第一話☆消えた三毛猫
第一話 ☆ 消えた三毛猫
商店街のはずれにある宮本時計店は、いつも小さな音で満ちている。
カチ、コチ、カチ、コチ。
作業台で祖父は、ルーペを片目に当てて歯車をのぞきこんでいた。
「暁、心の目はな、見えないものを見るためにあるんだ」
そう言って、祖父は二つのルーペを差し出した。
「重ねてみろ」
暁がそっと重ねると、歯車のギザギザがぐんと大きくなった。
「倍率は足し算じゃないが、工夫すれば世界は変わる」
その日の午後、暁はその言葉を思い出すことになる。
暁の家、宮本時計店もまた商店街の一角にある。
その商店街のたばこ屋の三毛猫が、いなくなった。
飼い主のおばちゃんがとても心配していて、暁は三毛猫を探してあげようと思った。
ルーペを持って商店街を探していると、角を曲がるたびに黒猫が現れた。まるでわざと邪魔をするみたいに。
暁は立ち止まった。
見えていないだけかもしれない。
時計店に戻り、祖父の引き出しをそっと開ける。
そこには偏光フィルターがあった。時計のガラスの反射を見るためのものだ。
それを目の前にかざして商店街を歩くと、ショーウィンドウの映り込みが消え、地面の細かな跡が浮かび上がった。
うっすらと、白い毛。
そして、物置小屋の前に、小さな足あと。
戸を開けると、三毛猫がいた。
そのお腹のそばには、小さな子猫が三匹、寄り添っていた。
屋根の上で黒猫がこちらを見ている。
黒猫は、暁をからかっていたのではない。
商店街の人の視線を、三毛からそらしていたのだ。
数日後、子猫の譲渡会。
「おれ、一匹もらう」
暁のクラスの熱血くん、田中鉄男が名乗りを挙げた。
暁は思った。
近い未来に、見えないものを見る目を持つ仲間が、きっと必要になる。
そんな静かな予感が、胸の奥に灯っていた。




