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colors   作者: 下川田 梨奈
白の章
2/7

出会い

月の綺麗な夜だった


母国が戦に負け、国も、家族も、家も失い、混乱の中、気が付けば奴隷に身を落としていた


人買いの手に落ちた後いくつもの国を越え、ようやく買い手の元に連れてこられたらしい


中庭を囲む回廊の廊下を引き摺られるまま進む


豪奢な調度品が惜し気もなく置かれ、素足に柔らかな絨毯がこの城の主の財力を物語る


売られようとしているのはこの国の有力者なのだろう


だが、買い手が何者であろうと興味はなかった


誰に買われようと奴隷であるこの身、されることはかわらない


手首と足首の冷たい鉄枷と、動く度にじゃらじゃらとうるさい鎖が鬱陶しい


ぼんやりとそんなことを考えていたせいで、人買いが急に鎖を引くのに対応できず、床に身体を叩きつけられてしまった


「これはこれは閣下、ご機嫌うるわしゅうございます」


人買いに額を床に擦り付けるように頭を押さえられているため、その姿を見ることはできないが、目の前にいるのはかなり身分の高い人物らしい


「その女は?」


「先日戦に負けた東方の国の娘でございます。ジェラルド卿のハーレムにお勧めしようとお持ちした次第にございます」



人買いに髪をわしづかみにされ、無理矢理顔を上げさせられた


最初に目に入ったのは新緑の色をした瞳だった


そこにいたのは思っていたよりもずっと整った顔立ちの青年だった


しかし、その瞳に宿る光は強く、年齢以上の力を感じさせる


「俺が買おう、言い値でいい」


「か、閣下がお買い上げくださるのですか」


人買いは商人にあるまじき驚愕の色をみせた


しかしすぐに張り付けたような笑みを浮かべ、両手を擦り合わせる


「流石は閣下、お目が高い。この娘、今は薄汚れてはおりますが真珠の肌に絹の髪、この国にはない美しい娘でございます。容姿だけをとりましても相当の高値が付きます」


人買いはイヤらしい笑みを浮かべ、青年ににじりよる


「更にこの娘、未だ手付かずのままに流れてきております。相応の価値をお付けいただきませんと…」


ばさりと札束が人買いの前に落とされた


「か、閣下、本気でこの娘をお求めで?」


この国の通貨の価値はわからないが、人買いの態度をみるとかなりの大金なのだろう


「ジェラルド卿には目ぼしい娘は見付からなかったとでも言うんだな。それを持ってさっさと消えろ」


青年の声には冷たく反論を許さない響きがあった


「その娘を俺に売ったことは、今この時を持って忘れろ。そして墓場まで持っていけ。妙な気を起こさない方が身のためだ」


鋭い目に冷たい光が宿り、人買いは顔面を蒼白にして足をもつれさせながら逃げ帰った


何日振りかに自由になった腕をさすり、青年の後についていった



想像以上に広い城だ、いくつもの角を曲がり、ようやく一つの部屋に入った


部屋の奥の天蓋付きのベッドが目に入り、思わず目を伏せる


人買いの言う通り、奴隷に身をおとした今でもまだ、綺麗な身体のままだった


今まで誰にも手をつけられずにいたのは幸運だっただけ


美しかった母譲りの容姿と、父から受け継いだ海の色をした瞳はこの国には珍しいらしく、更に生娘である方が高値で売れる為だ


奴隷に身をおとした時から覚悟はしていたが、やはり気は進まない


経験はなくとも、知識はある


震え出しそうな身体を、そっと抱き締める



青年は、部屋を軽く見回すとようやく振り返った


「俺の名はエリュシオン。君の名は?」


青年の声は先程の人買いに対するものよりも幾分柔らかく聞こえた


瞳からも鋭さは消え、なんの感情も読み取ることはできない


「名前は?」


名前を聞かれるのは、久しぶりだ


国を失ってから、一度も聞かれたことなどなかった


奴隷に何かを聞いたりする必要はない


まるで物のように運ばれ、今さっき物のように買われた身なのだ


名を名乗る気はない


この青年が何を考えて名前を訊ねたのかは知らないが、自分を買った人間にかわりはない


黙ったままいると、青年はそれ以上は聞かなかった


ゆっくりとした足取りで近付いてくる


身を固くしたが、青年は横を通りすぎ部屋を出ていってしまった


一人部屋に取り残され、首をかしげる



ドアには鍵をかけられてはいないらしい


廊下にも人気はない


逃げるのなら、今をおいて他にない


このままここに身をおいていてもいく末はみえている


ドアを睨み、しばし考える




結局、逃げるのはやめた


たとえこの城から逃げ出せたとしても、もう帰る場所はない


女が一人、何も持たずにどこへいけばいいと言うのか


また人買いに捕まって誰かに売り付けられるだけだ


それならば、まだここにいた方が良い気がする


エリュシオンといったあの青年の目は、今まであった人買い達とは違ったから


どんな目に遭おうと、今はまだ生きていなくてはならないのだから





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