突然の出来事
入学式前日。
私は、朝から制服に着替えて、身支度を整えていた。
「あれ、詩織。学校に行くのか?」
そんな私に護が、聞いてきた。
「うん。明日の準備しないといけないからね」
「オレを一人にしてか?」
護が、背中から抱きついてくる。
「仕方ないでしょ。これでも私は、生徒会長なんだから…。それに、他の新三年生が出てきてるのに私が行かないのはまずいでしょ」
「そっか。じゃあ、終わったら電話して。迎えに行くから」
「わかった」
私は、そう返事をして家を出た。
学校に向かう途中で。
「おはよう、詩織」
って、里沙に背中を叩かれる。
「あ、おはよう」
「新生活はどう?」
「うん。色々大変だけど、二人だから楽しいよ」
「そっか。あたしも、優基さんと毎日書かさず、連絡取ってるんだ」
里沙が、嬉しそうに言う。
「優兄が、そんなにまめだったとは、思わなかったよ」
「あたしも、そう思ってた。けど、時間を見つけて、メールしてくれたり、電話してくれるんだ」
「それって、のろけだよね」
「うん。詩織よりはましでしょ? 詩織は、一緒に住んでるんだから」
「それを言われたら、何て言えばいいんだか…」
私は、照れながら言う。
「…で、今日は、何するの?」
「うーんとね。取り合えず、男子は体育館で式の準備をしてもらって、女子はコサージュを造ってもらうつもり。終わり次第解散ってことでどう?」
「そうだね。そういえば、お祝いの言葉、もう考えたの?」
「それなんだけど、なかなかいい言葉が浮かばなくてさ。困ってるんだ」
って、正直に言う。
「そっか。あたしも一緒に考えてあげようか?」
「助かります」
私は、素直に里沙に言う。
「珍しいね。詩織が素直に言うなんて…」
「そうかな?」
「普段ならあり得ないよ」
そうかもしれない。
でも、今回は本当に手一杯なわけで…。
自分の事で、手一杯だったから、考えてる余裕なんか無かったんだよね。
「詩織。じゃあ、あたし先に教室に行くね」
「うん」
私は、里沙と別れて、生徒会室に行く。
生徒会室で、コサージュ用のリボンを確認。
白と赤のリボンとピンを個数分を確認すると、それらを各クラスに運ぶ。
「ごめんね。また、皆に協力してもらう事になって。作り方は、わかるよね。決められた数作り終わったら、帰っていいからね」
「はい。水沢さんも頑張ってね」
「ありがとう。後、リボンが足りなかったら、C組にあるから、取りに来てね」
私は、それだけ告げると、他のクラスに行き同じ事を繰り返した。
それが終わると、里沙に。
「里沙。体育館の方を見てくるから、お願いできる?」
「わかった」
里沙の返事を聞いて、体育館へ急ぐ。
体育館の入り口を潜って。
「皆、おはよう。今日は、手伝ってくれてありがとうね。会場の準備が終わったら、帰っていいからね」
大声で言う。
「水沢の頼みじゃ、聞かないわけないだろ」
って、返事が返ってくる。
「ありがとう。本当に助かります」
私は、笑顔で言う。
「それじゃあ、後ヨロシクね。凌也、拓人君、佐久間君」
「わかった」
三人の返事を聞いて、体育館を後にし、自分の教室に向かう。
「里沙。どう?」
「うん、順調だよ。けど、リボンが足りないかも…」
「そう。じゃあ、買ってくるよ。どれくらいいるかな?」
「白が二本と赤が三本かな」
「わかった。行ってくる」
私は、急いで、学校を出て商店街まで走る。
一軒の手芸店に入って、目的の物を買って、領収書を書いてもらい、学校に戻った。
はぁはぁ…。
息を整えてから、教室に入る。
「ただいま」
「お帰り。早かったね」
「うん。走ってきたからね。…で、どう?」
「そうだね。皆が手伝ってくれたお陰で、残り数十個ってとこかな」
里沙が、冷静に言う。
「詩織ちゃん。リボンある?」
柚樹ちゃんが教室に駆け込んできた。
「あるよ。幾つ要るの?」
「二本かな」
「はい」
私は、柚樹ちゃんにリボンを渡す。
「そっちは、どう?」
「うん。後十個かな」
「早いね。よろしくね」
「うん。詩織ちゃんも無理しないでね」
「ありがとう」
柚樹ちゃんが、教室を出て行くと、私も造り出した。
一人、また一人と帰りだした。
「里沙、ちょっといい?」
「なに、詩織?」
「私、体育館の最終チェックしてくるから、皆が作り終わったら、コサージュ生徒会室に運んでおいてくれないかな」
