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Ⅶ・Sphere 《セブンスフィア》  作者: Low.saver
セブンスフィア
12/21

1章『スリーピングフォレスト』♯23

 ウッドエルフの村に帰還した一行は、来る決戦に向けての準備を始める。

そして、探していた王剣の手がかりが、ついに発見された。



インターバルミッションも兼ねる23話、今回はニコがナレーションです。


     ♯23 王の剣



「・・・」〈クイクイ〉

「っ!?」


 いきなり袖を引っ張られて、わたしはぼーっと見ていたロウさんの背中から目を離した。

隣ではC2さんがわたしの腕に掴まって、心配そうにこっちを見てる。んーーっ!かわいいっ!!

 わたしは我慢できずにC2さんに抱きついてしまうっ!!


「あーん!ちっちゃいよう!かわいいようっ!!」

「・・・」〈ハー・・〉


 なんでかため息をつくC2さん。

けっこう強い力で抱きつくわたしの腕を引っぺがして、指で村の入り口を指差していた。

 わたしは癒しのひと時を奪われて悲しかったけど、気になるのでそっち向く。

 そこには何人かのダークエルフさんとエルフさんたちが言い合いを始めていた。真ん中で両方を止めてるのはエレノール君だね!傷も治って色々と手伝ってくれるようになったけど、一週間前にダークエルフさんとわたしたちが帰ってきてから、揉め事があったら飛び込んで行って仲直りさせてる。

 いい子だねー!でも若いのに疲れた顔してるなー。大丈夫かなー?

わたしはちょっと心配になって、今にもケンカしそうなエルフさんたちの話を聞きにいった。


「どーしたのー?ケンカ?」

「あ、ニコさんすいません、ちょっとコイツら」

「ふん、ケンカではない。教育だ」

「なんだと貴様っ!?お前らが警備に文句を!」

「こんな塀など何の役に立つんだ、下らん。

 どうせなら森に罠でも仕掛ければ良かろう」

「相手は歩兵主体なんだ、塀で進軍を止めて、

 その隙に上から火矢を射かけるんだよ!!」

「バカかお前は?門の内側に入られたら終わりだ。

 外で数を減らしていく方が重要だろうが!」

「はっ!槍振るしか能のねぇやつらしいぜ!!」

「お前らも遠くからしか戦えん臆病者だろう!!」

「なんだとぉっ!?やんのかこの野郎っ!!」


 あちゃー、こりゃダメだ。両方とあたまに血がのぼっちゃってる。

そういえばダークエルフとエルフって仲悪いって言ってたもんねー。

 仕方ないなぁ、わたしに任せろっ!


「はいはいストーップ!!ケンカはダメ!」

「いや、しかしニコさん・・」

「止めないでくれニコ殿!」

「ムーリー。それにそんな時間ないでしょ?」

「ぐっ・・確かにまだ他にも仕事が・・」

「ふん、仕事が遅いからそうなるのだ」

「んだとテメェーーッ!!」


 ボカッ!っとついにエルフの衛兵さん・・確かハルラスさんが殴りかかってしまった。

そういえば関係ないけど、エルフさんたちの名前ってちゃんと意味があるんだよねー!知ってた?

なんか自然のこととかが名前になってるらしいよ?んでハルラスさんは・・えーっと、葉っぱ?

 そんなことを考えてたら、いつの間にか大乱闘になってた。

たぶんいろいろと溜まってたんだろうねー。おおー、スゴい葉っぱさんジャンプキックしてる!!

 思わず観戦してたら、すぐ後ろから女の子の声が聞こえた。


「・・フォウ、またよ。いったい何なのよ。

 エルフって良いの顔だけで基本バカなの?」

「フィー、彼らも色々と大変なんだよ・・」

「知らないわよそんなの。あー、面倒くさい」


 げんなりした赤い髪の女の子と、紫の髪をしたフォウくんが立ってた。

女の子は辺りを見回すと、片手を上げて魔法を詠唱し始める。ピンと立てた人差し指の先から紅い光が生まれ、それはどんどん大きくなっていく。おーい、それはあぶないんじゃないかなー?

