飴の効果
「ほんとうだ。
エミール様。
別人のように堂々とされて」
丸い柱の陰から一緒に覗きながら、ジルが言う。
いや、あなたは普通に見に行けばいいのでは……?
と思いながら、寧々子は言った。
「叱られてばかりで萎縮してたんですよ。
じいさんは期待ばっかりかけてうるさいし。
厳しい神官が目を見張るくらいの声を一度出したせいで、神官に褒められて。
今までが叱られ通しだったせいで、逆に自信がついて絶好調になったんですよ」
「すごいな。
魔法の飴か?」
と言うジルに、違いますよ、と寧々子は言った。
「喉にいいのは確かだけど。
あのじいさんたぶん、孫に甘いものもあまり与えてなかったんですよ。
久しぶりに甘いもの食べた。
気分がいいので、大きな声が出た。
褒められた。
堂々とした態度になる。
また褒められるという幸福の連鎖です。
今まで失敗してたのは、たぶん、緊張が大部分の原因だったんですよ。
……わっ」
最後の、わっ、はジルの後ろからベルカントが一緒に覗いていたからだ。
だから、あなた方は隠れなくてもいいのでは……?
と寧々子は思う。
「勝者はセゼリア・寧々子だ。
私は勝負事には公平なのでな」
みんなの前で、ベルカントはそう裁定を下した。
「妃としてのお前の位をひとつあげてやろう。
そして、褒美になにか――」
そこで、ベルカントは、ふっと笑って言った。
「『この身の程知らずめ!』とわしらが叫ぶようなものをやろう」
そんなベルカントの言葉に、ガリブが笑う。
「さあ、なににする?
この宮殿のものなら、なんでもやろう」
いや、それ、私が言うべきセリフでは……という顔を王はしていたが。
あの王なので、なにも言わなかった。
「そうですねえ……」
寧々子は外を見た。
寵姫らしく、贅沢なものか。
そのとき、ちょうど外を移動している金ピカの四角い輿のような乗り物が見えた。
細かい装飾も施されており、大きい。
紛れもなく、この宮殿で見た、もっとも豪勢な物だ。
「あれに乗りたいですわ!」
「お前がそうまで言うなら……」
と王は言った。
霊柩車だった。
先帝の遺体を運ぶために作った霊柩車を蔵に片付けるところだったのだ。
「さあ、乗るがいい寧々子よ」
庭にその輿のようになっている柩を持ってこさせ、ベルカントが急かす。
「いやいやいやっ。
これでは、罰ゲームではないですかっ。
なんか乗ってますよっ、絶対これっ」
王が言う。
「大丈夫だ。
乗っているのなら、先帝だ」
ますます嫌ですっ、と後ずさる寧々子に、ジルが言う。
「ちなみに、中は真っ暗だ。
柩だからな」
ベルカントやジルたちは笑っていたが、物陰から見ている後宮の女たちは歯噛みしていた。
「あんな飴ひとつで、なんなのよっ」
「次は負けないわっ」
「……そういえば、あの不思議な飴についてじゃか。
一部の貴族たちが見たことがあるとヒソヒソ話しておったぞ」
ひとりの妃の言葉に、女たちが振り返る。




