1章『スリーピングフォレスト』♯9〜10
エルフの村で訓練を行う我々は、
初めての軍事行動を起こす。
それは、敵拠点への奇襲だった。
♯09 世界の始まり
私たちは川を何度も往復した。
気絶したエルフ達にぶっかけて起こさねばならないのと、傷を冷やすためだ。エルフの村に居たヒーラー(治癒魔術師)は6名、そのうち2名は自警団、残り3名はエルフ村の医者と助手、そしてミリィだ。
まあ、実際に惨状を見たら絶句していたんだが。
「ダメ、魔力がもう足りません・・・」
「諦めるなっ!まだ半分残ってるんだぞっ!?」
「でも、こんな大勢を治すなんて初めて・・」
「情けないワン!今こそ力の見せどころだワン!」
「その通りだ!こんな時こそ我々の力が・ぁ・・」
〈 ドサッ 〉
「先生っ!?お気を確かにっ!?」
「見事だワン!気絶するまで魔法を使うとは、
医者として見あげた根性だワン!!」
セントバーナード風のクーシーがワイドヒールの詠唱を終える。4人の負傷者を水の膜が包み、傷が癒されていく姿が見える。しかし、まだ10名程が地面でうめいている、まさに戦場だった。
しかし事件を起こした当の本人は、ウサギの丸焼きにかぶりついて見物しているだけなんだが・・。
そんな時、向こうから薬草を担いで走ってくる一団を見つけて、私はホッとため息をついた。
「いけないっ!先生まで倒れてるわっ!?」
「なんだとっ!?無茶しすぎだっ!」
「こんな時は・・あった!はいコレ!」
「よし!さあ、この魔力ポーションを飲めっ!」
「グボハァッ!?ま、まっずぅぅぅぅぅい!?」
「贅沢言うな!もう少し休めば魔力も戻る!」
「患者は一体何名おられ・・って嘘っ!?」
「な、なんて事だ・・ここまでするとは・・!」
うーむ、やはりヒーラーと薬が少ない。これが実戦で大規模な戦闘になってたら危なかっただろう。
私は回復したイズ兄さんにヒーラーの育成と薬の予備が必要と告げ、何言ってんのコイツ?正気か?
って感じの目で見られた。
「必要なのはわかるが、この状況で言うのか・・」
「こういう状況だからこそわかるもんなんだよ」
「確かにそうだが・・」
「これが実戦だったら全員死んでるぞ?
良かったじゃないか気付けて」
ふと視線を感じて見ると、被害者及び治療者各位が手を止めてこちらを眺めている。
それはまるで狂人でも見るかのような・・。
「ロウは時々、驚くほど冷静になる」
「ふん、別に驚くほどでもない。
問題解決能力は社会人に必須スキルだ」
「こういう状況になればなるほど、
そういう判断ができるものなのか・・」
「起きたものは仕方ないだろう?
二度と同じ状況を作らない事こそ重要だ」
「なら、今晩は絶対に逃がさない」
「そこは解決しないで欲しい!!」
とりあえず全員の回復に目処が立った。でもスゴいな、治癒魔法と回復薬の効果がハンパない。
「回復終わった?」
「まだ全快ではないようだが、
一応は終わったみたいだな」
「そう、良かった」
なんだ、猟奇殺人犯のようなことを言うのかと思ったら、思ったより普通だった。
こいつにも良心が残ってたんだな、破壊と欲望の化身かと思っていたんだが。
「これからが本番、今度は本気で殺る」
「「「イヤァァァァァーーーーーーッ!?」」」
「やはり恐怖の女王だったか黒天使っ!?」
ゆらりと立ち上がったナイマを必死で抱きとめて、怯えるみんなに祈られながら説得した。
だが、殺人マシーンと化した彼女は私をボロボロになるまで叩きのめし、蹴り飛ばし、踏みつけた。
だが、靴の下でうめいている私を見て、それなりに満足したようで落ち着いてくれた。
「ロウに免じて普通の訓練する」
「「王よ、心から感謝をっ!!」」
「ああ、生きてる!私まだ生きてるのねっ!?」
「わ、私はもう死にそうなんだが・・・」
「ロウ様!すぐに治癒魔法を!!」
そして普通の訓練が始まった。
森を上手に使って姿を隠す方法や、武器の違いを活かした配置、お互いのフォローを効果的に行うリーダー選びのコツなど、思いつく限りのことを伝えた。
もちろん1日で終わるわけもなく、あっという間に夕方となり、今日はいったん解散。アンデッドのようにフラフラと家に帰っていく彼らを見ながら、私はナイマに見所がある者を4名選んで欲しいと頼んだ。
その4名に加えて私たち2名の、全部で6名パーティでドワーフの集落に向かう予定だからだ。
残りは村を守るため、別の訓練をさせる。
「そういうわけなんだが、出来ればヒーラー1名、
後衛2名、前衛1名選んでくれないか?」
「何が起こるかわからない、もう二人必要」
「しかし、村を守る者が不足するのは避けたい」
「先にしかけて、いっぱいやっつければいい」
「・・なるほど、奇襲を大がかりにするわけか」
敵を減らせば守るのも簡単になるし、時間もたくさん稼げるんだからもう2人ぐらい連れて行ける。
ナイマはそう言いたいんだろう。
「戦術的に言えば、機動防御戦だな?」
「そう、でも村の占領までは必要ない。
欲しいのは時間だから」
「なら、時間稼ぎに村も焼くか?」
「敵の数が少ないなら」
「スケルトンが量産されていると面倒だな」
アンデッドが弱くなる日中を狙って攻撃して、村を焼いてしまう。そうすれば奴等はこちらを攻める為にたくさんの人数を集めることが出来なくなる。安心して休める場所が無くなるからな。
なので少ない数でこちらを攻撃するか、村を使えるように直すのが先になるだろう。
「なら、近い所が良いな、遠いと移動も大変だ」
「ここに逃げてきた人たちの村でいい」
「なるほど、近いのはホビットの村かな?」
村を占領したなら、そこを使って次の村を攻めようとするだろう。なら、ここから一番近い村は、最後に攻められたホビット族の村になる。
「明日にでも、ホビット達に村の位置や
まわりの地形を教えてもらおうか」
「今日がいい、夜は長い」
「なるほど、それを明日聞けばいいか。
カタキを討つって感じだし頑張るだろうな」
「家は焼くけど」
「また建てるときに手伝おう、平和になったら」
私たちは地面を踏みしめる喜びに涙が止まらない村長と、イズ兄さんに考えた案を説明した。
村を焼くことに反対されたが、この村が焼かれるよりマシだろうと言ったら納得してくれた。
とにかく今は時間が欲しい、そのためには相手に一度引っ込んでもらう必要があるんだ。
「わかりました、私が話す事にしましょう」
「ありがとう村長、出来ればクーシー達にも
この話を伝えておいて下さい」
「俺はどうすればいいんだ?」
「自警団とホビット、クーシーの中でメンバーを
30名ぐらい選びだして欲しいな」
「30名だとっ!?村の守りに支障が出るぞ!?」
「出来るだけ成功率を上げて被害も減らしたい、
とくにエルフは最低でも20名は欲しい」
「・・わかった、ホビットとクーシーに村の守りを
手伝ってもらえるよう頼んでみるか」
「明日、攻めるチームと守るチームに分ける。
それで訓練するから、編成は今日中におねがい」
「人使いが荒いな・・だが、何とかしてみよう」
村長やイズ兄さんにも危機感が伝わったようだ。おそらく今夜は徹夜になるかもしれないが、
村が攻め滅ぼされるかもしれないんだ、ここはなんとか二人には頑張ってもらおう。
「さて、私達はもう少し作戦を考えようか」
「私たちが忙しくなるのは明日。今日は寝るべき」
「いや、しかし少しでも成功率を高めたい・・」
「だまされない、ご褒美の時間」
「お前は仲間の命より欲望を優先するのかっ!?」
「する」
「主よっ!ここに悪魔がいますっ!!」
私はナイマに引きずられて部屋に戻り、ポイっと大きなベッドに放りなげられた。
そして彼女は服を脱いではポイポイ放りながら、こちらへとゆっくりと近づいてくる!?
