出世しなければっ
明らかに布の質が違うっ。
召使いの数もっ。
朝、王が去ったあと現れた召使いたちが、ずらりと壁際に並んでいる。
何故、みんな壁に並ぶ……と思いながら、寧々子は眺めていた。
廊下から誰かが水の入ったツボを持ってくると、壁際にいた召使いに渡し、その召使いがまた隣の召使いに渡し――
いや、バケツリレーかっ、と思っているうちに水が来て、金属のタライにそれを入れられる。
顔を洗うように言われた。
あのとき、寧々子を剥いた侍女が、寧々子付きの侍女になったようだった。
数人の女たち―― 壁際の召使いたちより身分の高そうな召使いたちが、そんな人数でやらなくても、と思う寧々子を着替えさせてくれる。
布の質が昨日着せられた服よりよかった。
少し透ける感じの、身体に巻きつける風なその衣服を着せられたあと。
召使いたちの動きを観察するように見ていた厳しめな表情の侍女が進み出て言う。
「寧々子様、私はメイッサと申します。
寧々子様のお世話はこれからはわたくしが――」
よ、よろしくお願いいたしますっ、と頭を下げて、
「侍女に頭を下げてはなりませんっ。
あと、お辞儀はそうではないですっ」
と叱られる。
「では、そのまま湯浴みを」
ええっ、もしかして、これ、風呂に入るための服なのですか?
確かに飾りがジャラジャラついてないですけど、高そうですよっ。
寧々子はねじねじした感じの細い柱が並ぶ渡り廊下のようなところを先ほどの身分の高そうな召使いたちに手をとられ、歩いていく。
その先に湯殿があり、広い湯に寧々子はひとり浸かった。
……落ち着かない。
スーパー銭湯に行ったら、自分ひとりだけで。
実は今日は定休日だったのだろうか。
でも、受付で九百円払ったよ、みたいな感じだった。
ごぼごぼとお湯が出ている面白い顔の獅子みたいなのを見つめていると、
「温まりましたか? お身体洗わさせていただきますね」
と茶色っぽい髪を後ろでまとめた若い娘が話しかけてくる。
好奇心旺盛な瞳でこちらを見る彼女に身体を洗われながら、話しているうちに年が近いこともあり、打ち解けてきた。
下級貴族の娘で、ジャンヌというらしい。
ジャンヌは寧々子に言う。
「メイッサ様は上級貴族の八番目の妻の十番目の娘で。
親にろくに結婚の世話もしてもらえそうにないと思い、王宮で侍女になることにしたそうなんですが。
親がたいした後ろ盾にもなってくれなくとも、その観察眼で今の地位まで駆け上がってきた方なんです。
メイッサ様は、寧々子様がいずれご出世なさると踏んで、寧々子様付きになることをご自分から申し出られたとか」
王様からのご寵愛なんて不安定だと思うが。
王様ではなく、メイッサには目をかけられたらしいと思う。
「……それは、メイッサ様のためにも出世しなければですね」
「寧々子様は、メイッサ様に、様つけなくていいんですよ」
と言ってジャンヌは笑った。




