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Ⅶ・Sphere 《セブンスフィア》  作者: Low.saver
セブンスフィア
10/21

1章『スリーピングフォレスト』♯19〜20

褐色の肌を持つダークエルフ。

その村に向かったロウたちは、新たなプレイヤーと出会う。

望まぬ地にやってきた一人の侍は、その胸に何を思うのか。


スリーピングフォレスト編、後半突入。


     ♯19 魔導士サイロス



 我々は急いでダークエルフの集落への道のりを進む。

 途中で大きな川にかかっていた橋が落とされていた。

恐らくエレノール青年たちを襲ったオークたちが、ウッドエルフとダークエルフの合流を防ぐために妨害工作を行ったのだろう、と私たちは考えた。既にこの辺りまで敵は手を伸ばしてきている。それは私の危機感を煽るが、今は出来ることをするしかない。

 私はミリィに指示を出して水魔法で川を二つに分け、その分岐点に近くから集めた岩を放り込む。その岩の上にニコたちに斬ってもらった木を渡して橋を作り、帰りの逃走経路を確保する。巨大な木の幹が何本も並ぶ橋はかなり頑丈で、足元に気をつければ大人数でも渡れるだろう。

 橋を渡っていつまでも続くかのような森を歩き続け、2日目の夕方にようやくダークエルフの集落まで近づくことが出来た。そして事前に決めてあって通り、見張りに知らせるための鈴をチリンチリンと鳴らしながら、私たちはゆっくりと村へと近づいていく。すると、周囲にある木の裏から気配を感じる。

 私は立ち止まり、仲間たちを手で制した。


「・・・問おう、そこにいるのはダークエルフか?

 私はロウ、ウッドエルフの使者だ」


 静かな森に声が響く。

ナイマとマイグリンは既に気配を察知していたようで、何かあればさりげなくこちらをフォロー出来るよう私たちの左右を警戒している。C2は無言で盾を構え、マンマゴルは剣の柄に手を添える。

 そっと私の斜め前にニコが立ったタイミングで、我々の正面にある木の影から、一人のダークエルフが姿を現した。肩ぐらいまで雑に伸ばした銀髪に褐色の肌をしたその青年は、こちらを睨みながら答える。


「お前がエルフだと?そうは見えないな。

 何人かは混じってるみたいだが・・」

「私はエルフではない。縁あって彼らの世話に

 なっている者だ、ダークエルフよ」

「ふん、俺の名はティリオンだ。

 なぜここに来た、理由を言え」


 彼の言葉に続いて、落ち葉を踏みしめる音と共に、森から次々とダークエルフたちが姿を現わした。

皆、若い。おそらくエレノールと同じ村の青年だろうが、全員が殺気をまとってこちらを睨んでいる。

 私たちの間にも緊張が走るが、それも私の背に隠れていたミリィが前に出て語りかけるまでだった。


「お久しぶりです、ティリオンさん。

 私を覚えていますか?」

「・・・君は、もしや村長の姫君か?」


 驚くダークエルフの青年、ティリオンにミリィは優しく微笑みかける。


「はい、『考え深き者』イズレンディアの妹。

 『賢き指導者』クルゴンの娘のミリィです」


 彼女はそう言って丁寧にお辞儀をした。

 当たり前だが、礼儀に則った作法を教え込まれているミリィの仕草に我々も少し見とれる。

それはダークエルフ達も同じだったのだろう、ティリオンと名乗った青年はため息をついて礼を返した。


「・・そうだったか、失礼なことをした。

 少し警戒しすぎたようだ、謝罪しよう」


 右手を左胸に当てて頭を下げるという騎士団流の敬礼を返したティリオン青年は、頭を上げると周囲のダークエルフに手を振る。すると再び彼らは森に姿を消した。

 あまりの隠行いんぎょうに感嘆の声を漏らす我々に、彼はかすかに口元を綻ばせて背を向ける。


「歓迎しよう、使者殿。付いてきてくれ。

 私が村へ案内する」


 そう言って歩き出した彼の背中を見ながら、私はミリィに話しかけた。


「なんか、初めてまともなやりとりを見たな」

「ドワーフさん達は形式とか苦手でしたから」


 そう言って笑うミリィを中心に、私たちはティリオン青年に続いて歩いて行った。

しばらく森を進むと簡易的な防御網と思われる木の柵が現れ、そこに見張りと思われる数名のダークエルフが周囲を警戒している。人数は少ないものの油断など微塵も感じられないその雰囲気に、彼らが置かれている厳しい状況が見えるようだ。

 ティリオンの姿を確認した1名が柵の一部を開き、そこへ我々を案内する。最初はこちらを不審な目で見ていた彼らだが、まずナイマの黒い翼に驚き、そしてにこやかに挨拶するミリィの姿を見て安心したのか、戸惑いながらも優しげな表情で見送ってくれた。


