すれ違う想い
「…で、次は、どこに行くの?」
「じゃあ、オレが行きたい場所でもいいか?」
私の言葉に護が言う。
「いいけど…」
優兄も里沙も頷いてる。
私も黙って頷いた。
「じゃあ、着いてきて…」
護が、私の手を握って歩き出す。
その後ろを優兄と里沙がついてくる。
暫く歩いていると、ある建物が見えてきた。
「護…?」
「そうだよ。オレが来たかったところ」
そう言って、笑顔を見せる。
護が、連れてってくれたのは、教会だった。
「中見る?」
護が言う。
私達は、頷く。
「でも、勝手に入ってもいいのかな」
「許可は取ってあるから、大丈夫だよ」
護が、ニコニコ笑ってる。
私達は、教会の入り口のドアを開けて、中に入る。
「うわー」
「スッゲー」
「綺麗」
私達は、それぞれに感嘆の声をあげる。
ステンドグラスから陽が零れてきて、色とりどりに輝く。
「護。よく知ってたね」
「ああ、前回の時にちょっと…」
エッ…。
前回って…。
サークルで来た時ってことだよね。
何か、あったのかな?
「そっか…。でも、こんな所で式が挙げられたら、いいよね」
里沙が、優兄を見て言う。
「そうだな」
二人の会話が耳に入ってくる。
けど、私の頭には、違うことが掠めていく…。
もしかして、サークルのメンバーの人と来てたのかな…。
「詩織…」
護が、私の顔を覗き込んでくる。
「どうしたんだ?また、よからぬ事でも?」
護が、私を抱き寄せる。
うーん。
正直に話した方がいいのかな?
でも、さっき、言葉を濁してたしなぁ…。
「何を考えてるんだ?」
「何でもないよ」
これが、一番妥当だよね。
きっと、私以外の人と来たんだよね。
なんか、落ち込むかも…。
「本当に、何でもないのか?物凄く落ち込んでるように見えるんだけど…」
心配掛けたくなくて、笑顔を作って。
「うん。本当に何でもないよ」
うまく笑えてたかなぁ…。
作り笑いって、苦手だから…。
「ならいいけど…」
護の腕から逃れて…。
「凄く綺麗な教会だね」
って、呟いた。
「ああ、そうだな」
護が、私から視線を外した隙に、一人、教会の外に出た。
外に出て、教会の影で一人落ち込む。
この間の旅行で見つけたって、言ってたけど…。
当然、一人じゃないよね…。
やっぱ、誰かが側に居たんだよね。
なんか、寂しい…。
でも、こんな寂しい思いするなら、言わなければよかった。
私は、一人でモヤモヤしながら、教会の外を歩いた。
辺りは、夕闇に染まりつつある。
こんな事で、グルグルしてる私も変だけど…。
「詩織!」
エッ…。
不意に呼ばれて、振り返ると、車が近づいていた。
あっ…。
私が、動けずにいると誰かに腕を引っ張られる。
キキーーッ。
ブレーキ音が、木霊する。
車から、運転手が降りてくる。
「大丈夫ですか?」
優しい声の持ち主だった。
その声に弾かれるように、涙した。
「う…、うっ……」
「どこか、痛めた?」
優しい声が、私の頭上からする。
首を横に振る。
「大丈夫ですか?」
そんな私に、運転手が声をかけてくる。
「大丈夫です。ご迷惑かけてすみません」
私を抱き締めてくれる人が、代わりに答えてる。
「そうですか…。では…」
運転手さんは、それだけ言って去っていく。
「詩織…。どうしたんだよ。そんなに悲しむなよ」
優しく抱き締めているのは、護だった。
そう、いつもこうやって、助けてくれる。
「本当に大丈夫なんだな」
私は、頷く。
「びっくりさせるなよ。オレの寿命が縮まっただろうが…」
護が、心配そうに言う。
「……ゴメン…なさい…」
「突然居なくなるし…。優基も里沙ちゃんも、心配してる。戻るぞ…」
護が、私の肩を抱きながら歩く。
でも…。
なんか、行きたくない…。
って、私の我が儘だと思う。
本当は、護とも顔を会わせたくない。
「詩織…。どうしたんだよ」
護が、私の顔を覗き込んでくる。
私は、護と目を会わせないようにそっぽを向く。
「なんだよ。オレとも顔を会わせたくないのかよ…」
護が言ったと思ったら。
「わかった!好きにすればいい!」
そう言い捨てて、行ってしまった。
そうだよね。
うん。
それが、正解の態度だと思う。
私は、護が去って言った方を見据えていた。