会えなかった時の想い
今回、会話文が長いです。
飽きずにお付き合いください
「今日は、どうしたの?」
護の車に乗って、聞いた。
「同棲するなら、お前の親にも言わないといけないだろう」
ほんと、律儀なんだから
「部屋代、払ってるの親なんだろ。だったら、その話もしないといけないだろうが・・・」
「そうだけど・・・。って、なんでそんな事を・・・」
私が、不思議に思ってると。
「部屋を引っ越すなら、部屋代も要らないだろうが・・・」
エッ・・・。
「それって・・・」
「部屋代ぐらい払えるようになったから、それを言いにな」
護、いったいどれだけ稼いでるの?
普通、あり得ないよね。
大学生で、生活費全般払えるって・・・。
「どうした?黙り込んで・・・」
「部屋代が払えるくらいって・・・」
「あぁ、隆弥さんが教えてくれた塾な。凄く待遇がいいんだ。受け持ちクラスプラスαがあって、で、オレがやる授業が解りやすいと評判で、人気度とかで金額が変わるんだよ」
そういや、隆弥兄もそんなこと言ってたっけ・・・。
隆弥兄ってば、大学入ってから、やけに羽振りよかったし。
車も、自分で買ってたし。・・・。
「・・・って、まさか。護って、人気講師ってこと?」
「そういうことになるのかなぁ」
「教えるのって、中学生とか高校生?」
「そうだけど・・・」
淡々と答える。
ハァー。
どんだけ、女の子が群がってることやら・・・。
想像するだけで、嫉妬しそうだよ。
護は、優しく丁寧に教えるだろうし・・・。
「心配か?」
護が聞いてきた。
「心配だけど、仕方ないよね。私にも同じことが起こりうるわけだし・・・」
「そっか・・・。詩織の場合は、ライブでのファンか・・・」
護が、納得する。
「心配?」
「心配だけど、今まで誰も近付いていないなら、大丈夫だろ。それにお前自身が、変わらない限りな」
落ち着いた声で言う。
「それに、詩織はオレしか見てないんだろ」
さらりと言う。
あからさまに言われると、恥ずかしい。
「そうだよ。護しか見てないよ。昔も今も・・・」
悔しいけど、言ってやった。
「はは・・・。それは、嬉しいことだ」
冷静に受け止められる。
うーん。
反論できない。
「そういや、詩織。オレと別れた後、男いたのか?」
全く、ストレートな言い方だなぁ・・・。
「居たと言えばいたし、居ないと言えば居ない」
私は、曖昧な言い方をした。
「なんだよそれ?」
護が、浮かない顔をする。
「だって、まともに付き合ってないもん。ただ、隣に男の人が居ただけで、何もないし・・・」
「そういうことか・・・」
護が、安堵してるのがわかる。
「それにね。どうしても、護と重ねちゃって、付き合えなかったんだ」
その言葉を聞いた護が、頬を緩めた。
「そんな嬉しいことを言ってくれるな」
「護は?」
「オレは、居たよ。ちゃんとした人が」
やっぱりね。
そうじゃないかって思ってた。
「それって、護を看病してた人でしょ?」
「違う。あいつとは、そんな関係にならなかった。先輩だよ」
先輩?