「ミリィ、君は彼らと面識があるのか?」

「ええ、かなり前にお父様と一緒に来た事が。

 何名か覚えていてくれたみたいですね!」

「王よ、ミリィは優秀な司祭なので、重傷者や

 病気の者が出ると我々に声をかけるのです」

「なるほど、それでか。

 マンマゴルも来た事があるのか?」

「いえ、俺はありませんがスーリオンなら」

「俺は族長の長男と喧嘩したからなぁ。

 あんまり印象良くないかもしんね」

「何をしてるんだお前は・・」


 ハッハッハー!と笑うスーリオンと頭を押さえるマンマゴル。どうやら村へ来たのは小さい頃だったらしく、いわゆるやんちゃ坊主だったスーリオンはミリィに馴れ馴れしく話しかける族長の息子に殴りかかり、止めようとする子供たちを巻き込んでの大ゲンカとなったらしい。ちなみに喧嘩が収まった後には、何故かイズ兄さんだけ地面に倒れていたという。それを見たミリィがスーリオンをビンタしたらしく、彼は少し遠い目をしながらそれを思い出していたようだ。


 そんなやりとりをしていると、森が途切れて山肌が見えてきた。ダークエルフの村に着いたらしい。

かなりの急斜面に階段がジグザグに作られており、そこにたくさんの入り口が見える。ウッドエルフは木の上に家を建てるが、ダークエルフは山を削って洞窟を掘り、そこを住居とするらしい。

 だが、それら住処に適した場所がない場合はドワーフのように石で家を建てることもあり、この村は古いやり方を大事にしているようだ。なぜ村が二つあるのかも、そのあたりが関係しているのだろう。

 我々は頑丈な石造りの門をくぐり、階段を登りながら村を観察する。

 人口は意外と多い、100人ぐらいはいるだろう。元々の村人に加えてエレノール青年の村の住民が合流したせいか、女性と子供の比率が高い。母親であろう女性が自分の子供をかばうように前へ出る。

 村を助けに来たつもりの我々としては、そういう光景を見ると少し傷つく・・。


「すまんな、まだ状況がわかってない者ばかりだ。

 しばらく我慢してくれ」

「いえ、エレノール君から事情は聞いています。

 警戒されるのも仕方ないことかと」

「っ!?エレノールがそちらへ!?

 あいつ、生きてたどり着けたのか!!」

「はい、傷を負っていましたが、今は大丈夫です。

 他の同行者はオーク達に襲われて・・」


 驚く彼に、私はエレノール青年から聞いた話を説明する。

しばらく立ち止まり、目を閉じて死者の冥福を祈っていたのだろう。彼は悲しげな表情を抑えながら、私達に礼を言った。彼とエレノール青年の兄は幼馴染の親友で、危険な使者の役を任せるには反対だったらしい。だが、本人の強い希望でそれは通り、仲間に護衛を任せたということだった。


「あいつらはエレノールを護り切ったんだな・・」

「ええ、そして我々はあなた方の状況を知り、

 こうして使者を派遣するに至りました。

 それは彼らの武勲でありましょう」

「・・そう言って貰えて、奴らも喜ぶだろうな」


 一番高い場所にある入り口まで階段を上った我々は、その洞窟とは思えぬ見事な門構えの入り口に立った。ティリオン青年は頑丈な金属で補強された、飾り気のないドアのノッカーをゴンゴン!と鳴らす。

 すると中から槍を持った大男が姿を現した。


「ヴェロンウェ、サイロスさんに取次を頼む。

 ウッドエルフからの使者を連れてきた」

「・・・・・」


 寡黙な男は黙って頷き、再びドアを閉める。

 しばらく待っているとドアが開いてヴェロンウェと呼ばれた男が出て、ティリオンへ頷いた。

部屋に通された私たちは意外に広いはずの洞窟が、数え切れないほどの本に埋め尽くされているのに唖然とした。中には本以外にも標本や鉱石なども混じっており、少し変な匂いもする。

 私は状態異常に強いために問題はないが、エルフたちは露骨に嫌な顔をしていた。いつの間にか隣に立っていたナイマも鼻を摘んで「くさい」と小声で不満を口にする。だが人のマントをマスク代わりに使うのはいくら何でも酷いと思う。自分のを使って欲しい。


「サイロスさん、使者をお連れしました」

「ああ、ちょっと待ってくれないか?

 薬品の調合が大事なところでね・・、

 そこらに座っててくれないか?」


 その言葉に私たちは周囲を見渡すが、残念なことに座れる場所が見つからない。あるのは本が積まれてワニのような標本がもたれかかっているソファーだったものだけだ。座れと言うのはどうかと思う。

 私たちは仕方なく立ったままサイロスと呼ばれたダークエルフを観察することにした。

 背中まで伸びた銀髪や褐色の肌はダークエルフの特徴のままだが、やや胡散臭い銀縁の丸眼鏡が悪い意味でよく似合っている。ああいうのが似合うのは、マスター仲間だったムラさんみたいなMADだけだ。

 今もピンクの怪しげな薬品をポコポコ泡を浮かべる緑色の薬品に注いでいるが、その表情は嬉しそうを通り越して気持ち悪いぐらいの笑顔だ。時々「いいよぉ〜、一つになれて気持ちいいかい〜」などと薬品の入ったビーカーに語りかけている。うん、MAD確定したが気味悪いので殴り飛ばしたい。

 ようやく全て混ぜ終わったのか、変色して紫色になった液体をコップに移し、なぜかこちらに向かって歩いてくるMAD。ちなみに説明すると、MADはマッドサイエンティストの略だ、こいつみたいな。


「いやぁ〜、すまない。お待たせしたね!

