寧々子はツボを叩いてみる
おお、といつの間にか壁際に控えていた貴族たちがどよめき、厳しそうな侍女が、割らないでっ、私たちも巻き添えを食らうっ、という顔をする。
……どうでもいいが、なんでいつも人がいっぱいいるんだ、
と思いながら、寧々子が座ろうとすると、さっと召使いたちがクッションを持ってきて、床に置いてくれた。
お姫様扱いだな。
まあ、偽ではあるが、姫なんだが、
と思いながら、寧々子はあぐらをかき、足の間にツボをのせてそれを抱えた。
足にはめられた装身具が当たりそうで、割れやしないかとドキドキしながら。
寧々子はツボを両手でリズミカルに叩き始めた。
時折、背を丸め、腹でツボの口を塞いだり、微妙に離したりしながら、音を変える。
まるで怪しい踊りを踊りながら、打楽器を奏でているかのようだった。
「ほう、そうやって鳴らすものだったのか」
と言う王に、
いや、知りませんけど、と寧々子は思う。
「よし、お前に褒美をとらそう」
ありがとう、YouT◯be。
昔、似たようなインドの楽器の演奏を見たことがあったのだ。
多少、アレンジは加えたが。
王の言葉とともに、ジルが手を叩く。
色とりどりの果物や焼き菓子。
それに飲み物が入っているらしい陶器のツボがいくつもやってきて、壁際の細長いテーブルに並べられる。
「さあ、好きに食べるがよい」
デザートビュッフェかな……。
トゲトゲの緑の果物や枝ごと籠に盛ってあるたくさんの赤い実。
どんぐりのような形の黄色い実。
色が凄すぎて、食べて大丈夫なのかなと思う感じだが、それらが並ぶ様はカラフルで壮観だ。
焼き菓子も木の器に飾りの大きな葉とともに入っている。
とりあえず、生の果物より、焼いた物の方が食べ慣れないものでも平気かな。
寧々子はパイのようなものを召使いにとってもらう。
中にはココヤシの果実のようなものがぎっしり詰まっていて、噛むと、甘酸っぱく温かい果汁が溢れてくる。
昨日の宴席でも思ったが、この国、古代文明のような感じなのに、食べるものが美味いっ。
「お前はその果物の焼き菓子が好きか」
「はい。
えっと……王様はなにがお好きですか?」
「うむ。そうだな。
この国のものどれも美味しく、甲乙つけがたいが、冷たく甘いものが一番好きかな。
山から運んだ雪や氷に、蜂蜜や果汁、ワインなんかをかけたものが好きだ」
かき氷かシャーベットみたいなものかな、と思いながら、寧々子は、
「ああ、あれ、美味しいですよね」
と言った。
「お前も食べたことがあるのか」
「はい」
寧々子のその頷きに、貴族たちがざわめく。
「なんとっ、あれを食べたことがあるとかっ」
「遥か遠い山から、雪や氷を運ばねばならぬのだぞっ」
「私でも食べたことがないのにっ」
「シャターンはここより更に南にあるのに、何故だっ」
「実は、あの国はそんなに富んでいるのかっ?」
「いやいや、後継ぎの姫をわずかな金や宝石と引き換えに王に差し出さねばならなかったと聞いたがっ」
……どうでもいいですけど。
この人たち、いつも、ずっといるのですね。
王が行くところには、みな、ぞろぞろと付いてくるようだ。
王様のお世話を焼く者たち、王様の護衛の者たち。
さらに、王様に付いて歩く貴族たち。
そして、その貴族たちのお付きの者たち、護衛の者たち。
王が行く部屋はいつも満員で、常に壁際にずらっと人が並んでいるようだった。
壮観だな、と眺める寧々子を見ながら、うん、と王はなにかを決意したように頷いた。
「今宵はここに泊まってみよう」
壁いっぱいにいる人たちがざわつく。




