旅行なのに… ②
オルゴール館の中に入ると、色々な形のオルゴールが所狭しと並べられていた。
「凄い!」
「圧巻だな」
「こんなに種類があるなんて…」
私達が驚いてる横で、護が落胆してる。
「どうしたの?」
「うん…。この間も来たからな」
そっか…。
「じゃあ、退屈だよね。私と外で待っていようか?」
「いいよ。一緒に楽しもう」
護が、私の手を引いて、オルゴールを手にして、聞かせてくれる。
「綺麗な曲」
「気に入ったなら、売店で買うことも出来るから、買っていくか?」
護が、笑顔で言う。
「ほんと?」
「うん。詩織の好きな曲で構わない」
「じゃあ、向こうで聞き比べして決めよう」
私は、護の腕を引っ張っていく。
売店では、いろんな曲を聞いていく。
「私、この曲がいいなぁ」
「詩織が、いいなら」
護がそれを持って、レジに向かった。
私は、その間外で持っていた。
「詩織。ほら…」
会計を済ませた護が、オルゴールを渡してくれる。
「ワー。ありがとう、護」
私は、満面の笑みを称える。
「どういたしまして」
「詩織ー。次の場所に行こう」
里沙が、優兄と手を繋いで言う。
仲良しなんだから…。
「うん」
そう頷き、護の腕を引っ張る。
「詩織?」
護が、不思議そうな顔をする。
何食わぬ顔で、護を見つめて。
「早く行こう」
「あ、あぁ…」
護が、不愉快そうに言う。
どうしたんだろう?
「護。どうかした?」
「……」
私、何かしただろうか?
護の顔を覗き込む。
護の顔が、本の少し赤くなってる。
エッ…。
私は、護の額に手を当てる。
熱は無いみたいだけど…。
「詩織。それ、反則…だから…」
それって?
不思議に思ってると。
「そんな笑顔で、腕引っ張るなんて…」
あれ、照れてるだけ?
なんか、久し振りに見たかも…。
「じゃあ、腕、組んでもいい?」
私は、久し振りに聞いてみた。
「そんなこと聞かなくても…」
護が、慌てて言う。
私は、護の腕に自分の腕を絡めた。
「ねぇ、護。こうやって、歩くの久し振りだよね」
「そうだったか?」
そっけない言葉が、返ってくる。
もしかして、お姉さま方にされてるから、慣れちゃったのかなぁ…。
「詩織、護。二人の世界に入ってないで、早く来い」
優兄が、大きな声で叫ぶ。
恥ずかしいなぁ…。
私は、俯いてしまう。
それに対して、護が。
「わかった」
返事を返したと思ったら、いきなり抱き上げられていた。
「ちょ…ちょっと、護…」
私の慌て振りに。
「しっかり掴まっていろよ」
護が、面白がって、走り出す。
私は、慌てて、護の首に腕を回す。
「キャーー」
落とされないように、必死に掴むだけだった。
「護。それは、流石にやりすぎだろ」
優兄が、護に言う。
「そうか?」
護も、そっけなく答える。
「いいな、詩織…」
里沙が、小声で言う。
「よくないよ。あれ、凄く怖いから」
「でも、憧れるよ。お姫様抱っこで走られるの」
里沙の目が、夢見心地になってる。
「そう言うけど、護の場合、ダッシュがメチャクチャ怖いんだって…」
「そっか。玉城先輩、走るの早いもんね」
里沙が、ようやく納得してくれた。
「そうなの。それに、未だに走ってるから、余計に怖いんだよ」
「でもさぁ。玉城先輩って、カッコいいよね。詩織に為なら、何でもするって感じで…」
里沙が、羨ましそうに言う。
「そうだね。だからかな。私は、護にとってお荷物じゃないかって、いつも思ってるんだよね」
私が言ったとたん、前を歩いてい護が振り向いて。
「詩織は、荷物じゃない。パートナー。詩織がいるから、オレは頑張れるんだよ」
って、肩を抱かれる。
やだ。
恥ずかしい…。
私が俯くと。
「よかったね、詩織」
里沙が、小声で言う。
「それから、里沙ちゃん。その“先輩“って言い方やめて欲しいんだけど」
護が、里沙に言う。
里沙が、困惑し出す。
「どうしてですか?」
「どうしても、何も。里沙ちゃんは、これからも優基と一緒に居るんだろ?だったら、先輩っておかしくない?」
護が、何を言いたいのか、わかった。
里沙には、未だわからないみたいだけど。
そんな里沙に。
「いずれ、兄弟付き合いになるのに、先輩だと他人行儀だから、普通に呼んで欲しいんだって」
私は、護の言葉に付け足すように言う。
その言葉に里沙が、優兄を一瞬見て俯く。
あれ?
