護の熱
球技大会も無事に終わり、平穏な日々が続いた。
そんな時だった。
アレ?
今日は、護、ロードワーク行かないのかな?
私は、気になって、護の部屋のドアを叩く。
「護?入るよ」
私が、護の部屋に入ると、護はまだ、ベッドの中に居た。
護の方へ近付くと、虚ろな眼差し。
私は、慌てて護の額に手を当てる。
熱い。
「護。大丈夫?」
「うーん・・・」
護は、熱にうなされていて、反応してくれない。
私は、体温計と氷枕を準備して、護の部屋に戻る。
護の頭を浮かせて、氷枕を入れてあげる。
体温計を脇に挟ませる。
その間に、お粥の準備をして、お母さんに電話してみる。
「お母さん。護が熱出して、どうしよう・・・」
私がオロオロしてると。
『ごめんね。お母さん、行ってあげたいけど、今日は外せない用事があるから、いけないのよ』
すまなさそうに言う。
『詩織。あなたは、ちゃんと学校に行くのよ。後、枕元には、水を置いてあげて。学校に行く前に、お粥を食べさせてあげて。それから、市販の風邪薬を飲ませてから、行きなさいよ』
お母さんが、細かい指示をくれる。
「うん」
『大丈夫。護くん、しっかりしてるから、体力が戻れば、自分で何とかするよ』
お母さんが、私を落ち着かせるために言ってくれてるのがわかる。
『じゃあね』
そう言って、電話が切れる。
私は、言われた通りにお粥を作り、護の部屋に運ぶ。
「護。お粥出来たよ。起きれる?」
私の言葉にわずかに反応を見せる護。
私は、保を支えながら起こして、スプーンにお粥をすくって、フーフーと冷ましてから、護の口に入れる。
「熱くない?」
護が、微かに頷く。
「もう一口、食べれる?」
そう聞くと、横に首を振る。
でも、無理にでも入れた方がいいと思った私は、もう一度、スプーンにすくって、冷ましたのを口に入れる。
それを無理にでも飲み込む護。
「ありがとう。今度は、薬を飲んで・・・」
私は、護の口に薬を入れる。
そして、ペットボトルから、直接水を飲ませた。
無理矢理だったかもしれない。
でも、何もしないで学校に行ったって、気になって手につかない。
今だって、本当はこのままここにいて、看病したい。
だけど、学校に行かないわけにはいかないのだ。
時計に目をやる。
もう、出ないと遅刻しちゃう。
「護。私、学校に行くから、大人しく寝ててね。なるべく早く帰ってくるから・・・」
そう、護の耳元に囁いて、護の唇に自分のを重ねる。
護の風邪が、私に移ればいいのに・・・。
そう思いながら、そっと部屋を出る。
私は、靴を履くと学校まで走った。
放課後。
私は、生徒会室で、次のイベントの打ち合わせをしていた。
「・・・で。次の大きなイベントって、文化祭だよね」
「そうだね。まぁ、徐々にって感じでいいんじゃない?」
「うん。今日は、解散にしよう」
私の言葉で、皆部屋を出ていく。
私は、鍵を閉めて、職員室に返しに行くと、急いで家に帰った。
家に着いて、玄関の鍵を開けようとしたら、鍵が開いていた。
私は、不思議に思いながら、中に入る。
そこには、見知らぬ靴が置いてある。
私は、部屋に上がると、護の部屋に見知らぬ女性の姿があった。
よく見ると、一度見たことのある女性だった。
あの人・・・。
確か、サークルの旅行で迎えに行ったときに、私を睨んでいた人だ。
「玉城君・・・。やっと、同じストラップをしてくれたんだね。私、嬉しい」
って、声が聞こえてきた。
エッ・・・。
それって、あの時の・・・。
だから、渋ってたんだ。
彼女から貰ったストラップと被ってたから・・・。
でも、私が強引に着けさせた。
護の気持ちに気づけなかった、私が、バカだったんだ。
「私ね。大学入ってから、ずーっと、玉城君の事、好きだったんだ。だから、凄く嬉しい」
護の耳元で、囁いてる。
エッ・・・。
「う・・・ん。詩織・・・」
護の呻き声が聞こえてくる。
「玉城君。私、あなたの傍に居ていい?」
その人の言葉に、護が。
「当たり前だろ」
間髪入れずに言う。
護・・・。
その人は、誰?
私は、・・・ここだよ。
熱に魘されてるとはいえ、護には、彼女と私の区別が出来ていない。
それは、わかってる。
だけど・・・。
「嬉しい・・・」
彼女が、護を抱き締めながら言う。
あっ・・・、そっか・・・。
今、私の居場所がなくなったんだ。
なーんだ。
そっか・・・。
私、ここに居ちゃダメなんだよね。
私は、静かに家を出た。