 お茶を入れたんだが、私は下手でね〜」


 そう言ってニコニコといい笑顔で近づいてくるMAD。

・・・今、なんて言ったんだこのイカれ野郎は?

お茶?お茶と言ったのか?あのシュワシュワーって煙を出しながらポコポコ粘りのある泡を生んでいるバブルスライムみたいなゲル状の液体がお茶?

 そして素早く私からスーッと離れてゆく薄情な仲間たち。なぜ私が見ると目を逸らすんだ君達。

MADはゆっくりと我々を見渡しながら、一人ポツンと立ちすくんでいる私で視線を止めた。

 眼鏡がキラーンって光ってるよっ!!


「ほほう、君が噂のちょうどいい実験体・・

 いや、伝承の王候補のようだね」

「人違いですよドクター」

「私もクルゴンと同じスキル持ちでね、

 君の階位クラスもよ〜く見えるんだよ!

 領主ロード持ちは君しかいないじゃないか」

「眼鏡が合っていないと思いますよドクター」

「ああ、これは伊達なんだ。似合ってるかい?」


 ええ!とっても似合ってますっ!!

私は噂の伊達という丸眼鏡を光らせながら迫るMADから遠ざかるべく、少しづつ後退する。これは撤退ではない、いわゆる緊急避難だ。命の危険が危ない!!

 しかし遠ざかる私を見て、MADは凶悪な笑顔で指をパチン!と鳴らした。

すると足元の地面が急に盛り上がり、伸びた触手のように私の足へと絡み付き、そのまま下半身を這ってくる!?なんだこの展開はっ!?触手プレイとか私は刹那じゃないぞっ!?

 肩まで達した土は一瞬で固まり石となってしまった!こ、これは身動きが取れないっ!?


「土魔法のアースバインドを応用した魔法だよ。

 ストーンバインドとでも名付けようかな?」

「ドクター!私を一体どうするつもりだ!?」

「ん?決まっているだろう?お茶するんだよ。

 私なりの自信作だよこれは!味以外はね」

「最も重視して欲しい点を切り捨てないでっ!?」


 もがく私の目の前まで来た彼は優しく私のアゴを掴み、無理やり開かせた口に煙を上げる紫のバブルスライムをドロドロと流し込んでいく。頰を染めて嬉しそうに、口からヨダレが出そうな表情で。


「ほーらほら、ほーらほら美味しいぞう?」

「モガァ!?モガモガモガーーッ!!」

「ロウ、生きて帰ってきて」

「ナイマちゃん、それ難しそうだよ?」

「モガーーーーッ!?」


 涙を流して首を振りスライムの進行を食い止めようとするが、魔力強化された腕力と素早く位置を修正する無慈悲なテクニックで、コップに入っていた全ては私の喉へと流し込まれた・・完。



 と、脳内でエンドロールが流れている私だったが、なぜか口から漂うフルーティかつ爽やかな甘みと、喉を通り過ぎる炭酸のようなシュワシュワした感覚、そしてお腹から広がる治癒魔法のような優しい波動。これは一体何なんだ、まるで極上のシャンパンを思う存分飲み込んだような爽快感は!?


「・・・美味であるっ!!」

「「「エーーーッ!?」」」

「ふふふ、どうですか私のブレンドは。

 見た目はアレですが悪くないでしょう?」


 ペロペロ唇についた残りを舐め回す私を、気持ち悪そうに遠ざかりながら見る仲間たち。

得意げなMAD、いやここは神茶を生み出した天才と言うべきだろう彼は得意げに自身の椅子に戻る。

 そしてもう一度指をパチン!と鳴らして私の拘束を解くと、ゆっくりと腰掛けながら両手を口元で合わせたゲンドウポーズで私達に語りかけた。


「さて、挨拶が遅れましたね。私はサイロス。

 この村の村長であり、魔導士でもあります」

「お茶は私に振る舞うだけなのかっ!?」

「大変なんですよ?アレ作るの主に材料が」

「いいです聞きたくないです!!」


 あの味をどうやって生み出したかには興味があったものの、聞いてしまえば恐ろしく後悔しそうだったので説明しようとするMADを止めた。世の中には知らなくて良いこともある。


「本当に聞きたくないのかね?自信作なんだが」

「それよりも我々の話を聞くべきでしょう!