 女の子は口元を歪めて、とっても怖い顔でニコニコしてた。


「私、めんどくさいの嫌いなの。死ねば?」

「ちょっとフィー!?何するんだよっ!!」

「うるさいわね、ちょっと間引くだけよ」

「いや、死んじゃうよねそれ確実にっ!?」

「ホッホッホ、くらいなさいデスボール!!」

「顔がフリーザさまになってるよっ!?」


 今にも発射されそうだった魔法をフォウくんが必死で止めてる。でも女の子はフォウくんより年上っぽいから背も高いからぴょんぴょん跳ねるだけ。あれはムリっぽいなー、頑張ってるけどなー。

 でもこんなとこで魔法爆発しちゃったらロウさんに怒られちゃうし、またデザート抜きになっちゃうよ。お肉抜きはガマンできるけど、デザート抜きは悲しすぎるぅーーっ!!なので、止めるっ!!


「せいやっ!!」

《 シュバッ!! ドカーーンッ!!》

「おわぁっ!?」

「キャーーッ!?」


 わたしが振った大剣、ドワーフのダンジョンで手に入れたレアもんの剣、ロウさんにねだってゲットした『ディフェンダー』が浮いてた炎の玉を斬りとばす。その瞬間に魔法の玉は大爆発を起こした。

 とっさに魔法防壁を張ったみたいだけど、二人は爆発で遠くに飛んでく。たーまやー!

近くのエルフさんたちも吹っ飛ばされたけど、どうやらケガはなさそう。んー、やりすぎちゃった!


「てへっ!」

「てへっ!・・じゃないぞニコ。何してるんだ」

「ひゃーっ!?ロウさんいつのまに!?」

「さっきから近くに居ただろう・・で、

 これはいったいどうなっている?」

「んー、エルフさんたちがケンカしてー。

 んでフォウくんたちが魔法で止めようとして?

 わたしが斬ってドカーーンっ!!

 って感じ?」

「・・わかった。今晩もデザート抜きだな」

「えぇーーっ!?わたし何もしてないよっ!?」

「そうだな、特に怪我人もいないしな。

 作りかけの塀をバラバラにしただけだな。

 そして王剣探しが遅れるだけだな、有罪ギルティ

「ひどーい!!やさしくなーい!!」


 ぶーぶー文句いうわたしをほっといて、ロウさんは手をおでこに当てながら歩いていく。

 隣でイズさんが大丈夫か?って声をかけてるけど、首を振って答えなかった。なんだろ?カゼでもひいたのかなー?けっこう寒いしねー。

 そして吹っ飛ばされたフォウくんと女の子、フィーちゃんがフラフラしながら歩いてきた。

フィーちゃんの名前はロウさんがつけたの。ナンバー5って自分で名乗ったけど、それじゃあんまりだからって『フィフス』って名付けたんだけど、それもイマイチだってわたしと怜さんが言って、あだ名でフィーちゃんって呼ぶことにしたんだ。かわいいでしょ?本人はビミョーに嫌そうだったけど。

 彼女はね、フォウくんと同じゴーレムの中の人。中の人って別の意味だろっ!てロウさんにはツッコまれたけど、わかりやすいじゃん。中に入ってたんだし。

 ゴーレムは怜さんが手足をちょん切って、わたしが胴体をボコボコにしたらパカッてフタが開いて、中からフィーちゃんが出てきたの。ちょっとつり目で生意気だけど綺麗な女の子。中学生ぐらいかな?

 ロウさんには素直なのに、他の人にはチョー生意気。でもフォウくんとは仲良しだし、わたしも仲良くしたいんだけどなー。今もプンプンしながらこっちに来てるしなー、怒っちゃったかなぁ?