「家に押し入ってきた先輩じゃなくて、詩織みたいなタイプの先輩が居たんだ。でもな、長続きしなかった。オレは、その先輩に詩織の面影を探していたみたいで、先輩に振られたんだよ」
振られたって・・・。
「その先輩とも、関係を持つこともなかったがな」
そうだったんだ。
「詩織。オレな、他の奴と付き合ってても、お前の事が一番残ってて、ふと思い出すのが、笑顔なんだよ。それだけしっかりと焼き付いてたんだな。それで、改めて思ったんだ。詩織が、一番好きなんだって。先輩と別れてから、誰とも付き合わなかった。告白されても“好きな奴がいるから、付き合えない“って、断り続けた」
エッ・・・。
「オレの好きなのは、他の誰でもない、詩織だけなんだって、想い知らされた」
護の真剣な顔。
「それからさ。詩織が何でオレから離れていったのか?なぜ、オレを避けるようになったのか?って、考えるようになったのは・・・。でも、答えが見つからなかった。そして、無理矢理連れて行かれた合コンで、まさか詩織に会うとは、思っても見なかった。だから、ヒントになるものを探していたが、詩織の態度が、やたらと冷たいから、聞きそこねる始末。優基に相談したんだよ。そしたら、里沙ちゃんが翌日会う約束してることを聞いて、オレも着いていって良いかって聞いて、優基と一緒に行ったんだ。里沙ちゃんが、うまく理由を聞いてくれたお陰で、よくわかった。こんなに悩ませられるとは、思いもよらなかった」
「本当は、おかしいなって思ってたんだ。里沙には当時ちゃんと理由を話していたはずなのに、今更、何を聞きたがってるんだろうって・・・。しかも、直に本人に聞かせて欲しい、何て言うから、驚いたよ」
「あの後、本当に反省してたんだ。詩織への彼女の誤解も解かないといけないし、それに詩織に心配させるようなことを自分からしてたなんて・・・。いくら、熱で魘されていたとはいえ、詩織以外の奴に抱きついてるなんて、見たくないよな」
その言葉に頷いた。
「それから、護。あの時ちゃんと言ってくれてたら、狐のストラップなんか、買わなかった。彼女に誤解させてしまったのは、私のせいでしょ」
「何で、その事を・・・」
護が、驚いた顔をする。
「彼女が言ってたの。“やっと、同じストラップをしてくれたんだ“って・・・。あぁ、あの時渋ってたのは、彼女のせいだったんだって、その時思った。ちゃんと言ってくれたら、他のストラップにしてたのに・・・。って、後悔してたし。彼女が、無理矢理渡したのか?それとも、護が自分から受け取ったのか?気になって、仕舞うし・・・」
私はあの時の事を思い出すと、未だに落ち込む。
「ごめん。隠しておきたかったんだよ。旅行に行って、彼女から告白されて、同じストラップを着けて欲しいなんて言われてな。彼女は、オレと両想いだって思ってたみたいだった。学祭の時にやたらと引っ付いてくるし、無理に離すわけにいかなかった。でも、詩織とのやり取りを見て、思ったらしいぞ。“私に勝ち目はない“って・・・。彼女、その後からは、つきまとうことはなくなった」
エッ・・・。
どういう事?
「詩織が、オレの事を大切に思ってるからこそ、オレの事を考えて離れようとしてるなんて、誰が考えるかよ。普通なら、好きならば傍にいさせて欲しいだろうが・・・。それが、詩織は違った。好きだからこそ、別れるんだ。って言葉を聞いたとたん、彼女、恥ずかしくなったみたいだ。どんだけ、惨めな事をしたんだって・・・。病人に言い寄って、両想いになったのを嬉しがってる自分とは違う。そんな詩織には、勝てないって言ってた」
「だって、あの時は、本当に護に笑顔を守れないなら、私が居ても護が駄目になってしまうのが目に見えてたから、護から離れるなんて言葉は、出てこないと思って、だから自分から離れることにした。それが、私の護を守るためだったから・・・」
自分の好きな人の笑顔を大切にしたい。
「詩織の気持ちに気づくのが遅れて、悪かった。もっと早く気付いていればよかった」
護が、反省してる。
「でもね。優兄と隆弥兄には言ってあったんだよ。本当の理由。あえて言わないでくれたんだね」
「そうなのか?優基はそんな事、一言も言わなかった。隆弥さんに至っては、“今の試練を乗り越えれれば、詩織は必ず戻るから“としか、言われてない」
不機嫌そうな護。
二人とも、意地悪してたな。
「まあ、本当の理由を聞けてよかったよ。詩織の優しさに感謝しないとな。じゃないと、ずーっと一緒に居ても、今の関係に戻れてなかったかもしれない」
考え深げに言う。
そうかもしれない。
今、こうして一緒に居られるのは、一時でも離れてたからで、一緒に居たら、護の本当の想いを知らずにいたのかもしれないと思うと、辛いかも・・・。
「詩織、ありがとう。これで、本当の事を何時でも話せるようになれるよ」
「もう、隠し事は無しだよ。悩みがあるなら、ちゃんと言って欲しい。護から言ってくれれば、私も一緒に悩むし、解決できると思う。私も、遠慮せずに伝えるから」
「そうだな。詩織の言う通りなのかもしれない」
護の穏やかな笑顔が、垣間見れた。