「幸せなお肉の時間」
「なぜだっ!?何がキミをそうまでして、
肉の欲望に駆り立てるのかっ!?」
「全部大佐が悪い」
「嘘をつくな!この悪魔め悪霊退散っ!!」
「ヤレる時にヤる」
「今はそういう状況では無いだろうっ!
・・ってイヤぁ!ダレかタスケテェーッ!?」
「くるしゅうない、ちこうよれ」
「どこの悪代官だよお前はっ!?」
「よいではないかよいではないか」
「あーれーっ!!」
そうして6回戦が終わり、ようやく落ち着いてくれた堕天使のとなりで、私は干物になっていた。
すぐ隣であぐらをかいて髪をいじるナイマの姿を、ぼーっと眺めながら私は言った。
「・・いちおう、聞いておきたいんだが、
これ、毎日続くんじゃないだろうな?」
「そんなことない、たまにでいい」
「あれか、種族ペナルティか何かか?コレは?」
「そう、少女がいってた。闇天使は欲望に素直」
「それって精気を吸い取る必要があるとか?」
「違う、この世界で闇天使は不安定。
ガマンしすぎると狂うっぽい」
「不安定って、何でそうなるんだ?」
「天使は神のしもべ、神が居ないとおかしくなる」
「・・・闇の神がいなくなったって事か?」
「わからない、私は注意されただけ」
なんだかよくわからないが、どうやら闇の神に何かあったのは間違いなさそうだ。
ナイマの種族、闇天使はゲームにも出てこなかったし、私のキャラメイキングにも出てこなかった。恐らくレア種族だと思う。
闇の神のしもべである闇天使は、主人である闇神が居なくなった影響を受け、自らの欲望をガマンし続けると狂ってしまう様になってしまった?
恐らく今は神とのつながりが切れてしまった為に、とても不安定になっているのかもしれない。
もしかして、あの少女が最後に言っていた世界を守るという言葉に、関係があるのか?
少なくとも少女にとってもナイマはイレギュラーだったのではないだろうか?用意している種族以外のレア種族を持っていた、でもそれを変更出来ない。だからこの世界の現状に合わせた注意喚起を行った。
間違っているかもしれないが、そんなとこか。
「欲望をガマン出来ない前兆とかあるのか?」
「だんだん胸に黒いモヤモヤが溜まる感じ」
「なるほど、最初の頃は大丈夫だったもんな」
「あと、戦闘後にヤりたくなる事ぐらい」
「そう言われるとそんな感じで襲われているな。
あれ?なら村長はなんで?」
「あれはつまみ食い」
「・・・」
いや、頭がパーマになってたぞ?村長。
「でも、ロウとヤる時の方がスッとする。
とくに中に出され・・」
「ストーーーップ!!ダメダメ!ダメよ!
それ以上は言っちゃダメっ!!」
「モヤモヤが消える、不思議」
「・・もしかして種族が亜神だからか?」
闇神ではないものの、神性を持っている種族だから代わりになってるとかか?あとは、私の加護神が健康の神であることも関係があるのかも。
なら、私と同じエリアに現れた事も偶然じゃないのか?。少女がナイマの状態を考えて、私の加護や神性に期待して一緒にしたのかもしれない。
「思ったより複雑だな、この世界・・」
「私はけっこう気にいってる」
「それは何よりだが、他のプレイヤー達は
こっちに来てたら大丈夫なんだろうか?」
「わからない、ゲームで話した事がないから」
今の所、私もプレイヤーはナイマしか知らないが、もし選んだ種族や加護の影響がこの世界に大きく依存するなら、既に死んでる人もいるかもしれない。
まあ、あの少女が対策してるんだろうが。
「どちらにせよ、森を出ないとわからないな」
「剣も探さないといけない」
「ああ、忙しくなる。そろそろ身体を休めよう」
「もう一回ヤってから寝る」
「いや、マジで言ってますか死にますよ私?」
「とりあえずこのジュースを飲む」
「それはっ!?ダメだそれを飲むと意識がぁぁ!?
モゴゴォォォォッ!?」
「ほれほれ」
朝になった。
私は気だるい身体を起こして着替えはじめる。
ベッドには強欲な堕天使がスヤスヤと眠っている。
本気で死ぬかと思った。
着替えを終えた私は部屋を出て、イズ兄さんの所へ向かう。昨日お願いした件を確認するためだ。
通りすぎるエルフにあいさつすると、白い目や好奇の目で見られる。そして女性のエルフは顔を真っ赤にして逃げ去っていく・・またか。
とりあえずヘコみながらもイズ兄さんの部屋までやってきた私は、ドアをノックし中に入る。
そこには・・腕をだらんとたらしながら、椅子にすわって虚ろな目で空を見あげる廃人がいた。
「やあ、イズ兄さん。状況を伺いに来たよ」
「・・・徹夜で延々と続く嬌声を聞きながら、
そんなやつらのために働くのは・・辛いものだな」
「・・次からは耳栓を用意することをお勧めするよ。
次がない事を祈りたいが。状況は?」
「元気だな、お前は。詳細は書類にまとめてある」
「神のご加護ってやつかもね、身体はだるいけど。
これか・・・おお、ちゃんと出来てる!」
私は机の上に置いてあった紙の束を手に取り、内容を確認した。うん、わかりやすく書いてる。
「エルフ21名、クーシー6名、ホビットが3名だ。
偵察スキル持ちを10名入れておいた」
「すごいな、こんなにいたのか」
「クーシーは鼻が利くし、ホビットは盗賊の職種を
持っている者が多いからな」
「近接戦が得意なのが8名、魔法や弓が12名、
それに回復や補助職が10名か」
「前衛ができる奴らが少ないのは、勘弁してくれ。
エルフは弓と魔法が得意なんだ」
「それは考えてたけど、クーシーも少ないんだな」
「妖魔のコボルトは前衛向きなのが多いんだが、
クーシーは妖精族だから、魔法使いが主体だな」
防衛はホビット族が頑張るらしい。
ホビット族はすばしっこいが体力は低く、今回の作戦には不向きと思われるからだ。
クーシーは犬種?によっては体力もあるから、今回攻める方にはそちらが多くなっている。
まあ、私とナイマは近接戦が得意なので、カバーできるよう頑張ろう。
「助かったよ。ところで集合時間は連絡してる?」
「ああ、朝食後に広場へ集まるよう指示している」
「わかった、ご苦労様。寝ていいよイズ兄さん」
そう私が言った途端にイズ兄さんは白目をむいて椅子から崩れ落ちた。私は彼を抱えてベッドに横たえると、部屋を出て村長の元に向かう。
村長はさすがにタフで、書類を処理していた。
「おはようございます、ロウ殿。
コボルト族の村はこの地図に書いております」
「地形などもわかりましたか?」
「ええ、皆で思い出しながら描いてくれましたぞ」
「ありがとうございます、村長」
私は地図を見ながらふと疑問を口にした。
「この大量の紙はどこで手に入れてるんですか?」
「錬金術士達が木材を元に作っておりますな」
「木1本でどれぐらいの量が作れるんですか?」
「木の本体ではなく、枝を使っておりますな。
1本の木の枝で、本二冊分ぐらいかと」
「なるほど、なら定期的に入手できますね」
「はい、これも森の恵みですなぁ、ありがたい。
保管しない紙は再利用もしております」
便利だな、錬金術!
大量の木材を消費することが無いなら、自然破壊も最小限で済む。それなりに大きい森があれば、町で使う分ぐらいは確保出来るんだろうな。
「では、私はこの地図を元に作戦を練ります」
「ふむ、昨晩もあれでしたのでお疲れでしょうに、
あまり無理なされぬようお気をつけくだされ」
・・言い方はソフトだが、やはりアレか。
大きな声じゃないと聞こえないんじゃなかったの?
あ、もしかしてエルフは耳が良いのか?
