護の中の闇
家に着いて、お弁当箱を水にフけてから、買い物に出る。
「今回の夕飯、何にしよう?」
私が呟こと、護が。
「カレーが食いたい」
って」ぽつりと言う。
「うん、カレーにしよう」
「カレーの材料とお弁当の食材を買うとしよう」
二人で、近くのスーパーで買い込む。
荷物は、もちろん護が一人で持ってくれる。
「私も持つよ」
って、言っても。
「これぐらい平気だ。筋トレにもなるとな」
って、持たせてくれない。
「ありがとう」
私は、護に言う。
「お礼は、いらないから…。それより、里沙ちゃんの不安が、解消されてよかったな」
「うん。凄い不安がってたからね。でも、まだ、不安要素は、あると思うけど…。後は、二人で解決していくだろうしね」
「そうだな。…で、詩織の不安事は?」
護が、振り返って聞いてきた。
「私の不安事は…。護が、年上の綺麗なお姉さんにモテテしまうことかな」
「何だそれ…。オレは、詩織じゃないとダメなの知ってるだろうが…」
溜め息交じりで言う。
そう、知ってるからこそ怖い。
誰かに盗られてしまうんじゃないかって…。
「オレが、信じられないか?」
私は、首を横に振る。
「じゃあ…」
「怖いんだ、もしかしたら…。って、考えちゃって…」
「それは、オレも同じだ。詩織は、自分で思ってるよりも人気があるから、少しでも目を離したら、どこかへ行ってしまうのではないかって思う」
護が、心配そうに言う。
「それは、私も同じ。護は、誰にでも優しいから、直ぐに勘違いする人が出て来るから、余計に心配」
「お互いに心配してることが、同じだなんてな。普通、ないだろうな」
護が、笑う。
「そうかもしれないけど…」
「オレは、しっかりしてるけど、泣き虫で、負けん気が強くて、誰に対しても優しく接してるお前が好きだ」
護が、往来で恥ずかしげもなく言う。
そんな護に、私も。
「私も、志が強くて、誰にでも優しい護が好き」
言葉が、出てくる。
お互いの視線が、絡み合う。
そして、軽く唇が触れる。
その時。
グーーーー。
お互いのお腹が鳴る。
恥ずかしすぎる。
「アハハ…。早く帰って、夕飯作ってくれ!」
「はーい」
私達は、足早に家に帰るのであった。
家に着くと、さそっく夕飯の準備に取りかかった。
その横で、護がお弁当の下ごしらえをしていく。
手際のよい護に対して、私は手間取ってしまう。
「どうした?」
「うーん。護の手際のよさに見いちゃった」
「そっか…」
そう言いながら、手を動かす護。
私は、そんな横でカレーを作るのだった。
「ご馳走さまでした」
二人で、手を合わせて言う。
私は、お皿を流しに持っていき洗い出す。
「詩織」
「何?」
私は、顔をあげて護を見る。
「今日は、疲れただろ」
「ううん。大丈夫だよ。むしろ、楽しかったよ。里沙の笑顔も最後に見えたしね」
私が、笑顔で言うと。
「そっか。オレは、疲れたけどな。まさか、優基の相談役になるとは、思わなかったがな」
護が、苦笑してる。
って、お互い様なんじゃないかな。
護だって、優兄に色々相談してるんだから…。
「それより、明日の荷物多そうだから、里沙ちゃんの家まで、荷物持ってくの手伝ってやるよ」
エッ…。
「明日さぁ。講義が、午後からだから、その荷物届けてから、ロードワーク行けるから…」
ちょっと、照れながら言う護。
「ありがとう」
私は、笑顔で言う。
「だから、その笑顔は反則だって…」
そう言ったかと思ったら、突然背中から抱き締められていた。
「ちょ…ちょっと。洗い物が出来ない」
私が慌てて言う。
「うん」
うんって…。
そう言いながら、腕の力を強める。
「詩織。こっち向いて…」
護が、耳元で囁く。
私が、そっと振り返る。
「…っん……」
不意打ちのキス。
…が、徐々に深くなっていく。
「……ん…」
どうしたんだろう?
私は、ふとそんなことを思った。
「護。どうかしたの?」
キスに合間に問う。
「ちょっとな」
って、誤魔化される。
「私達の間に隠し事は、無しじゃなかった?」
私が言うと。
「本当に何でもないよ。詩織が、可愛いからだろ」
って、言う。
やっぱり、可笑しい。
もしかして…。
「護。明日、帰ってくるの遅くなるの?」
私が聞くと、一瞬護の体が震えた。
「そうなんだ。じゃあ、私、実家で夕飯食べてこよう」
ちょっと、意地悪かな?
