睡蓮の池のほとりで
「寧々子よ、なんかすごいことをねだって、我こそは寵姫である、という風に見せるのだ」
すっと近寄ってきたジルが小声で言ってきた。
「すごいことってなんですか?」
「この身の程知らずめと長老たちが叫ぶくらいすごいものだな」
と言って、ジルは笑う。
なるほどっ、と思った寧々子は叫んだ。
「この宮殿をくださいっ!」
「この身の程知らずめっ!」
叫んだのはジルだった。
蓮の葉で巻いたもちもちの米。
いい香りがしている。
側に添えてある桃色の花も美しく。
ジャスミンのような香りのお茶もいい。
贅沢な時間だ。
「なにまったりしてるんだ」
寧々子のテーブルの前に立つジルが言う。
青銅でできた獣脚の素敵なテーブル。
すぐ横には涼やかな風を送ってくる睡蓮の浮かぶ池。
一面に広がる睡蓮の葉と、美しい白とピンクの花が美しい。
寧々子は妄想の中でボートを浮かべてみた。
王様と二人で乗ってみる。
進まなさそうだ……。
いや、王様が漕げそうにない、というのではなく、みっしりとした睡蓮のせいで。
妄想から帰ってきた寧々子はジルに前に座るよう、勧めた。
一緒に美味しいものでも食べたら、この仏頂面も治るかなと思ったからだ。
「進んでるのか、試験の方は」
「ああ、もう提出しました」
いつの間に、という顔をしたあとで、ジルが、
「……ベルカント様にか?」
と訊いてくる。
「エミール様にあげました」
「……なにを?」
ジルはとてつもなく不安そうな顔をしていた。
「大丈夫です。
さっき神殿を覗いたら、澱みなく神への祈祷をこなし、高らかに歌ってらっしゃいましたよ」
美しい声ですが。
あと数年で声変わりしちゃうんでしょうね、と言うと、ジルは前に座って身を乗り出し、訊いてくる。
「エミール様になにをしたんだっ?」
「だから、マシュマロキャンディをあげたんですよ」
「……マシュマロキャンディ?」
「ちょうどその辺に生えてたんで、ウスベニタチアオイが」
と寧々子は庭の片隅を指差す。
淡いピンクの小さな花を咲かせる植物を見たジルは小首を傾げた。
「別名、マーシュ・マロウという草です。
本で読んだところによると、根に粘り気のある成分持つ植物だそうで。
これとはちみつからマシュマロの原型のようなものが作れるとありました。
そのマシュマロキャンディは咳止め効果があるらしくて。
エミールは緊張すると、言い間違えたり、声が裏返ったり、咳き込んだりしていたので。
『これ舐めたら、いい声が出るよ~』
と言ってあげました」
「……よく怪しい女がくれた怪しいモノを口にしたな、エミール様は」
「私が草摘んでるところから見てましたから、大丈夫だったんじゃないです?」
私も舐めて見せましたし、と寧々子は言う。
「みんな金にあかせていろいろ取り寄せてたのに、お前は庭の草を煮詰めてたのか?」
そんなものにそんな効果があるのかと疑わしげなジルを連れて、神殿に行ってみることにした。




