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Ⅶ・Sphere 《セブンスフィア》  作者: Low.saver
セブンスフィア
18/21

1章『スリーピングフォレスト』♯29

目覚めた蛮族の女王、カルマと対峙するブリジット。

眠りの森に隠された真実が明かされる。

そしてジンを失い暴走するナイマを、ロウたちは救うことが出来るのか?

それとも?


     ♯29 加護を与えし者


 王剣キーブライトを握りしめたブリジットは、陽の光を浴びて薄紫に輝く女、カルマに近づいた。

かつて自らの国を滅亡の淵に追いやり、神々の力を借りて封印した殺戮の女王。

それを滅ぼす為に自らも眠りについた英雄は、傷だらけの身体でふらつきながらも歩み続け、やがてロウ達の側までたどり着く。その姿を眺めていた美しきヴァンパイアは、呆れたように銀の王へと声をかけた。


「ブリジット、貴女ほどの騎士がなんて情けない姿をしているのかしら。せっかくの再会なのに」

「うるさい、黙れ」


 ため息をつくカルマの態度に彼女は怒りを露わにしていた。

ゆっくりと王剣を持ち上げ、その切っ先をカルマに向けたブリジットは、その燃えるような視線と共に積もり積もった怒りの言葉を相手にぶつけた。


「貴様を灰にしてやる!!あの時の仲間たちのように!!」

「あら、まだ怒ってるの?私たちが眠ってから千年も経ってるらしいじゃない。忘れなさいよ」

「ふざけた事を言うなカルマ!!あの時は闇神に止められたが、今度こそ貴様を殺す!!」

「相変わらず頑固ねぇ、貴女だって私の眷属をいっぱい殺したじゃないの。お互い様よ」

「私の領民を貴様ら蛮族が殺し続けたからだ!!」

「仕方ないじゃない。私たちにとってビーストは獲物よ?そっちが勝手に領民にしただけでしょ?」

「彼らは意思を持つ人族だ!!」

「知ってるわよ。でも美味しいのよ?彼らは」


 ナイマに齧られながら、私はボーッと二人の会話を聞いていた。いや、齧られて痛いんだが、地味にフォウが持続回復魔法を使ってくれているので、喰われた肉もなかなかの速さで元に戻っている。

 そうやって回復してもまた喰われるので、今のところは増えても減ってもいない。

そこでふとナイマの表情を確認したが、相変わらずの無表情だ。これで正気に戻ってくれたら嬉しいのだが、そんなに甘くないか。

 そんな事を思っていると、カルマがこっちを見ているのに気づいた。

目の前でブリジットが怒鳴っているのをうるさそうにしながら、ナイマを見ていた視線を私に向けた。


「ねぇ、貴女。もしかして食べられるのが気持ちいいの?」

「・・訂正を要請する。まず私は男だ、貴女というのはやめて欲しい。そしてそんな趣味は無い」

「そう、なんだかスゴく美味しそうな血の匂いがするから、私も少し頂いてもいいかしら?」

「丁寧に物騒なお願いをしないでくれ」

「でも、その子には食べさせてるじゃない。私にもちょっとくらい分けてくれても・・」

「おい、聞いているのかカルマ!?」

「もう、うるさいわねぇ。はいはい聞いてますよ!」


 なんか思っていたイメージとかなり違うんだが。

本来ならもっとこう、我が血肉となる事を喜ぶがいい下等種族めっ!!的なのを想定していたんだが。

 再び怒鳴りあい(一方的だが)を続けている二人に呆れる周囲。そうだよね、これじゃまるで・・


「・・くだらんな。おい、いい加減にしろカルマ。そんなゴミと話している暇は無い」


 急に冷気を浴びせられたかのように、雰囲気が凍りつく。

ヴァルフォルの一言に会話を中断したブリジットは、王剣を彼に向けた。


「貴様にも言いたいことが山ほどあるぞ、闇天使。よくもこの私を傀儡としたな!!」

「ふん、ガイストが死んで己を取り戻したようだが、お前など俺にとってただの道具にすぎん」

「き、貴様っ!?」

「使えなくなったのなら潰して捨てるだけだ。とりあえず死ね」


 そう言ったヴァルフォルの手から黒い波動が放たれる。一瞬で音もなくブリジットを飲み込んだそれは、そのまま城の壁を削り取り、森の中へ消えた。ブリジットが居た場所には、何も残っていない。


