもしれん。

 ここはかつて試練の迷宮と呼ばれておった、

 その最奥部にあると言われておった場所じゃ!」

「試練の迷宮って、このダンジョンの別名か?」

「そういえば言ってたよね!」

「採掘の試練のことじゃと思っておったが、

 なぜ今になって現れたんじゃ・・まるで・・」


【 システム・起動・シマス 】


 突然、機械から音が聞こえた。

それはまるで合成された音声のようで、この神殿のような広い空間に響き渡る。そして機械の各所にある隙間から青い光が瞬き、不気味な振動と作動音を発しながら、ゆっくりと動き始めた。


【 対象ノ・霊波ヲ・サーチ・・・確認 】


 次第に形を変えていく機械から赤い光が放たれる。その光は私の頭から足元まで照らし、そして消えた。


【 霊波適合率100%・異物ノ混入ヲ確認 】

【 異物分析開始・・・完了・許容範囲 】


 機械の両端は盾を持った腕のようになり、下部は逆関節の脚部に、背面には排気口のようなフィンと、そして中央の胴体から兜のような形をした頭部が現れる。そして頭部の目にあたる細長いレンズが、光る。


【 修正・完了・対象ヲ有資格者ト認メル 】


 完全に変形を終了したそれは、まるで盾を持った騎士か、ター○ネーターに出てくる未来の兵器のように私には見えた。よく見れば盾の一部は大砲のようになっており、背後にもそれっぽいのが見える。


「こ、こいつ・・動くぞっ!?」

「そ、そうだね!動いてるねっ!?」

「見ればわかる」

「こ、古代ゴーレム!?初めて見るわいっ!!」

「・・・」〈ジーッ〉

「俺は・・何を見ているんだ・・?」


 私は思わず某ロボットアニメのセリフを口にしてしまったが、伝わったのはC2だけのようだ。

なぜ私を照らしたんだ?なんだ有資格者って!?


【 システム・アームズ・スタンバイ 】

【 オールアームズ・オールグリーン 】

【 音声システム・起動・ABCDEFG 】

【 終了・再生開始 】


『ワタシハ・試練用魔導機・XTG04デス』


「「しゃべった!?」」

「いや、さっきからしゃべってるだろ・・」

「?」

「王よ、何を言っている?」

「変な音しか聞こえてないよ?」

「ロウ、クスリはダメ」

「何度でも言うがやっとらんわっ!!」


 はて、どういう事か?確かに電子音ちっくで聞き取りにくかったが、ちゃんと言葉を話していたぞ?

みんなの変人を見るような眼差しに傷つきながら、私はロボットの方を見る。ロボットもこちらを見てる。


『ワタシハ・有資格者ノ試練ヲ・担当シマス』

「試練?もしかして私が受けるのか?」

『イエス・適合確認・有資格者ト認メマス』

「なに?ロウさんが目的なの?」

「有資格者じゃと?」

「資格って?」

『炎ノ試練・受ケル資格・デス』

「なんか熱そうだね・・」

「炎の試練って・・センス疑うな。

 誰が付けたんだよ・・」

「俺たちも受ける必要があるのか?」

『ノー・有資格者ノミ・デス』

「えーっ!?じゃあ見てるだけなの!?」

『6名マデハ・参加可能・デス』

「希望者は参加、って事かな?」


 なんか親切に教えてくれるな、このロボット。なら聞けそうなことは聞いておこうか。


「他にも試練は受けられるのか?」

『ココデハ・1種類ノミ・可能デス』

「ここでは?他にも試練があるのか?」

『ビーッ!!・オ答エデキマセン』

「ここ以外で試練が受けられるのか?」

『ビーッ!!・オ答エデキマセン』

「・・試練は全部で1種類のみなのか?」

『ビーッ!!・オ答エデキマセン』

「私のパンツ何色?」

『パープル・デス』

「すごい、当たった」

「誰だこいつをプログラムしたのはっ!?」


 まあ、ある程度はわかった。まず他にも試練はある。ここでは1種類しか受けれないという事は、他があるという事だ。ただ場所や内容は秘密で、それに関連する情報は与えられない。あとは・・


「その試練、伝承の王に関係するものか?」

『イエス・キングノ資格ヲ・問ウモノデス』

「まあ、そうだろうな。それぐらいしかないし」

「王の試練・・それで試練の迷宮なのか」

「儂らがこの部屋に入れんかったのは、

 資格がなかったからかもしれんのぅ」

『コレヨリ・試練ヲ・開始シマス・準備ヲ』

「私たちの準備はオッケーだよう!!」

「・・・!」〈バンバン!〉

「なんとなくわかるんだが、一応聞く。

 ここの試練はどんな内容なんだ?」


 そう問いかけた私に対して、ロボットは砲門をこちらに向けて、答える。

装甲は銀色から赤銅色に、隙間から漏れる青い光も、紅く変わる!!