「信じられない!マジおかしいんじゃない!?

 発動待機中の魔法斬るとか、バカなの!?

 脳ミソにチーズでも詰まってるんじゃない!?」

「フィー・・一応この人マスターの仲間だから」

「わかってるわよ!だから怒ってるんでしょ!!」

「えー、別にいいじゃん。仲直りできたしー」

「全員気絶させただけでしょう!?

 あーっ!?服ボロボロ!最悪っ!!」


 マスターに頂いた服がぁ〜〜って頭を抱えて叫んでるフィーちゃんであった。若い子は元気だねぇ。

まあ、今のわたしも高校生ぐらいまで若返ってるんだけど。ムフフ、しかも美形。サイコー!


「何をニヤニヤしてるのよこのアンポンタン!」

「フィー、アンポンタンってよく知ってるね・・」

「もー、そんなに怒んなくていーじゃん!

 フィーちゃんが魔法使うから悪いんだよっ!」

「フィーちゃん言うなっ!!」

「顔が赤いよ、フィー」

「うるさいこの軟弱者っ!!」


 軟弱者はないと思う・・ってOrzな格好になってるフォウくんを蹴りながら、フィーちゃんはフォウくんに怒り出してる。何だろ?思春期?

 クィクィってまた袖が引っ張られて、見るとC2さんが行こうって言ってるみたい。

 あ、そうだ。たしか王さまの剣を探しに行くメンバーの発表があったんだ。

さっきロウさんが来てたのって、もしかしてソレを伝えに来てたのかなぁ?

 わたしはC2さんに引っ張られて村長さんの家に向かった。途中で怜さんと会って、一緒に階段を上ってたら、ちょっと変な顔して怜さんはこんなことを言った。


「ニコさん、ロウさんから何か聞いてないか?」

「ぬ?デザート抜きって言われちったよぉ・・」

「いや、それは俺にとってどうでもいい」

「ひどーい!怜さんひどーいっ!!

 ミリィちゃんのタルト美味しいのにっ!!」

「なら俺のをあげるから、教えて欲しいんだ」

「ホントにっ!?なになに!?何聞きたい!?」

「・・・」


 何でかC2さんがまたため息ついてるけど、ふーんだ!C2さんも超楽しみにしてるじゃーん!

この世界に来て美味しいものいっぱい食べてるけど、全然太らないからいくらでもいけちゃうんだよねー!なんか魔力にヘンカンされちゃうとか?魔力が低い人は太るみたいだけど、ちょっとぐらい食べ過ぎても大丈夫っていいよねー!でも魔力が満タンだとプルンプルンになってくらしいから、身体は動かさないとダメみたいだけど。でもお酒も飲み放題だしねー、もう天国じゃないかなぁ?この世界って!!


「ニコさん、よだれ出てるよ・・」

「ハッ!?お酒はどこっ!?」

「何を考えてたのかすぐにわかったよ・・」

「ごめーん、何が聞きたかったんだったっけ?」


 なんか怜さんもC2さんといっしょにため息をついてる。ダメだよー、幸せが逃げちゃうよ?


「ニコさん、ロウさんが剣を見つけたらだけど」

「うん、なんか王さまの剣だよねー」

「それがあればこの森から出れるって話だけど」

「みたいだね。出たらちょっと探検したいね!」

「俺、別行動になるかもしれない」

「えっ?」


 驚くわたしに、怜さんは少し困ったような顔で理由を話してくれた。

ロウさんは嫌がってるけど、王さまの剣を手に入れて森から出たら、ロウさんは王さまになっちゃうだろうって。でも、怜さんは奥さんや子供が心配だし・・早く元の世界に帰りたいみたい。

 王さまになったロウさんは自由に動けなくなるだろうから、元の世界に戻る方法も国の中で調べないといけないって、だから怜さんはロウさんとは別に方法を探す旅に出るつもりみたい。