「おい、どういうつもりだ?」

「なに言ってるのよ。まだこの子とのお話が終わってないわ」


 腕を下げたヴァルフォルが、自らの隣に立つカルマを睨みつけている。そのカルマの背後、ちょうど影になる所に、倒れたブリジットの姿があった。頭を振りながら信じられないという表情で目の前の彼女を見ていたが、すぐに剣を構え直した。


「なぜ助ける。お前を殺す為に共に眠りについたのだぞ?その女は。殺さんのか?」

「聞いたわよ、それは。馬鹿な子ね、何も知らないでこんなところで千年も眠っていたなんて・・」

「なっ・・どういう意味だっ!?」

「そう、知らないなら教えてあげる。本当の意味でこの森へ封じられたのは、私じゃなくて

 貴女なのよ、ブリジット」

「な、なにを・・・!?」


 驚愕し固まるブリジットを、まるで哀れな子供を見るような眼差しで見つめるカルマ。

そして彼女は話し始めた。


「貴女はやりすぎたのよ、ブリジット。ブリティアからの独立までなら良かったんだけど、

 貴女は周辺種族を纏めて理想郷を造ろうとしたわ。

 どんな種族でも平等に、平和に生きられる、そんな国を」

「その通りだ、私は奴隷となった種族を解放して、皆が幸せに生きれる国を作ろうとしただけだ!」

「そうね、貴女は本当にそう願っていたと思うわ。でも、それを許せない者もいたのよ。

 至高神が決めた序列を乱す者、神の敵としてね。そして貴女を殺す為に私が選ばれた」

「な・・んだ・・・と・・?」

「まあ、私の眷属も貴女に蛮族討伐という名目で殺されていたしね。だから乗ったわ」


 美しい紫の髪を払いながら、カルマは語った。

自らが率いる冥族は、生きる為に人族の精気や生き血を必要とする。それを得る為にビースト族の集落を襲ったり、支配して定期的にそれらを提供させてきた。だが、ブリジットたちはその支配からビースト達を解放する為、多くの同胞の命を奪ったのだと。

 そして生態系の頂点に立っていた冥族が数を減らし、代わりにヒューマンやビースト族が増えていった。結果、それらを養う為により多くの動物が狩られ、敵対する野獣や魔獣も狩られ、歪な新しい生態系が築かれていったのだ。ヒューマンやビーストは繁栄し、逆に冥族や魔獣たちは住処を失った。

 彼らの女王であるカルマは、眷属と仲間を生かす為に、牙を剥いたのだ。

だが、すでにその時のバルティアは軍事大国として成長、彼女たち程度の力で立ち向かえる存在ではなくなっていた。しかし、急速に版図と勢力を強めるバルティアに危機感を抱いている者たちもいた。

 彼らは自らの神に願い、そしてカルマたちに多大な援助を与えて戦争を引き起こしたのだ。

そして、その者たちこそ・・・


「光の神クラーラ、そしてブリティアとフラペインの両国が弱ったおかげで、大きく勢力を伸ばした

 光神の国、貴女たちの同盟国だったシエルローマ神聖王国。それが私の後ろ盾となったの。

 貴女は踊らされて、邪魔になったから処分されようとした哀れな王様だった」

「嘘だっ!!私に加護を与えてくれたのは光の天使!!その主人たる光神様が私を!?」

「光神は愛しい妹である闇神の眷属、私たち冥族を滅ぼそうとする貴女を止めようとしたの。

 まあ、それを人に任せたのが失敗だったのだけど。途中で気づいた時にはもう遅くて、

 両者の殺し合いを止めようとした闇神と相談して、私たち二人を封印する事にしたのよ」


 蛮族の女王カルマを封印すると見せかけて、実際は彼女を囮に、ブリジットや王国の主要人物を纏めて森に閉じ込めた。そしてカルマが目覚めた時、ブリジットは宿敵を討つ為に立ち上がるだろう。

 だが、その時には多くの者がジンとなって失われ、彼女を再教育する為のホムンクルスたち、ゴーレムの中で眠っていたフォウたちがブリジットを導くはずだったのだ。

 過ちを繰り返さない為に。


「でも、それも意味が無くなった。千年も経てば貴女の国も別物になっているでしょう。

 私が最後の戦いに挑む前には、すでに王国はいくつかの国に解体される予定だったわ」

「そんな・・・私は一体何のために・・」

「貴女の婚約者だったビースト。いつか二人で暮らせるような国を造る、だったかしら?