『試練内容ハ・ワタシノ・破壊・デス!』

「まあ、そうなんだろうよ!!」

『全員・参加・サレマスカ?』

「助太刀するよーーうっ!!」

「・・・!!」〈ガシャッ!〉

「対戦車ミッション?」

「弓が通用するかわからんが、面白い!!」

「とんでもない事に巻き込まれてしもたわい!!」


 私たちは中世ファンタジーな異世界で、しゃべるロボットと戦う事になってしまった。

 だが、どう考えてもオーバーテクノロジーだと思う、これを造ったのが神だとしたら、とんでもなく高度な科学力を持っていることにならないか?まあ、魔法とかそういうのも関係してるんだろうが。


【 戦闘モード・起動・・・開始 】


 再び電子音が響き、ゴーレムが動きだす。

私たちは、大型のダンプカーよりでかい戦闘機械に、無謀にも戦いを挑むのだった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


       ♯13 守護騎士



 私は左手に握る盾を前面に突き出しながら、目の前のゴーレムに向かって突進しました。

隣には同じ近衛であるニコさんが、街中で見れば引いてしまうような凶暴な笑みを浮かべて駆けています。私の背後には大切なマスターがいる、ニコさんはいつも通り攻撃する事に夢中でしょうから、私が護らなければいけません。そう、私は守護騎士。マスターを護る鉄壁の盾なのですから。


「C2!気をつけろ!

 そいつは大砲積んでるぞっ!!」


 マスターの声が後ろから響きます。

ゲームの時は文字でしかなかったその言葉、だけど私たちを心配する気持ちは、同じように伝わります。

 私はコクリと頷き、敵の動きに注意しました。その時、背中に担いでいる2門の大砲が火を放ちます!

ドンッ!ドンッ!!という轟音と同時に、私はマスターへの射線上へ盾を構え、衝撃に備えます!


《 ドゴォォォォォォンッ!!!! 》

「・・っ!!!」


 凄まじい衝撃に肩が抜けそうになりますが、発動していた『物理ダメージ軽減』により砲撃を防ぎます。ですが、今の一撃で鋼鉄の盾はグニャリと曲がり、私の周囲は炎に包まれました。とても熱いです。

 私は炎を突っ切り、走りながらカバンからポーションを取り出して飲むと、火傷の痛みは引きました。私の階位『守護騎士』は最高レベルの防御力を誇ります、この程度の攻撃で倒れるわけがありません。

 見るとゴーレムはマスターだけを狙っているようで、攻撃を仕掛けるニコさんやナイマさんには目もくれずに、マスターへ腕を向けていました。危ないっ!?


《 ババババババババババッ!! 》

「のわぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 バルカン砲とかアリかよだがそれがイイっ!!」

「ロウが萌えてる」

「病気じゃのう!若造めっ!!」

「こんのおぉぉぉっ!こっち向けーっ!!」


 ニコさんの振り下ろす大剣がマスターを狙っていたゴーレムの右腕に炸裂しますが、盾のような腕部は見た目通りに硬いようで、射線をずらす程度にしかダメージを与えられていません。

 私は再びマスターの前面へと移動し、彼への攻撃を盾で食い止めます。響く金属音と連続した衝撃。


「ニコ、関節をねらう」


 そう言ったナイマさんは背後の翼を広げ、一気にゴーレムの背後へと移動、速いですね!

 しかしゴーレムは背後に背負っている箱から丸い玉を大量に発射、それを見たナイマさんはすぐに危険と判断したのか、天井近くまで急上昇、直後に丸い玉が一斉に爆発します!響く連続した爆発音!!