 この村の存亡がかかっているんですからねっ!」

「ふむ、しかしそっちはある程度見当がつく。

 この村を捨てて君達に合流するとかかな?」

「・・・わかっているなら準備すべきでしょう」

「理屈ではな、だがそれは無理だ」


 冷静に断言するサイロスは、指で羽ペンを摘んでクルクル回し始める。


「まず、人数だ。これだけの村人を移動させれば

 そちらの村の食料が足りなくなるだろう」

「狩りなどで補えますよ」

「短期間ならね。だが、長期は無理だ。

 それに非戦闘員が増えれば雑務も増える」

「協力しあって運営すればいい」

「そこだが、我々とウッドエルフは仲が悪い。

 どちらが上だとかで揉めそうじゃないか?」

「共通した敵がいるなら、纏めるのは可能です」

「共通した敵ならね。だが我々はすでに一度、

 奴らに敗北しているんだよ。意味はわかるね?」


 私は言葉に詰まった。そうだ、ダークエルフは敗北している。それはつまり・・


「敵にダークエルフが加わっている・・」

「その通り、我々の親族や同胞たちだ。

 それらを君達の村で迎え撃つと?我々と共に?

 間違いなく混乱が起きるが、抑えられるかね?」


 それは・・無理だ。

自分の父や兄をウッドエルフ達が殺せば、ダークエルフは感謝するだろうか?するわけがない。

 もちろん、最初は協力してくれるだろうが・・実際に目の前でそんな光景が繰り広げられたら、冷静でいられるわけもないだろう。何とか助けようとして混乱し、その隙を突かれることは大いにありえる。


「なら、どうするおつもりなのですか?」

「簡単だ、剣を探すのだよ」

「剣?まさか伝承の?」

「そう、『王剣キーブライト』を目覚めさせる。

 あの剣には色々な仕掛けがあるらしくてね、

 仲間の状態異常を回復させる力もある」

「キーブライト・・それが剣の名前か・・」

「伝承は君達も知っているだろう?

 あの剣を作り上げたのは火神様だ。

 我々には詳しくその内容が伝えられている」


 そう言ってサイロスは机の上に積まれた本をポンポンと叩いた。あれが剣のことを記した書物なのか、彼はずっと調べていたのだ。仲間達が敵にまわっている可能性と、助けるための方法を。

 その答えが『王剣キーブライト』。火の神が鍛え、光の神が力を吹き込んだ伝承の剣。


「色々考えたんだがね、それが一番だと確信した。

 薬や魔法も調べたんだが、戦闘時に可能な方法、

 それも広範囲に効果を発揮するものは少ない」

「なら、その剣は一体どこにあるんですか?」

「それがね、わからないんだよ・・」

「は?」

「まるで謎かけなんだ。伝承にはこうあったが」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 西の朝日と東の夕日が出会う時

 赤い焔が水辺を照らす

 そして女神が眼を覚まし

 光を照らして王を導く

 そこに在るのは王の剣

 癒し導く光の鍵


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ウッドエルフに伝わる伝承とは違う、それは火神の神殿に伝わる剣の物語の一節だった。

 闇神が望んだ信者の生存は叶ったが、王は森で眠りにつき、国は王を失った。

 それを哀れに思った火の神がやがて現れる新たな王が森の眠りを覚ませるように、眷属であるダークエルフにこれらの伝承を伝えた、とされるらしい。ウッドエルフに伝わる伝承で語られた王の剣は、火の神が創り出した剣に光の神が力を込めることで生まれるが、王剣を入手する条件はそれを再現するかのような内容になっている。しかし・・これは・・


「わかる・・かもしれない」

「な、なんだと!?本当かねそれは!?」


 椅子から立ち上がりこちらへ駆け寄るサイロス。

 私は神妙な顔付きで後ろに控えていたフォウを見る。

フォウはわかっていたように、しっかりと頷いた。


「西の朝日と東の夕日、

 それは恐らく・・これです」


 私はカバンからドワーフのダンジョンで手に入れた半分に欠けた赤い宝玉を、彼の前に取り出す。

その真紅の宝玉はかすかに赤い光を放ちながらサイロスの手に渡り、彼の手に収まると光は消えた。

 震える手で宝玉の欠片を持つ彼に、私は問いかける。


「西にあるドワーフの村にダンジョンがあります。

 そこで手に入れたものですが、恐らくは・・」

「ああ、滅んだ村の近くにも神殿があった。

 その地下には同じようにダンジョンも・・」

「なら、そこにいたゴーレムが欠片を持っていて

 恐らく私と出会えば試練が始まります」

「何ということだ・・まさか本当に存在するのか」

「ええ、あるのでしょう。おとぎ話ではなく、

 現実に存在するのです。王剣キーブライトが」


 「信じられない・・」と宝玉を見つめて黙ってしまったサイロス。書物などでその存在は知っていたようだが、実際に証拠が目の前に現れたことで、それが一気に現実味が帯びたものとなった。

 彼は徐々に口元を引きつらせ、やがて最初は小さく・・やがて耳を塞ぎたくなるような大声で笑い始めた。ヒャッヒャッヒャーーッ!!と気色悪い哄笑を上げながら宝玉の欠片を天にあげるMAD。


「やはり!やはり私は間違っていなかった!!

 王剣は実在し、我らはここから出られるのだ!」

「もしもし?」

「こうしてはおれん!すぐにこの宝玉を調べ、

 素材や魔力特性を突き止めねばならん!!

