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Ⅶ・Sphere 《セブンスフィア》  作者: Low.saver
セブンスフィア
1/21

0章『開かれた扉』♯1〜3

初めまして、執筆者のLow.saverです。

今回が初めての作品となります。恥ずかしい限りですが、お付き合い下さい。


この物語は、私が以前遊んでいたゲームで、共に闘い、語り合った仲間へのメッセージであり、

すでに語る事が出来なくなった、かつての仲間達へのラブレターでもあります。

内容は違うものの、あの時に感じた想いを込めて、拙い文章を綴らせて頂きます。

短い間ではありますが、暖かく見守って頂ければ幸いです。


では、宜しくお願い致します。

     第0章【 セブンスフィア 】

        ♯01 提供者



 私は記者をしている。

 愛しているが世界で一番恐ろしい妻と、二人の娘、二匹の犬を養い、そして郊外に庭付きの一軒家を構えられる程度には、仕事をしているつもりだ。今はその自宅で記事を書いている。

 そう、今まで数々の記事を扱ってきた。

 私が主に活動している北欧だけでなく、時には中央アジアや南米、東南アジアにも足を伸ばし、様々な事件を題材に、様々な事実を目にしてきた。家族を持ち、フリーになった今でも私の知的好奇心は衰えていない。そうした今では、探偵のように難解な事件の依頼さえ私の元へ届く。

 ・・だが、今回はその中でも群を抜いておかしな記事になるだろう。


 私が今、追いかけているのは、2年前に起きた大量失踪事件。一度に、同時刻に、千名もの人間が行方知れずとなり、今では『LOST 1000〈ロストサウザント〉』と呼ばれる、あの事件だ。

 現在でも原因不明。関係しているのは一つのアプリケーションソフトのみ、そのソフトも既に無い。

 国籍の違う1000人もの人間が、同じ日の同じ時刻に、それぞれの国で消える前の状況をそのまま残して突然行方不明になる。最初は先進国からそれは徐々に広がり、やがて世間は騒然となった。捜査を担当した国際警察が同時誘拐テロと報道し、話題になったのは覚えているだろうか?


 当時の私は愛する妻に、取材に行ったいかがわしいお店の名刺を突き出され、ある意味、人生の行方不明者になるところをこの一報で救われた。恐らく私ほど感謝と熱意を持って、この事件を追いかけた者はいないだろう。完璧だと思える状況を作り出しても、意外な所に証拠や痕跡は残るものだ。

 特に酔っている時には。

 だが、現在も彼らの行方はわからないままであり、当初は大掛かりな捜査チームや、我々のような報道人や記者も多くが彼らの足取りを追った。しかし、上記の事以外で進展は無く、捜査もやがて打ち切られ、世間から次第に忘れられていく。

 私は現在も一部の被害者家族から依頼を受け、事件の真相を掴むべく活動しているが、ついこの前まで何の進展もみられなかった。一部のオカルト分野の人間が『魔法だ』『いや宇宙人の襲来だ』と騒ぎ立てたが、この科学捜査が進んだ現代において、何の証拠も残さずに消えるなどという事はありえない。

 私は他の依頼をこなしながら、少しづつ調査を進め、やがてそれは急激な進展へと繋がった。


 そして今・・・、私はとあるお城に居る。


 いや、冗談では無い。


 ようやく掴んだ情報提供者。その住所は北の国の、というか割と実家の近くにある深い森の奥だった。険しい山々に囲まれた私の実家がある街から車で3時間、幾つもの山を越えて、森を越えて、誰がいつ造ったのかわからないぐらいにクソ長いトンネルを延々と私の愛車サーブ9−3を走らせることでようやくたどり着くぐらい。なぜ道があるのか不思議なほどの自然に囲まれた場所をナビが示した時、私は妻に数日留守にすると伝えることを決めた。

 だが、取材交渉を経てようやく掴んだ手がかりだ。この数年にわたる調査に決着をつける事が出来るかもしれないと、内心で喜び勇んで向かった私だった。

 希望された時間は夜更け。

 近所にかろうじて存在した集落で宿を取り、時間になるまでWi-Fiも無いそこで時間を潰した私は、再びハンドルを握って走り出した。ガソリンの残量は残り少なかったが、経験からトランクに予備の燃料を積んである。少しツンとくる揮発性燃料の香りにも充分慣れてしまった頃、ようやくたどり着いた。

 そこは、そもそも住所と呼べるのかさえ疑問に思う様な、そんな深く暗い森の中に在った。


 まさに『古城』と呼ぶに相応しい、その威容に唖然としたのも束の間、少し小高い丘の上にあるその城の前で車を止めていた私を、少し小柄なヴィクトリア調の衣服に身を包んだメイドガールが出迎えてくれた、ああ、ゲイシャガールで無いのが残念ではあるが。

 その女性は車を停める場所を無言で案内し、降りた私を手招きして城の中に誘った。

 城内は、驚くほど完璧に状態を維持されており、恐らくまだ建築されて間もないように感じられた。

豪奢な内装に紅いカーペット、黄金色に輝くシャンデリアに目を奪われながら、様々な花が綺麗に彩りを添える中庭を抜け、少し大きな階段を上がって辿り着いた部屋に、お姫様が居た。


 そう、お姫様だ。

 うちの娘もお姫様の様に可愛いんだが、流石に勝負するには分が悪い。いや、トータルで考えれば負けていないんだが。妻に似た内面は別にしても。

 だが、比較するのも躊躇われる外見の差は如何ともしがたい。その少女の人間離れした美貌、白磁を思わせる滑らかな肌、フリルの付いた漆黒のドレス、プラチナブロンドの髪を縦ロールに緩く巻いた姿は、まさに夜の国に住むお姫様だったのだ。私もいろんな国で様々な女性を見てきたが、これほどまでに美しく存在感のある女性と出会う事はなかった。