「散布式ランチャー、やっかい」

「なら、俺がフォローしよう!!」


 クーサリオンさんがゴーレムの背後へ走りながら弓を構え、なんと3本同時に矢を放ちます。

その後もすごい速さで連射し続け、背後の射出器へ何度も命中させます。しかしダメージがあるようには見えません。やはり装甲はかなり厚いようです。

 私はマスターへの銃撃を防ぎながら二人の動きを追います。マスターは時々ゴーレムに突撃しては胴体や脚部に攻撃をしかけていますが、これも装甲に阻まれて傷つけるぐらいにしかなっていません。


「なんて硬さだ!?何でできてるんだ!?」

「材質は恐らく黒鋼じゃが、それにしては硬い!

 鍛え方が常識外れなんじゃろうなっ!!」


 そう言ってドワーフのお爺様がハンマーを脚の関節部に叩きつけます。ドカンッ!!と派手な音が響き、ゴーレムの動きが鈍くなります。どうやら効いているようです!関節からギギギッ!と嫌な音が!?


「やはり可動部は弱いみたいじゃの!!」

「やるじゃないか爺さん!!では私も!!」

「・・!!」


 マスターが逆の関節を狙うため、低い姿勢でゴーレムに向かって走ります。ですが、ゴーレムはそのマスターに向けて腕のバルカン砲を・・っ!?

 違う!手のひらを広げて、そこにある砲口を!?


《 ボフォォォァァァァァァァッ!! 》

〈 ドンッ!! 〉

「ウワッ!?C2っ!?」

「!!!」


 私はとっさに背後からマスターに『シールドバニッシュ』を放ち、吹き飛ばしながら自らの土属性を引き出すべく魔力を集中させます。しかし属性は魔力に反応することなく霧散し、ゴーレムの手のひらから放たれた火炎放射が、私の身体を包みました。


「C2ーーーーっ!?」

「いかん!?直撃じゃぞっ!!」

「C2さんっ!?」


 炎に包まれた私は息を止めてその熱さに耐えようとしますが、髪や皮膚が焼けていく感覚と痛みが私の意識を貫き続けます。私は思わず意識を失いそうになり、そのまま倒れこんでしまいました・・・。

 なぜこんな事になってしまったんだろう?と、失いつつある感覚の中で思いながら・・・。



〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜

 

 私がゲームを始めたのは、出張先のホテルで食事をとった後、部屋でボーッとしていた時でした。

 就職した会社はそこそこ大きなところでしたが、このところバブルに沸いている中国への出張が増え、移動や慣れない海外での仕事が続き、私は相当な疲れが溜まっていました。

 そんな時、私の携帯が振動し、業務連絡かと確かめてみると、ゲームのインストール完了通知でした。

 普段ならそんな怪しいゲームはすぐにアンストールするのですが、仕事に疲れていた私は少し現実を忘れたい気分でもあり、生まれて初めての携帯ゲームに興味もあったことから、そのゲーム『セブンスフィア』を始めることにしました。

 そこには、確かに現実を忘れてしまうような世界が広がっていました。


 私はキャラメイキングを行い、少しゲームを楽しんだ後に運営からの通知でギルドの存在を知り、入ってみようと検索して引っかかった一覧から名前を見て気に入ったところへ加入申請を送りました。

 次の日の朝、私の申請は受理されており、晴れて私はギルドに所属することになりました。

最初の挨拶を送り、しばらく遊んでいたものの・・・

 ギルドチャットに書き込まれるのはマスターのコメントだけ。問いかけるようなその言葉に答えるものはおらず、私も何度か書き込もうと思いましたが、こういうゲームに慣れていない事もあって、無言でチャット画面を眺める日が続きます。


【おはよう、今日はストーリーを進めます】

【ギルドスキルですが、これを上げていいかな?】

【このボスを倒せば報酬が貰えるよ!】

【・・みんな、このギルドで良かったのか?】


 マスターの独白は続き、やがてマスターは望んでマスターになったわけではなく、システムを理解せずにギルドを作ってしまった事、こういうゲームをするのは初めてだという事などを話し始めました。

 私は何度も書き込もうか迷いましたが、誰も返事をしていないのに今更書き込む勇気も機会もありませんでした。ただマスターが一人で書き込むコメントを見ながら、どうしようか迷い続けていました。

 ですが、ある時一人のプレイヤーが反応します。


【わたしもそれが良いと思います!】


 それがきっかけでした。

ちぃさんと名乗ったその方は、マスターと会話を続けます。だんだんと明るい話題になり、質問に一生懸命答えるマスターと、色んな質問をするちぃさんとの会話は、徐々に砕けていって漫才のようになり、私はいつしか二人の会話を見るのが楽しみになっていました。そして・・・


