御姉様、来襲!
その数日後の休みの日。
「詩織。今日は、オレ試合があるけど、一緒に来るか?」
護が誘そってくれる。
「行きたいけど、お布団干してからでも良い?」
「それぐらいなら待ってるから、早くしな」
私は、自分の布団と護の布団をベランダに出すと、戸締りをして、鞄に必要なものを入る。
「ねぇ、この格好で良いかなァ?」
私は、玄関で待ってくれてる護に聞いてみる。
「大丈夫だよ。応援するだけだろ。着飾らなくても大丈夫さ」
って、護が笑顔で言う。
「ならいいけど…」
私は、ちょっと気になったが、護が言うなら大丈夫だろうと安心してた。
これが、間違いの始まりだった。
試合会場に着くと綺麗なお姉さん達が、客席を賑わせていた。
しかも、キラビヤカな格好で…。
私、場違いかも…。
ハァ…。
「玉城くん。来てたんだ。今日も頑張ってね」
って、いかにも御姉様って感じの人が、護に近付いてきて声を掛けてくる。
あ、ヤバイかも…。
また、逃げ出したくなってきてる。
御姉様は、私の方を一瞬見て、鼻で笑ってる。
「妹さんも来たんだ」
妹…。
私は、絶句した。
確かに、今日の格好だとそうだろうけど…。
私は、何も言えずにいた。
「妹じゃないですよ」
って、すかさず護がフォローしてくれたけど…。
「エーッ。どう見ても、妹でしょ」
そう言いながら、護の腕に絡めて、しかも胸を押し付けてる。
心なしか、嬉しそうな顔をしてる。
私は、反論はおろか、後ずさる事しか出来ない。
「詩織。逃げるな」
護が、私の腕を掴む。
「でも…」
私が言おうとしたら。
「でもじゃないだろ。お前は、堂々としてればいいんだよ」
護は、御姉様の腕を降り解いて、私の頬に触れる。
「…うん」
私は、護に言われるままに頷いた。
「玉城君。そんな子ほっといて、あっちでミーティング始まるわよ」
他の御姉様が呼びに来る。
「あ、わかりました」
護が、返事する。
「じゃあ、行ってくるな」
護が、私の頭をワシャワシャしてからメンバーのところに行く。
護の姿が見えなくなると。
「あんたなんか居たって、何にもならないのよ!さっさと帰りなさいよ」
って、御姉様がたが、押し倒してくる。
うっ…。
「玉城君には、゛用事が出来て帰った゛って言っといてあげるからね」
って、追い出されてしまった。
護…。
私、やっぱりここに居られない。
ごめんなさい。
試合の応援したかったけど、無理。
私は、会場を後にして、家に帰った。
家に着くと、携帯が鳴った。
私は、護るからだと思い急いで出たが。
『詩織?』
その声は、里沙からだった。
「どうしたの里沙?」
私は、空元気で電話に答える。
『今から、家に行ってもいいかな?』
「いいけど、里沙だけ?」
『ううん。生徒会メンバーなんだけど…』
そうなんだ。
「いいよ。気を付けて来てね」
私は、それだけ言って電話を切る。
ハァ…。
皆が来るなら、気落ちしてる場合じゃないよね。
私は、気を取り直した。
ピンポーン。
家のチャイムが鳴る。
「はーい」
私は、玄関のドアスコープから、覗く。
そこには、里沙を始めとする生徒会メンバーが、並んでいた。
私は、玄関を開ける。
「いらっしゃい」
笑顔で迎え入れた。
「お邪魔します」
ぞろぞろと皆が入ってくる。
「あれ、玉城先輩は?」
里沙が聞いてきた。
「…うん。今日は、サッカーの試合があって、出掛けてるんだ」
私は、明るく答える。
「付いて行かなくて良かったの?」
「いいんだ。私もやる事あったしね」
私は、ごまかすように言う。
皆をリビングに通すと。
「詩織ちゃん。皆で押し掛けて、ごめんね」
忍ちゃんが、申し訳なさそうに言う。
「いいよ、気にしないで…。コーヒーがいい?それとも紅茶?」
私は、皆に聞く。
「俺、コーヒー」
拓人君が言う。
「僕もコーヒーで」
柚樹ちゃんが言う。
「あたしは、紅茶で」
「私も」
里沙と忍ちゃんが、同時に言う。
「俺も、紅茶で」
おっと、凌也も紅茶ですか…。
「俺は、コーヒーで」
佐久間君が言う。
「コーヒーが三つと紅茶が四つと…」
私は、コーヒーメーカーに三杯分のコーヒーをセットする。
それから、ケルトでお湯を沸かし始めた。
「…で、今日はどうしたのよ。メンバーが全員休みの日に揃うなんて、珍しいじゃん」
「それがさぁ。急に決めないといけない事が出来たから…」
里沙が言う。
