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【傾聴するに値しない】

作者: 楓麟

夢に突如現れて、それをそのまま書いてみました。

夢とはいえ、私の思いということには変わりがないので。

それにしても、どうしてこんなものを見てしまったのか……。

 

 最近どいつもこいつも「死ね」だの「死にたい」だの、そんな突拍子もねえことをほざきやがって、本当に世の中は狂っちまってるよなあ。それで実際に死んでいる奴だって大勢いるんだぜ? 男だろうが女だろうが子供だろうが年寄りだろうが、自殺者の数は増える一方だ。とんだ世の中だよなあ――

 


 俺は、格好つけて言うなら夢の支配者ってとこだ。天使でも悪魔でも死神でもない、ただの人間だが。このうざったい叫び声を聞いちまったお前は、不幸だよな。のんびり寝ているところを見知らぬ男に邪魔されんだから……しかも夢の中でな。目を覚ますこともできねえ。そんな状況にあるってわけだ。

 俺はどこにでもいて、どこにでもいない。何人もの夢に、一度に現れる事ができる。うぜえことこの上ないだろ? でもまあ、これも仕事の一環でね。

 って、俺の事なんかどうでもいいんだよ。問題は、お前らだよ。同じ人間として、まずは一言、言わせていただきたい。




 ふざけんな!

 

 ちょっと気に食わなかった、ただそれだけの理由で死ね、だと?

 ちょっとキツいことがあった、ただそれだけの理由で死にたい、だと?

 そうして人はあっさり死んでいくのか? 可笑しい話だ。

 別に自分はそんなことを言ったことも思ったこともないし、言われる筋合いもないって人もいるかもしれん。生憎、俺は対象者のコントロールはできないからな。

 でも、そういう奴らも、こういう光景を見てきてんだろ? 

 もう、当たり前になってるんだろ、気にしなくなってきてんだろ? けどなあ、忘れちゃいけねえが、世の中には気になる奴だっているんだよ。俺もそうだ。死ねって言われて、死にたくなった身だ。こんな生意気な口調して、実はものっ凄え弱虫で内気で引きこもりの駄目大人なんだぜ。


 分かるだろうか?

 言葉には重みがある。力があるって言うだろう。俺にはそれがよく分かる。神経過敏と言ってもいいね。暴言を浴びせられて、その一つ一つが刃物のように、身体の内側を傷つけていくんだ――感じたこと、あるだろうか? 氷より冷たい、炎よりも熱い、俺を砕いていく言葉。その逆も然りで、俺も人間だから相手に言ったことはあるさ。困った性だ。人のこと言えねえじゃねえか……でもな、それを口にした途端、一気に後悔が波となって押し寄せて来るんだよ。分かるだろうか? それはまさしく、人を傷つけたと感じない、銃を持った気分だ。時たま快楽に溺れることもある。スカッとしたんだろうな。

 言う度言われる度そんなことを考えるのは俺だけだろうか? 反射神経の如く、何も考えないものなのだろうか?


 話が少し逸れちまったが、暴言が日常で絶えなくなっちまったってことを、俺は嘆いているわけだよ。それが将来、一体何をもたらすんだろうな……。

 分かってるさ。言う奴もただ言ってるわけじゃない、理由くらいあるし、言われる奴も理由くらいある。ただ、お互いがかみ合ってないだけなんだって。かと言って、暴言をやめるなんて土台無理な話だし、言われないように努めるってのも可笑しい。問題は、もっと根っこのところにあって、お互いの価値を認めるってとこからじゃないだろうか?

 ――文句を言うのは相手に不満があるからってことだよな。俺だって嫌いな人、気に食わない人は山ほどいる。けどよ、それが何でなのかを考えていって……理由を見つけちまえば、短所を長所と見てしまえば、個性だと踏み切っちまえば、「まあ、さもありなん」って、少しはマシになるだろう。残念ながら、『少しはマシ』だ。



 本題に戻らせてもらうとするが、誰でも少なからず死にたいと口にしたりしたことはあるだろう――そうでない人間を俺は見た事がない為、こんな断定する物言いになってしまうが――本気か冗談かは置いといて、近年の語彙のなさとかそういう問題も置いといて、それはやっぱり、色々キツいからってのは俺もよく分かってる。あまりのキツさに、「もう死ぬー」とか、ラノベやお笑いのノリで「死ね」とか、俺だって最初に「死にたいと言う感情こそ死ねばいい」だの意味の分からない発言しちまってるんだから、これはもうどうしようもないことなんだろうとは思う。けどさ……。

 急に話を変えるが、これは冗談として聞き流してくれて構わない。最も、全部聞き流してくれてもいいんだけどな。例えば動物は、「死にたい」と思うだろうか? そのようなボキャブラリーが頭のバンクにあるという前提で言わせてもらうと、そんな感情を彼らは一切抱かないと思う。だって、彼らは生きるのに必死だから。人間様として見下した言い方をすると、生きるのに必死の馬鹿だ。でも、素晴らしいことだと思う。

 必死に生きる。

 今の俺達に欠けつつあるものじゃないか? ぶっちゃけた話、今の俺達は必死に生きるために必死になる必要があると思う。




 生きるのがキツい? 辛い?