 そんな少女が、窓際の椅子に座っていた。


「ようこそおいで下さいました、ミスター」


 凛とした声音と柔らかな仕草で、少女は部屋の隅にある窓際の、小さな丸い木製のテーブルを挟んだ椅子を指し示した。座れ、ということだろう。その仕草は指示することに慣れていると感じた。


「星を眺めていましたの。今日はよく晴れていますので、綺麗ですよ」

「・・お言葉に甘えて鑑賞させて頂きますよ、お美しいレディ」


 映画で見た貴族の真似をしながら、私は椅子に腰掛けた。手が震えていたのは内緒だ。

少女はクスクスと上品に笑いながら頷いた。貴族の真似は多少効果をあげたようだ。

 まあ、喜劇的に。


「お上手ですのね。レディなんて呼ばれたの、本当に久しぶりですわ」


 嬉しそうにこちらへ身体を向けた少女は、蕩けるような笑顔でこう言った。


「楽しいお話が出来そうですわ」


 そう、取材に来ていたのだ。ちょっと忘れていた。

 あまりにも浮世離れした目の前の少女と、時間が止まったかのようなその場所で、私は軽い世間話をしながら今回の取材を行うきっかけとなった、あの件を思い出していた。

 この少女が事件に関わっている、と教えてくれたのは、高級官僚の秘書をしている友人だ。

 驚いた事に向こうは私がこの事件を追って動いている事を知っており、誰よりも多くの情報を集めている事も把握していた。そうしてある日突然、私に連絡をくれたのだ。

 その時、彼女はこう言った。


 下手に動くと危ない、と。

 懐に飛び込んだ方がマシだ、と。


 友人は向こうから接触があり、事の真相を私に教える代わりに、これ以上の調査をやめさせるよう指示されたというのだ。どうやって私と彼女の繋がりを、そしてなぜ国家組織の上層部を通じて連絡を取ったきたのか等、私の疑問は増えるばかりだったが、彼女はどうせなら一番詳しい者に聞けばいいと、今回の件を素早く纏めてくれたのだ。友人である私に危険が及ばぬよう、細心の注意を払って。


 で、当の私は今、お城に住むお姫様の前で、暢気に紅茶を飲みながら星を眺めている。

友人の真剣な表情を思い出し、少女が見た目通りのお姫様ではないと気合を入れなおした私は、本題である失踪事件について、彼女への質問を開始した。

 改めて考えてみても、確かに尋常ではない事件だ。

千人もの人間が痕跡を残さず一度に消えるなど、どうすれば可能になるのか。現代科学では解明できないその手法に、どのようなトリックが隠されているのだろうか、と、私は疑問をぶつけてみた。

 信じがたい事件だ、と。


 しかし、その事を正直に少女へ伝えると、彼女は笑ってこう言った。


「いえ、信じるしかないと思いますわ」


 確信を持った表情で、彼女は私に伝えたのだ。あれは実際に起きた事なのだと。


「ほほう、それはどういう意味ですかな?」


 私は未だに残る緊張と、胸から飛び出しそうな好奇心を抑えながら、彼女に問いかけた。

少女はお行儀良く紅茶を口に含ませてから、ゆっくりとこう告げた。


「私も、そこに居りましたから」





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


       ♯02 GAME



 急いでいた。


 イベント開始時間まで、あと1時間程。

 慌ただしく片付けと引き継ぎを行い、大急ぎで会社を後にしたのは5分前ぐらいか?

 昼休みにいつもの狩場から開始場所まで移動しておこうと考えていたのに、まさかの大クレーム発生。おかげで昼飯抜きの残業追加、今もイベント開始時間がすぐそこまで迫っているという、たまらない状況に至っている。このまま帰宅してからでは間に合わないと、私はいつもの場所に車を走らせた。

そう、幾つになってもどこかにそれは存在する。いわゆる、僕の秘密基地ってやつだ。

 職場からほど近い山の上にある公園に着いた私は、すぐに自販機横の駐車スペースを確保。携帯に電源コードを差し込んで充電を開始し、その後、先にトイレを済ましてからコーヒーを買う。

 そして残り時間を確認しつつ、暖かく異常に甘いコーヒーを喉に流し込んで、ようやく一息ついた。

 ここは通勤途中にある公園、その売店エリアだ。

 すぐ近くに携帯の電波塔があるため、アンテナは常に最大。すぐ近くにトイレ、自販機もあり、今みたいな夜だと誰も居ない。夏には暴走族やカップルが居たりもするが、今みたいな肌寒い初春だと、まず現れない。よって、このような場所は緊急時に集中してゲームをするには最適な、隠れスポットになるわけだ。時間が決まっているギルド戦の時には、毎日の様にお世話になったものだ。


「よし、あと45分あるな」


 車載の充電器を差し込み、素早くゲームにログインした私は携帯画面に表示される、グループチャットに目を通す。既にインしているギルドメンバーの会話をチェックしつつ、隣のタブレットを起動。今日のイベントに参加するメンバーと照合しながら、まだ居ないメンバーを調べる。


【やあ、みんな思ったより早いな。】

【あ、ロウさんこんばんわ〜!!】

【チーッス】

【けっこう集まってますよ?】

【今、どこのサーバーに居ます?】

【Δサーバーだな】

【昨日ドロップアイテム狙いで周回してたから】

【マジかw】

【ちょうど良かった!ニコさん拾ってこれます?】

【θサーバーなんですけど近いんじゃない?】

【構わないが、まさかまた迷子か?】


 会話ログが流れていく。

入力出来る文字数に限界はあるものの、慣れた私と画面の向こう側にいるであろう仲間達は、まるで側で会話しているように違和感なく言葉を交わしていく。最初は打つのに慣れておらず、色々と戸惑ったものだったが、人は学習する事が出来る。会社で教育係のリーダーも務めている私にとって、それは毎日繰り返しているような事だった。考えるな、感じろ。

 だが、仲間の一人である、ある特殊な才能を天から与えられた人物を迎えに行くよう頼まれた時、感じるべきシックスセンスは警報を鳴らす。ちょっと待て、Δサーバーからθサーバーまで結構あるぞ?