まあ、それは置いといて。
「そういえば闇神がいなくなってるみたいですが、
何か身近に影響とかありますか?」
《 ガタッ! 》
「な、なんですとっ!?闇神様がっ!?」
なんだ?村長も知らなかったのか。
「ええ、どうもナイマには影響が出ているようで」
「・・・そんなこと、とても考えられませぬ」
聞いてみると精霊などには影響は無いらしい。
ただ、ここ3年ほど祠で舞を奉納する際に、お褒めの言葉が無かったらしい。
「なにかおかしい、とは思っていたのですが・・」
と、村長は考え込む。
「闇神様は六属性の一つを司る大神のおひとり、
もし死すれば少なからず世界に影響が出ましょう」
「しかし、目に見えた影響が無いということは、
消えたり死んではいない、という事でしょうか?」
「恐らくは。至高神様がおられるのなら、
六神の命はけっして尽きないと伝承にはあります」
「至高神・・以前に聞いた事がありますが、
いったいどのような神様なのです?」
私たちの世界では色んな宗教があったけど、
この世界の至高神も同じ存在なのだろうか?
「正確には、この世界において本当の神とは、
唯一、至高神様のみなのです。
他の神は天使たちと同様、至高神様自身が
その手でお造りになられた種族でしてな」
「えっ?種族?神様じゃないの?」
「違いますな。伝承によれば・・・
遥か昔、至高神様が世界をお造りになられた際、
異なる世界より様々な種族を連れてこられた。
その生き物の長であった人種に手をくわえ、
世界を司る為に六神様を産み出され、
世界を護る為に天使をお造りになられました」
なんと、人がベースになった神様なのか!?
「では、六神以外の神々はどうなのですか?」
「六神様以外の神々はその異なる世界の神々で、
至高神様のお手伝いをするために付いてこられた
以前の世界でお生まれになった神々ですな」
以前の世界で・・どんな世界だったのか。
だがそこでも神様は至高神が生み出したのだろう。
「神々や天使が協力して世界を住める場所に変え、
そして残りの種族や生き物を地に放たれました。
それが世界の始まりと言われています」
「神々と天使が協力?」
「ええ、同じ至高神様に生み出された存在です。
上下なく力を合わせたと伝わっております」
ならばこの世界は多神教的な世界というより、至高神を頂点にした一神教に近い世界なのか!?
天使と神様が同格、つまり役割を与えられて運営はしているが、全知全能というわけではない。
だが、それだと闇天使と光天使ってなんなんだ?
「天使が二種類いるのは何故なのですか?
生み出されたのは一種類なのでしょう?」
「至高神様が造り出された直属の天使と、
光神様と闇神様が造り出された天使がいるのです。
光神様は神々の長であり、天を治めるお方。
闇神様は地上の生き物の長でもあられましてな、
このお二人は天使を造る力を与えられ、
その天使の力で世界の治安を守られています」
「司法と警察のようなものか。
なら闇天使は闇神直属の種族なんだね」
「その通りです。なので闇神様に何かあれば、
何かしらの影響を受けるでしょうな」
「でも闇精霊に影響がないのは何故なんだろう・・
司る闇神が不在ならおかしくならないかな?」
「精霊はあくまで事象を起こす存在でして、
これも至高神様がお造りになられました。
六神様に造られたわけではありませんので、
特別な指示がない限り与えられた役割にそって
動いているのでしょうな」
「なるほど。至高神に影響がなければ、
普通に世界は動く・・って事か」
我々の世界とはかなり違う、まるであらかじめテストでもした様な、そんな効率の良さを感じる。
人が想像した神ではなく、造り出された神々と天使。まるで実験でもしているかのような。
「勉強になりましたよ、村長。恐らく我々が
ここに居る理由に関係するかもしれません」
「ほほう、神話に関係する何かによって、
ロウ殿お二人は召喚されたと?」
「ええ、タイミング的には合いますから。
闇神は関わっていそうですね」
「でしたら、闇神ゆかりの地に他の召喚者たちが
現れているかもしれませんな」
「そうですね、その可能性は高いと思います」
私は新しい疑問をいだき、村長の部屋を出た。
途中で頬を染めてこちらを見るミリィとすれ違ったが、無視。真剣な顔の私を見て驚いていた。
悪いが、今は思春期を相手にしている余裕が無い。
私は足早に部屋へと戻っていった。
「起きてるか!ナイマ!?」
「起きたら一人だった。ロウは酷い男」
「すまない、イズ兄さんと村長に会っていた」
「女性の楽しみを奪ったロウは女の敵」
「いや、そこまで広げんでもいいと思うんだが?」
「私のスリスリを奪って何をしていた?」
「頼んでいた事の確認を、村長とイズ兄さんに。
聞いたことはご飯を食べながら話すよ」
「肉が少ない、補充が必要」
「訓練ついでに狩れば良いと思うぞ」
「良いアイデア、組み入れる」
朝食はコーンフレークみたいなものだった。
せんべいみたいなのを砕いて豆乳に浸してあり、食べるとほのかな甘みがあって食べやすい。
「・・というわけで、闇神と我々は関係あると
私は思うんだが、少女から何か聞いてないか?」
「闇天使が神と深い関係にあるのはいってた」
「その神の事については?」
「深い関係とは何かを聞くのに夢中だった」
「お前は突撃リポーターか何かなのかっ!?」
「つながりが肉体関係ではないことはわかった」
「お前は少女に何を問い詰めてたんだっ!?」
やはりこの堕天使に期待してはいけなかった!!
ナイマに問い詰められた少女は、顔を真っ赤にして小さくなってたらしい。まさか世界の狭間でセクハラされるとは思っていなかっただろう。
「結局は何もわからず、か。
何かつながりそうなカンがしたんだが」
「プラトニックな関係なのはわかった」
「そういうつながりのことでは無いっ!!」
「けっきょくは外に出ないとわからない」
「そうだな、森から出たら情報を集めてみよう」
朝食を食べ終えた私たちは訓練のために広場に向かう。その途中でナイマは私を見つめてこう言った。
「ロウ、大丈夫。私は狂ったりしない」
「・・ああ、だが知っておきたいとは思うんだ。
その過程でナイマの事も解決するかもしれない」
「たまにロウを食べれば解決する」
「可能な限り早急に解決する所存であります」
「焦ってはいけない、焦ると簡単に命を落とす」
「そうだな、この世界はリアルなんだ。
死んで次があるとは思えないしな」
「命は、大切」
「ああ、私たちに限った話ではないがな」
「簡単に死なれては困る」
「ああ、なら、とりあえずは・・」
そうして広場に着いた私たちの前に、作戦参加組と、同じぐらいの数の防衛組が分かれて集まっていた。
内容を聞いていたのだろう、真剣な表情をしている。
そう、我々が生き残るには、強くなるしかないのだ。
「こいつらが死なないように、鍛える」
「ああ、皆で生き残ろう」
真実を掴むためには、前に進まなければならない。
私たちは大切な者を守るために、困難を突破するために、そして生き残るために力をつけるのだ。
眠りの森で、毒リンゴを握り潰して、投げ捨てる。
目覚めの時が来たんだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
♯10 奇襲
「よく集まってくれた、君達がここに居る理由は
すでに聞いてくれていると思う」
私の第一声が広場に響く。
特に作戦参加組は緊張しているようだ。まあ、今までこんな経験はないだろうから仕方ないが。
「我々はこれより各目的に応じた訓練を行う、
まずは襲撃班」
私はエルフ達の方を向いて話しかける。
「リーダーは私だ。だが、襲撃班は四隊に分け、
前衛・後衛・救護・暗部のそれぞれに隊長を置く。
今から各隊長を任命するので、名を呼ばれたら
前に出て欲しい。わかったか?」
「「わかりましたっ!!」」
うん、気合い入ってるなぁ。
「では、まず前衛隊長はマンマゴル、前へ!」
「おおっ!やっぱりお前かよ!!」
「わ、私が隊長!?そんな・・」
「前衛はもっとも危険な役割だ、敵陣を突破する
いわゆる切り込み隊だからな。心せよ!」
「はいっ!全力を尽くしますっ!」
前衛隊は近づいて敵をやっつけるの役割だ。
後衛の攻撃後、怯んだ敵に突撃したり、相手の包囲を突破する危険な役。そこにはまず勇気が必要であり、また暴走しない冷静さも必要だが、マンマゴルはその両方を兼ね備えている。
「次に後衛隊長、スーリオン、前へ!」
「お、俺かよっ!?クーじゃねぇのかっ!?」
「クーサリオンは弓の腕こそ一番だが、
隊長として指揮するのは君が適任と判断した」
「スー、俺を上手く使ってくれ。
お前になら俺の弓を預けられる」
「マジかよ・・仕方ねぇ、やるしかねえかっ!」
スーリオンは初日にやぐらにいた青年だ。
彼は自警団の副長を務めるほど面倒見が良く、目端も利く。後衛は全体のバランスを調整する役割も持っているし、攻撃の起点にもなる。弓や魔法など統率すべき対象も多種多様で、同じ様には扱えない。
彼の調整能力に期待したい。
「次に救護隊長は、ミーリエル!君だ!」
「っ!?は、はいっ!!ロウ様、お任せください!
