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駐車場に着いた。家を出てから30分は経っているのに、まだ誰も見ていない。走行している車も、自転車を漕いでいるおばちゃんも、ランニングしているおじいちゃんも、誰も見ていない。カラスは見たけど。
エンジンを切って、荷物を持ち、車を降りる。鍵をかけて家に向かう…、ああ、嫌な予感がする。
玄関を開ける。妹が毎日学校に履いていくローファーがある。父が履いていく安全靴もある。
「ただいま!」
自分の声が空しく響渡る。嘘だろ
靴を脱ぎ捨て、家中を探す。いない。
どこにもいない
平日のこんな時間ならもう家には母さんしかいないはずだ。でも、いつも履いていくはずの靴がそのままということは、少なくとも父と妹はいるはずだ。
どこにいるんだ
どの部屋のどのベッドにも、誰もいない。どこにも、誰もいない。
誰もいない。
「嘘だろ」
いや、別の靴で出かけた可能性もある。ここまで考えたところで、ベランダに出て外を眺める。
「静かすぎる」
というよりも
「音がしていない?」
音…、車が走るときのエンジン音も、ロードノイズも、近くの工場の操業音も。
「人工的な音が何一つ聞こえないなんて、どういうことだよ」
ご近所さんは数百m離れているとか、コンビニまで数キロとか、周りは山しかないわけではない。ご近所さんはすぐ隣だし、コンビニだって、歩いていこうという距離ではないがあるし、家の前の道路はこの地域の主要な道路だ。昼間はひっきりなしに車が走っている。
なのに。
「車は走っていないし、人は誰もいないし、家族は誰もいない、誰とも連絡がつかないなんて」
ああ嫌な予感がするね。考えたくない。でも、まさかね。
「人が…消えた?」
そんな馬鹿なことがあるわけないだろ。日本の人口だって1億2000万はいるし、この近辺の市町村だって数万人はいる。それだけの人数が一夜にして…一夜?
「昨日は人がいたのに…今日になったら人っ子一人いないなんて」
異常
さあどうする
「テレビ、つけてみるか」
父の部屋のテレビはCSとBSも見れるから父の部屋に行く