気晴らし
携帯は、解約して新たな携帯を持つことは、しなかった。
「詩織。今日も護さん来てるよ」
正門に佇む護の姿。
里沙には、護と別れたことは伝えてある。
だから、伝えてくれるのだ。
「待ってても、会えないのにね」
里沙も半分呆れてた。
そうだね。
「ねぇ、詩織。気晴らしにどっか行こうよ」
里沙が、誘ってくる。
「うん、そうだね、でも、デートとかいいの?」
「最近、忙しそうなんだよね。だから、たまにはあたしと遊ぼう」
明るく言う里沙。
「里沙がいいなら、何処に行く?」
「久しぶりに詩織の歌を聞きたいな」
おっと。
意外な答えだ。
「じゃあ、カラオケだね」
「何?カラオケがどうしたの?」
忍ちゃんが、聞いてきた。
耳がいいんだか・・・。
「うん。今度の土曜日に、詩織とカラオケに行こうって話をしてたの」
里沙が、忍ちゃんに説明してる。
「エー、いいな。私も一緒に行きたい!」
「いいよ。人数が多い方が楽しいしね」
私も、同意する。
「いっそうの事、生徒会メンバーで行こうよ」
忍ちゃんが、思ってもいない提案をする。
「そうだね。声をかけてみようか」
「うん。楽しそう」
ということで、土曜日に生徒会メンバーで、カラオケに行くことになった。
土曜日。
駅前に集合することに・・・。
私は、時間より早めに待ち合わせの場所に着く。
・・・が、私よりも先に凌也が来ていた。
「早いね」
私が声をかけると。
「そうか?これが普通だろ?」
と、当然だって顔をしながら言う。
まぁ、凌也にとっては、当たり前か・・・。
「しかし、他の奴等、遅いな」
呟くように言う凌也。
「詩織ちゃーん。待った?」
忍ちゃんと拓人君が一緒に来る。
「大丈夫だよ。私も今来たところ」
「そういや。玉城先輩は、大丈夫なの?」
拓人君が聞いてきた。
「大丈夫だよ。気にしないで」
笑顔で言う。
私達が別れたことを知ってるのは、里沙だけ。
こういう気遣いは、仕方がない。
「悪い。遅れたか?」
佐久間君が、後ろから声をかけてくる。
「まだ、大丈夫だよ」
忍ちゃんが、佐久間君に寄り添ってる。
あれ?
「後来てないのは?」
「松本と桜だな」
それまで黙っていた、凌也が言う。
「遅れてごめん・・・」
振り返ると、里沙と柚樹ちゃんが一緒にやって来る。
「遅いよ」
「うん、ごめん。ちょっと、そこで知ってる人と話してた」
里沙が言う。
「そうなんだ。これで、全員揃ったよね。じゃあ、行こうか」
私が言うと、ゾロゾロとカラオケボックスに移動する。
「詩織。何歌うか決めてきた?」
「何も決めてないよ。リクエストでも歌ってあげれるから・・・」
「じゃあ、僕もリクエストしていい?」
柚樹ちゃんが聞いてきた。
「いいよ。今日は、一杯歌って、騒ごう」
笑顔で、そういった。
カラオケボックスに入って、一時間。
流石に部屋の中が暑くなってきた。
「里沙。ちょっと外で、涼んでくるね」
里沙の耳元で告げて、一度部屋を出た。
ふー。
涼しい。
しかし、久し振りに歌った。
自動販売機で、冷たいジュースを買ってそれを飲む。
美味しい。
ふと、人影が目に入った。
その人影は、佐久間君と忍ちゃん?
私は、二人に見つからないように、自動販売機の影に隠れる。
何してるんだろう?
