護の涙
実家に着くと。
「ただいまー」
私は、元気な声を出し、玄関を開けて、中に入った。
「お帰り・・・。って、どうしたの詩織?」
お母さんに言われて。
「お母さんに報告があるんだけど・・・」
語尾が微妙に弱くなる。
「何よ。もったいぶってない、さっさと言いなさい」
お母さんが、ニコニコしてる。
もしかして、優兄から聞いてるかな。
私は、玄関を開けて、入るように促す。
「ご無沙汰してます」
そう言いながら、護が中に入ってくる。
「あらまぁ・・・」
お母さんが一瞬驚いた顔をした。
かと思ったら。
「詩織、よかったね。想いが届いて・・・」
小声で言う。
やっぱり、気付いてた?
「玄関で話すのもなんだから、上がって頂戴」
お母さんが、上がるように促す。
「お邪魔します」
護が、遠慮がちに言う。
リビングに通され、お母さんがお茶を出してくれた。
「・・・で、今日は、二人でどうしたの?」
お母さんから言い出す。
私は、護を見る。
護も私を見て、頷くと。
「お義母さん。もう一度、詩織さんと同棲したいので、お許しを頂きに参りました」
堂々と護が言う。
お母さんが、少し驚いた。
「どうして?今のままでもいいんじゃないの?」
もっともな意見だけど。
「僕も、そう思いました。けど、今の生活だとお互いが忙しくて、会う時間も取れないと思うんです。で、一緒に住みながら、お互いの事を話していきたいんです」
護が、真剣な眼差しで言う。
お母さんは、暫く考えて。
「会う時間は、自分達で見つけるべきじゃないの?」
確かにそうなんだけど・・・。
「それだけじゃなくて、僕自信が、詩織さんと一緒に居たいんです。傍に居て欲しいんです」
護の想いが溢れてる。
「詩織は、どうなの?」
「私は・・・」
一瞬戸惑った。
けど。
「私も護と一緒に居たい!今までの事も全部話し合って決めたの」
胸の内を言う。
「ハァ・・・。仕方ないわね。言い出したら、きかないんだから・・・」
お母さんが、肩を落とす。
「お母さん・・・」
「で、どの辺に住むつもりなの?」
「詩織さんの学校の近くで、探すつもりです」
護が、淡々と答える。
「詩織の学校の近く・・・ねぇ。護くんは、それでいいの?」
「いいんです、オレは・・・」
もしかして、また、遠慮してる。
「護。遠慮してるでしょ。それって、私が条件だしたせいだよね。ごめんね」
「気付いてたか・・・」
って、苦笑し出す。
「だったら、こうすれば。二人の学校を直線で結んで、その中止のところで探せばいいじゃない」
お母さんが言う。
うーん。
それだと、私がきついかも・・・。
って思ってたら。
「中間より、詩織側寄りで探せばいいんだよ」
「エッ・・・。それじゃあ、護が・・・」
って、言いかけて。
「大丈夫だ。それが一番いいと思う」
護が、言いきった。
「部屋が決まったら、教えてくれればいいから、二人が納得いく場所を探しなさい」
お母さんが、笑顔で言った。
「夕飯。食べていくんでしょ?」
お母さんが聞いてきた。
「今日は、このまま帰るよ」
「それは、残念だわ。また、ゆっくりおいでね。お父さんには、お母さんから言っておくからね」
お母さんが、寂しそうに言う。
「護君。詩織の事、改めてお願いするね」
お母さんが、護に頭を下げた。
「こちらこそ、迷惑かけてすみません」
「ううん。詩織の想いが届いて、ホットしてるのよ」
お母さんが、護に言う。
護が、驚いた顔をする。
「お母さん!」
慌てて、お母さんに言う。
「いいじゃない。今更隠す必要ないでしょ?」
ニコニコして言う。
「それって・・・」
護が、戸惑ってる。
「この子ったらね。護君の事好きすぎて、別れるって言い出したのよ。“ 護が、自分で気付くまでは、一緒に居ても辛いだけだから“って・・・。話せばいいのにね」
種明かし、しちゃった。
赤面する、自分が居る。
「そうだったんですか?」
護が、私を横目で見てくる。
「そうなのよ。だから、護君を振り回すようなことになったんだから、迷惑かけたのは、こっちだから、気にしないでね」
笑顔で言うお母さん。
あっ・・・、もう・・・。
何で、話しちゃうかなぁ。
「へー、そうなんだ・・・。じゃあ、オレって、ただ詩織に振り回されただけなんだ・・・」
わぁー。
護が、怖い・・・。
「じゃあ、これで失礼します」
護に、腕を引かれる。
「ちょ・・・ちょっと。そんなに引っ張らないでよ」
「ヘェー。そんな事が・・・。フーン。オレって、なんだったんだ・・・」
って、呟きだした。
あーあ。
お母さんの馬鹿。
「ってことで、このままオレの家な」
車に乗せられて、言われるままだ。
護の家・・・。
それは、私たちが同棲していた場所だった。
「ほら、入って・・・」
護が、玄関を開けて促す。
私は、一歩中に入る。
全然、変わってない。
「この部屋。あのままにしてある。懐かしいだろ」
護が言う。
「夕飯作るから、待ってろ」
護はそう言って、キッチンに入っていく。
「お邪魔します」
元は、自分の家だったのに、お邪魔しますって、なんか変んな感じ。
私は、靴を脱いで上がると、自分の部屋に向かった。
中に入る。
出って行ったままの状態だ。
本当にあのままなんだ。
「詩織・・・」
突然、背後から抱き締められる。
「ごめんね、護。ずっと、辛い思いしてたよね」
私は、護の手に自分の手を重ねる。
護が、軽く頷いたのがわかった。
「ずっと、待っててくれたんだよね」
私は、護に優しく問いかけた。
「オレ・・・。詩織と別れてから・・・、自暴自棄になって・・・・・・周りが見えてなくて・・・」
護が、辛そうに言う。
「この部屋に入ると・・・。詩織の笑顔が・・・甦って・・・その度に・・・涙が出て、ここには・・・もう、居ないんだ・・・って・・・」
涙声になっていく護。
今まで、見せてくれなかった一面だった。
私は、護に方に向き直って、抱き締めた。
「護・・・」
「詩織・・・。オレ・・・こんなに詩織の事・・・好きだって、思い知らされた・・・。詩織・・・もう、どこにも・・・行くな・・・」
強く胸に抱き締められる。
「うん。もう、護から離れないから・・・。離れろって言われても、引っ付いていくよ」
私は、笑顔で護を見つめる。
そして、護の唇にキスをする。
「絶対に、離さないから・・・」
誓いの口付けのように、再び口付けをした。