悪夢の再現
通勤途中でも会社に着いても莉子は顔を上げられなかった。
⦅情けない……私。情けない………。⦆と、何度も思ってしまう。
別れの時の夢は、それは莉子にとって悪夢だった。
そんな悪夢を莉子は今まで繰り返し見てきた。
会社に着き、ボンヤリしたまま莉子は席に着いた。
「おはようございます。」
「あ……おはよう。」
「金曜日はありがとうございました。」
「いいよ、そんなこと。」
「お礼はさせて下さいね。」
「おっ、何なのかなぁ~?」
「お昼ご飯を……。」
「うぅ~~ん、私は今、欲しいなぁ……。」
「今ですか?」
「うん。自販機のコーヒーで手を打とう!」
「そんなんで良いんですか?」
「充分なお礼ですぞ。」
「うふっ……ありがとうございます。
じゃあ、買ってきますね。」
「ええ? 本当に?」
「本当に!」
「ありがとね。」
「こちらこそ、ですよ。」
そんな風に後輩と話している時、営業課の同僚がやって来た。
課長の「お~い、皆、注目!」と言った。
莉子より10歳上の先輩は「注目!って金八じゃあるまいし!」と小さな声で言った。
莉子は笑ってしまった。
⦅大丈夫。笑える。⦆と安堵した。
前を向いた莉子の目に悪夢が蘇った。
「今月から一緒に働いてくれる上原北斗君だ。
上原君は大手に勤務して海外で働いていた。
優秀な彼がうちのような中小企業へ出向で2年間、一緒に働いてくれることにな
った。
上原君、一言。」
「はい。
この度、営業部でお世話になる上原北斗です。
今まで海外に居りまして、日本に帰国しました。
どうぞよろしくお願いします。」
目が合った。
莉子は直ぐに俯いた。
心臓が鼓動を激しく打った。
⦅今直ぐに消えたい。⦆と莉子は思った。