 彼が死んでから、貴女はその夢だけを追いかけていたらしいわね。でも、やり方を間違えた。

 貴女は武力ではなく対話で、それを成すべきだったのよ」

「私は・・・私は・・っ!!」


 話を聞きながら、情報を整理する。

 どうやら色々と事情は複雑なようだったが、カルマは自らの領民を救うためにブリジットを排除する必要があった。だが、ブリジットの考え自体を否定しているわけではなかった。

 だから、こうやって彼女の知る真実を伝えたのだろう。

私も同情を抱く、それは私たちの世界でも理想とされる考えだろう。だが、現実は上手くいかない。

戦いは死を、死は恨みと怒り、そして悲しみを産み出す。それは新たな負の連鎖を呼ぶ。

 英雄が消える事で、皮肉にも戦火が止む。それこそが二人をこの森に閉じ込めた理由なのだろう。


「で、それがどうした。俺がお前を目覚めさせたのは歌劇を鑑賞するためではないぞ、カルマ」


 ヴァルフォルの顔に怒りが見える。

 それはそうだろう、破壊と殺戮を撒き散らすはずの存在が、実は領民を守ろうとした一人の冥族で、宿敵を前にして殺すこともなく事情を説明しているのだから。


「くだらん茶番だ、いい加減にしろ!!早くこの下等種族どもを殺せ、カルマ!!」

「断るわ。私はこの娘と違って暴力で決着をつける気は無いの。それは最後の手段よ」


 毅然と闇天使に向かい合う一人のヴァンパイア、カルマは自らの魔力を両手に集中させる。


「裏切るのか?この俺を!?」

「残念だけど、貴方は私の好みじゃないの。お誘いは嬉しいけど、もう少し可愛くなって欲しいわね。

 あそこで食べられちゃってる子みたいにね」


 そう言って彼女は、面白そうな表情でこちらを見た。さっきは美味しそうとか言ってたと思うが。


「・・俺としたことが、なんたる無駄、なんたる無様。良かろう、お前も一緒に死んでもらう」

「出来るかしら?この状況、けっこう貴方が不利だと思うんだけど?」

「ククク、馬鹿め。お前こそ何もわかってはいない、『エナジードレイン』」


 突然、ヴァルフォルはこちらに片手を向け、魔法を発動した。

とっさにナイマを庇おうとした私に胸の中で、黒い闇が彼女の身体を包み込んでいく。


「ぐ、ゔぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ナイマっ!?おい、大丈夫かナイマっ!?」

「ナイマちゃんっ!?」


 苦しみだしたナイマ、私は思わず身体を離して彼女に声をかけ続けた。

駆け寄ってきたニコたちの声も届かず、身体を痙攣させながら叫び声をあげる。


「何をするの?その子の生命力を吸い取っても貴方は・・」

「ふん、知らんのか。まあ当然だろうな、滅多に見られるものではない」


 歪んだ笑みを浮かべながら、ヴァルフォルは苦しむナイマを眺めていた。


「我々のような天使は、魂を維持するためにジンを必要とする。強大な力の代償として、

 それを制御するジンを絶えず補給する必要があるのだ」

「ジンを補給ですって?でも貴方は」

「俺や普通の天使は体内に核を持っている。そこから溢れ出るジンで自らを維持しているのだ。

 だが、こいつにはそれが無い。まるで神の出来損ないが生み出した贋作のようにな」


 そう言ったヴァルフォルは、尊大な態度で両手を広げる。


「我ら天使は至高神に選ばれた二柱の神、光神クラーラと闇神パシェムにしか産み出せぬ高位種族。

 その心臓たる核は他のどのような存在すらも創り出せぬ、生み出すジンが尽きれば・・」


 そしてゆっくりと両腕を下ろし、ナイマを指差した。


「魂は変質し、肉体は変貌する。魔と呼ばれる存在に。それが『堕天フォールダウン』だ」


 震えるナイマの漆黒の翼が、黒から赤黒く色を変えていき、柔らかな羽は刃物の様な硬質のものに変わっていく。それは中心から少しづつ広がっていき、その肌は徐々に青白く、まるで死者を思わせる様な冷たいものへと移り、そこに赤い模様が刻まれていく。

