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天の邪鬼

入学式当日。

今日は、護も大学の入学式だ。

護のスーツ姿に見とれていた。

「私も、護の入学式に行きたい!」

駄々をこねてみる。

「行きたいって…。それは、無理だろう。お前、自分が大役受け覆ってるだろうが」

護が、諭すように言う。

「でも」

こんな格好良いのに…。

見に行けないなんて…。

私が、落ち込んでると。

「わかったから。式のが終わったら迎えに行くから、その後デートしよう」

護が、私を抱きしめながら言う。

「本当?」

私は、護の顔を覗き込む様に聞き返す。

「本当だ。それまでに行きたいところ決めとけよ」

護が、微笑みながら言う。

「わかった。私、もう行かないと間に合わな

いから…」

私は、護に軽くキスをしてから、腕から離れた。、

「行って来ます」

護に告げて、玄関を出た。


学校までの道のりをひたすら走った。

時間はまだ大丈夫だったのだが、先に行って先徒会室の鍵を開けないといけないからだ。

学校の門をくぐり、クラス発表の掲示板を見て、自分のクラスを確認して、鞄を置きに向かう。

「詩織、おはよう。今年もよろしくね」

って、私の後ろから、里沙の声。

「おはよう。って、本当?よかった。知らない子ばかりかと思ってた…」

「ちゃんと、見なかったの?」

「うん。慌ててたから、自分のしか見てない」

「そっか。後は、凌也君と忍ちゃんが同じクラスだったよ」

「生徒会メンバーが、四人も揃ってるんだ」

よかった。

佐久間君は、別のクラスなんだ。

「何、安心してるのよ。ほら、準備、準備」

そうでした。

私は、職員室に行き、鍵を取りに行く。

そのまま、生徒会室に向かう。

「遅い!」

生徒会室の前で待っていたメンバーが、一斉に言う。

「ゴメン」

私が、生徒会室のドアを開けると、一斉に流れ込んでいく。

「持って行くのって、コサージュだけだよね」

「そうだよ。持てる?」

そう言って、それぞれ段ボールを掲げて出てくる。

皆が出た後の最終チェックをする。

床に何か落ちてる。

何だろう?