・・・って、見てたら。
忍ちゃんが、佐久間君にキスをする。
エッ・・・。
思わず、持っていた缶を落としそうになる。
まさか・・・だよね・・・。
佐久間君も、まんざらじゃないようで、そのキスに答えている。
へぇー。
あの二人がねぇ・・・。
私は、残りのジュースを飲み干す。
空き缶を屑籠に入れた。
里沙には、まだ言わない方がいいよね。
ただ、目撃しただけでは、確信までいかないし・・・。
そのうち、忍ちゃんから話してくれるよね。
自分で、納得してる。
さーって、戻ろう。
部屋に戻ると。
「おや、詩織ちゃん。次、何か歌って」
拓人君と目が合ってしまい、言われてしまった。
「いいよ。何がいい?」
「バラード曲がいいなぁ」
って、里沙が言う。
今、そんなの歌う気分じゃないのわかってて、言ってるのがよくわかる。
「わかった」
私は、苦笑しながらそう答えていた。
ひとしきり歌って、三時間。
「やっぱ、詩織ちゃん歌が上手いよね」
忍ちゃんが言う。
「今年の文化祭は、歌わないの?」
柚樹ちゃんが、聞いてきた。
「今年は、誘われないと思うよ。軽音部に知り合いもいないからね。去年までは、優兄が居たから・・・」
「エー、もったいない。今年も、歌って欲しかったなぁ・・・」
忍ちゃんが言う。
「表舞台に立ったら、裏方出来ないよ」
私は、笑いながら言う。
「それもそうか・・・」
柚樹ちゃんも納得する。
「おーい、水沢。この後どうするんだ?」
凌也が聞いてきた。
どうしようか?
「このまま、ショッピングでもする?」
里沙が言う。
「うーん。私は、そろそろ帰るよ」
「そっか・・・」
残念がるメンバー。
「皆は、楽しんでおいでよ」
「そうだね」
「じゃあね」
私は、皆を見送ってから、家路に着いた。
「ただいまー」
玄関を開けて、中に入ると優兄が飛んできた。
「詩織。ちょっと来い!」
無理矢理腕を引っ張られる。
「ちょっと、いたいよ優兄ー」
優兄の部屋に引っ張りこまれた。
「お前。何で、護と別れた!!」
何、急に・・・。
「その話、前にもしたよね」
「だから、あれじゃあ、納得いかないんだって・・・」
優兄が、詰め寄ってくる。
「好きだからこそ、別れようと思ったんだよ」
自分に言い聞かせるように言う。
「普通は、好きなら傍に居たいだろうが、なぜ、別れようなんだ?」
優兄に説明しても、無駄だとこの時思った。
「うーん。好きだから、距離を置こうと思っただけだよ」
「お前一人が納得して、護の気持ちはどうなるんだよ」
優兄が、珍しく怒鳴る。
そこに。
「優、どうした?」
隆弥兄が入ってきた。
「隆兄・・・。詩織に言ってくれよ。護と別れるなって・・・」
優兄が、隆弥兄に懇願する。
「その話か・・・。俺も最初はそう思ったさ。でも、詩織の気持ちも大切なんじゃないか?詩織が何で、護と離れようと思ったのかを優は聞いたのか?」
隆弥兄の口調が、諭すような言い方だ。
優兄は、隆弥兄の言葉に首を横に降るだけだ。
「そっか・・・。俺は、それを聞いて、納得したんだよ。だから、今は距離を置いて、護がどうするかだよなって、詩織と話してた。ちゃんと詩織の事を見てたらわかる」
隆弥兄が、私の頭を優しく撫でる。
「そんなんで、納得できない!」
優兄が噛みつく。
「そっか。少し頭を冷やせばわかるだろ。護にもそう言っておきな。何のために一緒に居たかを考えろってな」
隆弥兄が言い捨てた。
「ほら、詩織も自分の部屋に戻りな」
優しく肩を押され、部屋を出る。
また、同じことがあるのかなぁ・・・。
私は、まだ、護の事が好き。
だけど、護は、気付いてくれるのかなぁ・・・。
私が、護と一緒に居たかった理由を・・・。
次回から、一気に年月が過ぎまする。