 私だってわかる。今はまだ素敵な身体とワクワクする冒険で帰る気ないけど、やっぱり子供のことは心配なんだ。夜とか、寝る前に子供の声を思い出して泣いたりしちゃうこともある。だから怜さんの気持ちはよく分かるつもり。旦那はどうでもいいけど。


「そうなんだ・・でも、簡単に見つからないかも」

「うん、俺もそう思う。けど、俺は見つける。

 奥さんや子供に会いたいんだ。

 だから、どんな方法でも帰りたいんだよね」


 そう言って寂しそうな顔で怜さんはうつむいてしまった。たぶん、毎日その事を考えてるんだね。

私は怜さん手をとって、ぎゅっと握って気持ちを伝えた。元気出さなきゃダメっ!!


「怜さんっ!!らしくないよっ!!」

「っ!?」

「大丈夫!ぜったい見つかるし!

 ロウさんもきっと方法とか見つけるよ!!

 絶対に帰れるから、元気出してよっ!!」

「・・・ニコさん・・」


 私は強く強く怜さんの手を握りながら、大きな声で言ったよ。たぶん、わたしも同じように帰りたいって思ってるから。子供が大きくなるのを見ていたいって思ってるから、強く、強く。


「ニ、ニコさん手が・・手が砕けるぅぅぅ!!」

「あ、ごめーん!テヘ♪」

「ハァハァ・・マジで潰れるかと思った・・」

「もーっ!大げさだなーっ!!」

「・・・」〈フルフル〉


 青じんで変な色になってる怜さんの手を見ながら、首を振るC2さん。

そんなことをしてると、もう村長さんの家の前まで来てた。うーん、けっこう長く話してたかな?

 わたしたちはドアをノックして中に入る。そこにはエルフやダークエルフの偉い人とか、ロウさんやイズさんと話すギルさんもいた。あ、ギルさんはダークエルフのギルノールさん!イケメンなんだよねー。


「きたよーっ!ロウさん!」

「うるさいよ。そこらに座ってろ」

「ぶーぶー!!」

「ぶーぶー言ってるとオークになるぞ?」

「えー、ブタはいやー!ネコがいいーっ!!」

「誰もお前の好みを聞いてはいない」


 ふーんだ!最近ロウさんはわたしをテキトーに相手してると思う!ひどいっ!!

でも周りのエルフのおっちゃんにも呆れられてるし、しょうがないので座ろう。

 わたしたちが座った後もいろんな人が家に入ってきて、挨拶しては椅子に座っていく。

そのうち椅子は全部埋まって、後ろに立ってる人や自分の椅子を持ってくる用意のいい人も出てきた。んー、やっぱり人数増えたよねー。あ、フォウくんとフィーちゃんも来た。

 こっちこっち!って手を振ったけど、来ようとしたフォウくんの首もとを掴んで引っ張り戻すフィーちゃん。えー、なんでー?こっち来ればいいじゃーん!

 でもそう言おうとしたら、一番奥の椅子、村長さんの隣に座ってたロウさんが立ち上がった。

みんなが一斉にそっちを見る。うーん、何を話すのかなー?剣の話かなぁ?


「皆さん、忙しい中よく集まってくれました。

 今日集まってもらったのは他でもない。

 王剣の場所に繋がるヒントを手に入れました」


 おおーっ!?ってザワザワするみんな。ほほう、ヒントとな?なんかまだ見つかってない感じ?

