王から王なら、寵姫も寵姫
「あの方ですよ、長老の孫」
可愛らしい男の子が神殿で、神官についていろいろ作法を習っているようだった。
その様子をたくさんある円柱の柱の陰からジャンヌとともに覗き見る。
「長老ベルカント様は孫を神官の頂点まで押し上げ、神殿での力も手に入れて、ウハウハ、な感じにしたいようです」
ベルカントの孫、エミールは青ざめた顔で、何度も言われた通りにやってみようとしていたが、何度も叱られている。
「あんなにきつく叱ったら、緊張して失敗しちゃうよね」
と寧々子は呟く。
ようやく祭壇の前に立つ、まではできたが、神に捧げる言葉が裏返ってしまっているし。
何度も、続きを忘れたように詰まっている。
背後から溜息が聞こえてきた。
長い髭に長い髪のおじいさんが立っていた。
長老ベルカントだとジャンヌが小声で教えてくれる。
「まったく。
厳しく育ててきたのに、肝心なところでこれとは――。
これでは、まともに育てられていないカムラン王より駄目ではないか」
と毒を吐く。
「……王様はきちんとされてますし、堂々とされてますよ」
つい言い返して、寧々子様~っ、とジャンヌに止められる。
ベルカントは寧々子を見下ろし言う。
「お前のような小国の姫から見たら、堂々としているかもしれんがな」
ふふん、とベルカントは寧々子を嘲笑ったが。
いや、小国の姫ですらない、ただのその辺にいる女子高生なのですが、
と寧々子は思っていた。
中腰で柱の陰から伺っていた寧々子がすっと背筋を伸ばすと、ベルカントより大きかった。
現代人の中でも、寧々子は女性にしては大きい方だ。
小柄なベルカントが、うっと下がる。
王様や宰相たちは大きいが、ベルカントたちの世代はかなり小柄なようだった。
結構富んでいるように見えるこの国だが、ベルカンチらが幼い頃は、食糧事情がよくなかったのかもしれないな、と寧々子は思う。
食糧事情で身長って変わるらしいからな。
戦国時代とかでも、デッカい人とかいるし。
現代でも、昔は子が親の身長をこえるのは当たり前みたいに言われていたのに。
必ずしもそうではなくなってきたのは、今の親世代がすでに栄養が充分足りていて、伸び切っているからではないかとも言われている。
ともかく、そうして、貧しかったこの国を建て直し、盛り立ててきたという自負が長老たちにはあると思う。
幾ら正しい血統だからと、ポッと出の若造にいきなり王様になられたら、面白くないかもしれないな。
ましてや、カムラン王はなかなか立派な王様だ。
国民からも慕われているかもしれない。
余計面白くないだろうな、と寧々子は思う。
……可愛い孫の神官デビューが心配で、心労もつのってるだろうし。
でも、プレッシャーかけるの、よくないと思うんだけど。
「……この長老様を閉じ込めた方が……」
孫のデビューも上手く行くのでは、と思ったのが、ちょっぴり口から出てしまっていた。
「なんとっ。
この私を閉じ込めようとするとはっ。
王から王なら、寵姫も寵姫だなっ。
さすがあの王が選ぶだけある無礼者だっ。
覚えておれ、シャターンの姫よっ」
……お孫さんをお助けしようとしているのに、キレられてしまった。
「寧々子様~っ。
早く、戻りましょうよ~っ」
これ以上、余計な発言をしないようにか、ジャンヌに部屋へと連れ戻された。