 このような場でこのような話はしたくないが、世界には戦争してるとこだってロクに家も食べ物もないとこだってある。というか、生きていてキツくねえことがまずないだろう。それに、絶対に、それに相対するように幸せな事だってあるはずだ。


 その幸せがない?

 いつだったか、学校で先生が言ってたな。全ての人間が幸せになれるわけではない、だの。未来を担う青少年たちに何てこと言いやがるんだと思ったが、でも実際そうなんだよな。だけど、幸せがない、とは言ってないだろ? 誰でも手に入るもんだ。当たり前の話。 

 大バカヤロウ、幸せは待っているだけでは来ない、自分で見つけるもんだ。幸運の女神の前髪掴む前に、彼女が通るのを待つような真似をするくらいだったら、自分で見つけに行くだろう。

 何でもいい。楽しみを見つけようぜ。何だって構わない。雲の形に笑ったり、月のあまりの丸さに驚いたり、そんな小さいものは勿論――きれーな人に見蕩れたりするもよし、もう雑誌やらエロゲやら何でも買えばいい話。部屋にこもったままでもいい、楽しめりゃそれでいい。


 そもそもその金がない? 住む家すらない?

 最近ネットカフェがホテル化しちまってるからなあ、酷え有様だよなとは思うけれど。食っていく金すらロクにないのに、幸せなんか手に入るか――って言いたいんだろ。

 今日、飯が食えただけで幸せって思わないか。家がなくても、今日を乗り越えられたことに感動しないか。たとえ飯が食えなくても、今生きていることに驚かねえか。人間ぅて意外と丈夫なんだな。


 恋人ができない? というかそんなものいらない?

 ……まあ、俺は恋人なるものは人類を繁栄させる為に手に入れるものだとか変な解釈をつけてとっくに諦めてんだが――まあそれはさておき。

 恋人が欲しい人には言わせてもらおう。または、いても満足でない人に言わせてもらおう。今の自分を見ろよ! と。パートナーが自分より可愛い、カッコいいなんてあんまりあるもんじゃない。だってよ、パートナーってのは自分と対になる人だぜ。同じような似たような人で当たり前だ。相手が不満なら、それは自分もその程度のもんってことだし、できない人も、今の自分を見直してみろってことだ。

 そして……そんなものいらねえっていうのは……俺も含まれるから自分に説教する形になるのか? 説教というか、文句たらたら言うってことになるのだろうが。二次元に浸っちまったらどうしようもないな。ドラマや漫画、アニメのフィクションを見ていると現実の人間が逆にシックリこなくなる。どうでもよくなる。でも、そういうことは、相手からも自分をそういう目で見て構わないってことにならないか……駄目だ、自分が一番該当するから何も言えねえ。いらないならそれでいいじゃないか、とだけ言っておくか、この際。



 死ねとか死にたいとな言うな、なんてそんなスケールのでかいことは言わない。ただ、生きている意味すら見出せないとかそんなことほざく暇があったら、見つける努力くらいしろってことだ。目一杯動き回って、這いずり回ってから文句を言えばいい。だが、そうした後で果たして死にたいだの言えるかは……。

 生きてみようぜ。

 悪いことがあるのは当たり前だ、いいことを探してみればいい。 




 こんな偉いこと言いやがって、お前は何様だって思うだろうな。

 俺も、お前らと同じって言っただろう、人間だ。

 今じゃもの凄い後悔してるぜ、死んだこと……聞いてくれるか?


 朝学校に行くのが面倒って理由だけで自殺した。笑えるだろ? 人の為に死にたいって、俺がいなければこの一室も開くし、食料も一人分減るし、代わりに誰かが助かるだろうとかそんな風に理由をこじつけてさ。なのに電車に轢かれて死ぬって……馬鹿じゃないか? あのあとどんだけダイヤが乱れたと思ってんだか。どんな言葉も大歓迎だね。こんな俺が、色々言ってるなんて矛盾してるにも程がある。

 というわけでまああっさり死んじまった俺だが、死後に職に就いたわけだ。言っておくが、これはあくまで仕事の一環だからな。本職は――言いたくもない。生きているうちに真面目に働きたかったと思うよ。仕事がなくても、もっと必死で探し回るべきだった。


 そろそろ、目覚める時間だ。悪かったな、もとの夢に返してやるよ。目が覚めて、果たしてこの夢を憶えているかは人それぞれだ。それが人間、ってことだろうな。

 ただ、だからって、それを「仕方ない」で済ませて欲しくない。

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― 新着の感想 ―
[一言] る、涙腺が~(泣 別に死にたいとか思ったことはないですけど なんか・・・・・・いい話ですね。 心洗われる気分です。
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