王様が来たよ……
あの娘、別れ際に、
「やっぱり、姫の身代わりなんて、無理ですーっ」
とか言っていたはずだが……。
次の日、ジルは仮に寧々子付きとなっている侍女たちからの文句を聞いていた。
「めちゃくちゃ態度でかいんですよっ」
「そうですっ。小国の姫の癖に傲慢すぎますっ」
「後継ぎの姫だったらしいですが。
所詮は端金で売られてきた姫のくせにっ」
ジルは寧々子の部屋を訪ねて言った。
「やりすぎだ……」
「すみません。
加減がわからなくて。
悪役令嬢の真似したのが悪かったんですかね」
と寧々子は頭を掻いていた。
寧々子の部屋を出ると、ちょうど王が向こうから歩いてくるところだった。
穏やかな方だが、威圧感がある、とジルは思う。
父の跡を継いで宰相になるとき、まだ若すぎると言われたのに、
「才のあるものならば、年は関係ないだろう。
やらせてみればよい」
と言ってくれたのはこの王、カムランだった。
特に思い入れのある方ではなかったのだが。
『よく知らない王様』だし――。
だが、あれ以来、一応、忠義を尽くしている。
……できる範囲内で。
そんな不敬なことを思いながら、端に避け、頭を下げたとき、
「ジル」
と呼びかけ、王は足を止めた。
「昨夜、楽器を奏でていた娘の部屋は何処だ」
お付きの女たちがざわつく。
「……ご案内いたしましょう」
ジルは寧々子の部屋に向かって歩きながら王に言った。
「ずいぶん、お気に召されたのですね」
「うむ。
あの娘の話は面白そうだ」
と金の巻き毛を揺らし、凛々しい顔で王は笑う。
王様が来たよ……。
悪役令嬢の真似がひどすぎて、出ていけとか?
いや、そんなこと言いに王様、わざわざ来ないよな。
召使いたちはせっせと王様が座る場所を作っている。
木の寝椅子、いわゆる、カウチソファのようなものが運ばれてきて、そこに無数のクッションなどが置かれ、何故か天蓋まであっという間に作られる。
王はゆったりとそこに腰掛けると、どうしたらいいのか、呆然と立ったままでいた寧々子を見た。
斜め後ろにいた年配の侍女に目配せされて、慌てて膝を折り、こうべを垂れた寧々子に王が言う。
「名はなんだったかな」
「寧々子……」
ジルが睨む気配がした。
「セゼリア・寧々子……です」
そのあとに王族の名、シャターンがいるのだったが、シャターンでは、国の名と王族の名が同じであることを知らなかったので誤魔化した。
寧々子を王女の名前であるセゼリアのあとにつけたのは、うっかり間違って言ってもいいように。
そして、こっちの名で呼んでもらえれば、呼ばれたのに振り向かないなんてことは起こらないだろうからだ。
「寧々子とお呼びください」
「そうか。寧々子よ。
昨夜の演奏は見事であった」
そうですか。ありがとう、YouTu◯e。
「お前、これは弾けるか」
は?
王が振り向くと、素焼きのツボが恭しく運ばれてくる。
いや、ツボッ。
どう見ても、ただの茶色いツボッと寧々子は思ったが、王は言う。
「これを交易国からもらったのだが、楽器らしい。
どうやって弾くのかわからぬのだが」
Yo◯Tube! 助けてっ。
弾いて見せなかったら、役立たずだと殺されるかもっ。
そう思いながら、寧々子は木製のテーブルに置かれたそのツボを見る。
「王よ」
ジルが進み出てなにか言おうとした。
ジルは姫に逃げられている。
お互い、秘密を抱える身。
今のところ一蓮托生なので、助けてくれようとしたようだ。
だが、寧々子はツボを手にとった。




