二
あまねとは家が近かった。
家が近いから、小学校の集団登校でいっしょだったのだ。同じ地区で同い年が彼女だけだったから、私達は自然にしゃべるようになっていた。
あまねは昔から、明るくて気が利くこどもだった。まわりをよくみている。
一方、私はそんなあまねの影に隠れる、地味で引っ込み思案なこどもだった。よくこれで、友情が続いたものだ。
高校が別だったのがよかったのかもしれない。
思春期のあの、とくに面倒な時期にほどよく距離があったから、大学がまたいっしょになったいま、こうしてそばにいれるのだと思う。
今の私はそこそこに垢抜けた、清楚そうな外見をしている。
そして、平均的な顔立ちだった。可愛すぎず、美しすぎない。声をかけやすい顔。
身の丈を弁えた明るさと、計算した素直さ。それは、目立つ美人やかわいい子に声をかけられないくせに、平均より劣った容姿の女の子を馬鹿にしている男子大学生に、ちょうど良かったようだった。
簡単に手に入る彼女。美しすぎず、連れ歩いて恥ずかしくない程度の。
お陰で付き合う相手に事欠かなかった。
男の人に触れるたび、あまねの柔らかさと比べてしまう。
骨ばった大きな手に、彼女の細くてやわらかな手を重ねる。
震えながらついばむ唇がかさついていれば、あまののふっくらとした唇を思い出した。
撫でた髪の毛の固さに苛立ちながら、あまねの猫っ毛を思い浮かべて微笑んだ。
どうしたって、彼らはあまねに似ていなかった。似ていないから絶望するけれど、抱きしめることはできた。
だって彼らになら、嫌われようとかまわなかったから。
あまねが私のそばから居なくなること、それだけが私は怖かった。
私はずっと、あまねが好きだったのだ。だから彼女が私に向けるものが、友愛でしかないことが悲しかった。
だって、彼女は同性が好きなのに。
私だけを、私としてしかみてくれない。
あまねにとって、私は特別なのだろう。けれど、いくら願ったって、いちばんにはなれないのだ。