 まずは鑑定魔法で・・」

「おーい、おっさん!」

「聞こえてないみたいだよ?ロウさん・・」

「いや、魔法だけでは確実ではない!

 ここは薬液につけて反応を見るのが先だ!

 溶け出した物質を鑑定すれば詳しい構成も」

「うるさいだまれ」

「ちょっとそのハンマーを貸してくれないか

 欠片を採取したいんだハァハァいいだろう?

 《バキャッ!!》ピギャーーーーッ!?」


 ナイマが振りかぶったハンマーは見事にMADの頭を直撃し、彼は途中にある標本やら書物やらを引き飛ばしながら奥の壁にバシーン!と叩きつけられた。

ズルズルと滑り落ちる姿を見ながら、ナイマが一言。


「キモい」

「ちょっとやりすぎだと思うよナイマ・・」

「いや、あれぐらいで良いと思います」

「私もサブイボ出ちゃったよー」

「・・・!」〈コクコク!〉


 ミリィとニコが蔑んだ目でMADを眺めていた、その時。バン!と入り口のドアが急に開いた。

そこには息を切らし、全身を濡らして真剣な表情をした・・


 ふんどし一丁の男が立っていた。

 

男は唖然とする皆を見渡すとニヤリと笑い、ゆっくりと両手を翼のように広げて・・股間を突き出す!


「ヒャッホーッ!!待たせたなっ!!

 この俺が来たからにはもう安心だ!!

 その変態化学者には指一つ触れさせーー」

「お前が変態じゃーーーーーーーーッ!!」

「ブギョルァァァァァァァーーーーーッ!?」


 ドバキャーーッ!!っとド派手な炸裂音を響かせながら、ナイマからハンマーを受け取ったニコがフルスイング。男はドリルのように手足をブラブラと回転させながらMADの隣にドカン!!と着弾した。

 そのままズルズルと壁をずり落ちていく姿を見て私は思う。この二人、似ている。


「・・・・お久しぶりですね、怜さん・・」

「この変態も知り合い?」

「知り合い全員が変態のように言わないでくれ!」

「ううぅ・・その見た目は・・まさかロウさん?」

「残念ながらあなたもすぐに判りましたよ・・」

「ニコさん!私はあんなもの見たくなかった!!

 あんな汚いものが存在するなんてーーっ!!」

「よしよしミリィちゃん泣いちゃダメだよー!

 今から生ごみは残らず燃やしてあげるーー!!」

「ちょっとニコさん俺ってわかってるよねっ!?」

「燃えつきろ変態ゴミムシめ」

「キャラ変わってるよニコさんっ!?」


 炎を纏ったハンマーを高々と掲げるニコと、怯えて逃げる怜さんを見ながら私はつぶやいた。


「本は燃やしてほしくないなぁ」

「・・・王様もたいがいだと思うぜ?」


 侍、怜はこうして合流したのだった。


「アチャチャ!!ギャーーーーーーースッ!!!」




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



       ♯20 族長と王



「いやいや、まさかロウさん達に会えるとはね」

「私も聞いて驚きました。どうして怜さんが、と」


 ダークエルフの村にある食堂で、再開を祝い果実酒を手に乾杯する私達。

ほのかに甘い杏子のカクテルに似た果実酒はとても飲みやすく、しかしアルコール度数は高めという少し自制しないと危ないタイプのお酒だ。まあ、私にアルコールの効果はないんだが。

 服を着た怜さんはゲームでも来ていた侍装束に身を固めている。私がゲームで出会った時は大型の刀、太刀を愛用していた怜さんだが、今は初期装備の大脇差と脇差の二本を腰に差している。

 怜さんはゲーム内のギルド『Eden of valkyrja』、略称EoVのマスターだった人だ。色々あってギルド自体は解散したが、ゲームに残ったメンバーは今もその名を大切にしている。

 普段はただの変態だが、周囲への配慮や細やかな気づかいなど、同じマスターとして尊敬に値する人物だと言える。そう、そのぶっ飛んだ変態行為以外は。


「いや、ネイからイベントやると聞いてね。

 ちょっと顔出そうかなと思ったんだよ」


 やはり私達のイベントが原因で巻き込まれてしまったようだ。謝罪する私に彼は「気にしなくていいよ」と、軽く手を振って笑った。だが、その顔には少し寂しげな影が浮かんでいた。


「・・やはり奥方とお子様のことが心配でしょう」

「・・まあね、正直に言うと早く帰りたいよ。

 俺もこういうの嫌いじゃないけどさ」


 そう言って彼は木製のジョッキを空ける。

わざと思い出さないようにしていたのだろうか、人に話したことで一気に感情が溢れ出したようだ。

隣でニコが心配して見ているが、自分も同じなのだろう。静かにジョッキを口に運んでいる。

 私も年老いた母を置いてここに来てしまったが、残念ながら彼らの気持ちを理解するのは難しい。

寂しいと感じる事も、我が子を抱いた事もない私には。

 ミリィたちはダークエルフとの打ち合わせで居らず、この場にはプレイヤーだけが集まっている。それだけに暗い雰囲気になっても止める者はいなかった。ただ、空の酒樽だけが増えていく。

 だが、そんな中でガタッと音を立てて立ち上がった者がいた。


「おっさん、飲め」

「・・・いやいや、おっさんって俺?」

「つらい時は飲め、ニコも飲め」


 そう言って小さな酒樽からドバドバお酒を注ぐナイマ。いや、入れすぎだろ・・溢れてるし。


「ナイマちゃん・・・。

 そう、そうだよね!!元気出さなきゃ!

