ある雨の日
雨の日はすきだ。
全て雨がかき消してくれる。
洗い流してくれる気がする。
いつからだろう。
雨が降るたびにあなたを思い出す。
私は、雨が嫌いになった。
それは、破滅に向かうとわかってる我儘で残酷な恋だった。
寂しげに私を呼ぶあなたの眼に映ってるのはいつも私ではない誰かだった。
それでもよかった。
誰かの代わりでよかった。
一瞬でもあなたに必要とされたかった。
何を失っても、あなたを失うことより辛いことなんてない。
あなたが見ている世界を私が見れる日はくるのだろうか…。
それは、ある雨の日だった。
「…くっ…ひっく……」
また彼氏に浮気された。
このひとは、このひとだけは違うと思った。
『君だけだよ』
『ずっと一緒だよ』
そんな安っぽい愛の言葉を信じていた。
彼は大学に入ってから付き合った。
上京してまもない私に東京を案内してくれたのも彼で、外を出歩けば彼との思い出の場所がたくさんあった。
付き合って1年。
このままずっと彼と一緒にいられると思ったし、こんな結末になるなんて一瞬たりとも思ったことはなかった。
ベランダでただ泣いていた。
「拓哉……」
どうしてこんなことになったしまったのか。
私に魅力がなかったから?
もっと構ってあげてたらよかった?
どうしたら、どうしていたらあのまま幸せでいられた?
考えれば考えるほど涙が溢れて止まらなかった。
と、その時。
「…鬱陶しいから泣くのやめてくんない?」
「……え…」
となりのベランダから聞こえた声。
ふと顔を上げて隣を見ると、タバコを吸っている"彼"と目が合った。
「さっきからうるさいんだけど。」
「…っあ、ごめんなさい…」
まさか泣いているところを見られてたとは。
とてつもない羞恥心を感じ、部屋に駆け戻った。
それが"彼"との出会い。
ある、雨の日のこと。