【ごめん、いつも二人の会話見てたよ】

【ずっと参加したかった、入っても良いかな?】


 新たな参加者が増えました。

彼の名はnakayanなかやんさん、やがてサブマスターとなる双剣士の方でした。

 彼が言った言葉は、私たちの気持ちを代弁してくれたようなもので、続いて次々とメンバーが会話に加わり、いつしか人数も増え、協力し合うようになり、そしてゲームでも一番大きなギルドになるまで成長していきました。

 私は相変わらず話すのが苦手でしたが、ギルドへ増資するとマスターがそれを皆に知らせてくれて、私はそれが嬉しくて何度も続けて増資し、「そんなにしなくて良いよ!」とマスターが言っても無視して続けてやりました。彼が困る姿は面白かったですね。


 しかし、その間にも引退していく仲間、仲違いする人たち、そしてちぃさんとの別れなど、様々なことが起こりました。私たちのマスターは悲しんだり、苦しんだりしていましたが、それを隠して(本人は隠せていると思っていたと思います)私たちを導き続けました。


 そして、2年半が経ち、あの日を迎えたのです。

色々なことがありましたが、話すことが苦手な私でも、マスターや仲間たちは私を信頼してくれました。

だから、私もどんなに仕事が忙しくても続けられましたし、仲間を大切に思っていました。

 そんな私も、いつの間にか近衛騎士のリーダーとなり、マスターの側で同じ気持ちの仲間と共に戦い、そして彼の姿を見守り続けていました。


 だから、私はマスターを護るのです。

たとえこの身が焼かれようと、切り裂かれようと、私は最後まで彼を護り続ける。

 なので、私に後悔はありません。

私は、自身に誓った想いを貫けたのですから・・

 そう思った時です。


〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜〜〜〜・〜


《 ドカァーーーーーーンッ!! 》

「・・・っ!?」


 私を強烈な爆風が襲いました。

その爆風は私を包んでいた炎を消し飛ばし、ついでに私の身体も吹き飛ばしました。

 地面に叩きつけられた私が激痛で息もできないでいると、そこへ大量のポーションが投げつけられ、私の身体から痛みが薄らいでいきます。

 そして更に何本ものポーションをかけられて、焼けただれてくっついていた瞼が開くようになり、癒された私の眼がようやく見えるようになった時、目の前にいたのは、黒い翼の天使でした。


「・・・・・」

「よかった、死んでない」

「じぃーーづぅーーざーーんっ!!」


 彼女は優しく微笑んで、私を見ていました。

隣ではニコさんが泣きながらポーションをドバドバかけてくれていますが、間違って魔力ポーションやお酒をかけているところが彼女らしいです。

 私は元どおりになった皮膚や髪の感触を確かめながら、彼女たちに頷きました。


「頑張りすぎ、でも頑張った」

「ウワーーーンッ!!C2さーーん!!」

「・・・・・(ありがとう)」

「!?」

「えっ!?」


 私は立ち上がり、マスターの姿を探します。彼は大砲から放たれる砲弾を左右に逃げてかわしています。ゴーレムの両膝は破壊され、すでに身動きは取れないようですが、それでも火力は衰えた様子もなく攻撃を続けているようです。私はすぐにマスターの元へと駆け、彼を護るべく射線の間の割り込みます。


「C2っ!?大丈夫なのかっ!!」

「・・・」〈グッ!〉


 私は左手で歪んだ盾を構えながら、右手でマスターにサムズアップします。


「私のひらめきが奇跡を呼んだ」

「いきなりC2の周りへ火魔石ばらまくから、

 気でも狂ったのかと思ったぞ!!」

「爆風を利用した消化、私はかしこい」

「まあ、魔石が通用するのがわかったし、

 お手柄だけど・・なっ!!」


 マスターが魔石をゴーレムにぶつけると、激しい電撃がゴーレムを襲い、動きを止めました。

 そこへクーサリオンさんの放った矢が襲い、次々と右腕の関節へ命中していきます。お爺様は背後からハンマーでランチャーをタコ殴りにして破壊し、ニコさんはジャンプして片方の砲門を叩き斬ります。

 ですが、もう片方の大砲からは砲弾が発射され、左腕のバルカン砲もマスターに向かって絶え間なく弾丸を吐き出し続けます。私は砲弾の爆発に耐えながら、できるだけ銃弾を自身で防げるよう位置を変え続けました。そして攻撃が一瞬止んだ隙にマスターが飛び出し、再び魔石をゴーレムに投げつけます。


「よし、一気にたたみかけるぞっ!!」

「了解、任せて」

「コツを掴んだ!王よ、右腕も私がもらう!」

「年寄りにはちと堪えるわいっ!!」

「ウォォォリャリャリャリャリャーーーッ!!!」

「・・・!!」

「行くぞーーーーーっ!!突撃ぃぃぃっ!!!」


 私も剣を抜き、ゴーレムに突進します!!