「いいよ。それぐらいなら、三人でやっておくよ」
「ありがとう」
私はそれだけ告げて、体育館に再び向かう。
体育館では、舞台の上で看板を掲げていた。
入学式のプログラムも掲示されてる。
周囲には、紅白の垂れ幕も飾られてる。
椅子も、きちんと整えられていた。
私は、舞台で作業してるメンバーに声を掛ける。
「お疲れ様」
「お疲れ。後、これ掲げたら終わりだ」
凌也が言う。
「ありがとうね。思ったより早く終わったね」
「そうだな」
「詩織ちゃん、そこから見て歪んでない?」
拓人君が聞いてきた。
「右下がりになってるよ」
私が答えると、右側が上がっていく。
「ストップ。その位置で固定して」
私の声で止まる。
私も舞台に上がって、そこから会場を見渡す。
明日は、ここに新入生とその保護者、それと在校生が入る。
そんな中で、お祝いの言葉を言わなければいけない。
新入生が、希望を持って過ごす事が出来るような言葉を私は、紡ぎ出せるのだろうか…。
「どうした、水沢?」
そんな私に佐久間君が、声を掛けてきた。
「うん。何でもないよ」
「それならいいけど…」
「水沢、終わったぜ」
凌也が声を掛けてきた。
「そう、ご苦労様。今日は、もう帰っていいよ。明日は、八時に集合よろしく」
「オッケー。じゃあ、また明日」
そう言って、メンバーは帰っていく。
私は、最後のチェックを行う。
窓は、開いてないよね。
目で確認する。
そして、体育館の入り口を閉めた。
鍵を職員室に返しに行き、生徒会室に向かう。
生徒会室には、コサージュの山が出来ていた。
「凄いね」
私が言うと。
「そうだね」
里沙や忍ちゃん、柚樹ちゃんも頷く。
「体育館の方はどうだった?」
「綺麗に並べられてたよ。やっぱり男子に任せると早いわ。もう帰って行ったよ」
私が言うと。
「じゃあ、私達も帰っていいかな」
「うん。明日は、八時に集合だからね」
「はーい。じゃあね」
「また、明日ね」
そう言って、柚樹ちゃんと忍ちゃんが出て行った。
「詩織。お祝いの言葉、考えようか」
里沙が、残ってくれる。
「うん。その前に電話しても良いかな?」
「いいよ」
私は、携帯を取り出して護に電話する。
『はい』
「護。後十分ぐらいで終わるから…」
『わかった。迎えに行くから、ちゃんと待ってろよ』
「はい」
それだけ言って、電話を切る。
「さて、どうしようか…」
里沙が、考え出した。
「取り合えず、゛新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます゛だよね」
「うん、その後だよね」
「゛期待に胸を膨らませて、入学された事だと思います゛」
「゛新しい生活で、不安もあるでしょう゛」
どうしよう…。
言葉が、紡ぎ出せない…。
二人で、顔を付き合わせていると。
truuuu…truuuu…。
携帯が鳴り出す。
「ごめん。あたしだ」
里沙が、電話に出る。
「もしもし…」
電話に出ている里沙を見ながら、言葉を考える。
゛ですが、己の目指す夢や希望に向かって突き進んでください。
私達も、応援しています゛
っと……。
「詩織、ゴメン。急用が出来ちゃった」
里沙が、電話を終えると私に言ってきた。
「いいよ、ありがとう。気を付けて帰ってね」
「本当にゴメン」
そう言って、里沙が部屋を出て行った。
私は、紙とニラメッコしだす。
すると、部屋のドアが開いた。
そこに居たのは、佐久間君だった。
「あれ、帰ったんじゃなかったの?」
私の質問には答えることなく、近付いてくる。
ただならぬ気配に、私は慌てて席を立って、後ずさる。
「ちょっと、どうしたの?」
私は、改めて聞くが、返事が無い。
その代わりに私との距離が縮まっていく。
私は、壁際まで追い詰められた。
「水沢。お前を俺のものにする」
エッ……。
「もう、逃げられないぜ」
そう言って、佐久間君が、壁に手をついて、私を逃げれないようにする。
「ちょっと、何するのよ!」
私は、彼を睨み付ける。
「何するって、お前を俺のものにするんだよ。あいつが居なくなったんだからな!」
って、顔が近付いてくる。
私は、顔を背ける。
が、彼の手が私の顎を掴んで正面を向かせる。
そして、唇が重なる。
やだ!