「何を?」
私は、訳がわからず聞き返す。
「球技大会」
わお…。
すっかり忘れていました。
ケトルが、シュッシュっと音を立てて沸いた事を知らせてくれる。
コーヒーメーカーの方も、コポコポと音を立ててる。
私は、食器棚からコーヒーカップとティーカップ、ソーサラーを出して、お盆にのせる。
角砂糖の入ってる瓶と暖めたミルクポットをお盆にのせる。
「…で、皆の意見は?」
「無難に、バスケとバレーとテニスってことなんだけど…」
そうなんだ。
でも、それだけじゃ、面白くないな。
一日潰してやるんだから、ただやるだけってのもなぁ…。
「なぁ、優勝したら、景品を出すのはどうだ?」
佐久間君が提案してくれる。
「どんな景品?それと、出すとしても学年事の優勝?それとも総合優勝?」
拓人君が言う。
「詩織、手伝うよ」
里沙が、ダイニングに入ってきた。
「じゃあ、これお願い」
「うん。って、詩織その指輪…」
「エッ…。あぁ、休みの日は、指に嵌めてるんだ」
私が言うと。
「そうなんだ。そのデザインって、一点物だよね?」
「そうだよ。護が、デザインして、造ってもらったって言ってた」
私が、そう答えると。
「いいなぁ…、あたしも欲しい…」
里沙が駄々っ子みたいに言う。
「大丈夫だよ。そのうち優兄がくれると思うよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ。焦らず待っててあげて…。優兄なら、音楽関係だと思うけどね…」
私は、里沙にウインクする。
「うん」
里沙の嬉しそう顔。
「そこ。今は、指輪の話じゃなくて、球技大会の話だろ!」
凌也が突っ込んできた。
「そうでした」
私は、紅茶とコーヒーポットを持ってリビングに行く。
カップにそれぞれ注いでいく。
「日程はどうする?」
「クラスの親睦を深める為の球技大会って事で」
凌也が言う。
「じゃあ、五月十七日ぐらいでどう?」
って、柚樹ちゃんが、スケジュール帳で確認して言う。
「そうだね。それぐらいがちょうどいいか…」
全員が一致する。
「明日、朝一に先生の許可とってくるね」
里沙が言う。
「お願いね」
私は、席を外し、自分の部屋に行き、メモ帳と筆記用具を持って戻る。
「競技は、さっきのでいい?」
「賛成」
私は、メモ帳に記入していく。
日程は、五月十七日。
競技は、テニス、バレー、バスケの三種。
「で、さっきの優勝したら景品っての事だけど、どうする?」
「何もないのも、張り合い無いよな」
「そうだね。だったら、一位から三位まで、景品を出すのはどう?」
忍ちゃんが言う。
「そうなると、総合優勝、準優勝、三位ってことになるけど…」
拓人君が言う。
「そうだね。総合でいいんじゃない」
柚樹ちゃんが言う。
「凌也、佐久間君はどう?」
「それでいいんじゃない」
二人共、頷いてる。
総合一位から三位までは、景品がつきます。
「景品どうする?」
「何が一番欲しい?」
「じゃあ、生徒会メンバーの中で、好きな奴と一日デートとかは?」
エッ…。
「ちょっと待って。それだと、詩織ちゃんが一番負担が大きいよ。他のにしよう」
忍ちゃんが慌てて言う。
「何、マジにとってるんだ。冗談に決まってるだろ」
って、皆が笑い出す。
「学食一食ただとか?」
凌也が言う。
学食か…。
「行く人行かない人が居るんじゃない」
里沙が言う。
「これを期に学食も使ってもらえるようにしたら…」
佐久間君が提案する。
「そうだね。一食分じゃなくて、一週間分にならないかなぁ?」
私が言うと。
「出来なくないと思うよ」
忍ちゃんが言う。
「じゃあ、総合優勝で、学食一週間分。二位で四日分。三位で一日分てのは?」
って、凌也が言う。
「全部学食ってのは、張り合い無くない?」
柚樹ちゃんが言う。
「じゃあ、どうするんだよ」
「三位に筆記用具か、ルーズリーフとか?」
拓人君が言う。
「そんなの貰って、嬉しいか?」
微妙かな。
「でも、他にある?」
普段から、使えそうなので…。
「景品の事は、ギリギリまで考えよう」
「そうだね。他の生徒にさりげなく聞いてみるのもいいかもね」
里沙が言う。
「そうだな。その方がいいか…」
「よし。これである程度決まったな」
拓人君が言う。
「どっか、遊びに行く?」
里沙が言う。
「いいよ」
拓人君達も頷いている。
「詩織は?」