優兄は、里沙と別れるつもり無いって言ってたけどなぁ…。
優兄も照れ臭そうに、そっぽを向いてる。
「二人とも、どうしたの?一緒にならないの?」
「それは、その…」
二人は、同時に言いながら、言葉を濁す。
「苦労は、一緒にした方がいいぜ」
護が、二人に向かって言う。
「そうなんだろうけど…。まだ、俺にはその覚悟が備わってない」
優兄が、弱々しく言う。
「優基さん…」
「だけど。俺は、里沙を手放す気はないから!!」
優兄の力強い宣言。
その言葉に里沙が、戸惑っていた。
「俺は、里沙が傍に居てくれるだけで、心強くなれるから…」
優兄が、里沙の肩を抱く。
「…嬉しい…」
里沙が、泣き笑いの顔をする。
「優兄。里沙を泣かしちゃダメだよ」
そんな優兄に茶々をいれる。
「詩織、からかうな。オレ達の方が、二人より先輩なんだからな」
護に注意される。
「そうだね。ごめんなさい。里沙には、護の事“護さん“で呼んで欲しいな」
「護さん…で、いいですか?」
里沙が、護に向き直って聞く。
「その方がいい。玉城だと、詩織も含まれるからな」
優しい声音で言う、護。
「言い慣れるまでは、大変だろうけど、そっちでよろしく」
「わかりました」
里沙が、敬語で言う。
「ごめんな。その敬語もやめてもらえると嬉んだが…」
護が、すまなさそうに言う。
里沙が、面食らってる。
アハハ…。
護らしいや。
「護。それは、里沙には無理だ。俺だって、未だに敬語なんだから…」
優兄が、横から言ってきた。
エッ、そうなの?
私は、里沙を見ると苦笑いしてる。
「どうしても、敬語でしか喋れなくて…」
「私と話してるみたいにすればいいんだよ」
「それが出来れば、苦労しないって…」
「でもさぁ。私達、兄弟になるんだから遠慮してたら、疲れちゃうよ」
里沙に言ったつもりなのに、護も優兄も驚いてる。
「そんなに、驚くことかなぁ」
「エッ。だって、今兄弟って言っただろ」
「うん」
「……」
三人とも、黙り込んじゃった。
「違うの?だって、私と護は、婚約してるんだから、護と優兄は義兄弟になるよね。優兄は、里沙とって思ってるってことは、私と里沙は、義姉妹になるってことでしょ?違う?」
私の言葉に三人が、顔を見合わせる。
「そっか…。そうだよね。あたしと優基さんが一緒になるってことは、詩織とも義姉妹になるんだ…」
「だから、里沙が敬語で話すのって、おかしいよね。まぁ、双子の兄達に対してなら、そのほうが、好感はあがると思うけどね」
笑顔で里沙に伝える。
「そうだな。隆弥さんや勝弥さんには、敬語の方がいいかもしれないが、オレには敬語は不要だ」
護が、優しく里沙に言う。
「わかった」
里沙が、やっと敬語を脱ぎさった。
「里沙。何で、俺が言ったときには無理だったのに、護だといいんだ?」
優兄が、不貞腐れるように言う。
「だって、ちゃんと理由を言ってくれる護さんに対して、優基さん、何も言ってくれなかったじゃんか…」
里沙が、優兄に言う。
「そう言われても、説明しづらいんだから、仕方ないだろ」
優兄が、困ったように言う。
「…ということで、これからは普通に話してな。じゃないと、返事しないから」
優兄が、里沙に言う。
「うん。そうする」
里沙が素直に頷いていた。