 左手の手首にあるタグホイヤーに目を向けてから、私は眉を寄せてチャットへの入力を再開した。


【とりあえずダッシュで向かうんだが、どう考えても集合場所のΓサーバーまで20分はかかる】

【もう!!何でまたニコさん迷ってんのよ〜っ!!あれだけ遅れないように言ってたじゃん!!】

【ネイ、自然災害のようなものだ。諦めよう】

【あそこで迷うような所あったっけ?】

【そこを迷うのが迷子神、乙】

【せっちゃん、容赦ないよね^_^;】

【タースーケーテー】

【何もないただの平原エリアだな。他の仲間達の到着確認と集合時間の修正を頼む】

【なんか聞こえたwww】

【ロウさん了解。こっちで確認しとく】

【ニコ、どこにいるんだ?今から向かう】

【えーっとね、草が生えてるところー!!】

【そうか、土に還れ】

【www】

【ここにも草が生えたよwww】

【私のいる場所、ニコさんの方が近いなー。向かおうか?】

【わたしも近いですし、迎えに行きます!(^-^)/】

【俺達も近いからそっち向かうよ】

【ああ、モモ、Gu、ネイ。エリアが近い者で集まってから集合しよう】

【近くに城があるはず、そこで落ち合おうよ】

【了解だ、ではまた】

【ううー、ごめんなさーい( ;∀;)】


 参ったな、いきなり予定が狂いそうだ。

我々がプレイしているこのゲーム『セブンスフィア』は、携帯アプリとしてはかなりリアルだ。

 ある日突然、気付いたら携帯にインストールされていた怪しげなアプリだったが、警戒しながらスタートしてみたら、とんでもないクォリティのMMORPGだった。私以外にも同様にアプリを入手した人間も多く、かなりのプレイヤーが遊んでいる。操作方法が簡単なので、男女問わず評価は高い。

 豊富なアバターの選択肢、多彩なスキルと、階位クラスシステムによるわかりやすい能力分けなど、実際に様々なゲームを遊んでいたプレイヤー達も唸らせる、まさに神ゲーだ。

 エリアごとに複数のサーバーを使っており、私が参加している日本でも遠く離れた国でも、そのエリアに足を踏み入れれば一緒に行動できる。時折英語やら中国語やら、よくわからない言葉もチャットに出るため、最初の頃はかなり戸惑った。だがどんな手法を使ったのか、ある時期から自動翻訳機能が追加されたため、自国語の設定さえしておけば会話が可能となった。それ以外にも初期はトラブルも多く発生したが、運営にメールすれば即座に反応してくるのは驚いた。

 まあ、慣れていない感じのダメ運営ではあるのだが、対応は良く、特に問題なくプレイ出来ている。初期から遊んでいる私は、その過渡期にシステム説明がほとんど無かったので、間違ってギルドを作ってしまった。その時はMMOに慣れていないこともあり、真剣に悩んでしまった。

 だが、機能改善や入ってきた仲間にも助けられて、今では100人を超えるメンバーを抱えるゲーム最大級のギルドマスターとして活動している。

 と、言っても廃課金ギルドには敵わないんだが、まあ、楽しませてもらっている。


 そして今日は4月16日、いつの間にかギルド2周年を迎える事が出来た。

なので、面倒ではあるが記念イベントでもしようと、盛り上がっていたのは良いが・・・やはりリアルに作りすぎだろ?このゲーム。

 移動は登録ポイントまでオート機能で行けるが、各サーバーにあるフィールドを行き来するにはフィールドの端まで移動しなければならないし、クソ広いフィールドをひたすら歩く事になる。

 そして満腹度や睡眠のパラメータも存在するため、長時間プレイしていると戦闘中にお腹が鳴って動けなくなったり、移動中に突然アバターが寝落ちするというような事態が発生するのだ。

 定期的な食事や睡眠をとることで、健康的な冒険を行えます。と、運営から苦情に対する返答が来た時には、多くのプレイヤーが苦笑いしたものだ。さらに調理スキルが上昇するとステータスが上昇したり、高い宿で宿泊すると睡眠ゲージが短時間で増えるなど、このゲームならではの機能に呆れてしまう。

 そんな事を繰り返したプレイヤー達も今では、まるでリアルの世界にいるように冒険し、生産し、ゲームを存分に楽しんでいる。IDから5万人程度が参加していると思われるが、とにかくゲームフィールドが広いために多いとは感じられない。そしてその広すぎるフィールドは、時としてこのように我々を苦しめるのだ。移動に時間がかかる、ワープポイントが無い、障害物が多すぎる、やっぱり広すぎる。

幸い、私は騎乗スキル持ちなので愛馬を駆って移動出来るんだが、それでも面倒だし時間もかかる。

なんせ馬にも空腹や睡眠、そして好感度が設定されているらしく、ちゃんと餌をあげないと拗ねて動いてくれないのだ。餌となる飼葉は街でも売っているが、やはり騎士職はお金がかかる。

 まあ、そのおかげで生産や補給なんかもリアルに成り立ってるから、後方支援や一般人プレイなど、様々な遊び方が出来るのも魅力となっているため、アリといえばアリなんだろうけど。