だ、誰も死なせはしないとお約束します!」
「ここは予想通りだな」
「ああ、巫女様以上の使い手は先生ぐらいだ」
「僕たちも頑張るワン!」
ミリィは優れたヒーラーであるが、そのカリスマ性は兄以上だ。彼女が後ろに控えていれば、前衛も後衛も安心して戦える。また、食事の配布などでクーシー達と仲が良いのも理由の一つだ。
彼らが支えたいと思える人材は彼女しかいない。
「では、最後に暗部隊長だが、マイグリン、任せる」
「・・正気か?俺は奴らほどお人好しじゃない」
「だからだ、暗部隊はたとえ味方を見捨てても
情報を持ち帰る冷静さと実力を持ち、
かつ合理的な判断が出来なければならない。
だから君を選んだ」
「マジかよ、マイグリンが隊長か・・」
「でもスー、確かあいつはホビット救出の時には、
一人で脱出路調べてたりしてたぞ」
「ああ、あいつの一言がなけりゃ一緒にいた
俺達も死んでたかもしんねぇ、そういう事か」
「ふん、貴様らがトロいから急かしてやっただけだ」
「ホント、素直じゃねえし口悪いよなこいつっ!」
マイグリンは猟兵だ。
彼はいつもひとりを好むが、仲間と共にいる時は一番弱い者に注意し、早目に警告したりしていた。ほとんど悪口にしか聞こえないが。そんな彼なら仲間の危機は極力避けて任務を果たしてくれるだろう。
そしてそれが貴重な情報を得る事に繋がる。
「名を呼んだ以上のものが各部隊の隊長になる、
渡したのがメンバー表だ、点呼を取ってくれ。
集まったら自己紹介でもして、顔を覚えろ」
各隊長がメンバーを集めている。私とナイマは訓練の打ち合わせをしながら、その様子を見ていた。
「まあ、混乱は起きてないよな」
「ほとんどが身内、自己紹介の必要はあった?」
「リーダーと認めてもらうきっかけが必要だしね」
「確かに話す事は大事」
「ああ、コミュニケーションが取れないチームは、
やがて小さな問題を積み重ねてバラバラになる」
心配していた暗部隊も問題なく集まっている。
マイグリンは面倒くさそうだが、元々暗部向きな連中は頭がいい、リーダーに選ばれなかった事にホッとしている者も多いようだ。神経質な者も多いから、言葉より行動のマイグリンに好意的な者が多そうだし。
「さて、これより襲撃組は訓練を開始する。
ナイマ、頼む」
「わかった」
「な、・・・まさかナイマさんが訓練を!?」
「ヤバい、今夜は俺の好きなシチューなのに・・
生きて絶対に食えねぇ!?」
「ポーション!魔力ポーションは足りてるっ!?」
「巫女さん落ち着くワン!
薬師さん達が徹夜で造ってくれたワン!!」
「そうだワン!僕達もいるワン!」
「フフフ、フフフフフフフッ!?」
「いかん!マンマゴルの様子がおかしいぞっ!?」
「ああ、あいつが一番ひどい目にあったしな・・」
「お、俺も腹が痛くなってきたぜ・・クー」
「スー!お前がしっかりしてないと俺たちはっ!?」
「ロウの8回吸い取ったから。今日は冷静」
「おお、王よ!身を挺して我等の為に!?」
「一晩で8回って!?ハンパねぇぜ王様っ!!」
「余計な事を言わないでくれないかっ!?」
尊敬の眼差しの男衆と、ヒソヒソと何やら話す女衆。頼むからとっとと行って欲しい、切実にっ!!
「コホン、では防衛隊の皆さんに説明をします」
「・・大変だよね王様って」
「オイラ達も頑張らないとダメだね」
「ああ、頑張ってくれ、だが私は王様ではない」
「えーっ?みんなそう呼んでるよーっ?」
「ロウ様も王様も似たような感じじゃん!」
「それは発音だけだろうっ!?」
と、言っても防衛隊の指揮はイズ兄さんと自警団の残りが担当してくれる。既に自警団を先頭に村の重要ポイントの説明をしながら歩いているが・・アレだな、小学生の遠足にしか見えんな。
私は残っていた医師代表と薬師代表に、防衛隊から選抜した育成メンバーを紹介し、彼等に技術指南を行ってもらえるよう頼んだ。フラフラの薬師代表に肩を貸しながら歩いていく医師代表、うーん、オーバーワークだろうが頑張ってもらうしかないな、今は。
「ナイマ、どうだ訓練は?」
「時間がないからコツだけ教えた、筋はいい」
「そうか、いつぐらいに作戦決行出来そうだ?」
「3日後」
「・・・死なないか?彼等は?」
「大丈夫、ギリギリをせめる」
「「ぎゃーっ!おかあちゃーんっ!!」」
「「速く撃て速く撃て速く撃てぇぇぇぇぇっ!?」」
「「ワイドヒール!ワイドヒール!・・アハァ」」
「「ポーション持ってこい早くしろぉぉっ!!」」
すでに限界を超えているように見えるが。
「・・・本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫、まだいける」
「「「タースーケーテーーーーーッ!!」」」
「ダメ、これからが本番。ロウも参加」
「私もかっ!?」
「当然」
「いや、私はちょっと防衛隊の様子を・・」
「「「王様ごめんなさいっ!!」」」
「な!は、離せっ!離してくれ私はいかなくては」
「かもんべいびー」
「ギャァァーーーーーーッ!?」
そうして、3日が過ぎた。
幸いにも村への襲撃はなく、偵察らしき動きも無かった。どうやら戦術にはうといようだな、敵は。
「ロウ、悪い顔をしている」
「んふ、思ったより順調でウキウキしてるんだ」
「出発はこれから、油断は禁物」
「まあそうだな。さて、行くとしようか」
たった3日だが、彼等の顔つきは変わっていた。
あれ程の訓練を短期間だがこなし、何度も何度も死線を超えそうになったのだ、私も含めて。魔法やポーションが無ければ訓練に半月はかかっていただろう。
「では、訓練通りにいこうか!出発!」
「・・暗部隊、行くぞ」
「「オーケイボス」」
マイグリンの一言で暗部隊が森へ散っていく。
彼らは迷彩色の布を頭からかぶり、見つかりやすい肩のラインを消している。次々と木の上や草むらに消えていく彼らを見ながら、スーリオンが叫ぶ。
「後衛弓隊、警戒しながら前へっ!
敵を見つけたらすぐに合図しろよっ!」
「「イエッサーッ!!」」
次は後衛の弓隊だ、魔法と比べてすぐに攻撃できる彼らが先行し、暗部隊がもし敵を見落としたら、その優れた視力で発見する。そして敵を見つけた場合は前衛や魔術士が攻撃するまで、敵を食い止める。
「前衛隊、私に続けっ!
