買い物
翌朝。
「詩織。今日も迎えに行くからな」
私が、玄関で靴を履いてると護の声が飛んできた。
「ごめん、護。今日は、里沙と旅行の買い出ししてくるから、遅くなるよ」
私は、昨日里沙とのやり取りを思い出して言う。
「そっか。じゃあ、今日は学校まで送る。それから、帰りはメールしてくれれば、迎えに行くから」
護が、急いで支度する。
「さ、行こう」
護が、私の腕を引っ張る。
「ちょ…ちょっと…」
もう、強引なんだから…。
私も、嬉しくて笑顔になる。
でも、この間一緒に登校したときの事を思い出すと、ちょっと不安にもなる。
「詩織、どかした?」
護が、私の方を振り替えって聞いてくる。
「うう…ん。また、この間みたいなことになるのかなって思ったら、ちょっと凹むと言うか…」
「この間?」
「この前、一緒に登校したじゃんか、あの時だって、私も一緒に居たのにもかかわらず、護ばかりに集中してたでしょ。だから、あの後落ち込んだんだからね。生徒会長の私よりも、卒業した護の方が、人気なんだなって…」
私は口を尖らせて言う。
「それは、たぶん言えなかったんじゃないか? 普段の姿と違うお前に声かけにくかったんだと思うぞ」
護が、苦笑しながら言う。
「そうなのかな?」
「お前さぁ。オレと居るときとの態度って、意外に変わるから、その戸惑いで、オレの方に挨拶が集中したんじゃないか?」
変わらないと思うけどなぁ…。
「自分じゃ、わからないだろうがな」
うーん。
「詩織、おはよう。…玉城先輩、おはようございます」
何時もの様に、里沙が声をかけてくれる。
「あ、おはよう」
「里沙ちゃん、おはよう。今日は、詩織をよろしくね」
護が、笑顔を向ける。
里沙が、一瞬戸惑い。
何の事?って顔をする。
私は、慌てて里沙を肘で突く。
「あ、はい」
慌てて、返事する里沙を護が不思議そうな顔で見る。
「じゃあ、あたし、先に行ってるね」
って、里沙が、そそくさとその場を離れていく。
あっ…、逃げた。
「詩織、朝言ってたのって、嘘なの?」
護が、不機嫌になる。
「嘘じゃないよ。昨日の朝、話してたんだから…。私の事、信じられない?」
その場を見繕うように言う。
「わかった、信じる。その代わり、買い物が終わったら連絡入れること」
「はい。約束します」
返事をして、生徒の往来があるのにもかかわらず、護の頬に口付けた。
護の驚いた顔を見つめる。
「詩織さん。ここは、往来ですよ。そんな大胆な事して、大丈夫なんですか?」
護が、急に敬語になるから、ついクスクス笑ってしまう。
「おかしいなぁ。いつもなら見せびらかす絶好のチャンスだって、言いそうなのに…」
「お前は…」
私の額を指で小突きながら、笑い出す。
「じゃあ、行ってきます」
「おう、頑張れよ」
私は、小さく手を振って、教室に向かった。
教室には、先に来ていた里沙に。
「里沙。さっきは、よくも逃げてくれたわね」
里沙の脇腹をくすぐる。
「わーー。ちょ…ちょっと、やめてよ…」
里沙が、のけ反る。
「危うく、疑われるとこだったんだからね」
「ごめん。なんか、邪魔しちゃいけないかなと思って……」
里沙が、タジタジになりながら、言う。
「もう、今日は、一緒に買い出しに行く約束したじゃんか…」
「そうだったね。でも、あたし、急用が出来ちゃったから、行けないんだよね」
里沙が、意地悪く言う。
エーー。
「ごめんね」
里沙は、そう言ってから、席を離れていった。
どうしよう。
でも、ういか。
一人で、買い物に行けば…。
そう思いながら、一日を過ごした。
放課後。
生徒会の仕事も、早く終わらせて駅前のデパートに来ていた。
さて、護の誕生日プレゼント、何にしようかなぁ。
財布?
パスケース?
それとも…。
いつも使ってもらえるやつの方が、いいよね。
私は、あっちこっち見てまわる。
あえて、時計?