 集中攻撃を食らったゴーレムは、やがて恐ろしく頑丈な胴体のみを残して破壊され、ズゥゥン!と重い響きとともに倒れていきました。頭はナイマさんによって切り落とされ、腕はクーサリオンさんの矢によってちぎれてぶら下がり、他の場所はニコさんとお爺様にめった打ちされてボコボコになっています。

 私たちは、試練に打ち勝ちました。


『目標ノ達成ヲ確認・見事・デス』


 ゴーレムの胴体から声が響きます。そしてお腹の一部がパカッと開き、そこから赤い半分に割れた石が転がってきました。それは私を包んだ炎のように真っ赤で、少しあの苦しみを思い出してゾッとしました。


『試練達成報酬・炎ノ欠片ヲ・オ渡シシマス』

「炎の欠片だって?」

「なんかすごく真っ赤だね」

「熱くはないようだが」

「お肉は?」


 マスターは石を手に取り眺めています。半ば透き通っているその石は、もう半分があれば宝玉と言っていいようなもので、とても貴重なものに見えます。

 お爺様に「何かの素材かな?」と聞いていますが、お爺様は頭を傾げて悩んでいるようです。


『他ニモ・コチラヲ・オ渡シシマス・オープン』


 ゴーレムが赤い光で床を照らすと、その床が下がり、そこから様々な素材と思われるインゴッドや武器、それに防具や貴金属を乗せた台がせり上がってきました!私はあまりの多さに驚いてしまいました!


「っ!!!」

「おおっ!!ミスリルじゃっ!!

 しかもこれは純度7以上あるぞいっ!?」

「純度?」

「そうじゃお嬢ちゃん、鉱石には純度があっての、

 最高が10で、上のものほど上質なんじゃよ!」

「爺さん、興奮しすぎだろう」

「当たり前じゃっ!!普通は5もあれば上質、

 これほどのものはそうそう手に入らんわいっ!」

「確かにこんな美しいなミスリルを見るのは、

 村長の弓を見たとき以来だな・・」

「あやつの弓で純度6じゃよ!!」

「あーーっ!!大剣もあるっ!!」

「分けるのは戻ってからにしよう。

 手分けしてカバンに詰め込んでくれ」


 マスターの指示で私たちは素材や貴金属をカバンに入れ、入らない大きな武具などは背中に担いだりして、一気に大荷物となってしまいました。そして再びゴーレムへと視線を向けると。


『任務完了・コアノ排出準備・開始』

「コア?なんだそれは?」

「ゴーレムさん死んじゃうの?」

「まあ、儂らが壊したからのぅ」

『ボディノ活動・停止・コアノ活動ヲ開始』

「活動?なんだ本体は別にあるのか?」

「こんどこそお肉」

「ブレないな、ナイマ殿は・・」

「あっ!胸のところが開くよっ!?」

「・・!?」


 ニコさんの声に応えるかのように、ゴーレムの胴体前面がまるでハッチのように開き始めました。

そして、そこにはなぜか人の影が見えます!?


『システム・ダウン・アウトゲート・オープン』


 最後にそう言って、ゴーレムの隙間から見えた赤い光は消えていきました。ゴーレムの背後には光の柱が現れ、天井へと伸びています。どうやら脱出用のワープゲートのようですが、私たちはそれよりゴーレムの胴体に座っている人影に意識を集中していました。

 そして、人影はゆっくりと動き出し、ハッチから姿を現して、立ち上がりました。


「おはようございます、マスター」

「・・・子供、か?」


 困惑するマスターの声、私たちも混乱しています。

 確かに子供に見えます。歳は12歳ぐらいでしょうか?白髪に透き通るような白い肌、目は紫色の無表情な少年が私たちの前まで歩いてきました。着ている服も真っ白で、身体にぴったりとフィットしたプラグスーツのようなものですが、ところどころ青く光っています。将来が期待できそうな美少年です。