 私は別の生き物、いや、存在へと生まれ変わろうとするようなナイマを、失われていく体温を感じていた。このままでは、彼女は、違う何かになってしまう。


「止めなさい、ヴァルフォル!!今すぐに!!」

「愚かな事を言う、こうなっては誰にも止められん。あの女は堕ちる、あとは全ての生者を憎む魔が、

 そう、天魔デビルが産まれるのだ。あとはお前の代わりに、計画通りエウロパへ運べばいい」

「私の代わりですって?まさか貴方、シエルローマに私や彼女を!?」

「ふん、貴様が伝承通りであれば二体の駒が手に入ったのだがな。これは我らの復讐だ。

 闇神の眷属が受けた恥辱と失われた命、奴らに償わせる。ククク、まあ俺の力の為だがな」


 聞き終わる前にカルマの両手から黒い炎が放たれた。

それは凄まじい熱量でヴァルフォルを包み込み、巨大な火柱を出現させる。


「カ、『カースフレイム』!?闇と火の合成魔法だなんて、本当に使える魔導士がいたの!?」


 フィフスの叫ぶ声が後ろから聞こえたが、私は目の前で変貌を続けるナイマから目を離せなかった。

ついこの前までふわふわと柔らかかった翼も、筋肉が付いたと嘆いていた腕も、撫でると嬉しそうに笑った髪も、その全てが、違うものに変わっていく。

 止めなければ、そう私の心は叫んでいる。だが、どうやって?そんな道具も、そんな魔法も私は知らない。フォウがかける治癒魔法も、ニコがかけるポーションも効果を現さず、すでに全身の8割は別の存在へと移り変わっていく彼女を、私は黙って抱きしめていた。


 私の前では黒い炎を振り払ったヴァルフォルが、ふん、と面倒そうにカルマへ黒い波動を放っている。間一髪で回避したカルマが再び黒い炎を放ち、続けて大地に手を突き立てて、そこから黒い刺突剣レイピアを抜き出し、突如吸い込まれるように地面へと姿を消す。

 炎を魔法で生み出した漆黒の球体で飲み込んだヴァルフォルは、見失ったカルマを探したが、直後にその背後にある影から姿を現したカルマが、凄まじい速度でレイピアを突き出す。

 背中を貫かれたヴァルフォルは、何でもなかったように胸から生えたレイピアを掴み、折った。

そして手を手刀のようにした彼は、カルマを大型剣のように吹き出した黒い刃で切り裂いた。

 袈裟懸けに切り裂かれたローブから白い肌と、吹き出す鮮血が現れる。苦しそうに顔を歪ませる彼女に、ヴァルフォルは間合いを詰めて何度も斬撃を放った。

 カルラを直撃するはずのそれらは、横から飛び込んできた影によって切り裂かれる。

白銀の刀身を赤く染め、その刀の持ち主である怜によって返される高速連撃に押されて間合いを取る黒い天使は、軽く舌打ちして物理防御膜を展開、両手に展開した黒い魔法剣を下げて怜にターゲットを移す。