いつでも前に出られるよう油断するな!」
「「了解!!」」
前衛は弓隊と行動を共にする。
弓隊でも制圧出来ない敵が接近してきたら、すぐに前に出て守る。同時に相手を押し返して後衛の援護を受けながら敵を殲滅していく。前衛という名前から一番前と思いがちだが、実際は中衛となる。
前衛が前に出るのは戦闘が始まってからだ。
「・・・後衛魔法隊、行くよ」
「「了解です」」
後衛の中で魔術士は火力の要だ。
詠唱を必要とするため、攻撃に時間がかかるが火力は最大。弓隊と同時に行動するのは危険なので後方に配置し、指揮は魔術師の上位職『魔女』を持つエルフの女性、ディンエルが後衛部隊の副隊長として行っている。
彼女は無口だが、ミリィの親友であり信頼も厚い。
「救護隊、および輜重隊、行きます!」
「「お共します巫女様!!」」
救護隊は治癒魔術師と薬師などのヒーラー達だが、輜重隊は食料や予備の矢などを持つ補給部隊だ。
大型のクーシーや比較的体力のあるエルフで構成されている。彼等は戦闘には向いていないが勇気があり、仲間を見捨てるようなことはしない。補給が無いこういう作戦において、彼等は命綱だ。
護衛も兼ねて、私とナイマはここに配置している。
「ホビットの村まで2日で着けるって話だけど」
「山や谷もある、3日で近づければ良い方」
「まあ道路も無いし、予想通りにいかないか」
今回の作戦にあたり倉庫にあった装備は全て解放してもらった。その中には体力を増やすアクセサリーや速度を上げる靴などもあったので、出来るだけ体力の低い者に配った結果、そこそこ行軍速度は速い。
雑草や木々に邪魔されつつも我々は進む。休憩場所となる泉にまでたどり着いた我々は食事を行った。
と、言っても発見されないように火は使わない。
「エルフの携帯食ってパンと果物なんだな」
「パンは重くて硬いですけど栄養あるものですし、
果物は水分も補給できます」
「ミリィ達と出会う前に食べていたパンに似てるな」
「これはこの森のパンの実から作るものですので、
特別なものではありませんから」
「肉が焼けないのが残念」
「いっぱい狩って燻製にしたじゃないか」
「焼きたてが一番」
「我々ウッドエルフは肉を食べませんので、
お気持ちがわかりませんね・・」
「僕らクーシー族はお肉も食べるワン!」
「生で食べるより焼く方が美味しいワン!」
「塩があればな、エルフの村には塩が多かったな」
「ダークエルフから譲ってもらってましたの」
「ほう、岩塩でも採れるのかな?」
「ええ、果物や紙と交換していましたわ」
そんな会話をしながら身体を休めた我々一行。出発当初よりリラックス出来ているな、感心感心。
「暗部隊はどうだ?偵察は疲れるだろう?」
「別に大したことはないな。
理由はわからないが、なぜか身体が軽い」
「ああ、おそらく領主のスキルだろう、
共に行動する仲間の能力が上昇するんだ」
「ほう、どれぐらい変わるんだ?」
「仲間の各種ステータスが1割上昇だったかな?
範囲は半径100mぐらい」
「・・・だからか、先に行き過ぎると重く感じる」
「どうやら間違いなさそうだね。
訓練の時は必死で気づかなかったけど」
休憩が終わり、我々はどんどん進んで行く。
途中で川があり、背の低いホビットをエルフが肩車して渡っていく。魔法を使うと精霊が動いて気づかれるかもしれないので、静かにゆっくりと。
私もナイマとミリィを肩に乗せて川を渡っていた。
「おい、よく考えたらナイマは飛べるだろう!?」
「ロウにお尻の感触をプレゼント」
「楽したいだけだろうがっ!」
「ミリィのお尻の感触はどう?」
「ロウ様、私のお尻が目的だったのですか!?」
「乗せろといったのは君だ」
「お父様の肩車を思い出して、なんとなく・・」
「ロウに乗るのは気持ち良い」
「誤解を呼ぶセリフは止めてもらいたい!」
「おい、静かにしろ!」
「「「はーい」」」
そして夕方になり、我々は休憩地点である祠の近くに来ていた。ここは妖魔が苦手とする精霊樹があり、彼等は近づかないらしい。なら普通は警戒するのでは?とも思ったが、見張りなどは居なかった。
まあ、本来のルートから外れてるからなぁ。
と、思ったら、
「・・・人がいた痕跡があるな」
「なんだと!?本当かマイグリン?」
「ああ、火を起こした跡がある。
それに足跡も二種類残っている」
「まさか、オーク達か?」
「それは無いな、奴らはここに近づけん」
「なら、あと考えられるのは・・まさか?」
私の頭に浮かんだのは、プレイヤーだ。
この場所が私が最初に寝ていた祠に似ていることから、村長の言葉を思い出したのだ。
「何者かわからんが、武装した者が二人、
数日はここに滞在していたと思う」
「何処に向かったんだろう?」
「そうだな・・足跡から見て、西の方角か。
ウルフ族の縄張りの方へ向かったようだな」
「ドワーフの村の途中だな、一体誰なんだろう?」
「さあな、既に1週間以上は経っていると思う」
まさかこの森に他のプレイヤーが現れているとは思わなかったが、可能性はある。
だが、他の村からそういう連絡が無い事を考えると、既に襲われた可能性も否定できない。
まいったな、調べる事が増えてしまった。だが、とりあえずはこの奇襲を成功させるのが先決だ。
この作戦が成功し、我々がドワーフの村へ向かう途中に、何か情報が得られるかもしれないし。
「ありがとうマイグリン、今日は休んでくれ。
交代で見張りを行うが順番は大丈夫か?」
「ああ、暗部隊は早めに休ませてもらう」
「俺たち後衛が先に見張りする事になってるぜ!」
「そうか。スーリオン、私も一応起きているから
何かあればすぐに知らせてくれ」
「ロウ様はちゃんと寝ないとダメですよ!!
昨日もあんな時間までモニョモニョ・・」
「ミリィ、君は一体何時まで起きてたんだ?」
「・・・夜明けまで・・私も付き合わされた・・
本当にいい迷惑よ・・」
「ディン!?内緒にしてって言ったじゃないっ!」
「・・・君達はもう寝ろ、今すぐに」
「この娘達も食べる?」
「私を君と一緒にしないでくれっ!!」
夜は更けていき、夜明けが近づいてくる。
スケルトンが配備されている可能性を加味して、明日の奇襲は日中に行う予定だ。
本来なら夜間が良いと思ったんだが、妖魔は夜の方が能力が上がるらしい。ならば日中の方が戦いやすいし、スケルトンがいても出てこれないだろう。
「ロウさん、ちょっと良いかな?」
「どうしたんだスーリオン、敵を見つけたのか?」
「いや、そうじゃない。実はミリィの事なんだ」
ミリィ?彼女は疲れてもう寝たはずだが?
「彼女に何かあったのか?」
「いや、別に何もないんだけどさ、その・・・
お、王様はどう思う?ミリィの事」
「・・・そうだな、思春期の好奇心旺盛な
腐女子兼広報スピーカーかな?要注意人物だ」
「婦女子じゃねぇのかよ?」
「そうともいうが・・いや、知らないなら良いんだ」
「そうか、よくわかんねぇけど・・。
別にミリィを狙ってるわけじゃないんだよな?」
「私は少女趣味のロリコンではない」
「いや、でもナイマさんを手篭めに・・」
「あれは天使の形をした大型肉食獣だ。
栄養がありそうな獲物は何でも食べる」
「まあ、ナイマさんはいいんだが・・
そうか、違うのか・・」
何故かホッとした様子のスーリオンに、私は問いかけた。
「スーリオン、君はミリィの事が心配なのか?」
「へ!?いや、心配ってほどじゃないけどさ、
ほら、ダチの妹だろ?」
「なるほど、君は優しい男だな。
だが、一つ言っておきたい事がある」
「・・・何だよ、言いたい事って」
「女性というものはな、男には理解不能な生き物だ。
いろんな意味で気をつけた方が良い」
「・・王様が言うと妙に説得力があるな。
それってナイマさんの事か?」
私は不思議そうな顔をしたスーリオンの顔を見ながら、ほんのすこし前の事を思い出していた。
そうすると、なぜかため息が出る。
「いや、私にも義理ではあるが妹がいてな、
やはり理解不能な生き物だった」
「へえ、そりゃ初耳だ。どんな妹さんなんだ?」
「・・・一言で言えば、ツンツンしたナイマだ」
「・・・王様、大変だったんだな。
けど、それってけっこう特殊だと思うぜ?」
「かもしれん、だが女性を見た目や雰囲気だけで
判断するのは、とても危険だ」
妹はまわりからは良い子として扱われていたが、私から言わせれば暴君としか思えない存在。
その悪事の数々にどれだけ苦労したか・・。
「そうか、何て言ったらいいのかわかんねぇけど、
ミリィは大丈夫だよ。小さい時から知ってるしな」
「ああ、ところで何故ミリィの事だけ聞くんだ?
