親友
⦅一人で居ると駄目だ。⦆と思った莉子は親友の正岡麗華にメッセージを送った。
莉子を心配した麗華がやって来た。
「大丈夫?」
「………うっ………。」
「泣きたい時は大声で泣いても良いのよ。」
「う……う……。」
麗華に抱かれて莉子は泣いた。
幼子のように声を上げて泣いてしまった。
莉子が一頻り泣いた後も麗華は傍に居てくれた。
「……何時までも、こんなんじゃ駄目だって分かってるのに……。」
「うん。」
「……忘れられないの……。」
「忘れられない苦しかった恋だけど、出来て良かったんじゃないの?」
「麗華……。」
「私のおばあちゃんとか親に決められて結婚したのよ。
私が一番好きな人と結婚したわけじゃないこと、知ってるよね。」
「うん。」
「一番好きな人と誰もが結婚出来るわけじゃないし……。
恋……って出来ないまま終わる人生もあるのだから……。
楽しい日々もあったのよね。」
「……うん。」
「じゃあ、素敵な想い出もあるじゃない。」
「………………そ…う……よね。」
「でも、苦しい。」
「うん。」
「そんな時は泣けばいいのよ。
そして、一人にならないでね。
今日みたいに連絡して。」
「うん。………麗華、ありがとう。」
「そんな時こそ頼って欲しいけど、ずっと傍に居られないからね。」
「うん。分かってる。」
「ねぇ、実家、近いんだからさ。
ご両親に頼れば?
きっと、ずっと心配されてるだろうからさ。
行くのも親孝行だよ。」
「そう……ね。」
「私も、このまま帰るのは、めっちゃ心配だからさ。」
「うん。」
「今から電話して迎えに来て貰えば?」
「……そうする。」
莉子は麗華に言われた通りに母に電話した。
すると、母は直ぐに来てくれた。
「お父さんも待ってるからね。
今日は三人で晩御飯を食べよう。」
「ごめん………。」
「うん?」
「何時までも親離れ出来なくて……。」
「これから、親離れしなきゃならなくなる日が必ず来るからね。」
「そう…よね。」
「そうよ。親の方が先に死ぬんだから、年の順に……ね。
麗華ちゃん、ありがとう。」
「いいえ。じゃあ、私は帰りますね。」
「麗華、ごめんね。」
「莉子、そこは『ありがとう。』だよ。」
「ありがとう。」
「うん。何時でも……連絡してよ。
無理な時はちゃんと言うからね。」
「うん。」
「じゃあ、おばさん、おじさんによろしくお伝えください。」
「麗華ちゃんもご主人様によろしくお伝えくださいね。」
「はい。じゃあ、失礼します。
莉子、またね。」
「うん。また……ほんとにありがとう。」
麗華は笑顔を残して帰って行った。
麗華の家は遠いのに、来てくれた。
大切な親友だ。
莉子は実家に帰り、月曜日の朝まで過ごした。
実家は家から離れていないから、何時でも帰ろうと思えば帰ることが出来た。
それでも、莉子は帰れなかった。
否、帰らなかった。
一人で生きねばならないと覚悟をしたからだった。
⦅恋?……もう二度と私には……無い。だから、ずっと一人。⦆と思ってから、なるべく親に、友達に頼らない日々を過ごそうと思ったからだった。
両親の願い通りに実家の近くに住むことにした。
実家から車で20分の距離に莉子は住んでいる。