 それに私と同じく、マスターをマスターと呼んでいるところも好感が持てます。まあ、私はこの口で呼んだことは一度も無いのですが。


「キャーーーッ!?超カワイイんですけどっ!?」

「この子が操縦していたのか?」

「エルフでもないようですね・・」

「なかなかの上物」

「いったいどうなっとるんじゃ・・」


 ニコさんは興奮してぴょんぴょん跳ねていますが、私たちは驚きすぎて呆然としていました。

少年は私たちの顔を確認しながら、マスターを見て止まり、再び口を開きました。


「僕の名は04コア。

 貴方に使ってもらうために存在します」

「・・私にか?」

「はい、マスター。僕はXTG04の演算装置えんざんそうち

 任務完了後は合格者のサポートを行います」

「・・・いまいち理解しきれないんだが、

 具体的に何をしてくれるんだ?」

「得意なのは演算ですが、魔力を用いた戦闘や、

 ゴーレムの操縦も可能です」

「ゴーレムの操縦・・他にもあんなのがあるのか」

「試練用プロトタイプは専用コアがありますが、

 正式汎用機はダミーコアの自動操縦です。

 僕らコアが搭乗することで本来の性能を発揮、

 それは試練用と比較になりません」

「・・それはどこで手に入るんだ?」

「それはまだお答えできません。もう一つの

 キーアイテム『炎の欠片』と、王剣の入手が

 情報開示条件となっています」


 少年は見た目と違って丁寧な口調でたんたんと説明しています。マスターも混乱しているようですが、情報を頭で整理しているのでしょう、鼻の下に手を当てて考え込んでいます。

 どうやらこの少年はあのゴーレムの操縦者で、同じようなゴーレムに乗ることができるようです。なぜこのような場所で、あのようなゴーレムの中でずっと生きていられたのでしょうか?その疑問を抱いたのは、どうやら私だけではありませんでした。


「なぜ生きてる?ごはんもないはず」

「質問に答えます。私はXTG04内にある、

 神魔ソーマカプセル内で空間スリープモードに

 入っておりました。ですので搭乗開始時点から

 私の身体は保存されたままでした」

神魔ソーマってなに?」

神因ジンにて生み出される、神の魔力です」

神因ジンってなに?」

「神の因子のことです。私たちの身体に存在する、

 神々の肉体を構成する物質のことです」

「神の因子だって!?亜神デミゴッドか!?」


 マスターとナイマさんはとても驚いています。いったい何が気になるのでしょうか?そういえばマスターの種族は亜神というレア種族だと聞いていますから、もしかしたらその事に関係あるのかもしれません。


「あなたは・・私と同じ存在?」

「いえ、それほど強力な存在ではありません。

 天使は全てジンで構成されていますが、

 僕たちは10%ほどのジン比率となります」

「なら、ロウは?」

「マスターの肉体はハイヒューマンですが、

 同時に100%のジンを持っておられます。

 まるで二人分の魂を持っているように。

 それは通常では考えられないことですので、

 最初は異物混入と判定しました」

「考えられないことなのか?」

「はい、本来の亜神とは下位の神を指すもので、

 マスターのような構成はありえません。

 私は90%がヒューマンで構成されています」

「そう、つまりあなたは美味しくない」

「どういう方向からの結論なんだそれは!?」

「夜のお食事会」

「ディナーのような表現をするなっ!!」


 ・・・マスター、食べられちゃってますから。

 私たちは新たに得た情報や戦利品、そして04だからフォウと名付けられた少年とともに、ゲートへ向かいます。マスター、ガ○ダムのネタ好きですね。でも私みたいな隠れガ○プラ好きとかじゃないと、今の若い子にはわからないと思いますよ?