ディンエルも年頃だろう?心配ではないのか?」
「!!いや、別に深い意味はないんだ!
ちょっと気になっただけなんだよ!」
「そうか?とても気になっているように感じたが」
「べ、別に気にしないでくれ!同じ隊長だしな!
あ、あとこの話は内緒にしといてくれよなっ!」
「なぜだ?君が心配していた事を伝えるぐらいは、
口にしても構わないと思うんだが」
「いやいやいや!?全然いらねぇからな!?
そんなの伝える必要ねぇからさっ!!」
「ふむ、わかった。
君がそれほど言うのなら黙っていよう」
「ああ、頼むよ・・俺は見張りに戻るから」
彼は疲れた足取りで、持ち場へ戻っていった。
いったい何をしに来たんだろう?私はそれほど肉食系に見えるのだろうか?軽くヘコんだ後、少し仮眠しようとしたら・・すぐ後ろにナイマが座っていた。
「んのわぁぁっ!?」
「声が聞こえたので起きてきた」
「そ、そうか。スーリオンが来ていてな、
少し話をしていたんだ」
「聞こえてた、青春」
「青春?何の話だ?」
「ダメ男にはわからない」
「ちゃんと相談に乗ってたじゃないか!」
「何の相談?」
「ん?うーむ。友人の妹を心配する気持ちと、
一般的な女性に関する見解と考察かな?」
「朴念仁」
「何がっ!?」
「別にいい。楽しみが増えた」
「・・・なぜか胸に罪悪感が生まれているんだが」
「大丈夫、悪いようにはしない。おやすみ」
「・・・スーリオン、君の幸運を祈ろう。
何の幸運かわからないが」
そうして朝を迎えた。
我々は準備を入念に整え、出発する。
戦闘に必要のない物はここへ置いておき、失敗時の集合場所とする。退路を確保するのも重要な戦術だ。
そうして1時間程行軍し、ホビット族の村までたどり着き、今は暗部隊による偵察が行なわれている。
「さて、どれぐらいの兵が常駐しているのかな?」
「私たちの村への侵攻前とかなら厄介ですね、
かなりの数をそろえているでしょう」
「ああ、マンマゴル。確かにそれは考えられるが、
本当に心配なのは・・」
「偵察が戻ってきました!」
マイグリン達が姿を現し始めた。
彼らは一様に難しいような厳しい顔をしている、どうやら嫌な予感は当たったようだ。
「村を見てきたが、困った事になった」
「・・・捕虜か?」
「っ!?・・なぜそれがわかったんだ?」
「もしここを奴らが前線基地として使う場合、
ホビットやクーシーの捕虜を労働力として投入、
基地拡張に使っている事も想定していた」
「・・怖い人だな、あんたは。
その通りだ、20名ほどの捕虜が働いていた」
「なっ!?」
「マジかよ!?一気に魔法で全部吹き飛ばしたり、
魔石で燃やすわけにはいかなくなっちまった!」
「焦るな!想定していたと言っただろうに。
地図を持ってきてくれ」
こういう時の為に地形を調べておいたんだ、最初より難しい戦術を使うことになるが。
私はクーシーとホビットたちを呼ぶ。
「まずクーシー族の諸君、君達はこの言葉以外に、
例えば遠吠えなどで会話はできるか?」
「出来るけど、詳しい内容は伝えられないワン」
「なら、ホビットを連れて南に逃げろ、
というのはどうか?伝えられそうか?」
「それぐらいなら大丈夫だワン!」
ふむ、やはり犬語的なのはあるんだな。
「よし、では次にホビット諸君。
ここの道は狭くて通りにくいと書いているが、
ゴブリンやオーク共は通れそうか?」
「ホブゴブリンやオークは無理だけど、
普通のゴブリンなら通れると思うよ?」
「なるほど、ではその道にあるこの丘から、
村は見渡せるか?そして反対からは見えるか?」
「村は半分ぐらいなら見渡せると思うよ。
反対からは、丘が邪魔して何も見えないね」
「ふむ、ではココとココに、出来れば10人ぐらい
隠れられそうな場所は無いかな?」
「こっちは大きな岩や木が密集してるから簡単。
ここは難しいけど、丘の近くなら大丈夫だよ!」
よし、作戦は可能だな。
あっけにとられる皆を集めて、作戦を伝える。
「まず、輜重隊のクーシーがここへ集まり、
遠吠えで『ホビットと南に逃げろ』と伝える」
「ここだと村が全く見えないワン!」
「構わない、伝えたらこの丘の後方へ集合だ」
まずは捕虜を一方向に誘導する必要がある。
でないと奇襲に巻き込まれるかもしれないしな。
「次に後衛弓隊はこの丘の木に登って待機、
捕虜を追ってきた敵を狙撃する」
「ああ、これぐらいなら余裕で当てられるぜ!」
「出来るだけ見つからないように頼む」
「高所からの射撃か、反撃は少ないな」
「ああ、相手に弓兵は少ないだろうし、
射程も短いだろう。怖いのは魔法だがな」
「メイジやソーサラーが居たら厄介だな、
その時は優先して狙おう」
「そうしてくれ、クーサリオン。
君の腕に期待している」
任せておけ、と彼は笑顔を見せた。
「ディンエルたち魔法隊は、丘の上で待機だ。
近づいてきたデカいヤツを魔法で一掃してくれ」
「・・わかったわ。オーガから狙う方が良い?」
「そうしてくれ。弓隊では時間かかるだろうしな」
「・・そうね、硬いけど対魔力は低いから・・」
オークやオーガはエルフからすれば大した相手ではないだろう、だが物理防御力が高いので、弓などでは倒すのに苦労する。ここは魔術師に任せよう。
「暗部隊はこの東側の岩に隠れて待機だ、
魔法の爆発が見えたら、村に突入して火を放て」
「俺達は放火するだけか?」
「ああ、弓隊と魔法隊に敵が引きつけられている、
その隙を突けば被害も少ないだろう」
「だが合流するには遠い、大丈夫なのか?」
「前衛を向かい側で待機させる、彼らと合流して
ななめ後方から奇襲をかけて援護して欲しい」
「なるほど、突っ切って逆方向から合流するのか」
「ああ、丘の上を攻めるならこっちからだろうし」
「なら、とにかく魔石をばら撒きながら走るか。
持ってきた火魔石は使い切っていいのか?」
「ああ、遠慮なくどんどん使ってくれ。
とにかく混乱させたいから」
マイグリンは地図を眺めて腕を組み、たぶんリスク少なく効率の良いルートでも考えているのだろう。
「ロウ様、私達はどうしたら?」
「救護隊はこの細い道の先で待機、
捕虜の救出と治療に当たってくれ。
応急処置をしたら輜重隊が先導して
昨日の祠まで避難させる」
輜重隊は早めに後方へ下げたい、そうすれば成功しても失敗しても後が楽になるからだ。
救護隊は踏ん張ってもらわないとな。
「王よ、我々前衛の出番は無いのか?」
「マンマゴルたち前衛は後衛に敵が迫るまで、
ここで待機。合図を見たら後方から攻撃する。
出来れば暗部隊の合流まで待ってくれ」
「わかった。だが、あまり深入りすると後衛との
同士討ちが怖いな」
「ここで近づいてきた奴等を倒してくれ。
その場合は後衛が援護射撃を行う」
「なるほど、ここなら右の森が邪魔をして
味方の矢が当たりにくいな!」
「あとはナイマ、私と一緒にゴブリン狩りだ」
「つまらない、強いのを殺りたい」
「前衛が苦戦するようなら合流しよう、
だがゴブリンを一掃しないと救護が危ない」
「なら、我慢する」
説明を終えた私は仲間たちを見渡して、頷く。
各隊長はメンバーに指示して静かに移動していく。
我々も丘の下にある細い道まで慎重に移動して、やがて来る敵を待ち構えようとしていた。
「田文の用いた弩戦術のパクリだが、
はたして上手くいくかな?」
「それ、誰?」
「中国の偉い人だよ、春秋戦国時代の。
孫檳という人に兵法を教えてもらったんだ」
「すごい人?」
「まあね、圧倒的な兵力差をひっくり返したから、
すごいと思う。しかも人望もあったし」
「聞いたことないけど」
「孟嘗君を知らないのか?有名なんだけどなぁ」
そんな時、遠くで遠吠えが聞こえた。
それは何頭もの音が重なって、長い不思議なメロディーを奏でて、村の各所に居たクーシーが反応する。
そしてクーシーは近くのホビットに声をかけて、
次の遠吠えで一気に駆け出した!!
