一
自分は、どうして女なんだろうとたまに思う。
男になりたい訳ではない。自分も女であるまま同性を好きになる。
女であることに違和感はない。
この性のまま、同じ性を好きになる自分への嫌悪感もない。
ただ、少しだけ、そういまのように。
「ごめんなさい、やっぱり私……」
女であることを理由にふられるとき、私は自分を呪う。
もしかしたら、違う理由があるのかもしれない。でも、まず第一にそう言われるたびに、なんとも言えない気持ちになる。それに慣れることがまだできない。
「ううん、いいのいいの。仕方ないよね、ごめんねー」
砂を噛み潰したように、口の中いっぱいざらざら乾いていく。
へらへら笑ってやり過ごす私も、好きだった筈の彼女も嫌いになる。
「へーこーむー」
ベッドに倒れ込んだ。軋むスプリングの音。
「またふられたの」
クスクス笑っているのは幼なじみの秋穂だ。私が唯一、友愛だけを感じる女の子(って年でもないけれど)。
「女と付き合えないんだってさ」
一週間前まで、抱きあってたのにね。人様に晒せないような格好で、身も世もなく甘い声をお互いあげていたのにね。
馬鹿みたいだ。
「またどうせ縋ったりしなかったんでしょう。格好つけて、笑ってさよならしたんでしょう」
そういって秋穂は私の顔をのぞき込んできた。慈しむように私を見ているその目に落ち着かない気持ちになって、私は枕に顔を押し付ける。
また笑い出した彼女は、優しく私の髪を梳きながらつぶやいた。
「たまにはわがまま、言えばいいのに」
秋穂は男にもてる。昔は地味だったが、きちんと化粧して、爪も髪の毛も完璧に整えるようになってから、一気に垢抜けた。綺麗だと思う。
そしてこのさりげないボディタッチですよ。そこそこ綺麗な子が、笑いながら触れてくる。
落ちますね。
でも、秋穂の付き合いは長続きしないようだ。清楚っぽい所作と朗らかなキャラクターから、軽いとは思われていないようだけれど。
本人も取っ替かえ引っ替っかえしているつもりはなさそうだが、気づくと違う相手を連れている。
そういえば、いつも別れを切り出すのはどっちなんだろう。
秋穂は自分の恋愛事情を語らない。
「秋穂はたまのわがまま言うの?」
だから、ほんの気まぐれだった。いつものように余裕ある笑顔のまま、そうに決まってるでしょうって。そういうと思っただけだった。
「ほんとうに好きな人には……そうだね。言えないかもね」
へにゃりと歪んだ顔でそうこぼした秋穂をみて、どうしてだろうか私も傷ついたような気がした。