 そうこう言ってるうちに、馬上から途中のモンスターを蹴散らしながら全力で駆け続けた結果、あと少しでθサーバーエリアに辿り着く所まで来た。あとは迷子を確保して連れ帰ればミッションクリアだ。

 ホッとしたその時だった。


「ん?画面がおかしいな・・・?」


 現実に引き戻された私は瞬きをしながら携帯を見直す。なんだか少し画面がブレて見えるような気がした。うん、仕事のし過ぎかもしれない、残業を減らすか。と思った矢先。


「なんだ?いきなり画面が暗くなったぞ?」


 今まで携帯アプリとしては過剰すぎるほどの、超高品質なグラフィックで映し出されていたフィールドが突然、真っ暗になった。故障したのか?今このタイミングで?と、絶望感が私を襲った。

 だが、まるで再起動したように携帯画面に文字が並び始め、そして中央から徐々に全体へと、なにか図形の様なものが浮かび上がってきたのだ。


「な、なんだこれ・・・魔法陣みたい、な・・っ!?」


 画面に、六芒星の魔法陣が現れ、回転し始める。

最初は画面内に収まっていた魔法陣は、だんだん大きくなっていき、画面からはみ出して私の視界いっぱいに広がる。そう、現実世界の空間に、それははみ出してきたのだ。

 混乱する私の前で、青白い魔法陣は巨大な何重もの円となって輝きを放っている。

私の愛車、レクサスISのハンドルは既に見えなくなっていた。やがて魔法陣から湧き出し、周囲を渦巻き始めた暗闇が全てを包んでいく。外の景色が消え、車の内装が消え、そして自身の身体も・・。

 あまりのことで言葉を発することも出来ず、またスピーカーから甲高いキーンという音が響いていたが、それすらもやがて聞き取れないぐらいの音量に増幅され、身体を震わせる。


「あ、あ・・・い、痛い、頭が、割れ、る・・・」


 耳は全く役に立たない。

 眼は既に何も映さない。

 身体の感覚は消え失せていく。


 世界を全て包み込むような、黒い光と音の渦に巻き込まれて・・・私の意識は薄れていった。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



♯03 暗闇の少女



 気がついた私が最初に見たものは、暗闇だった。

 見えているという表現が正しいのかは別にして、私は四方を見渡し、何も見えない事を確認した。

 自分でもとんでもない状況だと思うんだが、意識を失っていた間は何か暖かいものに触れているような、まるで夢のように不思議な体験をしていたことから、混乱する事もなく落ち着いていられる。それがなぜかとても懐かしく、嫌な気分ではなかった事が私を少し冷静にさせていたんだと思う。


「ここは・・・、何処なんだ?」


 身体の感覚は、ある。

 何かわからない違和感は感じるものの、手を握ってみた感触、足裏に伝わる硬さは確かで、声を出してみたが・・これも特別変には思わない。何か少し他人の声のように聞こえたが。


「まいったな、誰もいないのか」

「居ますよ」

「っ!!?」


 突然響いた声に、心臓が飛び出してタンゴでもくるくる踊りだしそうなぐらいに驚いた。

小学生ぐらいに友人の背後に忍び寄り、大声を出して驚かせるのが得意だった私は、今になってとてもひどい事をしていたと気づく事ができた。彼と再会したら謝ろうと、強く決心するぐらいに。


「驚かせてゴメンなさい。ずっと声をかける時機を見計らっていましたので」

「い、いや、おおおお驚いてはいないぞ?」

「・・・動きがかなり機械的になっていますよ?そう、ロウ・L・セイバーさん」


 声をかけてきたのは、黒いワンピースを着た白髪の少女だった。

身長は150cmぐらいか?病的に白い肌と、漆黒のドレスが異様な雰囲気を放っている。

 てか、どっかで見たような気がする。


「あれ?運営のアバターじゃん!」

「はい。この姿の方が怪しまれないと思いましたので」

「まあ、確かにわかりやすいけど。・・ということは、もしかしてここはゲームの中?」


 ああいうゲームを楽しむ者なら、そんな妄想の一つや二つなど当然のように抱いているはずだ。

少年なら真剣にかめはめ波が撃てると信じて、少女ならきっと変身できるとステッキを振ったように、私達は現実と非現実を行き来して生きているのだ。

 大人になったからといって、その病気が治るというわけでは無い。それはすぐ側に立っているのだ。

そんな事を考えていた私に、少女は落ち着いて答えを口にし始めた。


「いえ、ここはゲームではなく世界の狭間。閉じた世界の境界線、その一部を部屋にしたものです」

「・・・へ?」


 訳がわからない。

世界の狭間と言ったか?ゲームではなく現実世界の世界のことか?この大宇宙の果てにあるという暗黒空間にはガミラスやらデススターやらではなく、ダークマターすら届かない無の空間が広がっていると、中学生の時に読んだニュートンには書いていたんだが。そしてその世界の狭間に、なぜ運営のアバターが居て、なぜ私と話しているのか。


「・・世界の境界。ならここはゲームじゃないけど、ゲームが関係しているってこと?」

「はい。流石は騎士王の二つ名を持つギルドマスターですね、その通りです」

「・・・いや、それチャットアイコンがそれだから付いたあだ名だから」

「そうでもありません。我々の中でも、あなたの評価は高かったと思います」

「そう、でもそれは主に優秀な仲間のお陰だと思うけどね」


 まさか運営が私に付けられた厨二病的な二つ名を把握しているとは思わなかったぞ。長くゲームをしていると有名になったり、変に名前が大きくなるという事はよくあるものだ。そしてそれは少し病気をこじらせた一部の者にとって恰好の素材となり、かくして私にも二つ名が付けられていたのだ。

