第三話☆あじさいの色
第三話 ☆ あじさいの色
宮本時計店の奥の部屋。
小さな丸テーブルに、湯気の立つカップが三つ並んでいる。
「今日はね、色が変わるお茶なんです」
小鳥がそう言って、透明に近い薄い青色の液体をカップに注ぐ。
鉄男が顔をしかめる。
「なんだそれ。怪しいな」
「ハーブティーです。バタフライピー」
小鳥はレモンを一滴、ぽとりと落とした。
すると、青がゆっくりと紫へ、さらに淡い桃色へと変わっていく。
鉄男の目が、わずかに見開かれる。
「……おい、なんだ今の」
「酸で色が変わるんです。キャベツも同じ。台所は理科室ですよ」
鉄男は腕を組む。
「偶然だろ」
小鳥は首をかしげる。
「じゃあ鉄男くん、重曹入れてみます?」
鉄男はむっとする。
「くん、つけるな」
だが差し出された小さな匙を受け取る。
重曹をほんの少し入れると、色はふたたび青に戻った。
鉄男は言葉を失う。
暁が静かに言う。
「変化を見る目だね」
小鳥はにこりと笑う。
「見えないものを、見えるようにするだけです」
しばらく沈黙。
鉄男はカップを見つめたまま、小さくつぶやく。
「……使えるな」
「え?」
「事件でな。毒とか、液体とか、色で分かるかもしれねぇ」
小鳥は驚いたように目を瞬いた。
鉄男は視線をそらす。
「別に、お前を認めたわけじゃねぇぞ」
「仮ですよね?」
「……仮だ」
でも、その声は前より少しだけ柔らかかった。
暁は二人を見て思う。
探偵団は、道具だけじゃない。
人と人が、少しずつ噛み合っていくことなのだと。
商店街の花屋の前で、暁たちは立ち止まっていた。
「あじさいの色が、去年と違うのよ」
花屋のおばさんが腕を組む。
「青だったのに、今年は紫がかってるの。なんだか落ち着かなくて」
鉄男がぼそっと言う。
「花は花だろ」
小鳥がじっと鉢植えを見つめる。
土を指で少しつまんで、こすり合わせる。
「土、少し変えました?」
「え? 肥料をね、ちょっと」
小鳥はうなずいた。
「たぶん、それです」
鉄男が眉をひそめる。
「なんで分かるんだよ」
「この前のお茶と同じです」
暁が目を細める。
「酸とアルカリ?」
「はい。あじさいは、土が酸性だと青くなって、アルカリ寄りだと赤っぽくなります」
花屋のおばさんが目を丸くする。
「えぇっ、そんなことで?」
「ミョウバンを混ぜると青くなりますよ」
鉄男が小声で言う。
「……ほんとか?」
「試します?」
数日後。
同じ株から、少しずつ青みを取り戻した花が咲いた。
花屋のおばさんは何度も礼を言った。
鉄男は腕を組んだまま、あじさいを見上げる。
「……理科、役に立つんだな」
「生活ですから」
小鳥はやわらかく笑う。
鉄男は少し照れくさそうに言った。
「正式入団でいい」
小鳥はぱちぱちと瞬きをする。
「仮、じゃなくて?」
「……ああ」
暁は三人の影があじさいの下で重なるのを見ていた。
色は変わる。
でも、変わることは悪いことじゃない。
見えない理由を知れば、それは味方になる。
あじさいの青は、やさしく揺れていた。