 暗い顔しててもしょうがないもんねっ!!」

「・・・」〈コクリ〉

「・・そうだな、ここで落ち込んでも仕方ないな。

 俺は絶対に、奥さんと子供の元へ帰るからな!」


 そう言ってなみなみと注がれたジョッキをグーッと空ける怜さん。いや、それけっこうキツいから。

そう思った私の前に、ドンッ!とジョッキを叩きつけた彼はこちらを向いて叫ぶ。


「ロウさん!!一緒に方法探してくれるか!?」

「え?・・ええ、もちろん手伝いますよ怜さん。

 手がかりはありますし、きっと帰れますよ」

「なら、大丈夫。今は飲め」

「おう!お姉さん追加じゃんじゃん持ってきて!」

「あ、この手羽先もおかわりくださーいっ!!」

「・・・」〈ガンガンガン!〉

「ジョッキを叩くなよC2・・」

「お、ニコさんけっこうイケるね!」

「えへへ〜!わたしけっこうお酒強いよっ!」

「お前、すぐ寝るじゃないか・・」

「ロウも一緒に寝る?」

「キミは黙って飲んでなさい」

「・・・・」〈ゴクゴクゴクゴク〉

「C2、お前に言ってないからっ!?」


 次々と運ばれる料理、どんどん空になる酒樽、そして奇妙な笑い声をあげる怜さんとニコ。

 C2もすさまじい飲みっぷりで既に樽から直接飲んでいる。可愛らしい見た目とのギャップが半端ないが、ときたま隣に座るフォウに無理やり飲ませたりしてるのを見ると、かなり出来上がっている。

 私はこのカオスな状況から逃れるべく、ソッと席を立って店から出ようとした。が、しかし。

入り口のドアを開けると、いつの間に移動したのか黒い天使が背後からガシッ!っと腕を掴む。


「どこへ行く」

「え?いや、ちょっとお手洗いに・・?」

「トイレならあっち」

「夜空を見ながらしたい時もあるんだよ」

「わかった、夜空を見ながらスる」

「キミはいったい何を言ってるのかな!?」

「大丈夫、アイツらはもう気づかない」

「計画的な犯行だったのねっ!?」


 逃げようとする私を羽交い締めにしたナイマは足でドアを蹴り、翼を大きく広げて夜空へと飛び立った。

そして洞窟が並ぶ山肌を駆け昇り、途中で大きく張り出した部分へと着地した。

 よく見ると小さな祭壇のようなものがある。


「ここには神さまがおられますよナイマさん!?」

「大丈夫、聖なる行為する」

「なんかちょっと発音おかしくないっ!?」

「久しぶりに食べる」

「性なる行為だよねそれっ!!」


 ドワーフの村から我慢してたのか、完全に眼がイっちゃってるナイマさんは止まりませんでした。

こうして星がきらめく夜空を眺めながら、闇夜の天使は悪魔へと変わっていったのでした・・。



 翌朝。

「もうお腹いっぱい」と寝言を言うナイマを背負って必死で崖を降りた私は、もう当たり前になってきている頰を染めた住民の視線とヒソヒソ声に晒されながら、事前に教えられた自分たちの洞窟に向かう。

 そこは小さな部屋になっていて、家具もなく藁を積んだ簡易的な寝床があるだけだった。

まあ、逃げてきたダークエルフへの住居が優先されているんだろうし、寝れればオッケーなんだけど。

 背負ってきたナイマを寝床に放り出して、さすがに疲れた私も隣で横になった。

そうして昨夜のことを思い出す。エッチな意味じゃなくて。


 すでに当たり前となってきているが、なぜこんなに求められるんだろう?気に入られたと思えばいい話だが、さすがにあの眼は普通じゃなかった。普段はアイスブルーの瞳が紅く染まっていたのは見間違いでは無いと思う。闇神との接続が絶たれて不安定なのは理解出来るが、それだけであのような変化をするものだろうか?何か重要なことを見逃している気がする。

 以前にそのことをナイマに聞いてみたが、「ストレス発散」というどうしようもない理由しか話してくれなかった。これはただの勘なんだが、コイツは何か隠している気がしてならない。

 眠っている横顔を眺めながら頭を撫でていると、幸せそうな顔で寝息を立てる。

 妹を寝かしつけていた時を思い出して、少しおかしくなった私は考えるのを止めた。もし話したくない事なら無理に聞かなくていいだろう。いつか話してくれる時が来るかもしれない。