 『騎士王』、名乗るのも恥ずかしいそれは、前述した私のアイコンと、王国の名を持つ我らがギルド、そして何度か出ていった公開チャットの振る舞いから付けられたもの。ゲームの中でしか通用しない、私を表す言葉。他にも『慢心王』や『弓兵』『罠師』など、様々な人物がその毒牙にかかっていたが、大部分は喜んでいたように思える。やれやれ、本当にこの病気は完治が難しいものだ。

 だが、お陰で少し落ち着いてきた。少なくとも知り合い?がこの場に居るのは心強い。


「で、何なんだこれは?まさか、実は私が世界を救う運命を背負った勇者だったとか?」

「いえ、貴方は上位プレイヤーに辛うじて引っかかる程度の、まあ普通の人間ですね」

「すいませんねっ!!討伐イベントとかファントム戦とか仕事でなかなK参加できなかったんで!!」

「いえ、でもあなたの課金額は上位プレイヤーとして恥ずかしくない金額でしたよ?優秀でした!」

「評価高いのはソコなのかよっ!?」


 やはりクソ運営だったのか!!

時間を金で買う大人の必殺技を多用していた私は、いつの間にか運営に覚えられるレベルにまで達していたというのか!!課金ダメ絶対!!


「冗談はさておき、そろそろ先に進めたいですが。けっこう忙しいんですよね私も」

「先にネタ振ってきたの貴女ですよ!?」


 そんな私のツッコミを余所に、黒い服の白髪少女(腹黒運営)は軽く手を振り上げた。

すると何も無かった空間に、どこかで見たことのある画面が表示される。


「あれ?これってキャラ作成画面じゃないか?」

「その通りです。これを使う方が説明も実行も簡単だと思いまして用意しました」

「まあ、何となくやりたい事は解るけど、まず理由について何らかの説明を求める」

「・・わかりました。ではまず何故、貴方が此処に居るのかをご説明しましょうか」


 そして、彼女が話した内容はとてもじゃないが現実とは思えないものだった。

 まず我々がプレイしていたゲーム『セブンスフィア』は、所謂、召喚用の魔術式であり、遊んでいる間に我々の魂そのものにアクセスし、召喚術式との繋がりを創るものだったというのだ。

ゲーム内には多数のプレイヤーも居たが、彼等は比較的適応力に優れていて、一定以上の魔力を貯められる器を持つ者であり、その中でも特に召喚に耐えうる1000名を厳選して召喚したらしい。

 これは世界中に広がる情報ネットワークと、一部の魔術を使った擬似世界の構築であり、非常に高度な魔法技術が使われていたのです。その維持のために同じく優秀な自分たちが常にそれを管理しており、あなた達は5万人の中から選ばれたラッキーかつ資格のあるごく少数のプレイヤーなのですペラペラ。

 などと、胡散臭い口調でどっかの怪しい詐欺師のように話す少女に、私は一抹の不安を覚えたのだが。でもまあ、現実的か詐欺っぽいアレじゃね?とか、様々な思いが頭をよぎったものの、大体の事情は掴めた。それはとてもファンタジーで、アニメ感満載な設定ではあるものの、一応の理屈は理由あって仕方なく我々を呼んだのだと、そういう事らしいのだが………。


「うむ、ツッコミ所が満載だな」

「そうですか?ラノベやネトゲによくある、ベッタベタな妄想設定だと思うのですが?」

「妄想かよ!!」


 どうもこいつ、やたら親近感高すぎるんだが。

 普通にゲームしてたらいるよね?こういう頭良さそうで悪い変な子とか、真剣にどうでもいい内容を力強く説明してくれる人とか、いるよね?


「・・では質問をしよう。まず、その召喚術式っていうのはこの場所に召喚するものなのか?」

「いえ、ここは貴方達の肉体と魂を再構築し、新しい世界に適応させる為に創られました」

「再構築って?何か身体をいじったりするのか?」

「はい。既に肉体の再構築は終わっておりまして、種族の設定による補正を行えば完成しますね」

「再構築が終わっている?」


 いや、特に何か変わっているとは思えないんだが。

そりゃ、髪は長くなって銀髪だし?肌はちょっぴりシルキーでホワイトだし?身長はおとなしめだったのがさらにちっちゃくなってるっぽいし?手は少し華奢な女の子の手みたいに見えるけど・・・っ!?


「ちょ、か、鏡!!鏡とかないのか!?」

「は?うーんと、はい。こんな感じで良いですか?」


 少女が手を振ると、目の前に全身を映し出すに足る大きな鏡が現れる。急いで覗き込んだそこに映し出されたのは、銀髪を後ろで雑に纏め、瞳は翡翠の様に輝き、まるで可憐な少女の様な自分自身の姿・・・そう、私がゲーム内で使っていたアバターの男の子だった。


「ジーザスッ!!!!」

「日本語で、おお、神よ!って感じですね」

「いやいやいや、これゲームアバターじゃないのか!?本来の身体はどうしたんだ!?」

「ああ、ちゃんと見てませんが、恐らく新しい身体の素材になっちゃったと思いますけど?」

「ちょっと本人の承諾無しに人の身体を分解再構築しないで頂けませんかっ!?」


 なんてこった!!

 確かに見栄えが良いのがアバターの方なのは私にも理解できる。だが、だが例え30代後半の冴えないおっさんボディではあっても、親から貰った大切な身体。慣れ親しんだ我が身が、変質者に『お嬢ちゃん、おっちゃんと一緒にイイコトをしないかい?』と誘われてしまいそうなぐらい可憐な少女の姿へと変貌するなど、成人男性の良識から考えて許容するわけにはいかんのだよ!!それにこの姿は後で変更したネタ的なアバターで、イケメン風のカッコいい騎士タイプアバターも用意していたはずだ!!


