我が儘
暫くその場で立ち尽くしていた。
空は、暗闇になっていて、星が綺麗に輝いていた。
私、こんなところで、何してるんだろう。
護も呆れてるよね。
私は、夜道を歩き出した。
少し、頭を冷やしたかったので、ホテルとは反対方向に歩き出した。
土地勘のない場所を…。
しかも、暗闇のなかをあても無く歩く。
どことなく歩いていたら、小高い丘に出た。
眼下に広がる光の渦に加えて、天には、まばゆいばかりの星空…。
私は、その景色を暫く眺めていた。
そろそろ戻ろう…。
皆、心配してるだろうな…。
私が、決心をして振り返ると、護の姿が目に入った。
「護…」
私は、顔をあげる事が出来なかった。
「詩織。やっと、戻る気になったんだな」
護が、優しく私を包み込む。
「ごめんなさい…」
「うん。何となくわかってた。詩織が、何か抱え込んでるの…」
護が、私の頭を撫でる。
「あの教会な。たまたま、朝のロードワークで走ってたら見つけたんだ。…で、詩織、こういうの好きかなって思って、連れてきたんだけど。それが、かえって裏目に出たのかな」
護が、優しく言う。
「だから、詩織が思ってることなんて、全然ないから…」
「うん…」
「詩織の笑顔が見たいだけなんだ」
私は、護の服を掴む。
「私でいいのかなぁ…」
呟いてみる。
「“私でいいのか“って、お前しかいないじゃん。詩織しか要らな」
護のハッキリした言葉にまた、涙が溢れてくる。
「もう泣くなよ。オレだけの詩織だろ」
私は、護の胸に顔を埋める。
「詩織、顔をあげろよ。オレは、詩織の笑顔が見たい」
護に言われて、顔をあげる。
視線が、絡み合う。
「詩織…」
護に唇が、私の唇に重なる。
「…ん……」
長いキス。
護の想いが伝わってくる。
「…詩織。愛してる…」
そして、もう一度唇を重ねた。
「詩織の体、冷えてしまったな。さっさと戻るぞ」
「うん…」
護に肩を抱かれながら、歩く。
「里沙達に悪いことしちゃった…」
「そうだな。あの二人なら、大丈夫だと思うがな」
「でも、なんで、護が居たの?」
「何でって…。詩織の後を付けたに決まってるだろう」
エッ…。
「お前なぁ。オレが、本当に怒るとでも思ったのかよ」
「…うん…。あの場合は、飽きられてても仕方がないって思ってた。嫌われたかなって思った」
自分の胸の内を正直に話す。
「普通なら、そうかもしれないが…。でも、詩織が、オレの前から居なくなるの何度目だと思ってるんだよ。少し、反省してくれればいいと思っただけだ。そしたら、ホテルと反対方向に歩いていくから、慌てたぞ。暗くなってくるし、知らない場所を歩き回るから…」
護が、苦笑する。
「でも、ほっとけなかった。オレ、詩織の事、一番大切な存在だから……。落ち着くのを待っていた」
護の言葉が、胸に響く。
「ごめんなさい。私って、我が儘だよね」
「これぐらいの事なら、我が儘って言わないよ」
護が、目を細める。
「でも…」
「そうだな。詩織の場合は、我慢しすぎだから、その方がちょうどいいんじゃないのか。それに、オレの限界点は越えてない」
護の優しい声。
護…。
あなたは、どこまで優しいの…。
「護。優しすぎだよ…」
「そうかもな。詩織だからなのかもしれんが…」
そう言って、私の事を強く抱き締めて、額にキスをする。
私は、恥ずかしいのと嬉しいのが入り交じり、俯く。
「ほら、顔をあげろよ」
護が、私の顎を持ち上げて視線が合う。
「詩織。余り可愛いことするなよ」
可愛いことって、何だろう?
私が、首を傾げてると。
「そんな顔するなって。押さえきれなくなるだろうが…」
私の耳元で言う。
うっ……。
私は、言葉に詰まる。
「続きは、戻ってからな」
護に言われて、軽く頷くことしか出来なかった。