私は、両手で佐久間君を押し返そうとしたけど、その前に両手を捉えられてしまう。
その間も、キスは続く。
嫌だ!
私は、無理矢理顔を背けた。
でも、無駄だった。
佐久間君の手が、私のブラウスのボタンにかかる。
イヤーーー!
護、助けて……。
心の中で、護に助けを求める。
もう、ダメ……。
護……私…。
って、諦めかけてた時だった。
バン!!
生徒会室のドアが、乱暴に開け放たれた。
「詩織!!」
佐久間君の唇が、離れていく。
私は、その場にしゃがみこむ。
護が、私の方に駆け寄ってきた。
そして、抱き締めてくれる。
護の顔を見たら、安心したのと申し訳ない気持ちが入り乱れ、涙が溢れてくる。
「うっ…。くっっ…」
私は、護の腕に中で、声を殺して涙ぐむ。
「お前。詩織に何したんだ!」
護が、佐久間君に怒鳴る。
「俺のものにしようと…」
小声で言う佐久間君。
「何だと!詩織は、オレの事を好きなんだ!誰にもやるかよ!!」
護が、声を荒げて言う。
「佐久間君…。佐久間君が仕様とした事は、間違ってるよ。そんなんじゃ、私の心まで響かない。…し、あげられない」
私は、やっとの思いで、言葉を伝える。
「俺は……」
「まだ、何かあるのか!」
護が、彼に掴みかかる。
「護。やめて…。護が手を挙げる必要ないよ」
私は、護の手を掴む。
「ゴメンね。私、彼の事しか考えられないんだ。だから、私の事は忘れて、次の恋を探した方がいいよ」
突き放す言い方しか出来ない。
「……」
「そんなに諦めきれないなら…」
って、護が言ったかと思うと、いきなり唇を重ねてきた。
「んっ……」
って、何で、ここでキス?
「…っん…」
護の甘くて、深いキスに顔が熱くなる。
立っていられなくなって、護の服を掴む。
それが、合図の様に護が私の腰を支える。
護の唇が離れると、もう一度して欲しいとせがむ自分が居た。
「お前にこんな顔させる事出来るのかよ!」
護が、遠くで佐久間君に言ってるのが聞こえる。
「……」
彼は、無言で出て行った。
「護、私…」
「何も言わなくていい。お前の気持ちは、わかってるから…」
って、優しく頭を撫でてくれる。
「アイツに何されたか、言えるか?解消で来るかはわからないが、同じ事をして書き換えたらいい」
護が、優しく言う。
「キス…された…」
私は、小声で言う。
「どんな風に?」
「壁際に追い込まれて、逃げれない様に腕で通せん棒されて…、顎を掴まれて無理矢理キスされた」
「それから?」
「キスされたまま、ブラウスのボタンを外された…」
一通り聞いた護が、実践する。
でも、全然イヤじゃない。
彼のお陰で、徐々に無くなっていく残像。
「ありがとう。もう、平気だから…」
私は、笑顔で言う。
本当は、まだ、わだかまりが残ってる。
彼以外の人に下着姿とはいえ、見られた事に対して、申し訳ない思いが残る。
「そっか。今日は、もう帰れるんだろ?」
護が、優しく言う。
「うん。でも、宿題が残っちゃった」
私は、明るく言う。
「手伝ってやるから、帰るぞ」
護の温かい言葉に、心が癒される。
「ありがとう」
私は、書きかけの用紙を鞄に入れて、生徒会室を出た。
鍵をかけると、職員室に鍵を返しに行く。
そして、護と一緒に帰るのだった。