さっそくの裏切り
そのあと、寧々子は着替えの間に連れていかれた。
いや、部屋で着替えたらいいのでは、と思ったが、この部屋には寧々子のために新しく用意された衣装や装身具がたくさん飾ってあった。
「あの、あまり、華美な飾りは……」
重いから嫌だな、と思って、寧々子は断ったが、おお、贅沢なさりそうにない方だ、とどよめく。
いや、だから、どうしていつも、何処からともなく、貴族みたいな人が湧いてきて、壁際にいるのですか。
まあ、そもそもここは、上流階級の特権として(?)、着替えるところを見せるための部屋なのだろうが――。
着替えが終わった頃、宰相、ジルが訪れた。
「寧々子よ、少し庭でも見に歩こうか」
「ジル様」
「もう様はつけずともよい。
お前は王の寵姫となったのだから」
ついてきたな、私も、とジルは、ほくそ笑む。
寧々子を連れ戻したのはジルであり。
今のところ、一番親しくしているのもジルだからだろう。
アーチ型の柱の並ぶ外廊下。
庭から差し込む朝の光が廊下にアーチの形に影を落としている。
その様子も、そこから見える朝露に輝く庭木も美しかった。
古代の帝国って、もっと雑然とした感じかと思ったけど、意外にきちんとしているな、とよく手入れされた庭を見ながら寧々子は思う。
まあ、楽器なんかはまだまだ荒削りな感じだけど。
それにしても、この世界に通じていた、あの階段なんだったのか――。
そう思ったとき、ジルが言った。
「体調はどうだ。
妊娠したか」
……あなたもよくわかっていないのでは?
こんな人の意見を参考にして大丈夫なのですか、王様、と寧々子は思う。
仕事はできるのかもしれないけど。
その他のことに関しては、王様と宰相様もちょっと世間知らずっぽい。
上流階級の人間って、みんなこんなものなのかな?
と思ったとき、ジルが言った。
「さて、お前は王の寵姫となったわけだが。
シャターンは小さな国なので、妃としての地位は低い。
後宮の中で昇格していくには試験があるのだ」
「王様の好みとかではないのですか?」
「あの王様に好みなんてあるわけないだろう」
ひどいな、この宰相。
「試験に落ちれば罰則がある。
降格されることもあるので、自分に受けられる能力があるかどうか見極めてから受けよ」
「あの、私はそもそも一番下の妃なんですよね?」
これ以上落ちようがないのでは?
と思って訊いたが、
「そうだな。
王のお手つきがあるかもれしない……くらいの地位の女官になるかな」
一気に使用人にっ!
「一番下の妃のままでいいです……」
青ざめて寧々子は言う。
「ところで、あそこから覗いている人は?」
柱の影から重そうな飾りを頭につけた長い黒髪の女性が侍女たちを従え、覗いていた。
「メイッサが昨夜まで使えていたパメラ様だな。
メイッサは王からの寵愛を受けそうにないパメラ様を見限ってお前のところに来たようだが」
「簡単に職場(?)を変えられるんですね」
ここ、結構、働くものの地位が高いようだな、と思う。
優秀なメイッサをとられたせいか、パメラは悔しそうこちらを見ている。
鼻筋の通った美しい人だけど、あまり話は通じなさそうだなあ。
でもまあ、ここは日本人らしく、まあまあのなあなあで、揉めずにいきたい。
寧々子はパメラに微笑みかけてみたが、パメラには驚かれ、彼女の側にいた年配の侍女に、
「微笑みかけてきましたわっ。
なんという余裕っ」
と声を上げられた。
「王に愛されている自信があるのでしょうっ。
負けてはなりませぬパメラ様っ。
今日は 私の実家から、大量のロバのミルクが届きます。
いつ王様がいらしてもいいように肌を磨き上げるのです。
お買い上げ、ありがとうございますっ」
……めちゃ利用されてそうだけど、大丈夫ですか、パメラ様。
若い侍女たちは、あ~あ、という顔をしながら、二人について戻っていったが。
そのうちのひとりが踵を返し、こちらに向かって走ってきた。
礼をして言う。
「寧々子様、宰相様。
ティティと申します。
ジャンヌとは同郷で。
私も寧々子様のところでお勤めしたいのですが」
パメラ様っ、早速裏切られてますよっ、と思ったが、パメラたち一行はその裏切りにも気づかず、侍女が騒がしいまま、行ってしまった。