 起き上がった私は少し回復した身体で伸びをして、立てかけていた剣の柄を握った。いつもの鍛錬のために階段を降りていると、やはりというべきかミリィと出会ってしまった。

 彼女は少し不満げな表情でこちらを見ると、プイッと顔を背けて通り過ぎていく。

わけもわからず後ろ姿を見送ったが、何かあったのだろうか?私は気になりつつも階段を降りて、鍛錬できそうな場所を探していた。その時、一人のダークエルフが私の方に歩いてくるのに気づいた。

 そのダークエルフは一目見て強者の雰囲気を纏っており、その鋭い眼光をこちらに向けていた。

私は少し緊張しながら、目の前に来たその青年に声をかけた。


「何か私に用でもありましたか?」

「・・ああ、お前がロウ・セイバーか?」

「ええ、その通りですが、あなたは?」

「俺はギルノール、新しい族長になった者だ」


 エレノール青年の兄上か。

しかし何でこちらを睨むんだろう?何か悪いことでもしたんだろうか?


「話がある、付いてこい」

「いきなりだね。

 こちらの都合とか考えてないのか君は?」

「何だと?」


 更に睨み付けてくるギルノール。

こんな奴は呼び捨てで十分だ。傲慢なイケメンとかに敬意を表す必要を全く感じない。


「お前、俺が誰かわかっているのか?」

「知ってるよ、滅びる寸前のダークエルフ。

 その族長の息子で今は後を継いでいる。

 エレノール青年の兄貴だろ?」

「そう簡単に滅びはしない」

「滅びるよ、簡単にね。君は目の前で見たはずだ」


 私の言葉に顔をしかめるギルノール。


「お前らも俺達の力がなければ同じになるだろう」

「かもね、でもそっちは確実だけど、

 こっちにはまだ希望はあるよ」

「ふん、お前がその希望だというのか?」

「近いけど違うね。私がいれば剣が手に入る。

 剣が手に入れば脱出して援軍も呼べるだろう?」


 それを聞いて驚く彼に、私は更にたたみかける。


「戦う以外の方法もあるんだ。

 でも一人じゃ無理だ、助けがないとね。

 そんなツンケンしてちゃ助けてもらえないぞ?」

「我々に助けなどいらん!!」

「君を助けなくても、他の人は助けるよ。

 まだ族長として認められてない君の意見など、

 私からすれば一個人の事に過ぎない」


 拳を握りしめて怒りを露わにする彼を見ながら、私は若いなぁとその顔を眺める。

 人の前で偉そうにするのは別に構わない。それも上に立つ者の仕事と言っていいし、嫌われてでも組織の事を考えて行動するなら必ず主だった者はついてくる。だけど、客に偉そうにするのはダメだ。

 何か事を成すためには、必ず誰かの協力が必要だ。それなのに「あいつは偉そうだ」と思われたら、その組織自体の印象が偉そうに伝わる。代表者とは組織の顔だ、例え本意でなくても組織のイメージに合わせて仮面を被らないといけない時もある。


「貴様に・・何がわかるというんだ」

「さあね。父を亡くした悲しみと敵への怒り、

 他種族の力を借りなければいけない悔しさ。

 他にも色々あるだろうけど、どうでもいい」


 私は彼の眼をまっすぐ見て言った。


「大切なものを護る為なら、自分を捨てろ。

 たとえ道化になろうとも、必要なら被れ。

 出来ないなら族長など辞めてしまえ」

「・・・・貴様・・いったい何を・・」


 そう言いかけた彼に私はクイッとアゴで示す。

それに釣られて周囲を見た彼は、周りの視線が自分達に集中していることに気がついた。


「トップはね、常に見られてるんだ。

 君が横柄な態度で客人に接しているのも、

 こうやって怒りに震えているのもね」

「・・・・」

「だから、相応の仮面を被れ。君の行動や決定に

 一族の命運がかかっているんだ。

 失敗は許されない。やり直しはきかないんだ」


 そういう私もちゃんと出来ているわけではないんだがな。でも、そうしようとするのは伝わるものだ。そして伝わった何かが立場を作っていく。彼を怒らせたのも、簡単に感情を露わにする自分に気づかせるためだったが、果たしてどう出るか。


「・・・俺には出来ないな。

 少なくとも怒りを抑えることなど出来ん」

「なら、その向きを変えてやればいいだろう?

 お前の敵はいったい何なんだ?」

「・・村を滅ぼし、父を殺した奴らだ」

「分かっているじゃないか。なら今すべき事、

 この場ですべき事も分かるんじゃないか?」

「・・・・・」


 私の言葉に黙り込むギルノール。

しばらくこちらを見てざわついている周囲の村人を眺め、おもむろに私の方を向いて口を開いた。


「・・無礼を許して欲しい。

 族長として聞きたい事があるんだが・・」


 まだ睨んでるけど、言葉使いは丁寧になった。一応、謝罪っぽい事もしているし。

私はフゥ、とため息をついて彼に答えた。


「構わないよ。いったい何が聞きたいんだ?」


 そう言って笑うと、彼も少し笑った。

そう、君と私は同じなんだ。どんなに気に入らない相手だろうと、我々は手を組まなければならない。

でなければ、取り返しがつかない事が起きてしまう。だから、偽ってでも笑わないといけない。


「弟がそちらに着いて話していると思うが、

 我々が守護者と呼んでいたゴーレムがいる」

「ええ、聞いているよ。同じタイプのゴーレムと

 戦った事もある」

「そうなのか?」

「ドワーフの村のダンジョンに居たんだ。

 彼がこの宝玉の欠片を持っていた」

「ああ、フォウという少年のことは聞いている。

 なら話は早いな、その守護者なんだが。

 どうやら敵に回ったらしい」

「な・・っ!?」


 驚いた。

ギルノールはしてやったりという感じでニヤリと笑った。こいつ意外と性格悪いな!!