「頼む!!元に戻してくれっ!!せめてもう一つのアバターに変更するとか出来るだろう!?」

「ふー、やれやれですね。30代後半の冴えないおっさんボディに未練でもあるのですか?」

「心を読まないで頂けますか!?私の中に入ってこないで!!」

「仕方ありませんね、では元の身体の詳細な形をここでイメージして下さい。復元しますので」


 え?

 いきなり詳細な形っていっても思い出せませんけど?ちょっと細目のどこにでもいる普通のお兄さんな感じでしたので、特に印象深い造形をしていたわけでもありませんけど?



「家に帰ったら参考資料になる写真とか、画像とかあると思うんですが・・・帰ってもいい?」

「それは無理ですよ、もう帰れませんから」

「そこを何とかお願い出来ませんか?ほんのちょっとで良いんで・・せめて別の登録アバターに・・」

「うーん、仕方ないですねー。あなたには課金もかなりして頂いてましたし・・」

「マジで!?やってて良かった廃課金っ!!」

「だが断るっ!」

「断るんかいっ!!」


 しばらく悪質クレーマー並みに少女へ粘着してみたが、どうにも身体を元に戻すことは出来ないらしい。せめて見た目に関してはもう少し男性らしくするよう要請して、妥協する事になってしまった。

 それでも嫌がってたコイツ、単に自分の好みを押し付けてるんじゃないだろうか?


「ごめんなさい母上、貴女に頂いた私の身体はこの少女に汚されてしまいました・・・」

「元々は貴方がゲームで決めた姿なのですから、きっと喜ばれると思っていましたが」

「お前の身体が今すぐムキムキマッチョなゴリ男さんになっても、今と同じセリフを吐けるのか?」

「いえ、私はロリショタなのでごめんなさい」

「やっぱりお前の好みじゃないかっ!?」


 そんなやり取りをしつつも、私は冷静に必要な情報を集めていく。

 まず、元の世界には戻れない。これは、地味にツラい。父は早くに他界したが、母一人と弟、そして妹を持つごく普通の、別になんの不満もない人生だった。引きこもる事もなく、現実と仮想に折り合いを付けつつも最大限楽しむという大人の生活。これがSFやラノベなんかなら普通に面白い状況なんだが、現実に起こるとそんな気にならない。そして弟も妹も結婚し、長男である私が面倒を見ていた年老いた母を一人残していくなど、心配で仕方がないではないか。私はそれを少女に話すと、そこは何らかの対策をしてくれると約束してくれた。

 心配していた最大の案件に対策がされるのなら、まあ、私としてはギリギリ諦められる。

願わくば最後を看取るまで母の側にいるつもりだったが、それ以外の事は私にとって些事だからだ。


「・・一応、納得は出来ないが理解はした。なので他の質問をしても良いか?」

「時間がありませんので、手短にお願いします」

「時間制限があるのか?」

「はい。ここでの時間の流れが違いますし、この空間を維持するにも限界がありますので」

「なら必要な点を、ある程度かい摘んで聞こうか」


 そして私達は質疑応答を繰り返し、一定の理解を得た上でキャラメイキングを再開した。

と、言ってもゲームの様にステータスがある訳でもない。力や敏捷性、体力などの身体能力に関わる部分は何となくでしかわからないし、実際に動くことでそれを確かめるしかない。所持品なども限定されていて、そもそも決められる点も少なかったが、それでも大いに揉めた。

 何故ならば・・・。


「何故に私の階位クラスが魔法系なんだっ!?ゲームでは騎士職だったじゃないか!!」

「先程も説明しました様に、階位クラスは魂を構成する因子から決まりますので選択できませんよ」

「私は魔法なんて使えないし、剣道とかしてたから剣が使えないのはおかしいと思う!!」

「うーん、どうやら貴方の家系に高い魔力を持った方がいて、その影響が強く出ているようですね」


 あ、おばあちゃんか。

京都でも知る人ぞ知る霊能力者だったとか聞いた覚えがあるが、懐かしいな〜!確か手がいっぱいの仏様に関連してるとかだったかな?人が背負った業を喰らい、己の身に移させて楽にさせるという秘法を会得していたと、小さい頃に亡くなったおばあちゃんの葬式で、偉そうなお坊さんが話していたのを覚えている。その後、遺骨はお山へ持って帰ると言っていた。作ってくれたおはぎ、美味しかったな。


「良いじゃないですか。大魔導士アークメイジは上位の魔法職ですよ?ハイクラスですよ?」

「いや、上位クラスとかいう問題じゃなく、剣が使えないのが問題なんだよ!!剣だよ剣っ!!」

「・・・このクサレ厨二病が」

「心の声が漏れてますよお嬢さん!? でも、そこは絶対に妥協出来ない!!」

「そう言われましても、実際の貴方に関係する階位クラスでないとダメですし」


 そう、私が妥協出来ないのは、魔法とかが関係しているのに剣が使えないという魔術系の階位クラスが設定されている事だった。小さい頃からゲームでは主人公キャラしか使わず、それもRPGなら剣を持っていなければ選ばなかった私にとって、それは半生を否定されるようなものだ。

 宥めすかし、おだてて拝み倒した私を蔑むように見た後で、少女はため息と共に私の前で画面をいじりだした。どうやら調べてくれるらしい。


「うーん、でもそんなに嫌がっても他に使える階位クラスが・・・あ、あった」

「あるのかっ!?」

「ちょっと顔が近いですよ?あと鼻息も。ですが今の見た目ならそれも良いショタ最高!!」

「お前の趣味はいいから!剣は使えるのか!?」

「使えますね、一応。階位は領主ロードになりますが、これなら複数の装備に適性があります」

「それで良いよ!剣が使えたら良いんだ!!」


 危なかった!私は今でも、どのゲームでも剣士系を使うスタイルを貫き続けている。むしろ剣を振るう為にRPGを選んでいるんだ。ここで妥協すれば、私の今までのこだわり抜いたゲーム人生を全て否定する事になるっ!!剣こそが我が人生!!この魂は剣で出来ていると弓兵のように語りたい!!