「いいけど、遅くなるなよ」
って、返事が返ってくる。
「大丈夫。遅くなったら、お泊まりしてくるから…」
「エッ…」
「“エッ“って、自分の実家なんだから、別にいいでしょ」
「ダメ!ちゃんと帰ってきて。余り遅くならないように帰るから…」
護が、甘えた声を出す。
「だったら、実家に迎えに来ればいいじゃんか…」
私が言うと。
「そんな事…」
って、言い淀む。
「隆弥兄が怖い?」
私の言葉に護が、頷く。
そっか…。
この間、注意されてたしね。
「大丈夫だよ。遅くなるなら、家に着いてからメールくれれば、私が出るから、ね」
「わかった」
護が、渋々頷いた。
「ほら、先にお風呂入ってきたら…」
「詩織と一緒に入りたい」
今日は、本当に甘えてくるな。
「護が、抱きつくから、洗い物がまだ終わってないんだから…」
「うん。でも、一緒がいい」
「じゃあ、先に入ってて、終わったら、行くから」
「わかった」
そう言って、お風呂場に向かう護。
「なるべく、早くな」
って、言葉を残して…。
どうしたんだろう?
何て思いながら、洗い物を終わらせて、お風呂の準備をしてお風呂場にいく。
私は、脱衣所で服を脱ぐ。
「護。恥ずかしいから、湯船に入るまで、こっち見ないで」
って、声をかける。
「わかった」
護の返事を聞いてから、すりガラスの戸を開けて、かけ湯をしてから、湯船に浸かる。
どうしよう。
一緒に入るの初めてでは、無いのに…。
やっぱり、恥ずかしい…。
心臓の音が、バクバク煩い。
なるべく、護と目線を会わせないように顔を背ける。
「詩織…。こっち向いて…」
って…。
無理だよ…。
私が、向けずにいると護の手が、私の頬に添えられ、向かされた。
「…あっ…」
視線が交じり合う。
「詩織。顔が赤いぞ…」
「だって…。やっぱり、恥ずかしいんだもん」
私は、視線をそらそうとするが…。
「詩織。そんな可愛い顔すると我慢できなくなる…」
って、護の顔が近付いてくる。
「なっ…。んー…」
唇を塞がれる。
ちょ…ちょっと…。
待ってよー。
私は、護の胸を押して、無理矢理離す。
「駄目?」
護が、潤んだ目で見つめてくる。
うわー。
物凄く珍しい光景だ。
こんなに甘えてきたのって、初めてだよ。
って、こんなの反則過ぎでしょ。
これじゃあ、ダメって言えないよ。
「ダメじゃない…けど…」
私が、言い淀む。
「“けど“何?」
上目遣いで私を見る、護。
やっぱり、無理。
こんな護を突き放せないよ。
護は、私を見つめ続けてる。
私は、視線を外して。
「ここじゃあ…」
言葉を濁す。
「恥ずかしい?」
私は、素直に頷く。
「可愛い…」
護が、私の頭を自分の胸に抱き寄せる。
護の心音が、直に響いてくる。
「護の鼓動、早いね」
私が、言うと。
「緊張してるから…」
って、顔を赤くして、そっぽを向く。
そんな護が、愛しくて、抱きついた。
「そんなに抱きつくと、ここで襲うぞ」
「いいよ」
「“いいよ“って…さっきは、嫌がってたじゃんか…」
護が、呆れた声を出す。
「なんか、護も一緒なんだって思ったら、恥ずかしいなんて、言えないかなって…」
私の言葉に護が。
「うーん。でも、今日は…」
突然私の唇を奪う。
「ここまでにして、続きはオレの部屋だな」
私の耳元で、囁いて出ていった。
うっ…。
ちょっと、残念かも…。
って、思ってる自分がいる。
いけないかな…。
私は、髪と体を洗ってから、上がる。
服を着てドライヤーで、髪を乾かしてたら、ドアが開いた。
鏡越しに目をやると護の姿が映りこんでいた。
「詩織…。遅い…」
護が、後ろから抱きついてきた。
「髪、乾かさないと…」
「もう、待てない」
そう言って、ドライヤーを取り上げられる。
「ちょ…ちょっと…。どうしたの?今日の護、変だよ」
私が言うと。
「変じゃない!いつもと一緒…」
護が、言葉を濁す。
「ねぇ。ちゃんと話してよ。私、護に何かした?
「そんなに気になるなら、オレの部屋に来ること」
そう言って、出ていった。
絶対に何か、誤解してることがあるよね。
私が、知らないところで、妬いてるってこと?