 だが、それも一瞬のことで再び彼は言葉を続けた。


「斥候に出ていた仲間から連絡が入った。

 奴らはこちらに向かっている。

 全軍ではないようだが、そこに姿を見たらしい」

「あのゴーレムは簡単に操れるものではない。

 何か仕掛けがあるはずだ」

「ああ、俺もそう思う。だが間違いないようだ。

 自分で歩いていたらしいからな」


 感情を抑えて淡々と話すギルノールだが、内心はそんな穏やかではないのだろう。

眼で私にどうする?と問いかけている。そうか、人気が無いところに連れて行こうとしたのも、傲慢とも思えるほどの態度で私に接したのも、彼には選択肢がなかったからか。

 今から援軍を呼んでも間に合わない。そして今の戦力では勝てず、逃げても一部は追いつかれるだろう。つまり、詰んでしまった。だから私たちを脅してでも前に出し、時間を稼ごうとでも思ったのか。


「まいったな、これは簡単な状況じゃないぞ」

「当たり前だ、こんなところで話す時間も無い。

 だが、お前はウッドエルフを助けたそうだな?

 ならば何か手を考えろ」

「また悪い癖が出てるぞ?ギルノール君」

「うるさい、そう簡単に直るか。

 それに俺のことはギルでいい」

「なら私のことはロウと呼べ。地図はあるか?」

「この周辺の地図ならサイロスが持っている。

 用意させるが、どこに持って行かせる?」

「時間無いんだろう?ここでいいよ。

 どうせ今日は良い天気だ、戦争日和だな」


 そう言って私はその場に座り込み、近くの女性にお茶と朝食を頼むと伝えた。慌てて食堂に走る後ろ姿を見ながら、他の者に仲間と装備を集めるよう指示を出す。最初は難色を示していた彼らだが、ギルノール・・いや、ギルがそれに従うよう伝えると、彼らはそれぞれの方向に走って行った。

 彼が言うには、敵の数は約500体のスケルトンを中心とした小部隊らしい。それでも我々の5倍はいるんだが、その上にオークやオーガ、ゴブリン含む混成部隊が100、そして守護者と呼ばれるゴーレムがそれに加わっているとのこと。全く、圧倒的に不利だな。変な笑いが出てきそうだ。

 届いた地図を見ながら、そわそわする周囲と何をしてるんだ?時間がないんだぞ?といった感じで睨んでくるギルを無視して、私は地形を読む。

 まず、勝てるかどうか・・無理だ。準備もない上に訓練もしていない部隊を率いて戦うなど自殺行為、ならば籠城戦?これも無理だ。援軍としてウッドエルフは期待出来るが、同じく合同訓練もしていないのに共同作戦とかありえない。それに双方の兵力を合わせても200人に満たない。不利なことに変わりはない。なら逃げるか?まあ、それしかないんだが、問題は600以上の敵兵をどうやって煙に巻くかだ。


「おいギル、ここに魔石とかはいっぱいあるか?」

「あの変人が大量に集めているはずだ。

 集めさせるか?」

「持って行きやすいように分散して袋に詰めて。

 あと火の魔法を使えるのは何名いる?」

「10名ほどだな。やはり逃げるのか?」

「ああ、逃げる。だが単純に逃げるのも難しいし、

 何よりしゃくだ。嫌がらせしよう」

「おい、俺達に何か出来る事は無いのか?」

「あるよいっぱい。とりあえず集まってきたな」


 顔を上げると私の装備を抱えたフォウやニコ、そしてナイマを背負ったC2の姿も見える。まだ寝てるのかアイツは・・と思ったが、その後ろには既に装備を整えた怜さんやマンマゴル達の姿もあった。

 怜さんは面白そうにニヤニヤしながら手を振っている。マンマゴルに何か聞いたな?あれは。


 私はお尻についた泥を払い、立ち上がる。

一斉にこちらを向くダークエルフ達を見渡しながら、ゆっくりと、彼らに伝えた。


「さあ、逃げるぞ。ついでに敵を殲滅する。

 もし仇を討ちたいなら、私に付いてこい!!」


 静まり返った一同の中で、私の声が響く。

その直後、ウォォォォォッ!!!という爆発するような雄叫びが周囲を埋め尽くした。

 私は剣を地面に刺し、背を伸ばしながら

「なんでこんな事になっちゃうのかなぁ・・」と、小さく呟いたのだった。

 



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