新たな一歩
「送ってくれてありがと。」
彼女はいつものように俺に礼を言った。
「おう。」
俺は返事をしたものの何かがつっかかっていた。
「じゃあ行くね。」
彼女は俺に背を向けた。
「…あのさ。」
気付けば声を出していた。
「えっ?」
彼女が振り返り俺を見た。純粋にどうかしたの?みたいな顔をしている。
「あのさ。俺、やっぱり…諦めきれないわ。やっぱりお前のことが好きだ。」
よくもまぁ言うわな。
自分で言っておいて馬鹿だなと思う。
だって一回フラレてんだし。
あぁ…俺の馬鹿。
元通りに、友達に戻る雰囲気になってたのに。
まぁいいか。
そんなんで終わりたくない。
結局人間って自分が大切なんだ。
欲をとってしまうんだ。
「……」
彼女は軽くうつ向き黙り込んでしまった。
あぁ…やっぱり俺って馬鹿だな。
俺は一回彼女にフラれている。
その場の勢いだった。
俺自身、駄目なことはわかっていた。
彼女には好きな人がいたから。
でも、もしかしたらそいつに勝てるかも、なんて儚い期待を抱いて。
見事に負けたわけで…
違う。
そうじゃない。
自分自身の逃げだった。
ただ楽になりたかっただけだ。
どれくらいの沈黙だっただろう。
3分ぐらいか。
とてつもなく長く感じた。
「…ごめん。」
彼女はうつ向きながらそう口にした。
「そうだよな…ん〜やっぱ無理だったか。」
結構キツいな。
泣きそう。
「…ごめん。」
「よし!これからは応援するから頑張れよ!お前ならあいつぐらい楽に落とせる!」
空元気とかいうやつだ。
「……」
「じゃあ俺、帰るから。気を付けて。」
彼女に背を向けた。
「夏…」
不意に話かけられて戸惑った。
「えっ?」
彼女の方に向を見た。
「夏休みになったら遊ぼ!」
「…おう!」
「約束だよ!じゃあね!」
「約束!またな!」
そういうと彼女は駅の人混みの中へ消えた。
夏休みか。
一週間後が楽しみだ。
そんなことより
彼女は笑顔だった。
それがなによりも嬉しかった。