長老は語る
「メイッサ、お前の父方の祖父と私は学友でな。
お前の父が母と結婚するときも、第八夫人なんてと反対する母の実家に口をきいてやったりしたものだ」
微妙に恩着せがましいな~と思いながら、サンジェスは側に控えて、ベルカントの話を聞いていた。
「お前のことも引き立ててやってもいいと思っておるのだ」
この先の出世もチラつかせてくるベルカントにメイッサが言う。
「寧々子様のことをお知りになりたいのですね?」
――だから、話が早すぎるっ。
「寧々子様は完璧な女性です。
つけ入る隙などございません」
「そんなわけあるか。
あの小娘、このわしを拉致監禁しようとしたのだぞ」
ベルカントのその言葉に、メイッサが珍しく笑った。
「ほんとうに寧々子様にはなにも問題などありません」
「口を割らない気か。
あんな小国の姫、つつけばまずいところがボロボロ出てくるだろうに」
「……私、今の職場が楽しいのです。
王宮にいて初めてどころか、家にいたときにも感じたことがないくらい楽しいのです」
「そうか……。
まあ、それはよかった」
メイッサを幼い頃から知っているベルカントは、そこだけは本気でそう言ったようだった。
「ベルカント様のお孫さんも楽しそうですよ」
とメイッサが外を手で示した。
ベルカントが声にならない悲鳴を上げる。
庭園を寧々子とエミールが手をつなぎ、楽しそうに歩いていたのだ。
「エミールッ。
その娘から離れろっ」
と外に飛び出し、ベルカントは叫ぶ。
……この人、まだまだ元気そうだな。
次の就職先を探さなくていいのは助かるけど。
サンジェスは、ふう、とひとつ溜息をついたあとで、メイッサに深々と頭を下げた。
頭を下げ返したあとで、メイッサも寧々子たちと揉めているベルカントの方に行ってしまう。
やれやれ。
寧々子様は何処でも騒動を起こすんだから。
まあ、退屈しなくていいけど。
寧々子の居室に戻ったメイッサは、もう通常業務に戻っていた。
ベルカントに、ひとつ黙っていたことがある。
その件に関しては、ジャンヌにも口止めしておいた。
『あれ』がなんなのか、自分たちはわからないから――。
そうこうしている間に、刺客に入られ、宰相が手配していた護衛がそれを追い払う。
「後宮の昇級試験に参加している他の妃の手の者のようです」
縛り上げられた刺客たちを見ながら、寧々子が言う。
「離してあげたら?」
「え、でも――」
と護衛が言う。
「この人たちも自分で望んで来たわけでもないでしょう」
寧々子様っ、と刺客の一人は目に涙を浮かべていた。
だが、もう一人の刺客は反抗的な態度だった。
寧々子は縛られたままの彼を見下ろし言う。
「それでなくとも、慣れない後宮の片隅で震えて生きているのに――。
また殺しに来たら、今度はタダでは済まさないから。
覚えておいて」
怖い怖い怖い。
何処も片隅で震えてないっ、と侍女や護衛たちはその迫力に思う。
「首を洗って出直してきなさいっ」
顔じゃなくて!?
やる気満々すぎるっ、という顔でジャンヌが見ていた。