私は脱衣所を出て、護の部屋をノックする。
コンコン。
「護、入るよ」
声をかけて、中に入ると電話をしていた。
私は、改めて出直そうとドアを閉めた。
行き場を失った私は、自分に部屋に戻った。
私は、ベッドに持たれて座り込む。
あーあ。
なんだろう?
心当たり有りそうで、無いんだよね…。
あるとしたら、昨日にバスケの相手が、浅井くんだってことだろう。
でも、その時は護の姿は、なかったよ。
もしかしたら、練習してる時から見てた…。
だとしたら、今日の護の態度が可笑しいのも頷ける。
冷静に考える。
どうしよう…。
昨日のこと、ちゃんと話した方がいいよね。
そろそろ、電話終わったかな?
私が立ち上がると同時に。
コンコン。
ドアをノックされる。
私は、ドアを開ける。
護が、いきなり抱きついてきた。
「護?」
私の問いかけに、切な気な顔をする。
「どうしたの?」
「……」
私の言葉にも何も答えてくれない。
「もしかして、昨日の事、まだ気にしてるの?」
力なく頷く。
「詩織が、楽しそうにバスケしてるのをはじめて見たから、印象に残ってて…」
そっか…。
でも、私にとっては、懐かしかっただけなんだけど…。
「中学の時も何時も残って、練習に付き合ってくれてたから、懐かしくて…。それに、気持ちをぶつけ合える仲だったから…」
「何だよそれ!オレには、何も言わない癖に、あいつになら言えるんだ!」
冷たい声。
「そうかもね。でもね、真剣勝負してる時にお互いの駆け引きの間に気持ちがぶつかっていく感覚が、好きなだけで、浅井くんの事は、何とも思ってないよ」
「詩織が思ってなくても、向こうが思ってるだろ」
「それは、わからない。けど、あの後話してたのは、中学の時の思いでだけ…。で、浅井くんには、私の気持ち届いてるはずだよ。それに…」
「それに?」
「浅井くんには、きっぱりと断ってるよ」
「そうなのか?」
「うん。ちゃんと自分の口から、好きな人がいるから付き合えないって、言って断ってるから心配しないっで」
私の言葉に護が。
「本当に?オレ、安心してていいんだよな?」
確認してくる。
「もちろん。護も知ってるよね。私が、護だけしか見てないの。逆に今は、護に嫌われたらどうしようってことしか、頭にない」
自分の気持ちを素直に言う。
「嫌うわけない。オレは、お前だけしか見てないんだからな」
護が、私の頭を撫でる。
それが、私には心地よくて、されるがままになってしまう。
「詩織には、色々と不安にさせてしまうだろうが、オレは、お前を悲しませるつもりはない」
と断言される。
嬉しい反面、どこか不安が私の中に広がっていく。
「まだ、不安か?」
護が、顔を覗き込んできた。
「不安じゃないと言ったら、嘘になる。けど、護のことは信じてるよ」
私は、護の目を見て言う。
「詩織…」
お互いの視線が、絡み合う。
「愛してる」
護の囁きが耳に届く。
「私も、愛してる」
お互いが、求めあって、唇が重ね合わさる。
「…ん…」
吐息が漏れる。
「チュッ…」
重ねられたところが、熱を帯びていく。
「護…」
護の優しい口づけが、深くなっていく。
私は、その口付けを受け入れて、崩れそうになる。
必死に、護の胸にすがる。
「…もう…ダメ…」
私が、言葉を漏らすと、クスッて、護が笑う。
「ベッドにいく?」
耳元で囁かれ、頷く。
護が、お姫様抱っこで、ベッドまで連れていってくれる。
「詩織の事、信じてる。けど、不安が…。闇が、オレを支配しようとしてるのを覚えておいて…。オレは、詩織がいなければ、ただの弱虫なんだってことを…」
護の消え入りそうな声。
私は、ゆっくりと頷いた。
「オレは、詩織が傍にいてくれるだけで、強くもなれるし、弱くもなるんだ。こんなにも大事にしたい女性が、現れるなんて、思ってもいなかった」
護の切な気な声に私は。
「護…、ありがとう。私も、あなたがいないとダメなの。だから、絶対に離れていかないで…」
「ああ。約束する」
改めて、誓い合う。
そして、唇に温かい温もりが、私の心を満たしていく。
「護…愛してる」
私の囁き声に。
「オレも、愛してる。詩織…」
甘く掠れた声で返してくれる。
やがて、深い甘さに溺れていった。d