「剣は装備出来ますね、何なら他の武器適性を減らして、更に剣の適性を上げれますけど?」

「おお、ゲームでも出来たなそれ!ぜひお願いする!使える武器は剣だけで良いし上げちゃって!」

「一応、盾や防具もそれなりに頑丈なのを装備できますが、そちらはどうしますか?」

「鎧や籠手、脚甲なんかは欲しいけど、盾は別にいらないな。それも剣にまわしてくれるかい?」

「わかりました。・・ただ、一つ問題が発生します」

「?」


 なんだよ、深刻そうな顔をして。


階位クラス変更は魂の変更に近いです。その為にある程度のペナルティが発生してしまうのは

 どうしても避けられません。あなたが本来あるべき姿を捻じ曲げるようなものなので」

「リバウンドみたいなものか?なら、いったいどんなペナルティを受けるんだ?」

「・・・魔法職である大魔導士アークメイジからの変更ですので、魔法が一切使えなくなります」

「あ、そうなの。別に良いよ、剣がメインだし」

「強化魔法や装備への属性付与も出来なくなりますよ?」


 そういえばさっき説明していたな。

 これから向かう世界にはマナと呼ばれる粒子が存在し、本当に魔法が使えるらしい。

それは我々がゲームで使っていた魔法だけでなく、近接職の能力を引き上げる魔法や、装備している武器に自分の属性に関する事象を纏わせることも出来るとか、多岐にわたるものだという。


「でも、私の属性って反属性なんだろ?なら魔法は発現しないんじゃなかったっけ?」

「確かに貴方は光と闇という、珍しい反属性持ちです。なので精霊が反発し、魔法は使えません」

「なら意味無いんじゃ無いのか?」

「いえ、属性とは精霊との関係性を表すもので、魔力が使えないわけではありません。

 魔法とは世界への干渉であり、それは精霊を通じて行われますから。

 反属性が精霊と交信出来ない以上、魔法は使うことが出来ません。ですが体内に魔力はあります。

 先程の身体強化や属性付与は体内で完結しますので、反属性でも使用可能なのです」

「なんだかややこしいな・・・でもそのペナルティを受けないと剣は使えない?」

「はい、階位変更が出来ませんので、このままだと使えるのは短剣までになりますね」

「なら、良いよ。やっちゃって」


 ものすごく困った顔をしてこっちを見るなよ。弱くなるのは分かってるんだからさ。


「・・・承認しました。階位クラス大魔導士アークメイジから、領主ロードに変更します」

「ああ、ちゃんとリスクの説明も受けたから、君の責任は一切問わないと誓おう」

「当然です。私は偏執的に粘着された運営なので」

「ストーカーっぽく聞こえるが気のせいだろう」

「ですが、このままでは色々と都合が悪くなります。本来は魂と肉体に合った階位クラスを設定し、

一定の能力を確保してもらうはずでした。・・・ですので、お願いがあるのですが」

「お願い?構わないよ。無理を聞いてもらったし」


 眉間にシワを寄せてこちらを見る少女。そういえば名前とか聞いてなかったな。


「あなたが選んだ種族。ハイヒューマンを、別の種族に変更しても良いですか?」

「別の種族?大きく見た目が大きく変わらないならいいけど」

「それは大丈夫です。では後ほど変更します。新しく設定する種族は亜神デミゴッドです」


 なんだその光輝く魂の翼が背中から生えて、目からビームとか出しそうな厨二種族は!?


亜神デミゴッドとか、いささかチートじゃないかと私は思うのですが?お嬢さん?」

「それほど能力は強化されません。加護の影響が強く出る程度のものです」

「加護?」

「はい、実は貴方達召喚者がここに来る途中、魂の相性が良い神から加護を頂いています」

「神様だって!?」


 あの暖かい感じはそれだったのか?てか、神様いるんだな本当に。


「スゴいな。ちなみに私の加護をくれた神様って、いったいどんな神様なんだ?」

「健康と救済の神ですが、ほぼ無名の方ですね」

「なんだよその養◯酒みたいな神様は(笑)しかもマイナーでランク外かよっ!?」

「向こうの強い希望がありまして、採用しました。加護は普通より強く出ると思いますよ?」

「まあ、健康なのは大事だと思うんだが、もうちょっと戦闘向きなのが良かったかな」

「元々の階位クラス大魔導士アークメイジでしたので、そちらの相性は良かったと思いますが」


 そうか、回復や状態異常魔法には向いてたかもしれないな。まあ、マイナーな神様だけど。


「仕方ないな。せっかく頂けた加護なんだ、文句言うと罰が当たるな」

「はい。亜神になれば他にも神性が上がりますし、生命力も他の種族より高いです。なので、

 踏み潰されても蹴られても火星に放り出されても、生き残る事が出来るかもしれません」

「人を台所の悪魔Gみたいに言わないで欲しい」


 そうやって決まった私の新しい身体と魂は、纏めると以下の様になった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【名前】 ロウ・L・セイバー


階位クラス】 領主ロード

・支援系能力に長けた騎士系指揮職。

 周囲にいる味方の能力を上昇させる。

魅力(カリスマ)の上昇、騎乗可能。

・短剣、剣、槍、弓、盾、重鎧、兜が装備可能。

※調整→剣適性大幅上昇。

 その他武器、盾の適性大幅減少。

※ペナルティ→階位変更により、全魔法使用不可

 (強化魔法、付与魔法含む)