でも、今は携帯があるしなぁ…。
あれこれ、手にして見ては、戻すの繰り返し…。
うーん。
…と。
ある、ジュエリーショップで足を止めた。
あ、これ、護に似合うかも。
店頭に並んでた、男物のネックレス。
シンプルでいて、太めのチェーン。
トップレスに天使の羽根が、モチーフになってる。
価格も手ごろで、私にも手がだせる。
これにしよう。
「すみません。あそこにあるネックレス。包んでもらえますか?」
店員さんに言うと。
「はい。プレゼント用でよろしかったですか?」
「はい」
「でしたら、カードも一緒につけておきますね」
店員さんが、そう言って付けてくれた。
支払いを済まして、鞄にそれをしまう。
「ありがとうございます」
店員さんの声を背中越しに聞きながら、店を出る。
よかった。
護に遭う、プレゼントが見つかって…。
そうだ。
プレゼントに添えるカードを手紙にしてみよう。
今の私の気持ちを全部、手紙にたくしてみよう。
そう思い立って、レターセットを購入すべく、文具店に向かう。
「お、詩織。こんな所でどうした?」
振り向くと、勝弥兄がいた。
「勝弥兄こそ、こんな所で何してるの?」
「何って…」
言いながら、目線は、彼女の方に向いていた。
なるほど。
「護の姿が見えないところを見ると、お前一人で来てるんか?」
勝弥兄が、心配そうに言う。
「うん。護の誕生日プレゼントを買いに来たんだ。それと、旅行に必要なものも買いにね」
「そのわりには、何も持ってないじゃないか?」
勝弥兄の鋭い突っ込みに。
「とりあえず、プレゼントが先だったから…。これから、旅行用のものを買って帰るつもり…」
「おいおい。外、真っ暗になってるのに、それ以上遅くなるなら、護を呼び出せよ」
怪訝そうな顔をして言う。
「元から、そのつもりだよ。買い物が終わったら、連絡するように言われてるからね」
「それならいいが…。じゃあ、気をつけろよ」
勝弥兄と別れて、改めてレターセットを買いに向かう。
そうだなぁ…。
護に合わせて、シンプル系で、ちょっと可愛い系がいいかなぁ…。
私は、レターセットを見つめながら、あれこれと探す。
これにしよう。
藍色のレターに指輪のモチーフにもなってる、四つ葉のクローバーが散りばめられてるのを取る。
私からだって、一目でわかるよね。
私は、レジに列び購入する。
さて、後は、旅行用に必要なものを買って、護に電話する。
『もしもし?』
「もしもし、詩織だよ。今、駅のデパートに居るから」
『もう直ぐ着くから、入り口で待ってろ』
「わかった」
電話を切る。
あれ?
なんで、私の居場所がわかったのかな?
って言うか。
今の声、怒ってなかった?
私は、一階に降りて入り口で護が来るのを待った。
あれから、数分後。
護が、不貞腐れるように現れた。
「護」
声をかけると。
「詩織」
ちょっと怒ってる感じがするのは、私の気のせいではなかったみたいだ。
「お前。朝は、里沙ちゃんと買い物に行くからって、言ってなかったか?」
もしかして、バレてる…。
「昨日に時点ではそうだったんだけど、朝になって里沙、用が出来たからって、断られたんだよ。でも、旅行用に必要なものがあったのも事実だから…」
言葉尻を濁しながら言う。
「だったら、その時点で電話くれれば、オレが付き合ってやったのに…」
護が、口を尖らせて言う。
それは、ちょっと難しかったかも…。
「でも、何で私がここにいるって、知ってたの?」
「勝也さんから、電話があったんだよ。詩織が一人で買い物してるって」
勝弥兄から漏れたのか…。
「勝弥さん、凄い心配してたんだぞ。一人で遅くに買い物してる詩織を見て、送って行くつもりだったらしい。けど、詩織がオレと約束してるからって、断ったから、直接オレのところに電話してきたんだ」
そうだったんだ。
「ほら、荷物貸せよ。帰るぞ」
そう言って護は、私から荷物を取り上げて、空いてる方の手で私と手を繋ぐ。
「心配かけて、ごめんね」
「まぁ、元々買い物が終わり次第連絡くれるように言っておいたから、別にいいんだがな。これから遅くなりそうな時は、早めに連絡くれるといいんだがな」
優しい声音で言う護。
「うん。気を付けます」
私は、護の腕にすがるように引っ付いた。
」