思わぬ申し出
外に出ると、少し肌寒かった。
「寒くないか?」
「大丈夫だよ」
「車、駐車場に止めてるから、このまま行くか」
エッ・・・。
「護、待って。下ろして、歩から・・・」
私の言葉を遮るように。
「駄目。直ぐそこだから、このまま」
って、歩き出す。
うーん。
何時にもまして、強引なんだから・・・。
護は、足早で車まで歩いて行く。
そして、助手席側のドアを開けて、私をそこに座らせると、ドアを閉める。
護は、運転席側に座り込んできた。
「さてと。どこに行く?」
護が、聞いてきた。
「どこっと言われても、この格好では、流石に・・・」
ドレスのままでは、どこにもいけないよね。
「だな。オレの家か・・・」
って言い出す。
「それは、ちょっと・・・」
再び付き合うことになったとしても、それは無理だよ。
「嘘。とりあえず、買い物だろ」
護が言うと車を走らせる。
着いた先は、デパート。
エッと・・・。
「この格好で行くの?」
「今は、それしかないだろ」
そうだよね。
私は、渋々車を降りた。
護が、さりげなくエスコートしてくれる。
「なんか、恥ずかしい・・・」
私が呟くと。
「そうか?周りなんか気にするな」
護が言う。
そうは言っても・・・。
流石の場違いに俯く。
「じゃあ、あそこに入るか」
って、今人気のブランドショップ。
「私、そんなに持ち合わせないよ」
私が言うと。
「大丈夫だよ。オレが払うから・・・」
護が言う。
「そんな、悪いよ」
「オレが出したいんだよ」
そして、護が選んだサーモンピンクのワンピースを試着する。
着替えを終えて、外に出ると。
「いいじゃん、それにすれば・・・」
護が、顔を赤めながら言う。
「すみません。これ、着て帰りますので、お勘定お願いします」
って、店員さんに言う。
店員さんが、ワンピースについてるタグを外す。
店員さんも、にこやかに。
「では、先程まで着てらしたドレスをこちらの袋にお入れください」
紙袋を渡された。
私は、ドレスを畳み渡された袋にしまう。
その間に護が、支払いを済ませていた。
再びショッピングモールを歩く。
「護、ありがとう。でも、本当によかったの?」
「ああ、気にするな。オレ、バイト始めたから、これぐらいはな・・・」
照れたように言う。
「バイト?」
護からの以外の言葉に聞き返した。
「そう。隆弥さんの紹介で、塾の講師をやってるんだよ。“教師目指してるお前だから、やりがいがあるだろ“ってな」
隆弥兄が・・・。
「“どうせ、お前の事だから、詩織の事諦めてないんだろ。だったら、今のうちに詩織を迎えれるように整えておけばいいだろうが“とも言われた」
「・・・・・・」
もう、言葉が出ません。
「隆弥さんには、お見通しだったみたいだ」
苦笑し出す。
「それから、“俺は、お前以外の奴に詩織を任せられないと思ってる。だから、今は、新たな試練だと思って、耐えるんだ“って、言われた」
私は、また涙が溢れてきた。
隆弥兄、それとなくフォローしていてくれたんだ。
もう、優しすぎだよ。
胸の中が暖かくなっていく。
「詩織。今日、泣きすぎ」
そう言って、私の涙を拭っていく。
「詩織。お前、腹減ってないか?」
って、気を使ってくれる。
「何で?」
「披露宴の時もあんまり食べてなかっただろ?」
見てたんだ。
「ありがとう。でも、あんまり空いてないよ」
「そうか。なぁ、詩織。もう一度、一緒に住まないか?」
エッ・・・。
「詩織の事、信用してる。けど、毎日、顔をみたいって思ってる。ダメ・・・かな」
護の熱い視線。
でも・・・。
「今、直ぐにとは言わない。詩織の気持ちが落ち着いてからでいい、考えてくれないか?」
躊躇してるのを見て、護が言う。
「・・・わかった・・・」
その後。
護に寮まで送ってもらった。