私は、それを拾う。

゛水沢へ。

昨日は、悪かった。

俺、暫く生徒会への顔出しするのやめとく。

自分が惨めだし、会わせる顔がないからな。

気が向いたら、声を掛けてくれ 佐久間゛

そこには、佐久間君の殴り書きの謝罪文が、書かれていた。

反省してくれたんだ。

よかった。

私は、その手紙を仕舞い、正門に向かった。


「何してたの、詩織?」

里沙が、私が来るのを待ちかねていた。

「ちょっとね」

私は、言葉を濁す。

「それより、新入生もう来てるんだから、早く手伝ってよね」

忍ちゃんが、少し苛立ちながら言う。

「はい」

私は、新入生にコサージュを着け。

「入学、おめでとうございます」

一人ずつ、笑顔で声をかけていった。


「そろそろ、移動しないといけないね」

柚樹ちゃんが言う。

「ここは、私と拓人に任せて、皆は先に体育館に行って」

忍ちゃんが言う。

拓人君も頷く。

「じゃあ、お願い」

私達は、それだけ言って体育館に移動した。


「そういえば、佐久間君見ないけど。何かあったのかなぁ?」

里沙が、呟いた。

「うん。どうしたんだろうね」

私は、顔を引きつらせながら言う。

本当の事を言うのは、無理だ。

彼が、軽蔑されるのは避けたい。

わだかまりが解けた時に、私から声を掛ければいいことだ。


体育館の一番後ろの席に四人並んで座る。

「詩織。お祝いの言葉出来た?」

隣に座る里沙が、聞いてきた。

「うん。護に手伝ってもらって、なんとか出来たよ」

「エッ…。玉城先輩にって…」

その横で、柚樹ちゃんがビックリしてる。

「話すと長くなるから、今度ちゃんと話すね」

里沙は、事情をよくわかってるので、笑ってる。

式が始まる直前に、山本兄妹が入ってくる。

「何とか間に合ったね」

「うん。片付けもしておいたからね」

「ありがとう。今日は、集まり無しにするから、ホームルームが終わったら、帰っていいからね」

私は、皆に言う。

「わかった」

その後、入学式は滞りなく行われた。


教室に戻って、自分の席に着く。

ふと、窓の外に目が向く。

雲一つ無い空。

今まで、グランドに目が行っていた癖があったせいか、今もグランドに目が行ってしまう。

私は、正門に目をやる。

そこには、スーツ姿の護が居た。

ウワー。

新鮮な光景だ。

その回りをホームルームを終えた新入生達が、遠巻きに見ていた。

「…沢。水沢?」

「えっ…。あっはい」

「何に見とれてたんだ?自己紹介しろ」

担任に言われ。

「水沢詩織です。よろしくお願いします」

私は、席を立って慌てて挨拶した。

「よし、今日はここまでだ。気を付けて変えれよ」

担任が、教室を出ていく。

「詩織ちゃん。さっき何を見てたの?」

忍ちゃんが、私のところに来て聞いてきた。

「ん…」

私は、再び外に目を向ける。

「ウワー。凄い人だかりだね。…って、詩織ちゃんの彼じゃん。早く行ってあげなよ」

忍ちゃんが、ビックリして言う。

「うん。じゃあ、ね」

私は、忍ちゃんに手を振って教室を出た。



私は、他の生徒に混じりながら、近寄っていくと。

「玉城先輩」

って、同級生の子が声をかけてる。

「スーツ姿も格好いいですね」

猫なで声が、木霊してくる。

あーあ。

未だ、人気があるんだなぁ。

「先輩。このまま私とデートしてください」

って、次から次へと誘われてるし…。

やっぱり、学校での待ち合わせは、不味かったかなぁ。

私が、モヤモヤしてると。

「こら、そんなところで見てないで、さっさと出て来いよ」

って声が聞こえてくる。

うーん。

私は、その場で考え込んでて、動けなかった。

「詩織、聞いてる?」

「うん…」

「詩織さん。何してるんですか?」

「……」

私が答えずにいると。

チュッ…。

私の頬に柔らかいものが触れる。

エッ…。

顔をあげると、悪戯っ子の顔をした護の顔があった。

「ウワー」

私は、慌ててのけぞる。

「何て、失礼な奴」

護が剥れる。

「護…」

「玉城先輩。彼女なんかほっといて、私と行きましょ」

私の言葉をかき消すように彼女達が言う。

ハァ…。

人気者。

「どうぞ。連れてって構いませんよ」

私は、護にわかるようにふてくされる。

「玉城先輩。彼女もああ言ってることだし、行きましょ」

本当に皆、積極的だなぁ。

私には、出来ないよ。

私は、その垣根から逃げようと、背を向けて歩き出した。

「何言ってるのかな?」

護が、私の腕を引き寄せる。

エッ…。

「詩織。オレが、他の子とデートしていいの?」

ヴ…。

痛いとこついてくる。

「どうぞ。彼女達が望んでるわけだし…。私には、関係ないもん」

私は、嘘を付く。

本当は、行って欲しくない。

でも、私達が付き合ってる事は、ほとんどの人が知らないから…。

「本当にいいの?」

護が、優しく言う。

嫌だよ。

でも……。

「うん、行ってらっしゃい」

私は、笑顔で言う。

と。

「全く。そんな悲しい顔するなよ。オレがここに来たのは、お前のためだろうが…」

って、護が優しい眼差しで言う。

「でも…」

「でもじゃないだろ。朝、約束したじゃんか」

そうだけど…。

「先輩、行こう」

彼女達は、護の腕を引っ張っていく。

アッ…。

護と離されてしまった。

ハァ…。

「詩織。後で出掛けるから、準備だけはしておいて」

護が一言残して、行ってしまう。

何で言えないのかな…。

また、一人で悩むのかぁ…。

ハァ…。

本当、私って、天の邪鬼だ。

私は、一人帰路にたった。



家に着くと、自分の部屋でうずくまっていた。

何で、こんな事になっちゃうのかな?

もっと、自分を出した方がいいのかな?

