寧々子の作りしモノ
庭の灯りが差し込む列柱郎を歩いていたジルは、少し先の方で貴族たちが、ヒソヒソと話しているのを聞いた。
「寧々子が作ったというあの菓子、見たことがあると長老のひとりが言っていた。
古代から伝わっている神に捧げる菓子に似ているらしい」
それは別の大国で作り、捧げられているもので、作り方は秘伝中の秘伝であり。
その国の神殿でも一部の人間しか知らないのだと言う。
「あの寧々子という娘、一体、何者なのだ」
「シャターンはそんなに力を持っている国なのか」
「シャターンは古い国ではあるが、うち以外の大国とそんなに付き合いがあるとは聞いていないが」
「だが、寧々子は秘伝の神饌を作った。
なんらかの伝説の技を隠し持っている国なのかもしれん」
雑な扱いはできぬな、と貴族たちは話していた。
「お手柄じゃないか」
と次の日、ジルは寧々子に言った。
「そうですかね」
「まあ、王様は変わらず、お前のところにしか通っていないので、どうでもいいかもしれないが。
そのうち、後継ぎでも産めば、試験関係なく、地位は上がるし。
この国は男でも女でも、長子がよほどの莫迦でない限り跡を継ぐ。
それは無用な争いを避けるためだ。
あとの子どもたちはそこそこの金と地位をもらい、王を支えるか、離れた領地に行くことになっているんだ。
……まあ、前回のように、たまたまみな死んでしまったり、やりたくないと言い出したりで、遠い国に行っていた親族を呼び戻すはめになったりもするのだが」
「呼び戻す方も呼び戻される方も大変ですね」
その頃、寧々子にとって困った人物がこの国を訪ねてきていた。
シャターンの王女、セゼリアの兄、カミルだ。
カミルは気楽な旅の冒険者者風な出立ちで街の居酒屋にいた。
「いい方だがぼんやりした王様に、ついに寵姫様ができたらしいよ」
シャターンの姫だってさ、と昼間から食事ついでに呑んでるおじさんたちが話しているのを聞いて、カミルはつい耳を澄ます。
セゼリアが王の寵姫に?
あの愛想もクソもない妹が?
夫の前では違うのだろうか……。
それか、王様がちょっと冷たくされる方が好きだとか?
近くまで来たが、顔を見に行ったところでロクなこと言われなさそうだし、やめとくかと思っていたのに。
「おい、寵姫様がこの前を通られるらしいぞ」
と言いながら、男が店に飛び込んできた。
なんだってっ?
と店の者まで、みな走って外に出る。
やがて、金の輿に乗った美しい女が大勢の召使いに傅かれてやってきた。
「しょうがない。
霊柩車の代わりに、わしの金の輿に乗せてやろう」
とベルカントが言い、
「王は金の輿はお持ちでないので、ちょうどいいですね。
ありがたいです」
となにもちょうどよくない会話をジルがして。
今、寧々子は特に行く宛もないのに、豪奢な金の輿に乗せられ、練り歩いていた。
……王様も乗ったことがない金の輿に乗ってしまった。
いや、ベルカント様は乗っているようなんだが。
そんなことを考えているなどとおくびにも出さず、愛らしい微笑みを浮かべ、寧々子は手を振ってくる民衆に振り返す。
わっと歓声が上がった。
「なんと可愛らしい方だ」
「布越しにも高貴さが伝わってくるぞっ」
「シャターンのお姫様らしい」
「あまり聞いたことないけど、素敵な国なのでしょうね」
その様子を居酒屋の前からカミルは眺めていた。
妹と同じく長身なので、前に人がたくさんいてもよく見える。
ほう。
頭から透けるような布をかぶってはいるが、その美しさは外まで溢れ出ているし。
上品に日に輝く装身具からは、それを贈ったのであろう王からの深い愛情が窺える。
シャターンの姫か。
……いや、うちの妹はこんな美人ではないはずなのだが。
まあ、おこぼれに預かるために黙っておくか、と思いながら、カミルは居酒屋に戻った。