【種族】 亜神デミゴッド

・身体能力の上昇、状態異常耐性上昇、

 神性上昇による加護の効果上昇。


属性エレメンタル】 光・闇

※反属性(お互いを打ち消しあう属性)のため、

 属性効果無効、魔法使用不可。


職業ジョブ】 剣騎士ソードナイト

・剣系武器の適性上昇、その他武器の適性減少

・身体能力上昇、特に力と防御力、体力が上昇。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うん、むちゃくちゃだな、これ。ゲームなら強敵ソロプレイ厳禁な、出来れば後ろで隠れていた方が良い感じ。思ってたより制限付きになってしまった。せめて一芸に秀でた特徴があれば救いなんだが、剣と健康ぐらいか?秀でているのって。

 ゲームでもそうだが、長所を重複させて特化させた方が強みを前に出したキャラクターを作りやすい。特徴がなかったり、欲張りすぎて全体のバランスの取れないビルドは弱体化してしまうものだ。

 私の場合、剣を使った近接職だが盾が装備できないので壁役タンカーにもなれないし、身体強化や武器を強化する属性付与も使えないため、削り役であるダメージディラーにも適さない。

 こういうのはレベルが上がるごとに大きな差となってしまうため、初心者には一定のテンプレを参考にちょこっといじるぐらいで調整するよう勧めていたものなんだが。まさか自分自身が魔法が使えない魔法職に剣を持たせて指揮官にするなどという、ダメビルドの典型みたいになってしまうとは。

 だが、その分健康が維持されたタフなキャラクターになったと思う。最後の申し出がなかったらそれこそ生き残るのも難しかっただろう。敵を倒すのに時間がかかるというのは、様々な意味で危険が多いのだ。それを知っているゲーマーは状態異常に多くの対策を練る。なので、悪くない。


「うむ、元気な子が生まれたよ、お母さん」

「誰がお母さんですか」


 どうやら少女もかなりお疲れのようだ。時間がかかったもんな、申し訳ない。


「では、とっとと転生させてしまいます」

「えらく雑な扱いだな。せめて別れの挨拶とかがあっても良いんじゃないか?」

「残念ですが、それはありません。他の皆さんは先に向かって居られますので」

「そうなのか?早いな。てか他にもやっぱりプレイヤーがいるんだな、向こうに」

「貴方が時間をかけ過ぎなのです」

「すまん。だが、もう戻れない以上は納得のいく自分で新しい世界に行きたかったんだよ」

「まあ、わからないでもありません。・・何か言い残す事はありますか?」


 少女はこちらの眼をじっと見つめながら言った。

家族への配慮をしてもらえるなら、伝えるべき言葉もない。が、あえて言うなら・・・!!


「君が欲しいっ!!」

「土に還れ、このロリコンが」

「最後の言葉はロリコン呼ばわりだったよっ!?」


 少女の絶対零度の視線を受けながらも、私は思わず微笑んでしまう。短い時間だったが、この少女との掛け合いはとても楽しかった。最後の言葉も半分本気だったかもしれない。


「さて、ロリコンは去るとしますか。君はどうするんだ?家に帰るのか?」

「私は貴方達、召喚者を導く為に生み出されたコピー体でしかありませんので。

 役目を終えた今、本来なら消えてマナとなり、本体に再統合されます」

「消えるのか・・・、それは寂しいな。楽しかったし、また会いたかったんだが」

「私としては、貴方のようなめんどくさい変態ロリコン野郎に会いたくありません」

「いや、最後のは冗談・・・」

「ですが、種族変更の為には嫌でも共に居なければなりません。とても不愉快ですが」

「種族変更?そういえばさっき・・・」


 私の言葉を無視するように、少女は私の正面に立った。そして両手を広げ何かの魔法を詠唱し始める。すると、彼女の指先から黒い光の粒が舞い、徐々に身体が薄れていく。


「おいっ!?ちょっとお前、薄くなってるぞ!いったい何をする気なんだ!?」

「種族、亜神デミゴッドは人種と神の間に生まれる希少種。その身に神の因子が含まれる必要があります」

「いや、でもそんな事したらお前、吸収されて消えちゃうんじゃないか!?」

「どちらにせよ消えてしまいます。ならば、ロリコンの最後の願いを叶えてやるのも一興」

「いや、それは種族変更の為ですよね!?願い関係ないでしょ!?」

「・・・」

「そこは否定しないのか!?」

「・・・いえ、そうでもありません。私の、いや、私たちの願いを叶えてもらうのです・・・。

 その為に貴方達のような、無関係な異界人を巻き込んでしまった・・・だから・・っ!」

「願い・・・だって?」


 少女はほとんどが黒い粒子となり、私の身体へと流れ込んでゆく。消えそうになりながら、苦しみとは違う、ひどく泣きそうな顔で・・・彼女は私にこう言った。



「・・・お願い・・私たちの世界を・・・・セブンスフィアを護って・・お願い・・・」



 小さな声が聞こえた。

そして、少女の全ては私の身体へと吸い込まれていき、消えていった。

 直後、暗闇の世界は轟音と共に崩れていき、足元を巨大な割れ目が広がっていく。あっという間に空中へ放り出された私は、悲鳴をあげる暇もなく、目の前に現れた光景に目を奪われた。それは周囲に広がる壮大な宇宙空間と、その中で浮かぶ、写真で見たことのある地球によく似た天体の姿だった。

 とても青く、そして美しい星。


それが、初めて見る、私の運命を変える・・新しい世界の姿だった。



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