私は怜さんの顔を見る。怜さんもこっちを向いて、強く頷いた。出れる、この森を。

 ロウさんはゆっくりみんなの顔を眺めていって、話し始めた。


「ヒントはエルフとダークエルフの村に伝わる、

 それぞれの伝承にありました」


 そう言ってロウさんは、二つの村に伝わっていた神様のお話をみんなに聞かせた。


かつて大きな争いがあり、城と森は赤く燃えた

この地を治めし王と騎士は、闇の神に願い出る


『民に救いと平和を、穏やかな日々を与え給え』


その願い闇の神に通じ、闇の神は氷の神に願い出る

『我が子を救うため力を貸してくれまいか?』

氷の神は快く受け、闇の神にこう伝えた


『我が力は氷、それはただは凍らせるのみ、

 だが、やがて溶かす日が来るやもしれぬ』

それを聞いた闇の神は、炎の神に願い出る

『氷の神が凍らせて、我が弟よ、炎の神よ、

 そなたが溶かしてくれまいか?』

炎の神は快く受けたが、闇の神にこう伝えた

『我は焼く者、溶ければ全て灰になる、

 姉上、それは宜しくはないだろう』


困った闇の神の前に、光の神が現れこう言った、

『我が愛しき妹よ、私が氷を溶かしましょう』

こうして炎の神は一本の剣を創り、

光の神はその剣に自らの力を込めた


王に剣を渡した闇の神は、王と騎士にこう伝えた

『今よりそなたらの願いを叶えよう、しかし供物が必要だ」

【氷の神には、城と周りの大地を】

【光の神には、王の命と王の時間を】

【そして私に、舞を捧げよ】

こうして争いは氷に包まれ、城と大地も凍りついた

王と騎士は道を渡り、森の深くで眠りについた


その森の名は、眠りの森

騎士の王が眠る森

やがて王の時戻り、遥か遠くの扉が開く

闇の天使が剣の騎士を、水のほとりへ導かん

騎士は光の剣を抜き、その時森は、目を覚ます

眠りし騎士も、目を覚ます

騎士と王は国を治め、やがて再び世は乱れる

王と騎士は仲間を集め、安らぎを世界に取り戻す



 ここまでがエルフの村のお話。闇の神様が他の神様にお願いして、人間を助ける感じかなぁ?

でも、王様がいなくなっても国は大丈夫だったのかな?わたしならビックリする。

 そして、ロウさんはダークエルフの伝承を話し始めた。こっちは短いんだよね。



西の朝日と東の夕日が出会う時

赤い焔が水辺を照らす

そして女神が眼を覚まし

光を照らして王を導く

そこに在るのは王の剣

癒し導く光の鍵



 みんなが静かに聞いていた中で、一人ロウさんの言葉だけが部屋に響く。

並べてみると、なんでこんなに内容が違うんだろ?って思うよね?みんなも改めて聞いてみて、不思議そうな顔でロウさんを見てる。やっぱり私だけじゃないんだ。

 そうしてみんながザワザワしだした時に、ロウさんが内容の説明を始めた。


「この二つの唄の違いに気づいた私達は、

 内容を詳しく調べてみました。

 結果、これらは別の人間によって作られ、

 そして全く別の事を表しています」


 ロウさんはそう言って、ウッドエルフの唄を書いた紙を指差した。


「こちらに書かれているのは、いわば歴史。

 我々に伝えるために残した記録文書です」


 いつか眼を覚ます王さまと、その民へ。かつて起きた事を伝える唄にしたものがそれみたい。

闇の神様が助けてくれたよ、いつか王さまが眼を覚まして外に出してくれるよ。

 そんな感じで忘れちゃいけない事を残した、ってことかな?よくわかんないけど。


「そしてダークエルフの村にあった唄。

 これは恐らく、火の神に関するもの。

 王剣を手に入れる方法ですね」


 それを聞いたみんなが一斉にそっちを見る。言われてみればそんな風に見えるけど。


「恐らく、王剣は何らかの理由で隠されています。

 その為、公式な文章には残されなかった。

 これは推測ですが、王を森から出さないため。

 それが理由だと私は考えています」


 一気に部屋がうるさくなった。なぜだ!とか、森から出られぬとはどういうことだ!とか。でも、普通に考えたら剣がないと出られないとかも変だよね?隠れてればいいだけなのに。