 私が知らないことが多すぎて困ってしまいますが、今回もマスターを護ることが出来ました。

ニコさんと共に、近衛このえとしての役割を全う出来たのは良かったと思います。



 私はC2、風の名を持つギルドの守護騎士。

これからも私は、彼らを見守り続ける。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【プレイヤー紹介】

登場するプレイヤーキャラクターの階位など紹介。

本編では語られないエピソードも書いています。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【名前】 ニコ


階位クラス】 戦乙女ヴァルキリー

・近接戦闘に特化した狂戦士系上位職

 周囲50m以内にいる仲間の攻撃力を上昇させる

・クリティカル率上昇、騎乗可能。

・短剣、剣、槍、弓、重鎧、兜が装備可能。

※調整→大剣適性上昇。弓、短剣の適性低下


【種族】 ハイヒューマン

・身体能力の上昇、状態異常耐性上昇。

・ヒューマンの上位種で、能力が向上している。

 ヒューマンは我々一般的な人間と同じく、

 平均的な能力を持つ。


属性エレメンタル】 光・炎

・炎→火の上位属性、光属性の特性低下

・光属性のため、炎属性の特性上昇

・水系属性への耐性低下

・身体強化での力や攻撃力が大幅上昇。 


職業ジョブ】 近衛騎士ガーズナイト

・剣、槍、弓の適性上昇。

・身体能力上昇、特に力と防御力、体力が上昇。

・主人を設定し、対象に危機が訪れると一時的に

 能力が向上する。


【プレイヤーエピソード】

ゲーム『セブンスフィア』のプレイヤーであり、

100名規模の大型ギルド

『United Kingdom of Fuga』

(ユナイテッド キングダム オブ フーガ)

の0番隊、近衛騎士隊の隊員。

初期の段階では優れた近接戦闘の適性を持つため、

最も戦闘的な1番隊に所属していたが転属を希望。

近衛に志願した。

責任感が強く一生懸命な性格だが、反面視野が狭く

猪突猛進。そのためロウにはイノシシ娘と呼ばれる。

非常に面倒見が良く、新人や気弱な隊員からも

慕われており、次期近衛隊長との声も。

いつもロウにくっついて行動し、異常な忠誠心を

持つため、他の隊員から呆れられることが多い。

それは彼女が無意識にロウが持つ心の闇に気づき、

彼を守ろうとする優しい心から生まれている。

ロウもそれに気づいており、言葉にはしないが

彼女を傍に置く事で感謝を示している。

だが、あまりの暴走癖に時々後悔することも。

得意な武器は大剣だが、あまり難しく考えずに

振りまわせる武器を好むため、槍にも適性がある。

リアルでは主婦のようだが、詳細は不明。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【名前】 C2(シーツー)


階位クラス】 守護騎士ガードナイト

・防御に特化した近衛騎士の上位職。

 近接戦闘を得意とする前衛タイプ。

・体力、防御に上昇補正〔大〕

・盾、重鎧、兜などの防具適性大幅上昇、

 片手剣、短槍の適性上昇。


【種族】 ハイヒューマン

・身体能力の上昇、状態異常耐性上昇。

・ヒューマンの上位種で、能力が向上している。

 ヒューマンは我々一般的な人間と同じく、

 平均的な能力を持つ。


属性エレメンタル】 光・土

・光属性のため、土属性の効果上昇

・土属性効果で防御力上昇


職業ジョブ】 盾騎士シールドナイト

・大型の盾、重鎧などの重装備が可能

・両手武器や遠距離攻撃武器の装備不可

・盾、重鎧などの防具適性上昇

・身体能力上昇、特に体力と防御力が上昇


【プレイヤーエピソード】

ゲーム『セブンスフィア』のプレイヤーであり、

100名規模の大型ギルド

『United Kingdom of Fuga』

(ユナイテッド キングダム オブ フーガ)

の0番隊、近衛騎士隊の隊長。

ファースト9(ナイン)と呼ばれる初期メンバーの

一人であり、ギルド最古参のプレイヤー。

『沈黙の騎士』と呼ばれるほどに何も話さず、

言葉の代わりにボディランゲージで意思疎通する。

慣れないメンバーは会話に参加しない事に戸惑い、

隊長としての適性を訝しむ者も多かった。

だが、必要な時に必ず姿を現し、自らの役割を

完璧に果たす姿がそれらの不平不満を消していく。

実はバーサーカータイプであり、戦闘時に攻撃を

許されると嬉々として飛び込んでいく。

普段静かな姿とのギャップ、その声を聞いた者の

少なさから、ある意味神秘的な存在。

リアルは世界を飛び回るビジネスマンで、やり手。

必要最小限の言葉しか発しない彼女だが、それは

ビジネスの世界において信頼できる人物として、

自分で思っている以上に評価されている。

趣味はガンプラなどのプラモデル作り。

ロウには男性だと思われていた。


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