「私は、やめとく。夕飯の準備しないといけないしね」
私は、それだけ言うと。
「そっか…。じゃあ、あたし達帰るね」
里沙が、心配そうに言う。
「うん。気を付けてね」
私は、皆を玄関まで送ると、掃除を始めた。
こんなもんかな。
あっ。
布団を仕舞わないと…。
私は、慌ててベランダに出て、布団を入れる。
ベッドメーキングを終えて時計を見る。
もう、こんな時間。
私は、冷蔵庫の中身を見る。
余りストック無いや。
買い物に行かなくっちゃ。
私は、鞄を掴んで家を出た。
近所のスーパーに行く。
どうしようかなぁ。
護も疲れて帰ってくるだろうし…。
そうだ。
私は、生姜焼用の肉とごぼう、人参、豆腐、キャベツ、サラダ用の野菜を購入する。
家に帰って、洗濯物を取り込み畳んでいく。
畳んだものを片付ける。
帰ってきたら、直ぐにお風呂に入れるように準備して…。
豚肉をタレに漬け込む。
金平用の人参とごぼうを切る。
サラダ用に野菜を刻んで、氷水の入ったボウルに入れて、冷蔵庫に仕舞う。
お米を研いて、炊飯器にセットする。
時間がかかる金平から作りだした。
生姜焼きは、護が帰ってきてから焼けばいいし…。
後は、味噌汁だけ…。
小鍋にお湯を沸かして出汁をとって、カットワカメを入れて、豆腐を入れて、味噌を入れる。
よし、これで、準備オッケーだ。
早く帰って来ないかな。
私は、リビングで宿題をやりながら帰ってくるのを待っていた。
なのに。
一行に帰ってくる気配がない。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
時計を見ると、午前一時を指していた。
私は、急いで玄関に行く。
ドアスコープから外を伺うと。
朝の御姉様が、護を抱き抱えていた。
私は、玄関を開ける。
「遅くにごめんね」
って、中に堂々と入ってくる。
「お邪魔するわね」
二人は、護を抱えながら、護の部屋に入って行った。
エッ…。
展開についていけない自分が居る。
「ごめんね。私達、今日このまま泊まるから…」
って、意味深な言葉を残して、ドアを閉められる。
エッ…。
エッーーーー。
嘘。
私は、玄関で呆然としていた。
どのくらいそうしてただろう。
私は、取り合えず玄関の鍵を閉めて。
護の部屋の前を通る。
何も聞こえない。
胸騒ぎがする。
でも、中に入って行く勇気は無い。
私は、自分の部屋に戻って、ベッドに潜り込む。
でも、寝返りを打つばかりで、寝付けない。
私、何してるんだろう。
やっぱり、昼間の事が原因なんだろうか?
でも、あんな事されて、その場に居られるわけ無い。
私が、弱虫だからってだけじゃ無い。
あからさまに邪魔扱いされただけじゃなく、いかにも来るなって感じの雰囲気を醸し出してた。
それに、あの格好で行ったのが間違いだったんじゃないかって思う。
妹って思われても仕方ない格好だったし…。
だからって、連絡も入れずに帰ってくるなんて…。
遅くなるなら、連絡入れてくれてもいいのに…。
夕飯食べずに待ってる私の事なんか忘れちゃうほどなんだ。
護の事を考えて、今日の献立だって考えていたのに…。
なのに全部、無駄になっちゃった。
私の目からは、涙が溢れ落ちる。
護の事、わかんないよ。
私は、半分投げやりな気持ちになっていた。
気がつけば、空が白くなってきた。
私は、頭を冷ます為にお風呂に入る事にした。
お風呂場に行き、お湯を張る。
その間にお弁当の準備をする。
昨日、食べ損ねた生姜焼きとサラダ、金平をお弁当箱につめる。
お風呂場に行き、湯に浸かる。
護の馬鹿!
私は、涙を流しながら浸かる。
今も、護の部屋では、御姉様達が眠ってると思うと、悲しくなる。
私は、どうしたらいいんだろう。
私は、お風呂からあがり、自分の部屋で学校の準備をする。
そして、置き手紙を書いた。
゛おはよう、護。
綺麗な御姉様の添い寝は、いかがですか?
私は、今日は帰らないつもりです。
何時までも、仲良くしててくださいね!
それから、装飾品は置いていきます。
詩織
P.S. 護なんか、大っ嫌い!!゛
ほとんど殴り書きみたいになってる。
これも、もう要らないよね。
私は、指に嵌めていた婚約指輪を外して、その手紙の上に置く。
鞄を持って、部屋を出た。
護の部屋の前を通ると、微かに寝息が聞こえてくる。
私は、さっき作ったお弁当を鞄に入れて、玄関を出た。