労働の為か、縛られたりしてなかったのが幸いだ。
「来たぞ!ホビットを乗せてるやつもいるぜっ!」
「慌てるな、よく狙うんだ!出来るだけ近づけろ!」
「こ、コボルト達も一緒に来てやがるっ!?」
あ、いたなコボルトも。
あいつらも犬語がわかるんだよな、犬だし。
でも慌てない、こっちの負担は増えるけどね。
「コボルトは無視していい、ゴブリンを狙え!」
「いいのかい王様!?結構な数が来てるぜっ!!」
「かまわん、大した数はいないだろう?」
「10頭ぐらいか・・あ、一人ホビットが!?」
「クーサリオン、狙えるか!?」
「任せろ、強弓のクーサリオン、推して参る!!」
そう言って弓を限界まで引き絞るクーサリオン、
そして、矢を放つ!!
《 シュパァッ!! ドシュッ!! 》
「キャイーーーンッ!?」
放たれた矢は、今まさに背後からホビットに噛みつこうとしたコボルトの眉間に命中した。あまりの威力に後方へ吹き飛ぶコボルト。見事だ!
「ヒョーッ!やるじゃないかクーっ!!」
「スー、無駄口を聞いている暇はないぞ!
ゴブリン共も来ている!!」
「わかってるって!弓隊、引き付けろぉーーっ!
撃てぇいっ!!」
《 ヒュヒュヒュヒュヒュヒューーーーンッ 》
《 ザザザザザザザザザッ!! 》
「「「「ギャギャギャヒーーーン!?」」」」
「「「「グギャギャギャーッ!?」」」」
大量の矢が放物線を描いてゴブリンやホブゴブリン、それに凶暴化したコボルトへ命中する。
次々と弓隊の攻撃で倒れていくゴブリン達だが、私にはそれを見物する余裕はなかった。
「ハァァァァァァァァァッ!!」
《 フォンッ!!ズバシャッ!! 》
「ギャインッ!?」
「ナイマッ!!」
「わかってる、余裕」
《 シャシャシャッ!! 》
「「ギャギャギャオーンッ・・」」
狭いとはいえ敵も多い。
だが私は逃げてきた捕虜をかばいながら、彼らを襲おうとするコボルトを一匹づつ確実に倒していった。
まあ、ナイマは二〜三匹は倒していたが。
そのうちコボルトはゴブリンに変わったが、
やることは同じだ。
「む?オークがオーガを連れてきたぞっ!」
「よぉぉしっ!ディン、出番だぜっ!!」
「・・・わかってる」
ディンエル達の周囲を魔法陣が囲む。
詠唱を終えた彼女らが狙うのは、狭い道の前で渋滞が起き、立ち往生するオークとオーガ。
そして彼女らの足元から腕に円形の魔法陣が移り、一斉にエメラルドの輝きを放った!!
「・・『ゲイルブラスト』・・行きなさい!!」
「「・・『ヴァンスピアー』っ!!」」
周囲に風が渦を巻き、見えない何かが敵の中心に向かっていく。あれは、風か!?
《 ズバァァァァァァァァァァァァンッッ!!! 》
「「「ウォォォォォォゥォォ!?」」」
「「「ピギャギャギャギャァァァァ!!?」」」
第3階梯の風魔法『ゲイルブラスト』
圧縮した空気の砲弾を発射、爆発させる魔法だ。
オーク達の中心で、それは炸裂した。
《 キィィィンッ!! ズバシュズバシュ!! 》
「「グォォォォォォォンッ!?」」
『ゲイルブラスト』によって発生した空気の爆発に、身体がバラバラになって弾け飛ぶオーク達、
そして傷だらけになりながらも生き残っていたオーガの巨体に、次々と透明な槍が突き刺さっていった。
第2階梯の風魔法『ヴァンスピアー』だ。
単発発射の魔法だが、文字通り鋭い槍のようなそれは、オーガの硬い皮膚をあっさりと貫いている。
うーん、やはり魔法はすごいな。
「よし、追い打ちかけるぜ!!
まだ動いてる奴を狙い撃てぇぇぇぇっ!!」
《 ヒュヒュヒュヒュヒュヒューーーーン 》
《 ザザザザザザザッ!! 》
「「「ウォォォォォ!ピギュァァァァァァァ!?」」」
魔法と矢で一気に数を減らすオークやオーガ達、
巻き添えを食ったゴブリンも次々と倒れていく。
そして、後方で家屋がいきなり爆発し始めた。
《 ドゴォーーーンッ!!ドォーーン!! 》
暗部隊による火魔石手榴弾を使った攻撃だ。
吹き飛び、燃えだす家屋。中に舞う木材に混じって、大量の骨が乱れ飛んでいた。
やはり敵はスケルトンの量産を行っていたようだな、思ったより数は少ないが、予想は当たった。
村にある建物は次々と爆発を起こし、燃え出す家や倉庫によって、炎の地獄と化していた。
建物から逃げ出して来たオークやゴブリンも全身が炎に包まれ、途中で力尽き、倒れていく。
オーガが数体怒り狂ってこちらに向かってくるが、やはり魔法隊によって倒される。
「ハァ!ハァーーーッ!ハアッ!!」
《 フォン!ヒュンフォン!! 》
《 ズシャァ!!ザシュッズバァァッ!!》
「「ギャギャーッ!!ギャグギャーーッ!!」」
見える範囲で最後のゴブリンを倒した私は、黒鋼製の重い剣を振り、血糊を飛ばす。
ナイマの周りには大量の死体が転がっており、立っているのは彼女だけ。どんだけ強いのさ。
だが、作戦は上手くいっている。
驚くほどに。
「王様!前衛が出てきて敵を追い込んでるぜっ!
俺たちも行っていいか!?」
「あまり近づき過ぎるなよ!!
まだ何処かに伏兵がいるかもしれんっ!!」
「もう隠れる家なんて残っちゃいねえよ!
ほら、マイグリン達も合流してる!」
「わかった!逃げる奴を狙え!深追いするなよ!
あと何人かは隠された倉庫を探せ!」
「捕虜のホビットがあっちだって言ってるぜ!」
「よし、残らず焼くんだ!絶対に残すなよっ!!」
「もったいねぇ!持って帰っちゃダメなのか!?」
「ダメだ!もしかしたら援軍が来るかもしれん!
時間を無駄にするな!」
「「了解!!」」
そうやって部隊の士気を落とさぬよう引き締めながら、我々は撤退を開始。前衛が殿を務めてくれる間に、救護から順番に退いていく。
途中で後衛と前衛と入れ替えながら、段階的に下がる。だが、敵の追撃も無く我々は祠までたどり着き、捕虜と合流して泉まで進む。
もう陽が沈みそうだった。時間も遅いため泉の近くで夜を明かす事にし、野営の準備に取りかかる。
食料や寝具が足りないと思ったが、ちゃっかりスーリオンが村で確保していた。やはり出来る男は違うなと褒めていたが、何故か其処にはミリィとナイマが。
別に用も無いのに何しに来たんだろう。
こっちは嫌な予感でピリピリしてるんだが。
「ロウ、変な顔してる」
「別に何でもないよ、いつもの顔だ」
「違う、いつもはもっとアホっぽい」
「君が私の顔をいつもどう見てるのか
理解できて本当に良かったが、普通だ」
「ロウ様、私にも困っておられるように見えます」
「ミリィの言う通りだぜ、何が気になってるんだよ?」
「・・・敵が弱すぎた」
「へっ?何だ自慢か!確かに大成功だったけどよ」
「違う、そういう事ではない」
「じゃあ何だよ。敵の数も60匹ぐらい居たし、
スケルトンもいたみたいじゃねえか」
確かに数は想定通りだ。だが、数だけだ。
「指揮官だ。統率する指揮官が居なかった」
「そういえば見てない」
「確かに・・大切な拠点にしては変ですね?」
「寝てる時に吹っ飛ばしたんじゃねえか?」
「だと良いんだが、どうも気になるんだ。
まるで予備の兵を集めたような感じだった」
「ソーサラーの数も少なかった、警戒してたんだが」
「おいおい、クーも王様と同意見かよ!」
どうも気になる。
まるで別のところに本命を集めているみたいな、重要な主力が抜けたような感覚がした戦いだった。
だが、この状況で防勢に移る必要は、敵には無いはずだ。向こうが優勢なのだから。
「とにかく、朝一番に村へ戻ろう。それからだ」
「心配性の王様だな、勝ったのに負けたみたいな
顔してるぜ?確かに4名ほど失っちまったが、
あれだけの相手に大したもんだと思うぜ?」
「スー、気になる事があるのは確かだ」
「油断するよりいい」
「マイグリンもナイマさんも心配性だな!
