第五話☆おじいちゃんのひとこと
第五話 ☆ おじいちゃんのひとこと
宮本時計店の奥の部屋には、いつものようにお茶のいい匂いがしていた。
暁と小鳥と鉄男は、ちゃぶ台を囲んで座っていた。胸には、できたばかりの銀のバッジが光っている。丸いルーペの形に、小さな星。暁少年探偵団のしるしだ。
小鳥が自分のバッジを指でそっとなぞった。
「きれいですね」
鉄男が得意そうにうなずく。
「銀だからな」
暁は笑った。
「鉄男、今日はそればっかり言ってる」
鉄男はむっとした。
「だってほんとのことだろ」
星見町は銀の鉱山があって、銀で有名なんだ。
三人が笑っていると、時計店の奥で、暁のおじいちゃんが古い置き時計を分解していた。小さなねじや歯車が、盆の上にきちんと並んでいる。
小鳥がお茶をひとくち飲んで言った。
「でも、あの銀の指輪の事件、ふしぎでしたね」
暁もうなずいた。
「うん。鉄男があれは銀じゃないって見抜いたから、事件だってわかったけど」
鉄男は胸を張る。
「色も違ったし、重さも違った。磁石にくっついたから、あれで決まりだ」
「でも」
と小鳥が首をかしげた。
「どうして宝石店のおばさんは、最初に気づいたんでしょう。偽物が置いてあったのなら、ぱっと見ではわからなかったかもしれないのに」
暁も腕を組んだ。
「たしかに。そこ、ぼくも気になってた」
そのときだった。
「新しく入った品があったんじゃろう」
奥から、おじいちゃんの声がした。
三人はそろってふり向いた。
「えっ?」
「なんでわかるの!?」
「おじいちゃん、聞いてたの?」
おじいちゃんは顔も上げずに、小さな歯車をつまんだまま言った。
「聞こえるわい。おまえたち、いつも声が大きいからのう」
暁はちょっと赤くなった。
「それで、新しく入った品って?」
おじいちゃんは、机の上の時計をことりと置いた。
「犯人は、本物を盗んだぶんだけ、偽物を用意しておったんじゃろう」
鉄男がうなずく。
「それなら数は合うよな」
「ところが合わんかった」
と、おじいちゃん。
「それは、犯人の知らん品が店に増えておったからじゃ」
小鳥の目が丸くなる。
「新しく入荷した銀の指輪……!」
「そういうことじゃろうな」
暁が前のめりになる。
「じゃあ犯人は、店の品物の数を知っていた。でも、新しく入った品のことは知らなかった……?」
「うむ」
おじいちゃんはようやく三人のほうを見た。
「今の店の事情は知らん。だが、少し前の事情は知っておる者。そういうことになる」
鉄男がぽんと手を打った。
「元店員か!」
小鳥もはっとした。
「なるほど……お店のことを知っていても、今はもう働いていない人なら、新しく入った品までは知らないかもしれません」
暁は思い出したように言った。
「向井巡査もそんなことを言ってた。『店の内情を知る者のしわざかもしれません』って」
おじいちゃんは、ふっと笑った。
「向井くんも、なかなかよう見とる」
鉄男が腕を組む。
「でも、偽物をあんなふうに作るのは、ひとりじゃ無理だろ」
「そうじゃな」
と、おじいちゃんはうなずいた。
「主になって動いた者は別におって、贋作を作る手先がおったんじゃろう」
暁が息をのむ。
「じゃあ、元店員の女の人が店のことを調べて、本物を持ち出して、別の男が偽物を作った……?」
「たぶんのう」
おじいちゃんはまた時計に向き直った。
「人は一人では大きな悪さはできん。だが、知恵のある者と手先の器用な者が組むと、やっかいじゃ」
三人はしばらく黙っていた。
さっきまで、事件を解いた気でいた。けれど、こうして話してみると、まだ見えていなかったことがたくさんある。
小鳥が小さく言った。
「おじいちゃん、すごいですね……」
鉄男も悔しそうに口をとがらせた。
「なんでそこまでわかるんだよ」
おじいちゃんは肩をすくめた。
「時計も事件も同じじゃ。合わんところがあれば、どこかにずれがある」
暁は自分の胸のバッジに目をやった。
小さな銀の星が、窓からの光を受けてきらりと光る。
ぼくらは、まだ探偵団になったばかりだ。
でも、鉄男には金属の知識がある。小鳥は人の話をよく聞く。ぼくは、みんなの話をつなげて考えることができる。
それに――町には、こんなすごいおじいちゃんもいる。
暁は顔を上げた。
「よし。次の事件は、もっと早く真相に近づいてみせる」
鉄男がにやっとした。
「負けるもんか」
小鳥も微笑んだ。
「はい。暁少年探偵団ですもの」
奥の部屋で、柱時計がぼーん、と鳴った。
その音を聞きながら、三人の胸の小さな星は、またひとつ、たしかに探偵団らしく輝いていた。




