第七話☆小鳥ちゃんと黄色い鳥
第七話 ☆ 小鳥ちゃんと黄色い鳥
朝から雨が降っていた。
星見町の空はどんより曇って、道も河原も、しっとり濡れていた。
小鳥は傘をさして歩きながら、
「こんな日は鳥さんたち、どこで雨宿りしているのかしら」
とつぶやいた。
となりを歩く暁が笑う。
「小鳥ちゃんは、ほんとに鳥のことばっかり考えてるね」
鉄男は長靴で水たまりをよけながら言った。
「おれは早く帰って、工房で作りかけの金具を見たい」
「それもいつものことです」
と小鳥は言い返した。
三人が河原の道にさしかかったときだった。
「……あら?」
小鳥が立ち止まった。
茂みの奥で、何か黄色いものが動いた気がした。
小鳥は傘を暁に預けると、ぬれた草をかき分けた。
「いたわ!」
そこには、小さな黄色い鳥がいた。羽をふくらませて、雨に打たれて震えている。
小鳥はそっと両手ですくい上げた。
「大丈夫、大丈夫」
鳥は少し逃げようとしたが、思ったより暴れなかった。
暁がのぞきこむ。
「きれいな黄色だね」
鉄男が眉をひそめる。
「野生の鳥か?」
小鳥は首を振った。
「ちがうと思うわ。人をそんなに怖がっていないもの」
すると、黄色い鳥が、かすれた声で言った。
「オカエリ、オカエリ」
三人は目を丸くした。
「しゃべった!」
と暁。
「ほんとに飼い鳥だ」
と鉄男。
小鳥は、胸のあたりがきゅっとした。
「きっと、近くで飼われていたのね」
その日はひとまず、小鳥の家で鳥を休ませることになった。あたたかい布のそばに小さな箱を置き、水とえさをやると、黄色い鳥は少し元気を取り戻した。
「オカエリ」
と、また言う。
小鳥は鳥かごの前にしゃがみこんだ。
「あなた、おうちはどこなの?」
黄色い鳥は首をかしげた。
「ヨシコサン、オチャ、オチャ」
小鳥ははっとした。
「ねえ、暁くん、鉄男くん。これ、近所で飼われていた鳥じゃないかしら。ヨシコさんっていう人のところで」
「じゃあ、聞き込みだな」
と暁が言った。
「探偵団の出番か」
と鉄男も腕を組む。
午後になって雨が少し弱まると、三人は星見町を歩いて回った。
「黄色い鳥を飼っている人、知りませんか?」
パン屋のおばさんは首をかしげたが、八百屋のおじさんは
「そういえば、向こうの通りのひとり暮らしのおばあさんが、前に黄色い鳥をかわいがってたなあ」
と言った。
「お名前は?」
と小鳥が身を乗り出す。
「たしか……吉子さんとか、良子さんとか、そんな感じだったな」
小鳥と暁と鉄男は顔を見合わせた。
「ヨシコさん、だ」
と小鳥が小さく言った。
三人がたずねていったのは、町はずれの古い家だった。
呼び鈴を鳴らすと、やせた老婦人がゆっくりと戸を開けた。
「どなたですか」
小鳥は、鳥かごを抱えて前に出た。
「この鳥さんを見つけたんです。もしかして、おうちを探しているんじゃないかと思って」
老婦人の目が、ほんの一瞬だけ揺れた。けれど、すぐに首を振った。
「いいえ。わたしは知りません」
そのときだった。
黄色い鳥が、急に元気な声を出した。
「ヨシコサン! オチャ! オカエリ!」
老婦人の肩が、びくっと震えた。
三人は黙って、その人の顔を見た。
老婦人はしばらくうつむいていたが、やがて小さな声で言った。
「……その子は、わたしの鳥です」
小鳥はそっとたずねた。
「どうして、知らないふりをしたんですか」
老婦人は戸をもう少し開けて、三人を中へ招き入れた。
部屋の中はきれいに片づいていたけれど、どこかひっそりとしていた。
「わたし、この前、少し具合が悪くなって入院したんです」
と老婦人は言った。
「それで家族に、この先はひとり暮らしは危ないから、老人ホームに入りなさいと言われてしまって」
小鳥は鳥かごを抱きしめた。
「それで……」
「その子を、もう飼えないと思ったんです」
老婦人は苦しそうに続けた。
「知り合いにあずけるあてもなくて、どうしていいかわからなくて……外へ出してしまったの」
鉄男が顔をしかめる。
「そんなの、かわいそうだろ」
暁がひじで鉄男のわき腹を軽くつついた。
老婦人は、しょんぼりとうなだれた。
「ええ。ほんとうに、ひどいことをしました」
黄色い鳥は、そんな空気も知らないように
「オチャ、オチャ」
とつぶやいた。
小鳥はその声を聞いて、胸がいっぱいになった。
老婦人は鳥を大事にしていたのだろう。お茶の時間に、毎日話しかけていたのかもしれない。
でも、今はもう、その暮らしを続けられない。
小鳥は思いきって言った。
「私が、この子を飼ってもいいですか」
老婦人が顔を上げた。
「あなたが?」
「はい。ちゃんとお世話します」
と小鳥は言った。
「時々、この子を連れて会いに来てもいいなら」
老婦人の目に、涙がにじんだ。
「そんなことをしてもらえたら……」
暁がうなずく。
「小鳥ちゃんなら、大丈夫だよ」
鉄男も、少しぶっきらぼうに言った。
「おれたちも手伝うし」
黄色い鳥は、急に羽をぱたぱたさせた。
「オカエリ!」
みんなが思わず笑った。
帰り道、雨はもうほとんど上がっていた。
小鳥は鳥かごを抱えながら、静かに歩いた。
「よかったの?」
と暁が聞く。
小鳥はうなずいた。
「簡単なことじゃないって、わかってる。でも、この子をまたひとりにしたくないの」
鉄男が前を向いたまま言う。
「名前、どうするんだ」
小鳥は鳥を見た。
黄色い羽が、夕方の薄い光の中でやわらかく光っている。
「……まだ考え中。でも、そのうちぴったりの名前が見つかるわ」
すると黄色い鳥が、すました声で言った。
「ヨシコサン、オチャ」
三人はまた笑った。
小鳥は鳥かごの中の小さな命を見つめながら思った。
探しものを見つけるだけが、探偵団の仕事じゃない。
見つけたあと、どうするかを考えることも、きっと大事なんだ。
暁少年探偵団の新しい一日は、そんなふうにして始まろうとしていた。