俺は王様を褒めたいだけなんだよ!」
素直に喜びたいスーリオンの気持ちはわかる。だが、どうしても見逃せない何かがある。
そんな雰囲気を晴らしたのはミリィだった。
「とにかく、ご飯食べて休みましょう!
スーさんも休憩したら見張りですよ!」
「わ、わかってるよミリィ!すぐに行くって!」
「まだここに居たいの?」
「な、何言ってるんだよナイマさん!?
お、俺はもう行くぜ!!」
「俺も失礼する。気になることはありますが、
今日は見事でした、王よ」
「いや、だから王様じゃないってば」
「わかりました、マイロード」
「なんか余計に厨二っぽくないかそれっ!?」
「厨二?気のせいです、では」
「私も寝ますね。でも、あの・・まさか・・
こんなところではしませんよね?」
「いったい何の心配をしてるんだミリィっ!?」
「大丈夫、帰ったらいっぱいする」
「月に2〜3回って言ってなかったかな!?」
「そういう時もある」
「その仕方ない感は何だっ!?」
我々はそれぞれの場所で眠りについた。
私は色々と気になってはいたが、とりあえず作戦が成功した安心感からか寝心地の良い場所ではないのに、すぐ深い眠りに落ちていった。
そして朝。
我々は早めに身支度し、村へと向かう。
歩いている間も色々な可能性を考えたが、やはりわからなかった。主力を何処かに移動しているのは間違いないとして、それはどこか?可能性的にはダークエルフかドワーフの村、あとは古城と廃墟か。
だが、それだとスケルトンをホビットの村に集める理由がわからなくなる、考え続けたが結論は出ない。
そうこうしているうちに村に戻った私達は、エルフ達があげる歓声の中を進み、村長に報告した。
「戻りました、村長」
「おお!ロウ殿!話は聞いていますぞ!
どうやら大成功だったらしいですな!!」
「ええ、やはり敵はスケルトンを配備していました。
古城と廃墟は敵の手にあると考えて良いでしょう」
「なるほど、それが浮かない顔の原因ですかな?」
村長にもわかるほどの顔をしているのか、私は。
それが少しおかしくて、私は微笑み村長に言った。
「どうも勝った事を素直に喜べないので」
「ふむ、お気持ちはわかりますが、今は村の者と
喜びを分かちあって頂きたいですな」
「そうだぞ、ロウ。特に捕虜を救出した事で
クーシーやホビット達も喜んでいるんだ」
「ああ、わかってるよイズ兄さん」
私はダークエルフやドワーフから連絡が無いか聞いたが、特に何もなかった。なので私達は帰還できなかったホビット1名、クーシー1名、エルフ2名を弔ってから、ドワーフの村へ向かう準備を進めた。
ドワーフの村は西の山にあるらしい。
プレイヤーがいるかもしれない事や、ホビットの村の事など、気になる点は多い。
だが、今はまずやれる事をやるしかない。
気持ちを振りきって、
私は次への一歩を踏み出した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【プレイヤー紹介】
登場するプレイヤーキャラクターの階位など紹介。
本編では語られないエピソードも書いています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【名前】 ロウ・L・セイバー
【階位】 領主
・支援系能力に長けた騎士系指揮職。
周囲にいる味方の能力を上昇させる。
・魅力の上昇、騎乗可能。
・短剣、剣、槍、弓、盾、重鎧、兜が装備可能。
※調整→剣適性大幅上昇。その他武器、
盾の適性大幅減少。
※ペナルティ→階位変更により、全魔法使用不可
(強化魔法、付与魔法含む)
【種族】 亜神
・身体能力の上昇、状態異常耐性上昇、
神性上昇による加護の効果上昇。
【属性】 光・闇
※反属性(お互いを打ち消しあう属性)のため、
属性効果無効、魔法使用不可。
【職業】 剣騎士
・剣系武器の適性上昇、その他武器の適性減少
・身体能力上昇、特に力と防御力、体力が上昇。
【プレイヤーエピソード】
ゲーム『セブンスフィア』のプレイヤーであり、
100名規模の大型ギルド
『United Kingdom of Fuga』
(ユナイテッド キングダム オブ フーガ)
のギルドマスター。
ゲームでは魔法剣士の階位に剣騎士を選択。
近接戦を得意とする前衛として活動していた。
作戦立案や、調整役としての能力に長けており、
対人関係の悪化を恐れて対人戦は苦手としていた。
ギルドメンバーの負担を考えるマスターだったが、
あまり自分の負担は考えておらず、
戦場では自分だけが突出して戦うことも多かった。
だが、ゲームをストレス発散と考えていた彼は
特にそれを悪い事とは考えていない。
実はソシャゲやMMOはこのゲームが初めてで、
ほぼハッタリと社会人スキルでプレイしていた。
リアルでは若くして両親の別居、父の死など、
精神的に追い詰められていた時期が多く、
自身に何の価値も見出せないようになっている。
彼が力を発揮するのは他者の為だけであり、
それは贖罪の意味合いが強い。
それが今の彼を生み出したと言ってもいいだろう。
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【名前】 ナイマ
【階位】 兵士
・様々な物理武器を使いこなす汎用職
近接戦闘を得意とする前衛タイプ。
・体力、敏捷、力、防御に上昇補正〔弱〕
・魔法職用、特殊装備以外の全装備が装備可能
【種族】 闇天使
・身体能力、魔力量の上昇
・飛行可能
・闇属性の効果上昇
【属性】 闇・土
・闇属性のため、土属性の効果上昇
・土属性効果で防御力上昇
【職業】 軽兵士
・重装備、魔法職用以外の武器を装備可能
・装備可能武器全ての適性上昇
・身体能力上昇、特に体力と敏捷が上昇
【プレイヤーエピソード】
階位や職種は全てゲームと同じ。
初心者ゲーマーで、ソロで活動していた。
リアルでは某国諜報部隊の末端組織に所属し、
西側へのテロ活動や暗殺などを手がけていた。
彼女の高い戦闘能力はその経験からのもので、
ゲームでは発揮される類ではないもの。
転生後は自身の新しい身体を完全に把握し、
それを使いこなすことで圧倒的な強さを誇る。
実は、召喚前に彼女はすでに死亡しており、
肉体と魂が欠損した状態で世界の狭間へ送られた。
それを補う為に少女はスキル『天使創造』を使い、
天使の肉体と魂を融合させ、蘇生させている。
だが、コピー体である少女のスキルは不完全で、
神性を大幅に欠いた欠陥天使しか生み出せず、
その副作用として天使本来の能力や精神制御が
一部働かない状態となってしまっている。
そのため神性を持つ者から定期的に血肉や精気から
神の因子を摂取する必要があり、それを怠ると、
彼女の魂と肉体は暴走し、結果、死に至る。
治すには自ら神性を獲得するか、それに近い存在の
心臓や核を素材とした魔道具を使う必要があるが、
その存在自体が希少なため、可能性は低い。
だが、彼女は既に自らを一度死んだものとして
考えているため、その必要を感じていない。
だが少女は対策として、別のコピー体が担当してる
プレイヤーに、依存する形で現界させる事を決め、
彼女が生きる可能性に賭けた。
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