 そんな事をみんなでワイワイ話してたら、ロウさんが咳を一つ。うーん、先生みたい。


「なぜ出したくないのかわかりませんが、

 少なくとも剣を造った火の神は承知せず、

 自分のテリトリーに伝承として残した。

 それがダークエルフに伝わる唄なのでしょう」


 ロウさんが言うには、王さまを眠らせた後で神さま同士でケンカになったんじゃないか?ってことみたい。王さまを眠らせておきたい神さまと、起こさせたい神さまがいて、話し合った結果に剣を造ることになった。でも、眠らせたい神さまはそれを渡したくないから書かなくて、起こしたい神さま、火の神さまかな?は、剣をどうやって手に入れるかを残したんじゃないか?って、そんな風に言った。

 でも、それなら火の神さまのだけでわかるんじゃないの?ってダークエルフのナルちゃん、ナルルース?だったっけ?とりあえずナルちゃんが言ったら、ロウさんは首を振った。


「確かに剣を手に入れる方法はわかったかもな。

 でも、それを何に使うかはわからないだろう?

 恐らく、火の神のはメインの唄を補うために

 後から作られたものだと思う。

 おかげで全容は掴めた」


 そう言って、ロウさんは二つの玉の欠片を取り出した。ゴーレムから出てきた赤いのだね。


「西の朝日と東の夕日、本来なら日の出は東だ。

 おかしいとは思わないか?」


 そう言ってロウさんは欠片を両手に持った。


「まあ、簡単な言葉遊びだな。

 東のダークにあるから夕日、

 そして方角は手を表している」


 そう言ってロウさんは何かを抱きかかえるみたいに手を近づけた。そしたら隣に立ってたナイマちゃんが、「あっ」って、何かを思い出したみたいに声をあげた。


「ふふ、思い出したか?二つの太陽は

 水辺の焔で照らすんだ。

 女神の目を覚ますためにね」

「・・・あの、最初のほこら?」

「ああ、あくまでも推測だけどな。

 だからウッドエルフはそこで祭事を行う。

 そこが重要な場所だからだ」

「ウサギが美味しかった」

「ウサギさんごめんよっ!!」


 なんかあったみたいで、ロウさんは手を合わせてナンマイダーとか拝んでる。

ほこらって、私たちが出てきたような場所のことだよね?あっ!二人はそこでこの世界に着いたんだ!

 イズさんが唸りながら「まさかあの場所に王剣が・・」とか呟いてる。知ってる人多いみたい。

ロウさんは拝むのをやめて、わたしの方を向いた。


「明日、そのほこらに向かう。

 そこで王剣に関わる重要なヒントが手に入る。

 最小限のメンバーで向かい、確かめるよ」


 そう言ったロウさんを歓声が包む。

そうだよね、あの悪魔みたいなやつを倒すにも、森から出るにも王さまの剣が必要だもの。

 でも、ゴーレムみたいなのがいるかもしれない。油断しちゃダメだよね?


ロウさんは一生懸命になると、自分なんかどうでもいいみたいに言ったり動いたりする。でも、そんなことは無いし、そんなことはさせない。ロウさんはわたしが守るんだ。

 隣のC2さんに、武器の手入れとかをしようって誘うと、すぐにうなずいてくれた。

そうだよね、わたしだけじゃない。でも、わたしは不器用だから、あんまり出来ることない。

 だから、とにかくロウさんに近づく悪者はやっつけてやる。今の身体なら、若い時よりもずっと動けるし、もっともっと強くなる。わたしにも役に立つことがある・・はず。


 そうして、わたしはC2さんと一緒に武器庫に向かって歩いていく。

他のみんなはまだ騒いでるけど、わたしたちは違うんだ。

 だって、王さまを守るのが近衛ガーズなんだもん。

だから、元の世界に、家に帰るまではわたしはナイトになる。王さまを守る、スゴいナイトに。

 でも、お姫様にもなりたかったな、ちょっとだけだけどね。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


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