 甲高い金属音と大地が、大気が切り裂かれる音の中で、それでも私は考え続けた。


 何か、何か方法は無いのか?何でもいい、どんな方法でもいい、彼女を助ける方法は、ナイマを元に戻す方法は無いのかと、私の頭をぐるぐる回る言葉の渦と激情の波。

 苦しそうに歪む彼女の顔を見つめながら、出ない答えを探し求める。その時だった。

ナイマが、こちらを見て、目にわずかな光を宿して、言った。


「・・ロ・・ゥ・・」


 彼女が掴むショートソードの切っ先が、わずかに揺れる。

まるで、それで、


 そこに、言葉が浮かんだ。



【 タスケラレナイナラ、セメテ 】



 心が、軋む。

かつて聞こえたその声は、再び私の中で大きさを増していく。



【 デキルコトハ モウソレシカナイ 】



 苦しむ彼女の姿、望むようなその瞳。



【 アイスルナラ セメテ コノテデ 】


 目の前が一瞬暗く、そして、あの光景が広がる。





 雪が降っていた。


 窓から覗く光景は、清らかで、煌めいていて


 太陽に照らされた粉雪が、まるで光の羽のように


 その病室の全てを、洗い清めるように


 目の前の大切な人を、祝福するように


 その罪さえも、その絶望さえも


 全て白く覆い隠すように


 私以外の全てを、光で満たすように



【 セオエ ツミヲ キザメ  】


 私の手が、ショートソードに伸びる。


【 ダイジョウブ モウ イタミハカンジナイ 】


 手が届き、彼女の手から、その柄を


【 クルシミカラ スクッテ 】


 彼女の手が、柄を離す


【 オマエガ クルシミツヅケロ 】


 私は、それを、





『『 待ちなさい 』』


 突然、頭に響く声。

私は驚いて、掴みかけた手を止めた。


『『 貴方が取るべきはその剣では無い 』』


 重なり、広がるその女性の声は、明確な意思を持って私に何かを伝えてきた。


『『 信じなさい、そして繋げなさい。その娘は私が加護を与えた者、助けたければ 』』


 助ける?

 助かる?

 助けられる・・・っ!?


『『 アレの力と、貴方の中に眠る者の力を借ります。さあ、早く!時間が無い!! 』』


 私は、手を向けて叫んだ。


「ブリジーーーーーーーーーーーーット!!!!」


 目の前の光景と知らされた真実に呆然としていたブリジットは、いきなり自らの名を叫ばれ、驚く。

名を呼んだロウは、まるで何かを求めるように、手を伸ばしていた。


「その剣を!!キーブライトを!!」


 その眼から放たれる強い感情と、言い表せぬ凄まじい強制力に押されて、彼女は手に持つ王剣を放り投げた。回転しながら吸い込まれるように私の元へ向かい、そして、その手に柄が触れる。


「もう、私は!!」


 逆手に握りしめた柄を振り上げ、


「絶対に、諦めないぃーーーーーーっ!!!!」


 その剣をナイマの背中に突き立てた。

一瞬ビクンッと震えたナイマをキーブライトは易々と貫き、そして、私の胸に突き刺さる。

激痛と共に身体へと沈み込んでいく異物感に、凄まじい吐き気を感じながら貫き通す。

 そして、自らの中に残っている、ありったけの魔力を叩き込んだ!!


「助けてみせろ!!お前が護るこの娘を!!!」


 王剣から眩いばかりの黄金の輝きが放たれた。

 それはナイマを照らし、私を照らし、周囲にいる全ての者を照らし出す。驚いてこちらを見るニコ達、全身を切り刻まれてもカルマを守ろうとする怜、そして止めを刺すべく怜へ両手の魔法剣を突き出そうとしたヴァルフォルも、全てが黄金色に染まっていく。

 身体から力が抜け落ちていく感覚と共に、中にいた何かが動き出すのを感じた。

それは一瞬驚いて、でも、すぐに微笑んでいたように思えた。ゆっくりと両手を差し出したそれは、徐々に私から抜け出して、共に貫かれているナイマへと、優しく触れた。

 光が、爆発した。




 ナイマを見ていた私の眼を、何かが通り過ぎた。

それはよく見ると雪のような、真っ白な羽根だった。ひらひらと、ふわふわと舞い落ちてくる、羽根。

 私は、力の入らない身体を無理やり動かして、なんとか僅かに顔を上げた。

そこには、純白に光り輝く三対六枚の翼と、波のように広がる金色の髪を広げた、若い女性の姿があった。その女性はこちらを見て、柔らかく少し微笑んでから、キッ、とヴァルフォルに視線を向けた。


 ヴァルフォルは、震えている。

まるで初めて恐怖を知った子供のように、細かく、ガタガタとその身体を震わしていた。

 それを見た彼女は、まるで全てを叩き潰すような膨大な魔力と重圧を放ちながら、言った。


「我が加護を与えたこの娘に、随分と好き勝手してくれたものですね。闇の天使よ」


 透き通るような、極上の楽器が奏でる至福の調べの如き声で、

 恐るべき存在だと知らしめるような、威厳に満ちた声で、彼女は言葉を紡いだ。


「我が名は光天使ガブリエル。第一の階位『熾天使セラフ』をこの魂に頂く者。

 闇の天使よ、我が愛おしき娘を狂わせ、あろうことか堕天させた罪、その命で償いなさい」


 天使は名乗り、震える黒い天使に死を宣告した。


 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

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