プレゼント
ホテルに戻ると、里沙と優兄が心配そうに近付いてきた。
「どうしたの?」
里沙が、戸惑いがちに言う。
「何でもないよ。ちょっと、夜景を見たかっただけだから…」
「護。連絡ぐらい入れてくれよな。こっちは、ハラハラして待ってたんだぞ」
優兄が、護に詰め寄る。
「悪い。詩織の事だけで、一杯一杯になって、連絡しそびれた」
護が、優兄に頭を下げてる。
「無事だったから、よかったものの何か、あったんじゃないかって、二人で気を揉んでたんだからな」
優兄が、珍しく怒ってる。
「本当にごめんなさい」
私も二人に頭を下げる。
「優基さん。もうそれぐらいでいいでしょ。あたし、ホッとしたら、お腹空いちゃったよ。ご飯食べに行こうよ」
里沙が、助け船を出してくれた。
「そうだな…。オレも腹減ったしな」
そう言って、優兄が歩き出した。
「ありがとう、里沙」
里沙に小声で言う。
「いいよ。どうせ、さっきの教会の事でウジウジしてたんでしょ。で、解決したの?」
里沙には、バレバレなんだね。
「うん。私の早とちりでした」
「だと思った。護さんが、詩織以外の人を連れてあんなところ、行くわけないじゃん」
里沙が、苦笑してる。
「そうなんだけど…。やっぱり、気になるでしょ?」
「確かに、そうかもしれないけどね」
里沙も納得してくれる。
「ほら、さっさと行くぞ」
優兄が、一足早く店に向かう。
私達は、慌てて後を追った。
「北海道っていったら、ジンギスカンだろ」
優兄が言う。
「そうなの?」
私が、キョトンとしてると。
「知らないのかよ」
呆れ顔の優兄。
「別に知らなくてもいいことだけどな…」
護が、横から言う。
「でも、何のお肉なの?」
里沙も私と同じように?を飛ばしてる。
「ラム肉」
ラム?
「用は、羊の肉」
護が、補足してくれた。
羊なの…。
私と里沙は、思わず顔を見合わせた。
「美味しいよ」
護が笑顔で言う。
「じゃあ、肉が焼ける前に、乾杯でもするか…」
「何に?」
「今日は、護の誕生日だろ」
そうだけど。
でも、それと乾杯って、意味があるの?
「護の誕生日に乾杯」
「乾杯!」
チン…。
グラスが軽く触れ合って、優しい音色をたてる。
「おめでとう、護」
「おめでとうございます、護」
「護、おめでとう」
三人で、おめでとうの合唱する。
「ありがとう。まさか、こんな風に祝ってもらえるとは、思わなかった」
護が言う。
「ほれ、プレゼント」
優兄が、護にプレゼントを差し出す。
「男から、プレゼントもらうとは、思わなかった」
護が、戸惑いながら言う。
「あたしからも…」
そう言って、里沙がプレゼントを渡す。
「ほら、詩織からもあるんでしょ?」
「うん。あるにはあるんだけど、後で渡したいかな」
一人、誤魔化すように言う。
「何、もったいぶってるんだよ…」
優兄が、茶化してくる。
「優基さん。詩織には、詩織の考えがあるんだから、ね」
里沙が、フォローしてくれる。
「そうか…。そうだよな。悪い…」
優兄が、珍しく落ち込む。
「それより、ほら、そろそろ肉も焼けるぞ」
護が、場を繕う。
「美味しそう」
「詩織。ほら、熱いから気を付けて食えよ」
護が、取り皿に取り分けてくれる。
「あるがとう」
笑顔で、それを受けとる。
「護。お前、詩織には過保護なんだな」
「しょうがないだろ。惚れた弱味だからな。それに、火傷されても困る」
「ご馳走さま。って、俺の時と大違いだ」
優兄が、ごねてる。
「当たり前だ。男に優しくして何が、楽しいよ」
護が言い返した。
「詩織。こんなにも思ってくれてるなら、心配ないね」
里沙が、耳打ちをしてきた。
「うん…」
「詩織、どうした?」
「どうもしないよ。ラム肉、美味しいね」
護に心配させないように、笑顔で言うのだった。