でも…。

やっぱり無理だよ。

私には出来ない。

一人で考える。

今頃、あの子達、楽しんでるんだろうなぁ。

護、優しいからエスコートもスマートだし…。

「ただいま」

玄関から、護の声。

「詩織。帰ってるんだろ」

私の部屋のドアが開く。

「あーあ。また落ち込んでる」

護が、私の傍に来て言う。

「楽しかった?」

私は、その一言を言うのがやっとだった。

護が、溜め息交じりで。

「楽しいはず無いだろ。一番好きな詩織が居ないのに。彼女等とは直ぐに別れた」

って言う。

「それに、詩織の事が気がかりで、それどこじゃ無かった」

そう言いながら、護が抱き締めてくる。

「ほら、出掛けるぞ。支度しろ」

護が、優しく言う。

「今から?」

「そう、今から。約束しただろ」

笑顔の護をみながら。

「どこに行くの?」

「それは、着いてからのお楽しみって事で、さっさと準備して欲しいんだけど…」

って、護が、ハミカミながら言う。

「それとも、こんまま家でのんびりする?」

悪戯っぽい顔つきの護。

「やだ。デートする」

私は、自分でも子供っぽいかもって思いながら、返事をした。

「だったら、準備して」

護が、クスクス笑いながら言う。

「はーい」

さっきまで落ち込んでたのに、護の一言でここまで浮き足たつとは、自分でもビックリだ。

私は、制服を脱いで、春色のワンピース着替えた。

「お待たせ」

私は、リビングで待っている護に声をかける。

「やっと、笑顔が見えた」

って、護も着替えちゃったんだ。

スーツ姿、もっと見たかったなぁ…。

「何、残念そうな顔してるんだ?」

って、私の顔を覗き込んでくる。

「だって、スーツ姿、あんまり見れなかったんだもん」

って、ふてくされてみる。

「そう怒るなって、今度また見せてやるから…」

「今度って、何時?」

私が突っ込むと。

「そうだなぁ…」

って、考え込んでるし…。

「もういいよ」

私が、そっぽを向くと。

チュッ…。

護が、私の頬にキスをしてくる。

「そんなに剥れるなよ」

「だって…」

「わかったから、ほら行くぞ」

って、護が私に腕を引っ張る。

ワッ…。

突然の事で、私は護に抱き止められる。

「危ないな」

「急に引っ張るからでしょ」

「ゴメン。でも、急がないと時間がなくなる」

って、時間を気にしないといけないところなわけ?

ますます、訳がわかんないよ。

「ほら、早くしな」

って、腕を引っ張られていく。

「ちょ…ちょっと…」

私は、従うしかなかった。



連れて来られた場所は、水族館だった。

「昼飯まだだろ。先に食うぞ」

って、護はさっさと水族館に隣接してる、レストランに入っていく。

「ちょっと、待ってよ」

私は、その後ろを慌ててついていく。

一体、何なの?

席に着くと護がメニューを渡してくれる。

私は、護の顔を伺いながら。

「どうしたの?」

と聞いてみた。

「何が?」

って、質問を質問で返された。

エッと…。

もしかして、怒ってるのかなぁ。

私が、何も言えずにいると。

「ほら、さっさと決めろよ」

「…う、うん…」

私は、メニューに視線を落として…。

「シーフードドリアとオレンジジュース」

って、答えると。

「すみません」

って、護が店員さんを呼ぶ。

「はい」

「シーフードドリアとシーフードピラフ。オレンジジュースにコーヒーをお願いします」

護は淀みなく注文する。

「畏まりました」

そう言って、店員さんは下がっていく。

やっぱり、何かに怒ってるんだよね。

私は、顔をあげれずに俯くばかり…。

私、何かしただろうか?

したとしたら、さっきのだよね。

どうしたらいいんだろう?

お互いが、沈黙になってる間に注文したものがきた。

「ごゆっくり」

って、店員さんが言うと行ってしまう。

どうしよう?

どうしたらいいの?

私は、それに手をつけずにただ考えていた。

「どうしたんだ?食べないのか?」

護が、心配そうに言う。

「うん…」

私は、頷くしか出来ない。

何でだろう?

こんなに近くに居るに…。

遠く感じるのは…。

私が、壁を作ってるから…。

だから、遠く感じるの?

「詩織?」

護の優しい声が、聞こえてくる。

「何?」

「顔、あげなよ」

私は、首を横に振る。

あげれない。

だって、涙が…。

溢れてきてるから…。

このままじゃ、無理だよ。

「詩織…。ゴメン。お前を泣かすつもりなんてなかった」

護が、諭すように言う。

「さっきの事が、無償に気になってな」

やっぱり…。

「私のせいだよね…」

私は、やっとの思いで口にする。

「ゴメンね…。私、弱虫だから、皆みたいに出来ない…。ごめんなさい…」

私は、仕切りに謝る。

そして、何も口にせずに席を立つ。

「ごめんなさい…」

私は、それだけ言って、その場から逃げる。

っていうか、居られなかった。

私は、駅に向かって走り出す。

こんな自分嫌い。

でも、無理に笑う事も出来ない。

視界が、歪んでいく。

私は、どうしたらいいんだろう?

何がしたいんだろう?

私は、電車に飛び乗った。

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