大切なもの
私の手元には、今まで彼からもらった装飾品がある。
そして、左手の薬指には、新しい指輪が・・・。
私は、暫くの間考えていた。
彼は、私の事をちゃんと見ててくれたこと。
そして、私は、いつも逃げてばかりで向き合うことができなかった弱い自分がいること。
それをすべてを知った上で、彼は好きだって言ってくれた。
何を躊躇うことがあるんだろう。
こんなに愛されてるの・・・・・・。
私は、携帯に手を伸ばした。
そして、今まで避けてきた、彼の番号を押す。
truuuu・・・truuuu・・・。
コール音がする。
番号を変えてから、初めてかける。
もしかして、出てくれないかも・・・。
こんな感覚、前にもあった。
あれは、高校の時に不安になってた私に兄達が、携帯をプレゼントしてくれたときと同じ感覚。
やっぱり、出てくれないのかなぁ・・・。
そう思ったときだった。
『もしもし?』
何度目かのコールで繋がった。
「護?」
私が口を開くと。
『詩織?どうしたんだ・・・。って、今思いっきりデジャブーを感じた。前にもあったな』
護も同じ感覚になったみたい。
「さっきの事なんだけど・・・」
『さっきの?』
「一緒に住もうって話・・・」
『うん・・・』
「いいよ。でも、一つ条件出してもいい?」
『いいよ。詩織のだす条件なら飲むよ』
「できたら、私の学校の近いところでお願いしたいんだけど、いいかな?」
ちょっとした、我が儘。
『それが、条件なのか?』
護が、そんなの当たり前だって、感じで言う。
「うん。今の私の生活って、学校とバイトとライブが主なった動きだし、ライブ前にはスタジオで練習するから、結構泊まりになったりするんだよね。だから、学校の近くの方が・・・」
申し訳ないけど・・・。
『いいよ、それで・・・。一緒に物件探そうか?』
護が、落ち着いた声で言う。
「ありがとう、ごめんね。私、我が儘だよね」
『我が儘じゃないよ。今まで、そんなこと一度もなかっただろ』
優しい声音が聞こえてくる。
『明日って、時間あるか?』
「午前中なら・・・」
『午前中か・・・。オレが、無理だ。じゃあ、今度の土曜日に迎えに行くから、準備しておくように』
護が、命令口調で言う。
「わかった」
『じゃあ、お休み』
「お休み」
電話を切る。
護の温かみを感じる。
でも、どうしようかなぁ。
この指輪を着けて、学校に行くのはちょっと・・・。
って思いながら、口許は綻ぶ。
私は、今日もらった指輪を外して、箱に仕舞う。
そして、当時着けることができなかった、四つ葉のクローバーの指輪を嵌めた。
うん。
こっちの方が、勉強にも差し障りないし、違和感もない。
それにこの指輪の本当の意味を知ってる人は、少ないしね。
私は、自分で満足しながらベッドに潜った。
翌日。
学校に行くと、友達が目敏く指輪の事を聞いてきた。
「その指輪、可愛いね。どうしたの?」
「もらったの」
「エーッ。でも、そのデザインって、売ってないよね」
そんなに珍しいかなぁ・・・。
「うん。彼がデザインした一点物なんだ」
「いいなぁ。愛されてるって感じがする」
ニコニコ笑ってる。
「うん。今、凄く嬉しいんだ」
私は、自分でも信じられない言葉を口にしてた。
「御馳走様」
友達が、呆れ顔で言った。
抗議が終わり、学校を出ようと歩いていると、門のところに人だかりができていた。
「あれ、なんだろう?」
友人が、その人だかりを見ながら言う。
少なからず、女性の方が多いよね。
なんだろう?
私達は、遠巻きで見ていた。
そこの中心には、見知った顔が・・・。
えっと、どうしよう。
この人垣を越えてくには、勇気が・・・。
「誰かと、待ち合わせでも?」
一人の女性が、声をかけてる。
「いや。待ち合わせではないが・・・」
って・・・。
確かに約束はしてない。
「待ち伏せ・・・」
って・・・。
そんな時に限って、視線が絡まるんだよね。
うっ・・・。
これは、これで恥ずかしいんですが・・・。
私は、見なかった事にして歩きだした。
「ちょっと、ゴメン」
背後で、そんな声が聞こえてくる。
逃げたい。
「また、逃げようとして・・・」
その声が、私の肩を掴む。
私は、観念して振り返る。
「エッ・・・と。その・・・」
口ごもる私に。
「詩織。玉城さんと知り合いなの?」
傍に居た友人が声をかけてきた。
「知り合いって言うか・・・。何と言ったらいいのか・・・」
私が、しどろもどろになってるのを見て、護が。
「詩織とは、高校の時からの付き合いで、婚約してるんだ」
!!
堂々と宣言しました。
「そんなこと言って、後で知らないよ」
小声で言う。
「大丈夫だって、こういう時ほど堂々と・・・。って、そういうお前だって、その指輪してるだろ」
嬉しそうに言う。
「だって、あのときは、着けてあげられなかったんだもん」
「確かにな。いつも首から下げてたもんな」
護が、懐かしそうに言う。
「あのー。そこで思出話しないでくれるかな」
友人が言う。
「あっ、ゴメン」
「じゃあ、こいつ借りてく」
護がそう言って、私を引き寄せる。
エッ・・・。
どこに行くの?
「詩織。今度の合コンにS大のイケメンよろしく」
背後から、友達の大声。
私は、護を見る。
護は、苦笑しながら頷いてくれた。
「わかった」
私は、大きな声で返事を返した。