第9話「初依頼はテンプレを添えて」
翌朝。
目覚めた瞬間に、私はベッドの柔らかさを全力で再確認した。
「ふかふか……」
ごろごろと転がる。至高だ。これが異世界の高級宿屋か。
「……でも今日で終わりなんだよなぁ」
贅沢は最初だけと昨日誓った。今日からは庶民的な宿に引っ越さなくては。そのためにはお金を稼がなくてはいけない。お金を稼ぐには依頼をこなさなくてはいけない。
朝食は一階のダイニングでいただいた。スープとパンと野菜の炒め物、それとよく分からない果物のジュース。全部美味しかった。特にスープが、異世界なのに懐かしい味がした。
「よし、行くか!」
荷物といっても何もないけれど、気持ちを切り替えて宿を出た。
目指すは冒険者ギルド。
今日は昨日と違って、ちゃんと目的がある。初めての依頼だ。
ギルドの重い扉を開けると、昨日とは雰囲気が少し違った。朝の時間帯だからか、昨日よりも冒険者の数が多い。掲示板の前に人だかりができていて、みんな真剣な顔で何かを見ている。
(あれが依頼掲示板……!)
テンプレが来た。
異世界ファンタジーといえば依頼掲示板。主人公が初依頼を選ぶ、あの場面だ。
「……失礼しまーす」
人だかりをそっとかき分けて掲示板に近づく。並んでいる紙には、見慣れない文字がびっしり書かれていた。
「……あれ。読めない」
当然といえば当然だが、異世界の文字は地球の文字とは全く違う。
「そういえばなんで言葉は通じてるのに文字は読めないんだろ……言語チート系の恩恵は受けてるのに文字読解はサービス外なのかな……神様……」
「……掲示板、読めないのか?」
振り返ると、昨日の金髪の青年、カイトがいた。昨日と同じように呆れた顔をしている。
「あ、昨日の!」
「覚えてたのか」
「名前も知ってるよ、カイトくんでしょ? ギルマスに怒られてたよね」
「……なんで知ってんだよ」
「聞こえてたから」
カイトは盛大にため息をついてから、「どんな依頼が欲しいんだ」と言った。
「え? 教えてくれるの?」
「別に……暇だっただけだ」
(ツンデレ!! カイトくんツンデレだ!! テンプレテンプレ!!)
心の中でガッツポーズをしながら、私はできるだけ平静な声で「じゃあ、初心者向けのやつをお願いします」と言った。
「初心者向けなら……草花の採取か、魔物素材の回収か。どっちがいい?」
「テンプレ的には魔物素材なんですけど、武器ないし今日は採取にします!」
「…………そのテンプレって何なんだ」
「異世界ファンタジーの法則みたいなもんです!」
「よく分かんねえ……まあいいや。これだ」
カイトが一枚の紙を掲示板から外して渡してくれた。そこには見慣れない文字の羅列。読めない。
「街の外の草原に生えてる青いシダ草を十束。ランクGの依頼だから初心者向けだ」
「Gランク! テンプレランクだ!!」
「……お前って本当に何なんだ」
呆れているけど、なんだかんだ教えてくれるあたり、カイトくんはいい人だと思う。
「一緒に行きますか?」
「は? なんで俺が」
「カイトくんも暇なんじゃないんですか」
「……俺はGランクじゃないし」
「じゃあDランク以上の依頼でも並行してやりながら一緒に来ちゃうとか?」
「なんで俺が初心者の護衛みたいなことしなきゃなんないんだよ」
「危ないですかね、一人だと」
「……」
カイトは少し黙ってから、「魔物は午前中は少ないから一人でも大丈夫だ」とそっぽを向いて言った。
「でも念のため短剣くらいは持って行け。ギルドの入り口で一日貸し出しをしてる」
「……ありがとう、カイトくん」
「別に」
(やっぱりツンデレだ!!!)
心の中は大騒ぎのまま、私は短剣を借りて、依頼書を握りしめ、街の外へと歩き出した。
これが、私の初めての冒険だ。




