兄の結婚式
それから、一ヶ月後。
優兄と里沙の結婚式が行われた。
私は、里沙の控え室にお邪魔していた。
「里沙、おめでとう。メチャクチャ、可愛いよ」
私の目の前には、ウエディングドレスに身を包んだ、里沙がいる。
「ありがとう。今日のスピーチよろしくね」
って、嬉しそうに言ってるけど、ちょっと顔色がすぐれない。
「はいはい、わかってます。お義姉さん」
私も、少し茶化し気味に言う。
「やめてよ。今まで通りでいいよ、詩織」
里沙が、恥ずかしそうに言う。
「えーーッ。でも、優兄と結婚するんだから、やっぱりお義姉さんでしょ?」
「確かにそうなんだけど・・・。でも、詩織も直ぐ伯母さんだよ、ね」
里沙に言われて、これまた笑うしかない。
「本当だよ。里沙のお腹に新しい命が芽生えてるなんて、ねぇ・・・。それ知ったときは、本当にビックリしたんだからね」
優兄から聞いたときは、驚きすぎて、何も言えなかった。
「そうだね。あたしもさ、まさか赤ちゃんが宿るなんて、思ってなかったよ」
幸せそうな里沙の顔。
まだ、お腹は目立ってはいないが・・・。
“お腹が目立つ前に式を“と優兄が言ったみたいで、急に決まった結婚。
でも、凄く優しそうな顔の里沙を見てると、自分の事のように嬉しくなる。
コンコン。
ドアが、ノックされる。
「はい」
里沙が返事をする。
「入るよ」
白のタキシード姿の優兄が入ってきた。
「可愛いな、里沙」
甘い声で呟く優兄。
「優基さん。それ、誉めすぎだから・・・」
里沙が、近付いてきた優兄に言う。
「でもさ、詩織がウエディングドレスを着るときは“可愛い“じゃなくて“綺麗“って言葉なんだろうな」
里沙が、羨ましそうに言ってくる。
「そう?まぁ、どっちにしても、ウエディングは、まだまだ先だよ。相手も居ないしね」
苦笑しながら、答えた。
「じゃあ、私は先に教会の方へ行くから、転ばないように優兄にしっかりエスコートされておいでね」
私は、二人に軽く手を振って、部屋を出た。
「詩織、どこに行ってたの?」
お母さんが、私を見つけるなりに聞いてきた。
「どこって、里沙のところだよ。私たち、幼稚園の時からの友達だもん。それに、里沙の事も心配だったし・・・」
私は、お母さんの横に並んだ。
「そっか・・・。でも、この年で初孫って、なんか複雑だよ」
お母さんが、苦笑してる。
「詩織。お前、ずいぶん会わないうちに女らしくなったなぁ・・・」
って・・・。
この声は、隆弥兄か。
隆弥兄は、教師として働きだしたとたん、家を出た。
だから、実家に戻っても隆弥兄と顔を会わすことはない。
「隆弥兄こそ、一段とカッコよくなったんじゃない。もしかして、彼女でもできた?」
隆弥兄に探りを入れてみる。
「仕事が忙しすぎて、それどころじゃねぇよ」
隆弥兄が、苦笑しだす。
「・・・で、護とは、相変わらずなのか?」
心配してくれてるんだ。
「そうだね。一ヶ月前にばったりと顔を会わせたけど、その時に酷いこと言っちゃった」
「何言ったかは知らんが、その時の事反省してたらどうする?」
優しい声で聞いてきた。
「その時は、その時でちゃんと向き合って話し合うつもりでいるけど・・・」
あの後だから、他に彼女でも作ってると思うけどね。
「そっか・・・。詩織の気持ちがはっきりと決まってるなら、俺は何も言うことない。でもな、俺は、護と元に戻って欲しいって、思ってる。あいつぐらいだからな。お前を任せられるのは・・・」
「隆弥兄・・・」
それ以上、言葉が出てこなかった。
それから、優兄と里沙の結婚式が、厳かに行われた。
幸せそうな里沙。
よかったね。
「里沙ー!おめでとー!」
教会の外で、フラワーシャワーの中、優兄が里沙を気遣いながら、抱き抱えて歩いてく。
「詩織。そろそろ、ブーケートスが始まるみたいだけど、行かなくていいの?
勝弥兄が、私の横に来て言う。
「うーん。行かなくても良いや。今貰っても、相手が居ないしね」
微笑みながら言う。
「そっか・・・。俺の彼女は、行ったみたいだけど・・・」
勝弥兄が苦笑してる。
「しかし、優基に先越されるとは、思いもよらなかったがな」
目を細めて優兄を見る勝弥兄。
「まぁ、優基も大学に行きながら、曲作って、認めてもらってるしな」
隆弥兄が言う。
あっ・・・。
隆弥兄が、優兄を褒めてる・・・。
珍しいなぁ。
後で、こっそり教えよーと。
「どうした、詩織?」
不思議そうな顔で、私を見る。
「何でもない」
私は、笑顔で言う。
「ほら、披露宴始まる前に少し休憩取りなよ。スピーチもあるんだろ」
「うん。悩みに悩んだあげく、シンプルにしたんだ」
「そうか。楽しみにしてる」
微笑む隆弥兄。
「じゃあ、私、少し休んでくるね」
「おう」
それだけ言って、披露宴会場のロビーに移動した。
ロビーで一人寛ぐ。
あっ・・・。
始まる前に化粧直しいておかないと・・・。
席を立って、お手洗いにいく。
鏡の前に立って、化粧を直していく。
そこに。
「うわー。詩織ちゃんだー」
聞きなれた声がした。
鏡越しに目があった。
「久し振りだね、忍ちゃん」
振り向き様に言う。
「うん。高校卒業以来だもんね」
彼女は、いつものように笑顔で言う。
「そういや、佐久間君、元気?」
「わかんない」
忍ちゃんの顔色が、変わった。
聞いちゃいけなかったのかな?
「どうしたの?」
「うん?まぁ、ここ最近彼も忙しくて、会ってないんだよね」
明らかに落ち込んでるよ。
「もしかしたら、今日は来てるんじゃない?里沙、生徒会全員招待したって言ってたし・・・」
そう言うと、忍ちゃんの顔が綻んだ。
「ホント?」
「うん」
「じゃあ、探してみる」
って、飛び出していった。
忙しいなぁ・・・。
私も化粧直しを終えて、出る。
と、人とぶつかりそうになった。
「ごめんなさい」
私は、慌てて言う。
「その声、詩織?」
顔をあげる。
優しい笑顔を浮かべた、護が居た。
この間よりも、カッコよくなってる。
って、見とれてる自分がいる。
「どうしたんだ?ボーとして・・・」
「あ、うん。何でもないよ」
目線を反らした。
「詩織。披露宴が終わったら、話したいことがある」
急に真顔で言う。
「時間、あるか?」
「うん。大丈夫だけど・・・」
「じゃあ、その時に・・・」
「わかった」
「玉城ー」
呼ばれて、彼は行ってしまった。
ドキドキした。
本人を目の前にして、今でもはっきりわかる。
私は、今でも護の事が好きなんだ。
でも、司は、私の事嫌いになったよね。
今さら、考えたってしょうがない。
今は、スピーチの事だけを考えようっと。
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こんな拙いストーリーを読んでいただき、ありがとうございます(T^T)
まだ、続きますが、お付き合いください。